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セーフガード暫定措置 23日に発動 ―― 政策転換の第一歩 (4/10)

 ◆11月までの200日間

 政府は、4月10日の閣議でネギなど3品目のセーフガード暫定措置を発動することを正式に決めた。17日に関係政令の閣議決定を予定しており、4月23日から200日間(11月8日まで)発動する。セーフガードの発動はわが国で初めて。
 政府は昨年12月から、輸入が急増しているネギ、生シイタケ、畳表(イ草)の3品目についてセーフガード(緊急輸入制限措置)発動のための政府調査に入っており、3月23日に調査結果をまとめた。その結果、輸入増によって国内生産者の所得や収益性が大きく低下しているとの判断に基づき農水省としては暫定措置の発動が必要とし政府内で調整を続けてきた。
 今回の暫定措置の具体的内容は、3品目について関税割当制度を設定するもの。関税割当制度とは、一定の輸入量までは低率関税として、それを超える輸入量については二次関税として内外価格差相当の関税を加える制度。
 焦点となったのは具体的な関税割当の数量と二次関税率で、農水省は財務省、経済産業省と協議を続けてきたが、この日の閣議前に谷津農相、宮沢財務相、平沼経済産業相が措置の内容に合意、閣議でも全閣僚が一致して了承した。

◆関税割当数量 ネギで5300t

 決定された暫定措置発動中の関税割当数量は、ネギ5383t、生シイタケ8003t、畳表7949t(467万6000枚、1.7kgで1枚と換算)とされた。3品目それぞれこの数量までは現行の関税率で輸入できる(ネギ3%、生シイタケ4.3%、畳表6%)が、それを超える輸入については、内外価格差に相当する1kgあたりネギは225円(256%相当)、生シイタケは635円(266%相当)、畳表は306円(106%相当)の関税が上乗せされる。
 割当数量は、3品目とも平成9年から11年の輸入数量の平均をとった。12年は輸入が急増したため、12年の実績を算定データに入れると割当数量が多くなり、輸入制限効果が薄くなると判断したためだ。
 また、二次関税率(額)については、生シイタケと畳表は9年〜11年の国産品卸売の平均価格と12年の輸入後価格(通常関税と出荷経費を含む)の差とした。ネギは、10年が不作で高騰したため、国産品卸売の平均価格は、8年、9年、11年の平均とし、輸入後価格は今年1〜2月の価格として算出した。
 暫定措置が発動される4月から11月までの12年の輸入量は、ネギ2万300t、生シイタケ1万2600t、畳表1040万枚だった。したがって、今年も昨年と同様の輸入が続けばかなりの量について高関税が課せられることになることから、実質的に輸入量が減り国産品の価格回復を図ろうということだ。

◆消費者と中国に配慮した関税割当制度

 暫定措置は、WTO協定に基づくもので特定国を対象にしたものではない。しかし、対象3品目の主要輸入国は中国であることから、政府は中国と今後ともこの3品目の貿易について協議を続けていく。12日から松岡副大臣が訪中し、今回の決定を説明する予定だ。日本はこれまでの日中協議で中国側に輸出の自主規制の検討を求めているが、現在までに回答はなく、日本政府の説明を受けてどのような対応をとるかが注目される。WTO協定上では、セーフガード発動に対して対抗措置をとることはできないが、中国はWTO加盟国ではないことから日本に対して何らかの対抗措置をとることは可能である。最終的に中国側に了承を得るために谷津大臣が訪中することも検討されている。
 今回の関税割当制度の導入は、こうした関係にある中国に配慮した措置として考えられた。この方法ではいきなり輸入品すべてに高率関税をかけるのではなく、現行の税率での輸入を一定量は認めるからだ。また、この関税割当制度は「国内の消費者や実需者への配慮」でもあると農水省は説明しており、輸入制限によって国内価格の高騰による消費者への不利益を指摘する声もあるが、谷津大臣は閣議後の記者会見で「ネギの輸入は12年に急増し3万7000tも入ってきた。それが価格を押し下げていたのは間違い事実。しかし、関税割当により200日間で5300tの輸入量は従来どおりだ。(セーフガードは)生産者に与える打撃が大きいのでやっていること。価格を上げるということではない。これまでに消費者団体から反対の声は届いていない」と強調した。
農水省の試算では、これまでの輸入実績を単純に関税割当にあてはめていくと、ネギは7月ごろから、生シイタケは8月ごろから、畳表は10月ごろに枠を超える見通しだという。

◆どうなる?本発動。政府調査は続行、今後は国内対策も重要に

 セーフガード発動については、本発動を前提に昨年末から一年にわたる政府調査に入ることを決めた。暫定措置は、3月までに得られた調査結果によって「とにかく緊急事態」(農水省)との判断から踏みきったものだ。政府は今のところ200日間にわたる実施を決めている。ただし、暫定措置が解除される時期以降が、わが国ではネギ、生シイタケのいわゆる鍋物需要が増える季節である。そのため、今後は、セーフガードを本格発動するかどうかも焦点となるが、現時点では、本発動に向けた政府調査を続行しつつ、さらに中国との協議の推移もにらみながら検討する方針だ。
 一方でかりに本発動されても期間は3年間である。その後は、輸入制限はなくなるため国内生産の強化対策が重要な課題になる。農水省も今回の暫定措置発動の決定に合わせて「生産性の向上を図るなど国内生産の体質強化を進めていくこととする」としており、生産者としては輸入野菜との競争が避けられない以上、今後は品質向上やコストダウンなどを通じた国内農産物に対する消費者の支持を得る取り組みこそが求められることになるだろう。
 JA全中の原田睦民会長は10日に談話を発表し、今回の決定は「国内農業の維持・発展をはかることの重要性をふまえた政策転換の第一歩であり、その意義は大きい」と評価する一方で、JAグループとして「安全で安心な国産農産物の確保に向けて輸入農産物に対抗しうる生産基盤の強化やコスト削減の組織の総力をあげて取り組む所存である」としている。



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