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農政・農協ニュース

日中セーフガード紛争に関する諸外国の反応は
―― JA全中が「国際農業・食料レター」で紹介(7/30)
 JA全中はこのほど発行した「国際農業・食料レター」(No.74)で「日中セーフガード紛争に関する諸外国の反応」をまとめて紹介した。
 日本政府が生しいたけ、ねぎ、い草に対するWTOセーフガード暫定措置を4月23日に発動して以来、中国が懸念・反発を強め、6月22日には日本からの自動車、携帯電話、エアコン輸入に対し特別関税を課す報復措置を発動した。この問題について各国のとらえ方やマスコミ論調などを紹介したもの。概要は次のとおり。

◆欧米のマスコミは総じて客観的で小さな扱い
 中国の報復措置が発動された6月下旬以降、米国の主要紙は、紛争の経過や日中両政府の対立姿勢を報じているが、扱いは小さく、事実を淡々と報道しているものがほとんど。唯一、ウォールストリートジャーナル紙が小さな論説記事を掲載した。同記事はWTOセーフガード措置について「これまでの間、あらゆる保護主義的な悪だくみを許してきたWTOルールの抜け穴」であるとし、中国の行動は「WTOへ加入するため自らの関税・国内保護の削減を受入れなければならず、その代償として得られるべき他国への市場アクセスが(セーフガードによって)妨げられることを拒否するもの」とみている。そして中国の報復措置は「他の加盟国にとって将来の貿易紛争を招く(セーフガード措置というWTOルールの)抜け穴を閉じるための価値ある契機になるかも知れない」という趣旨のもの。
 ファイナンシャルタイムズ紙は、「日中双方とも今回の措置は褒められたものではない。日本の措置は厳密にはWTOルールに基づいたものかも知れないが、セーフガード対象農産物の多くは、日本の商社が低コスト生産のできる中国で生産・輸出している。今回の措置で経済的に困るのは日本自らではないか」との論調だった。 これとは別に同紙は、日本国内での意見の不一致、特に財界からセーフガード措置への反対意見があることなどを指摘し、これが中国の報復措置の背景になっていると報じている。
 なお、両紙とも「自由貿易」を強く支持する新聞と一般的に位置づけられている。

◆米国政府は基本的に無関心
 米国農務省や流通代表部は、日本のセーフガード措置自体については「米国の関心品目であるトマトやタマネギ等に拡大することがないかどうか、懸念している」との立場を表明しているものの、公式な見解は出していない。ある国務省幹部は「日本と中国間の小さな貿易紛争であり、わが国の対日、対中政策に影響を与えるものとは考えておらず、米国政府が介入する考えはない」と非公式にコメント、あくまで第三者的立場をとる旨を示唆している。
 一方、メキシコや中南米からの農産物輸入急増に悩む米国生産者の中には、日本提案と同じように「WTOにおける農産物に対する新たなセーフガード措置」を要請しているフロリダ野菜・果樹団体などがあり、日中間の紛争に関心を持っている。ある農務省関係者は「中国の強硬な姿勢に日本が譲歩すれば、新ラウンドにおける新たなセーフガード提案に悪影響を与えるだろう」と非公式にコメントし、今後の日本の対応に関心を示した。
 ただし、一般的にはWTO農業交渉で「現行特別セーフガードの廃止」を提案し、生産者の多くは「(WTOではなく)反ダンピングなど米国の国内法に基づく輸入急増対策の強化」を求めていることから、日中のセーフガード紛争には「無関心」または「セーフガード措置には批判的」とみるのが妥当だろう。
 米国については、ラム肉、小麦グルテンなどの農産物でWTO一般セーフガードを発動した過去があり、また最近では、日本やEUなど関係国の批判を押し切る形で鉄鋼産品の輸入にかかるセーフガード手続きを開始するなど、自らは積極的に輸入急増対策を講じていることに留意する必要がある。

◆日本との連携を重視し、「無関心」の立場をとるEU
 EU政府も、この問題では公式の立場を表明していない。EUはWTO農業交渉で「現行特別セーフガードの維持」を提案していること、域内の野菜・果樹等には有効なセーフガード措置がすでに確保されていること、日本向けの農産物でセーフガード措置に懸念を有する品目がないことなどからも、EUの無関心は理解できる。
 あるEU政府関係者は「日本はWTO農業交渉における連携国であり、日本に反対する立場を表明するのは政治的に賢明ではない」「中国からの農産物輸入急増にはEUを含む多くの国が苦慮している」「豚肉の例にみられるようにEU・日本両国は(中国とは違い)秩序ある輸入が行われるよう努力している」と非公式にコメントし、EU政府が「無関心」の立場をとりつつも、日本の立場に一定の理解を示している。

◆WTOセーフガードに頼る途上国が急増
 WTO専門誌によると、ウルグアイラウンド後の1995年以降、99年末までの5年間で50件の一般セーフガードの調査・発動(農産物・非農産物を含む)が行われている。注目すべきは、そのうち約半分の24件は99年中に発動されたこと、しかも大部分はアルゼンチン、エクアドル、エルサルバドル、エジプト、インド、モロッコ、韓国、ベネズエラなど途上国によって発動されたことである。専門誌は、こうしたセーフガードの急増傾向は「関税の引き下げというウルグアイ・ラウンドの当然の帰結である」としている。
 また、WTOルールが認める輸入制限措置のうち、セーフガード措置は、反ダンピング措置に比べ発動に要する政府の調査・立証負担が軽く、また、発動までに要する期間も短いため、途上国にとって選択可能かつ有効な唯一の手段であるという側面も指摘されている。
 これらを踏まえると、日本政府によるセーフガード発動の今後の展開については、同措置に頼る途上国も関心を有しているのではないかと推測される。従って今回のセーフガード問題については、WTOの場でも、わが国の措置の正当性を訴え、支持を求めていくことが重要ではないか。


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