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農政・農協ニュース

リスク管理や経営革新で難問連発に汗をかくJAトップたち
―― 新任常勤理事研修会(8/7〜8)

 農協改革に伴うJA役員再教育の先駆けとしてJA全中は「JA新任常勤理事研修会」を7、8両日、東京・虎ノ門パストラルで開き、全国から組合長、専務、常務ら100人余が参加した。講師の一人に、事実上の破たんから再生した旧JA浪江(福島県)組合長の若月芳則氏(現JAふたば専務)を招いたり、「アサヒビールの挑戦」を材料に討論したりと、生の迫力をねらう刺激的なトップセミナーとなった。今回は試行的な開催で、来年からは毎年新任される常勤理事全員を対象に本格的な経営研修を軌道に乗せる計画だ。
 “福島の中坊公平”とも呼ばれる若月専務は「これまでJAの負の遺産を整理するような話は表舞台に出されなかったと思う」が、しかし変革の時代が私の体験談を要請したのだろう、として債務超過に陥った農協の立て直しドラマを「JA再生への軌跡−−不良債権処理とリスク管理を問う」と題して講演した。
 それによると、旧JA浪江は肉牛の子牛を買い入れて農家に預託し肥育する事業で、規模拡大の営農資金を農家にどんどん貸出し、農家の負債とJAの債務がどんどん膨らんだ。
 だが、組合長は27年間の在任中に浪江町長を1期兼任した地域の実力者で、役員たちは、その事業拡大路線を牽制できなかった。
 しかし平成8年に若月氏が非常勤理事となり、9年には新組合長に選ばれて、JAは事業から撤退した。とはいえ、10年3月現在、正組合員3000人、貯金残高133億円のJAが、42億7000万円の債務超過で、自己資本比率マイナス38%という状態に陥っていては、もはや自主再建は不可能だった。
 結局、再建計画は、自助努力で19億8600万円を捻出した上で、あとはJA県グループの支援と、県町村から公的資金の導入を仰ぐ内容となった。
 自助努力では、負債農家の家や土地を競売にかけるなど債権回収を徹底した。また、経営責任を負う役員97人に弁済協力金を要請。さらに職員の退職金を半額に減らし、組合員には出資金の7割減額を納得してもらった。しかし前組合長は弁済を逃れようとしたため、JAは3億4000万円の損害賠償請求訴訟を起こして、いまも係争中だ。
 この間、若月組合長は連日連夜、負債農家や旧役員の家を回り、泣き出す人の前で頭を畳にすりつけるなど悪戦苦闘をくり返した。
 こうして業務停止命令が1年間猶予され、11年3月に隣接のJAと合併。JAふたばが誕生した。
 その軌跡の基調には、なんとかJAを存続させなければという組合員と職員、地域の熱い思いと支えがあったと若月氏は指摘した。経過を検証した同氏と全中は、そこから数々の教訓を引き出し、JAの経営体制の弱点などをまとめて研修会に提起した。
 研修会では次いで、アサヒビールの瀬戸雄三会長が「経営革新とリーダーシップ」と題して講演した。
 アサヒは16年前まではビール業界でシェア9%台の“負け犬”だったが、その後、スーパードライでシェア60%の巨人キリンに挑戦。いまでは業界トップに躍り出るという奇跡的なドラマを演じた。
 だが順風満帆ではなく、9年前ごろには業績が伸びず、踊り場に出た。
 そこで当時、社長に就任したばかりの瀬戸氏は、新しく鮮度の勝負に出た。
 ビールは工場でビンまたはカンに詰めてから出荷までに10日をかけていたが、それを5日に縮めようという高い目標を立て、これを見事に達成した。
 「2、3日の短縮目標では改革にならない。改善にとどまる。そこで高い目標を掲げ、社内の緊張感を高めようと考えた。すると社員は従来型の方法では目標が実現できないとして発想を転換した」と語る。
 「そして目標を達成すれば、お互いに感動を共有できる。それが自信につながって次の目標に挑戦するリズム感が生まれる。マネジメントは人を管理することではなく、各人が本来持っている能力を発揮させることだ」とも強調した。
 第1日は慶應義塾大学大学院の奥村昭博教授も「経営戦略論」で講演した。
 2日目は「アサヒビールのケース」を研究する各分散会で、活発なディスカッションを展開した。
 奥村教授が講師になったクラスでは、アサヒの戦略展開について▽業務用、家庭用のどちらに重点を置いたか▽ターゲットは、若者か、おじさんか、など、同教授が次々に難問を連発。JAトップたちを苦しめた。参加者の一人は「こんなに自分の判断や意見を求められた研修会は初めてですよ」と感想を語っていた。


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