JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

農政・農協ニュース

「共食いをやめさせよう」
 英米両国の事情などから「狂牛病を考える」
 シェルドン・ランプトン氏の話 (9/21)

 「牛に牛の肉骨粉を食べさせるのは『共食い』の強制だ」「不自然な餌はやめよう」「人間が肉食を避けても解決にならない。畜産の仕方を変えなければ」とシェルドン・ランプトン氏は生産面での狂牛病(BSE)予防を熱っぽく訴えた。また「英国ではパニックに陥って肉が売れず、経済に悪影響した。日本でも恐慌による離農が出ないようにすべきだ。牛肉を食べても大丈夫だから」と英国の教訓を引いた。同氏は米国のフリージャーナリストで、アグリビジネスに強く、狂牛病や公害企業などについての著書がある。
 日本の「安全な食と環境を考えるネットワーク」が同氏を講師に招いて、9月21日に東京都内で開いた「狂牛病を考える集い」では活発な質疑があったが、その中から同氏の講演や応答を要約してみた。

【シェルドン・ランプトン氏の略歴】
報道の信頼性を取材する民間機関「メディアと民主主義センター」(CDM)の代表で、CDMの機関誌編集長。

 狂牛病は農業の技術革新から生まれた。食品産業界は市場価値のない動物の残骸まで肉骨粉という商品にして飼料とした。このため牛や豚や鶏は、自分の肉親の残がいまで食べさせられるという共食いの連鎖を生み出した。こうした飼料は1970年代に増えた。
 家畜を最小限のコストで最大限に成長させる米国の近代的肥育農場では、他にも細かく粉砕した新聞紙、セメント・ダストなどの産業廃棄物、処理済みのふん尿、都市下水の汚泥などを飼料に使っている。産業界は、これによって産業廃棄物の処理に貢献し、ハンバーガーなどを低価格にして消費者に利益を還元しているという。
 英国で最初に狂牛病が発生したのは82年だが、政府が軽視したため今では17万頭以上の牛が死んだ。それから14年後の96年に、新型ヤコブ病で死んだ人が狂牛病に由来することを認めた。英国政府の対応が遅れたのは、ヨークシャ牛の輸出に影響しないようにと考えたからだ。
 さらに英国政府は、狂牛病の原因を肉骨粉と断定した後も日本をはじめ各国へ肉骨粉の輸出を続け、各国民を危険にさらした。
 どの国の政府も責任を認めたくないという態度では共通している。日本の対策も後手に回った。肉骨粉を牛に食べさせないという断固とした法律がない。
 日本で1頭が特定されたのは氷山の1角だ。狂牛病はエイズと同じで、感染してから発症までが長い。初期段階では原因である異常プリオンの存在がテストしにくい。また治療では抗生物質も、強い殺菌剤も効かない。360度の高熱を加えても感染機能は生き残るという科学者にとってもミステリアスな病気だ。
 米国では、牛の肉骨粉を牛に与えることだけを法律で禁止している。しかし他の動物に与えることは認め、また他の動物の肉骨粉を牛に与えることも許されている。このため農家は禁止条項を守っていない。
 最後に教訓を挙げると、まず万全の予防だ。動物のたん白を動物に与えないようにする断固とした法的措置が必要だ。
 次にパニックに陥らないこと。日本人が現在、食べている牛肉は大丈夫だと思う。英国では政府が人間には無害だといい続けたために、パニックが波状的に起きて肉を買わなくなったという経験がある。
 さらに農業生産の近代化システムの裏には、危険性がひそんでいることを認識すべきだと考える。





農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp