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農政・農協ニュース

日本提案実現への踏み台できる
WTO新交渉開始へ (11/15)

 世界貿易機関(WTO)閣僚会議は11月15日(日本時間)、日本提案を含む内容の閣僚宣言を採択し、新多角的貿易交渉(新ラウンド)を立ち上げた。今後、新加盟の中国、台湾を含めた144カ国・地域による過去最大規模の交渉が始まる。

 閣僚宣言の内容をみるとオーストラリアなど農産物輸出国でつくるケアンズグループ(14カ国)は、農産物を工業製品と同一の貿易ルールの下におく農工一体論を主張していたが、日本や欧州連合(EU)の反対で退けられた。
 また日本は、農業交渉について、食料安全保障や環境保護など貿易以外の非貿易的関心事項に考慮するという農業協定20条の旗印を押し立ててきた。これに対しケアンズと米国は「非貿易的関心事項は考慮事項に過ぎない」として「関心事項」に限定条件をつけようとしたが、これも宣言に入らなかった。
 さらに、米国などは農業協定の枠組みを超えた「野心的」な貿易自由化の目標を宣言に盛り込もうとしたが、これも退けられた。宣言には「交渉結果を予断することなく…」とあり、交渉結果の先取り姿勢をたしなめる文言となった。
 カタールでの閣僚会議に平沼赳夫経産相と共に出席した武部勤農水相は、「農工一体論や、非貿易的関心事項への限定条件は盛り込まれず、農業交渉の結果を予断すべきでないとの我が国の主張が受け入れられた。評価したい」と語った。
 またJAグループは「今後の農業交渉で、我が国提案の実現に向けた重要な足がかりとなるものだ。我々は、その実現に向けて国民の理解と支援を得る取り組みをさらに強化し、また、共通の関心事項を有するEUやアジアなど各国の農業団体との連携をさらに強めていく」との原田睦民JA全中会長の談話を発表した。

 2年前のシアトル閣僚会議は、議長国米国の強引な運営などから新ラウンド立ち上げに失敗したが、今回のカタールでは成功した。
 議長国や閣僚宣言のまとめ役の努力もあるが、一方農業分野で日本の主張がおおむね取り入れられた背景には、これまでの政府の働きかけや議員外交、また各国農業団体との連携強化を図ったJAグループなどの努力もあった。
 しかし「多面的機能」という文言は宣言に入らなかった。新ラウンドの交渉期間は3年。これからの難題は山積している。
 閣僚会議の経過をみると農産物の輸出補助金について「段階的な撤廃を視野に入れた削減」という宣言案が「実質的な削減」と修正されたことにフランスが猛反対する場面があり、結局「段階的」や「視野に入れた」との表現が復活した。これは農業保護を続けようとするフランスの強い姿勢の表れとされる。
 一方、日本の農家には、ミニマムアクセス米や牛海綿状脳症問題に対する怨念?などから、貿易自由化が農畜産業の危機を招いたという思いがある。
 世界経済の減速の中で自由貿易のメリットを疑う向きも多く、自由化を〈悪〉と断じる学説も増えた。農業国フランスのしたたかな外交は、基本的に貿易自由化のあり方を問い直す点で示唆を与えたともいえる。




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