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農政・農協ニュース

直ちに本発動を! 農を工業の犠牲にするな
−−セーフガード本格発動実現 全国総決起大会 (11/16)

決議採択のあと「ガンバロー三唱」

 JA全中と全国農政協は11月16日、東京・日比谷公園野外音楽堂で「セーフガード本格発動実現 全国総決起大会」を開いた。全国から集まった生産者、JA関係者ら3000人がぎっしりと会場を埋め、9日からのネギ、生シイタケ、畳表のセーフガード(緊急輸入制限措置)本発動を見送った政府に対し断固抗議、毅然たる態度で直ちに発動するよう求める決議を採択した。大会後、参加者は農水省、経済産業省、外務省の前を通りデモ行進。国会前では自民党に請願行動をした。官庁街に「日本の農業を守れ」、「中国の不当な対応は許さない」、「セーフガードを即時発動しろ」など3000人のシュプレヒコールが響いた。

中国の不当な対応 日本の農業の否定

原田JA全中会長

 ネギなど3品目のセーフガードは、暫定措置発動期限の11月8日までに日中間で話し合い解決ができなかったにもかかわらず、政府は本発動の手続きを開始せず協議継続を決定した。
 一方、この間、JAグループは日中協議によって実効ある輸入抑制措置が確立できなければただちに本発動すべきと主張。与党、自民党でも同様の方針を決定しただけでなく、衆参両院の農林水産委員会でも本発動を求める決議を全会一致で行った。
 主催者あいさつでJA全中の原田睦民会長は、こうした政府の姿勢を「われわれの切なる声と国会での決議を無視した」と厳しく指摘。さらにカタールで開かれたWTO閣僚会議期間中に行われた閣僚レベル協議でも中国は何ら具体的な話し合いに踏み込まなかったばかりか、「今なお、不当な報復措置を継続しており、極めて不当な対応と言わざるを得ない」と批判した。
 さらにこうした不当な対応に屈することになれば、「農業を工業の犠牲にすることになり、わが国の食料供給や農業生産を否定することになる」と強調、セーフガードはWTO協定で認められた正当な権利であり暫定措置は本発動を前提にしたものであるとして、
 「空白期間をおくこと自体、異常な事態。輸入が急増すれば再び産地は崩壊の危機に瀕する。消費者は安心、安全な国内農産物を求めている。安定供給の責任を果たし自給率の向上を実現しなければならない。ただちに本発動に向けた手続きを完了させ発動することが必要だ」と訴えると、拍手とともに参加者から「そうだ」などの声も上がった。

先の見えない改革 与党も政府批判

中村JA全中常務

 JA全中・中村祐三常務は情勢報告でこの問題の要因として(1)輸入増を想定していなかった日本の低い国境措置、(2)安い人件費を活用した商社による開発輸入、(3)中国の輸出拡大路線、にあると分析。産地も構造改革を進めているが暫定措置の200日間では改革は無理で「WTOルールに則って毅然たる態度で本発動すべき」と強調した。
 その後、与党代表者があいさつに立ったが、本発動を求める国会決議まで無視されただけにその発言が注目された。
 暫定措置発動を決めた当時の農水大臣の谷津義男自民党農林水産物貿易調査会顧問は「どこの国も本発動している。みなさんがこのような集会を開かなければならないのは私も慚愧に耐えない」と本発動に努力すると語った。
 公明党の渡辺孝男政調副会長は「今は裸で寒い冬に向かっていけといわれているようなもの。私たちには自分で身を守る権利がある。国民も農産物が自分たちの国でできることを望んでいるはず」と語った。
 保守党の入澤肇参院政調会長は「農家に約束したことは守らなければならない。農業には国土を守るという独立国家としての政策が認められなければならない」などと語った。

JAグループとしては8年ぶりのデモ。参加者はノボリ、プラカードをもってセーフガード本発動実現を訴えた

 また、日本の農業を守る特別行動議員連盟の松岡利勝氏は「本発動をしないのは日本の主権の放棄。今は改革、改革と叫んで政治は進んでいるが、先も見えない、明るさも見えない改革でいいのか」と政府を批判、本発動実現に向けて努力することを強調した。
 集会はその後、来賓あいさつの後、3品目の産地を代表してJA組合長らが決意表明。「ただちにセーフガードを本発動するよう強く要求する」とした決議を採択した。(別掲)
 集会後、参加者は日比谷公園前から霞ヶ関の官庁街を通り国会前までデモと請願行動。「ネギの産地を守れ」、「外務省は毅然たる態度で臨め」、「産地の改革の火を消すな」などと訴えた。

【決意表明】

◇ネギ◇
JA遠州中央(静岡県)山本寛一常務理事

 総決起大会のちょうどこの時間に地元では15のJAが集まって「全国白ネギサミット」を開いている。このサミットの目的は輸入農産物にいかに対抗していくかを議論するものだ。全国の産地が一堂に集まり消費者グループを巻き込んで、これからの産地はどう生きるべきかを真剣に話し合っている。産地は、まさにこの難問に向かって取り組んでいる真っ最中で、産地改革、消費拡大に血のにじむような努力をしている。
 こういうなかでセーフガードが暫定措置発動の200日間だけではあまりにも短い。地元で開かれているこのサミットに集まった生産者の総意もセーフガードの本発動を求めている。実現に向て運動に取り組む。

◇生しいたけ◇
JA甘楽富岡(群馬県)佐々木林太郎組合長

 セーフガード暫定措置発動後は、一定の価格回復により今後の生き残りに希望を持って生産、流通コストの削減や品質向上など国際競争力を高めるために構造改革に取り組んできた。しかし、輸入が再び急増すればわが国のしいたけ産業は改革を待たずに崩壊してしまうおそれがある。
 セーフガードはWTO協定上認められた正当な権利の行使であり、無秩序かつ急激な輸入を抑制するため本発動を強く要請する。
 輸入しいたけの鮮度保持剤や残留農薬問題も指摘されており検疫強化も求めたい。
 しいたけは中山間地経済を支える重要な産業であり現場では懸命にがんばっている。しっかりした政策のもと所得を確保し意欲ある農家が農業ができる環境をつくることは新基本法の精神でもあり、セーフガードの本発動は国民を守るためにも必要だ。

◇い草◇
JAやつしろ(熊本県)村崎則光組合長(全国い生産団体連合会副会長)

 中国からの安い畳表の輸入急増により平成9年以降価格は年々下落し、12年には生産費もまかなえない状況にまでなった。この間に生産者は激減し、地域経済にも取り返しのつかない深刻な打撃となっている。
 中国とは民間ベースで交渉し一定の輸入量を決めた。ところが、実態は国内需要量とほば同じ2000万枚の量を輸出している。まさに無秩序な輸出。本気で秩序ある貿易ルールを考えているとは信じがたい。
 10月末の政府調査で収益が低下し重大な損害を受けていることが明らかになった。にもかかわらず本発動されないのはまったく不可思議。話し合い解決を言うならまず発動してからするのがWTO協定に基づくものではないか。万一、中国の報復措置に屈して発動しないのなら、農業のみならず国民を怒らせることであり売国外交と言っても過言ではない。


輸入急増から主産地を守れ−−参加者の声

◇日本の腰が引けていれば多くの品目で輸入が増える◇
 福岡県鞍手郡若宮町・森下哲次さん(JA福岡県青協副委員長)

 青年部で中国の農業を視察にいきましたが、すでにすごい産地ができており、多品目にわたって大産地が増えています。日本のセーフガードは3品目ですが、中国の輸出攻勢は今後もっとたくさんの品目に広がってくるでしよう。
 伸びた輸出実績を抑えるのは困難です。増えてからでは、もう遅い。日本としては今のうちに早く手を打ち、3品目にとどまらないで、多様な輸入品目を監視する必要があります。
 その意味でもセーフガードの本発動は重要です。今ここで毅然とした態度を示しておけば、今後3品目以外の輸出にも節度を保つようになると思います。
 日本の腰が引けていればたくさんの品目で無秩序な輸出を繰り返すという悪循環に陥ります。そうなれば日本農業は崩壊します。


◇発動されれば生産者とスクラム組んで負けない体質ができる◇

 埼玉県・茂木荘三さん(JAふかや専務理事)

 中国産ネギは市場外流通での販売増が最大の問題。われわれも利根川流域の肥よくな土で育てた甘いネギを、これが本当の味だ、と消費者にアピールしていきたいと、今月から「少しぜいたく深谷ネギ」のブランド名で東京都内の量販店で売り出している。
 ハンディタイプの糖度計も導入して営農指導員が畑でチェックできる体制も整えたし、今月からは残留農薬の検査システムも稼働させ、おいしさと安全性を消費者にPRしていくつもりだ。
 セーフガード本発動はぜひ必要。若い後継者も比較的多いから、発動期間中に苦しいけれども生産者と農協がスクラムを組んでがんばって負けない体質をつくっていけると考えている。

◇後継者が希望もてる確実な政策として本発動を◇
 熊本県・久保憲子さん(JAやつしろ女性部千丁町支部長)

 い草の苗の植え付け期ですが、いてもたってもいられなくて夫婦でかけつけました。
 輸入はある程度しかたがないが日本の農業も生きていける政策をしてほしい。農民どうしでは話し合いができないからこういう問題は国に頼るしかない。
 3世代でい草と米を作っています。新品種の「ひのみどり」を導入してからできるだけいい畳表を安くと思ってがんばってきた。コンピュータで品質をチェックする機械も入れました。けれど、この低価格では機械代を考えると赤字になってしまう。
 ぜいたくなことは言いませんが後継者が生活していける確実な政策がほしい。絶対に本発動はしていただきたい。


◇暫定発動で価格持ち直したのにこれでは生活できない◇
 熊本県八代郡千丁町・浜田敏さん

 1町8反のい草農家です。平成8年には5500あったい草農家が現在では1300農家に減少。作付け面積も35%減少した。平成8年には畳表1枚造るのに平均価格は1382円(時給600円換算)だったが、今年3月30日には890円まで落ち込んだ。4月23日の緊急セーフガード暫定発動で徐々に価格が回復し現在では1200円まで持ち直した。このまま本格発動しないと生活できない。

 

 


【セーフガード本格発動に関する決議(要旨)】

 暫定措置の期限が切れ、国内の産地・生産者は今再び輸入急増と価格下落という危機に直面しつつある。
 中国は国際ルールを無視した不当な対抗措置を継続するばかりか、秩序ある輸入を求めるわが国の主張に全く応えようとせず断じて許すことができない。
 一方、我が国政府は協議解決の見通しがないなか、9日からの本格発動を見送った。このことは構造改革に向けた生産者の懸命な努力に応えていないばかりか、WTO協定にもとづく正当な権利の行使を放棄する行為ともいえ、政府の姿勢に断固抗議する。
 我々は、無秩序な輸入急増から我が国農業・農村を守るため全国の生産者の総意として直ちにセーフガードを本格発動するよう強く要求する。




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