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農政・農協ニュース

「JAバンク」ブランド確立に向けて
利用者満足度を追求 (6/26)

減益ながら収支確保
不良債権処理進む

農林中金の13年度決算

上野博史理事長
上野博史理事長
 農林中央金庫の平成13年度決算は、経常利益831億円を計上。前年度に比べ151億円の減益ながらも、前年度並みの配当を実施する内容になった。景気低迷の下で実質ゼロ金利が長期化、株価が下落し、企業業績が悪化する中で、減益幅を前年度比15.4%にとどめ、収支を確保した一方、不良債権の処理を一層進めて財務体質の向上を図った。厳しい環境下で(1)収支を確保し(2)不良債権処理を進めたという「2点が決算のポイント」と能見公一専務は説明した。多くの銀行が経常赤字を計上した中だけに堅実性が光る形となった。26日の通常総代会は、決算などを承認のあと役員人事を決めた。経営管理委員会の会長には原田睦民JA全中会長が再任された。
 「農林中金の決算内容はJAグループ信用事業の全体に大きく影響するので、金庫としては安定した収益の確保を求められている」と能見専務は語る。
 ペイオフ解禁に対する預金者の行動は、今年3月までの1年間に他業態では都銀へのシフトなどがみられたが、JA貯金は毎月、1.5〜2%ほど伸びて順調な推移を示している。
 系統信用事業の資金調達基盤にゆるぎはみられない状況だ。これはJAグループが「信用事業への信頼性を高める対策を着々と進めてきた結果だ。来年は完全解禁となるので、さらにグループが一体となって様々な対策を実施したい」(能見専務)という。
 系統セーフネットの仕組みに立った安全性のアピールや、攻めのペイオフ対策などといった路線もすでに敷かれている。
総代会後記者会見する原田経営管理委会長と上野理事長
総代会後記者会見する原田経営管理委会長と上野理事長
 各銀行の赤字決算と明暗を分けたことにからんでは金庫の場合、例えば運用では国内市場に加え「国際分散投資という形で先進国を中心としたグローバルな運用に努めており、収益源が多様化している」(同)という特徴がある。
 また貸出金残高に占める不良債権額の比率が銀行より低く、さらに絶対額でも小さいため処理費用も少なくて済む点なども黒字決算の要因の1つだ。
 上野博史理事長は「厳しい環境の中で、系統信用事業全体がよくがんばって健全な決算にすることができたといえるのではないか。要因には不良債権の少ないこともある」と語る。
 12年度決算は経常利益が983億円で2年連続の増益だった。13年度は減益だが、14年度は再び増益に転じて「1000億円台を目ざしたい」と能見専務は意欲的だ。
 上野理事長も「やるべきことは決まっているから、それをきちんとやり切れば目標は達成できるはずだ」と明快だった。

農林中金の新役員
副理事長に大多和専務

 農林中金は26日の通常総代会で次の役員人事を決定した。任期満了にともなう経営管理委員15氏の選任は再任8氏、新任7氏で、会長には原田睦民JA全中会長が再任された。
 理事の異動では代表理事副理事長に昇任した大多和巖専務をはじめ、常務から専務への昇任が2氏、また新任常務は3氏。
 【理事】代表理事副理事長(専務)大多和巖▽専務理事(常務理事)能見公一▽同(同)増田陸奥夫(以上昇任)▽常務・大阪支店長(総務部長)畠善行▽常務(法務部長)片山健▽同(企画管理部長)岡田安生(以上新任)
 【経営管理委員】原田睦民(全国農協中央会会長)▽植村正治(全国漁協連合会会長)▽飯塚昌男(全国森林組合連合会会長)=以上再任▽物井清人(北海道信連会長)▽前島雅光(茨城県信連会長)▽藤田三郎(静岡県信連経営管理委員会会長)▽一色政光(愛媛県信連会長)▽藤田寛次(佐賀同)▽石黒勝三郎(北海道信漁連会長)=以上新任▽佐藤吉明(静岡県信漁連会長)▽松本健(和歌山県森林組合連合会会長)▽壁村史郎(大分同)▽若月三喜雄((株)日本総合研究所特別顧問)▽上野博史(農林中金理事長)=以上再任▽大多和巖(同副理事長)=新任。
 なお退任の理事は石原弘久代表理事副理事長と森戸慎也常務。
 経営管理委員会の原田睦民会長はJA全中会長の任期満了で8月に退任するため、そのころに再び経営管理委員会会長を改選することになる。

新理事
大多和巖氏
能見公一氏
増田陸奥夫氏
大多和巖氏
能見公一氏
増田陸奥夫氏
畠 善行氏
片山 健氏
岡田安生氏
畠 善行氏
片山 健氏
岡田安生氏

新経営管理委員
物井清人氏
前島雅光氏
藤田三郎氏
物井清人氏
前島雅光氏
藤田三郎氏
一色政光氏
藤田寛次氏
石黒勝三郎氏
一色政光氏
藤田寛次氏
石黒勝三郎氏

配当は前年度並み
―決算概況―

 農林中金の13年度決算概況によると、収支では、損益のマイナス要因が拡大したが、ゼロ金利の長期化等環境厳しい中、貸出など各般にわたる営業努力のほか、有価証券運用による利益確保によって経常利益は831億円。税引後の当年度利益は667億円で前年度に比べ21.1%減となった。
 業務純益(一般貸倒引当金繰り入れ前)は2321億円で前年度に比べ1220億円増加した。
 有価証券などの期末評価益は株価の下落等を受けて前年度より5378億円と大幅に減少して1088億円。
 不良債権は、厳しい経済環境に加え、牛海綿状脳症(BSE)発生や偽装事件の影響もあり、リスク管理債権は単体で前年度比578億円増加(7.9%)し、7934億円となった。
 貸出金残高に占めるリスク管理債権の割合は単体で3.3%と金融機関全体の中ではかなり低い。
 貸倒引当金の合計は522億円増やして3756億円。リスク管理債権に対する引当率は単体で47.3%と前年度比3.4%高めた。
 調達面は、預金が信連預金の増加などから2兆737億円増えて年度末残高は38兆688億円。受託金(信連から短期市場運用を委託されている預かり金)は信連預金に振り替えられて減少し、残高は1兆2392億円。
 また農林債券は5995億円減少し、発行残高は5兆9461億円。
 運用面は、貸出金が1兆2164億円増加し、残高は24兆2331億円。有価証券も増加し、残高は23兆2768億円。
 総資産は減少し、残高は56兆5274億円。減少は会計処理方法の変更などによる。
 利益処分は積み立てのほか特別配当と各出資配当に合計323億円。配当率は普通出資が年5%、後配同1%、優先同17%で、いずれも前年度と同率。
 与信関係費用も増えた。企業業績の悪化で倒産が増えたことなどによる。
 自己資本比率は連結(子会社14社)ベースで10.02%、単体同で10.22%(ともに国際統一基準)。単体では前年度比1.02ポイント低下した。これは収益を生む資産を積み増ししたことと、有価証券などの評価益が縮小したことによる。

系統信用事業の
14年度重点実践事項

 JA・信連・農林中金が全体として実質的に1つの金融機関として機能するような「JAバンクシステム」が今年1月にスタート。系統信用事業は「JAバンク」ブランドの早期確立に取り組んでいる。その中で14年度目標を「JAグループの一体的業務運営の確立」を早期に達成することに置いている。
 取り組み方針は(1)系統信用事業全体での信頼性確保、(2)一体的事業推進による着実な事業実績の確保、(3)一体的事業運営に向けた体制・仕組みづくり、の3点だ。 そのうちポイントとなる「一体的事業推進による着実な事業実績の確保」は、利用者満足度を追求するものだ。
 この方針に取り組む重点実践事項には、JAの事業推進・実践活動についてJA・信連・農林中金が一体的に取り組んでいくための仕組みづくりとして13年度に打ち出した「5大作戦」があり、14年度は、これを継続し、その取り組み内容の発展を図っていく。
 具体的な取り組みを紹介すると、JA・信連・農林中金の力を結集した商品開発研究会による商品開発の取り組み強化がある。
 また「預かり資産NO1作戦」を展開する。超低金利が続く中で、JA貯金だけでなく例えば投資信託など多様な商品を提案しながら個人の預かり資産を増強していく作戦だ。
 そのためには新たな系統ネットワークの仕組みを踏まえた安全性をアピールする。これは攻めのペイオフ対策でもあり、来年のペイオフ完全解禁に備える。
 一方、JAの収益力強化に向けた融資戦略では「ちいき・いきいきローン作戦」を展開する。
 内容には▽住宅ローンの品ぞろえと、商品・サービスの拡充▽ライフプランに対応した相談対応型ローンの推進などがある。
 「実践業務改革チャレンジ作戦」も提起した。実務パッケージによる実践活動の展開や、渉外活動の取り組み強化などを進める。
 さらに「信頼の掛け橋」となる資産相談業務を強化する。ここではパイロットJAと、パイロット県を拡大して取り組み内容を充実させる。


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