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農政・農協ニュース

「営業成績上げるため」 日ハム現場偽装の動機
組織的指示は断定困難−−農水省 (8/15)

 輸入肉を国産肉に偽装して国の牛海綿状脳症(BSE)対策事業を悪用しようとした日本フード(株)に対し農水省は14日、牛肉販売の自粛を指導。また同社に原料牛肉を供給している親会社の日本ハムには供給自粛を求め、日ハムグループは15日から自粛を実施した。一方、日ハムの庄司元昭専務には偽装の証拠隠滅を図った疑いがあるとして同省は刑事告発を検討中。また独断で偽装を指揮した日本フードの営業部長3人を詐欺の疑いで告発する方針だ。同省の任意調査では、グループぐるみの「統一的な指示」や判断は確認できなかったとして企業を相手取った告発はしない。
 日ハムグループの食肉供給シェアは市場の約1割だが、ほとんどを日本フードを通じて販売しており、自粛によって豚・鶏肉や加工品などを除く牛肉販売がストップした。
 牛肉の前年度売上高は日ハムが1520億円、日本フードが1420億円だから自粛は本体の業績にもろに響く。食肉全体の売上高は日ハムが3637億円。 農水省は自粛期間を「再発防止策の確立」までとし、会社側の対応報告などを待つが、業界トップの自覚を持って早くするよう指導。さらに監督・責任者の厳正な処分を求めた。
 同省はBSE対策で日ハムが業界団体の日本ハム・ソーセージ工業協同組合に買い取らせた市場隔離肉938トン(うち偽装肉1・3トン)を補助対象からはずし、同社負担で焼却させる。また仮払金6億5000万円余は同社から組合に払い戻すことになる。
 一方、全箱検査前に偽装肉の無断焼却を同社に許した同組合に対しては、同省などの指導を再三無視したとし、責任者の厳正な処分と運営改善を指導する。同組合の理事長は日ハムの大社啓二社長の父で日ハム会長である大社義規氏だ。  同省がこの日発表した調査結果によると、日本フードの姫路、徳島、愛媛の3営業部長は、BSE発生による販売不振で積み上がった輸入牛肉の在庫を減らして営業成績を挙げようと国産に偽装し、日ハムを通じて組合に買い取らせた。
 詰め替えた箱にマジックで「牛正肉」と書き、コード変更をする稚拙な手口で時期は昨年10月29日と11月1日だった。
 この事実を姫路と徳島は2月に上部へ報告。愛媛は3月末に決まった全箱検査を逃れられないと思って5月上旬になって報告した。 コード書き換えや伝票操作など偽装方法がそれぞれ異なっていることや3営業部長の供述がばらばらであることなどから同省は組織的な指示があったと断定するのは困難とした。
 日ハムの庄司専務は報告を受け、このままでは雪印食品の二の舞になると思って弁護士と相談し、組合との売買契約を解除して補助対象からはずそうと買い取り申請を取り下げた。
 理由はチェックミスだった。これを受けて組合は6月14日に農畜産事業団へ取り下げを申請した。
 しかし事業団が承認しないため組合は日ハムとの売買契約解除を強行。同社は7月18、9日に偽装肉1・3トンを焼却した。
 事業団と農水省は取り下げ申請をやめて全箱検査を受けるよう再三指導したが、組合としては日ハムを含めて9社が取り下げを申請しており、検品で補助対象外の肉が見つかると風評被害で組合員企業に倒産が出るかも知れないとして解約をしたとのことだ。
 
◆「食肉事業には立ち入れなかった…」
  大社日ハム社長

涙ながらに報道陣を前に陳謝する大社日ハム社長
涙ながらに報道陣を前に陳謝する大社日ハム社長

 日本ハム(株)の大社啓二社長は農水省の須賀田菊仁生産局長から牛肉供給部門の営業自粛指導を受けた8月14日夕、省内で会見に応じた。
 自身の責任については「これだけの大きな不信感と日本ハムブランドを大きく傷つけたことに大変責任を感じている。ただ、不信感を取り除き新たなスタートを切るべく全力を上げる機会をぜひ与えていただきたい」と述べ、辞任する考えは「現在のところございません」と語った。
 また、今回の偽装は内部告発で明らかになるまで大社社長のもとに届かなかったことを改めて明らかにし、その理由について「私は入社以来、ハム・ソーセージを中心とした加工事業で学んできた。食肉事業は創業以来現在まで、会長(大社義規氏)と副社長(東平八郎氏)が展開しており私はほとんど立ち入ることができなかった。社長としての責務を十分果たせなかったことは本当に申し訳なく思っている」と語った。
 食肉事業に立ち入れなかったことは責任がないということか、との問いに「責任ということでいえば日本ハムブランドを傷つけたことを一日でも早く取り返し、今、非常に不安に駆られている従業員のみなさんに少しでも明るい笑顔をもたらせるよう全力を尽くしたいと思う」と声を詰まらせながら語った。
 事件発覚で売り上げ高は、60%以下にまで落ち込んでいるという。営業自粛でさらに落ち込むことも考えられるが「それはやむを得ないと思う」。
 同社は新工場建設など新たな設備投資案件をすべて凍結し、既存設備も含めて事業見直しを検討中。20日には、会長、社長も含めて関係者の処分と業務改善計画について公表する予定だ。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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