農業協同組合新聞 JACOM
   

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「コメ離れ加速しないか」 高値に憂慮の声相次ぐ 
農水省の審議会で集荷の困難も議論 (11/28)

 農水省は11月28日、コメの需給と価格の安定に関する基本指針を固めた。同案を了承した食料・農業・農村政策審議会総合食料分科会食糧部会では、入札取引価格の高騰をめぐって「消費者のコメ離れを加速しかねない」と心配する声が相次いだ。そこで10年ぶりのコメ高値問題に絞って部会の議論を要約した。
 口火を切った委員はJA全中の山田俊男専務で「不作とはいえ在庫があるのに(自主米の入札価格は)上がり過ぎだ。卸業界の一部には『農水省は輸入米による手当てを始めた』とうわさを流す人もいる。買い占めで、もうけようとする動きがあるとすれば、まことに残念」と指摘した。
 そこには10年前の凶作でコメ離れが進み、翌年の豊作で米価が暴落した苦い経験がある。農水省も「コメ消費の動向は重大問題」と憂慮を表明。また銘柄志向から需要の多いコメが高値を呼び、それが他の銘柄に響く事情なども挙げた。
 一方、卸売の委員は「高値で落札しても、小売店には転嫁し切れず、2カ月前の値段で売っている。それでもマスコミのコメ不足報道に怯えた小売店が『コシヒカリは大丈夫か』などと聞いてくる。そうした心理がまた入札価格を押し上げる。そこで、ある程度は系統集荷に頼らず、相場でも買っている」という。
 他の委員からも▽小売価格上昇までの時間差は?。それとも卸が吸収するのか▽値上がりを最終的に負担するのは誰か▽主食は60種類に及ぶという調査結果もあり、消費者としては高い主食を買う必要はない、などの意見や疑問も出た。
 また山田委員は、豊作時の価格安定に重要な役割を果たしてきた自主流通法人(全農)による過剰米の調整保管制度を来年からなくす国の方針を批判した。
 農水省側は、過剰米を区分出荷した農家に短期融資をする「集荷円滑化対策」の創設を挙げ、また「系統集荷に一段の努力を」と望んだが、山田委員は、流通規制をすべて取り払っておきながら集荷努力を求める姿勢に疑問を呈した。
 これを受けて農業法人の委員は「農協に出荷したコメは高値で落札され、街の小売店に出回らない恐れがあるため、適正価格で小売店に直接届ける販売量を増やした。このため今年は系統出荷を減らした」と農協出荷が減る事情を語った。
 一方、平成8年産からの超古々米を抱えた政府備蓄米の長期にわたる保管コスト問題で、質問に答えた農水省側が、値下がりに歯止めをかけたい「圧力」もあって「売り浴びせできず、残ってしまった」と説明したことに山田委員が「食糧法に従って売らなかったのであって『圧力』ではない」と反発。省側が説明を訂正する一幕もあった。

◆新潟筆頭に東高西低 県別のコメ生産目標量

 農水省は11月28日、平成16年産米について都道府県別生産目標数量を決めた。北海道、東北、関東、北陸は配分減少が一つもなく、冷害のひどかった青森と宮城を据え置きとしたほかは、すべて今年産ガイドラインに比べ目標を増やした。
 一番は新潟で8820トン増の58万7320トン。“売れるコメづくり”が順位に表れた。次いで秋田、福島、兵庫など。北海道の目標数量62万トン余は全国一だが、増えた分量は多くない。
 一方、甲信・東海以西は山梨、岐阜、静岡など計12府県が減った。中でも愛知と佐賀の減少幅が大きい。 増加県の中では兵庫の約3500トン増と熊本の約2000トン増が目立つ。
 全国合計の目標生産量は857万トン。生産調整面積は106万ヘクタールで今年と同じだ。当初は110万ヘクタールに拡大する予定だったが、今年産の不作で政府備蓄米の在庫が減るため据え置いた。ただ来年産の単収増加を考えれば調整面積にどう響いてくるかわからない。
 今年10月末の政府備蓄米在庫は144万トン、流通在庫積み増しなどが48万トン。これに今年の生産量763万トン(作況90として)を加えると合計955万トンという供給量になる。一方、来年10月末(16米穀年度)までの需要量を870万トンと見通すと、差し引き持ち越し在庫は85万トン。
 これは適正在庫100万トンを割る数字だが、農水省はこうした見通しを「需給と価格の安定に関する基本指針」に盛り込んだ。今後の消費動向が不透明であるためだ。しかし、指針案を議論した審議会の食糧部会では卸売の委員が「減反規模の据え置きでは来年も高値が続きそうだ」と需給ひっ迫基調を予想。減反緩和を期待していた業界の不満をにじませていた。
 基本指針によると都道府県別目標生産量は、それぞれの産米の需要実績を直近2カ年で見て単純計算による数量ウェイトを用いて算定した。そして、それぞれの豊作と不作、また生産調整の達成と未達成によって需要実績を補正した。さらに今年産米の生産量ガイドラインや転作率の平準化も勘案した。

 ◆コメ泥撲滅にも言及 情報いっぱい基本指針

○…「多発するコメ泥棒」というグラフ付きの囲み記事もあって、農水省の「コメの需給と価格の安定に関する基本指針案」は最近のコメ情報を丹念に収集している。コメだけでなく、野菜や果物などもかっぱらわれているとして被害額などを載せている。しかし1件当たり100万円単位となる“効率的”なマツタケ泥棒(京都)までは叙述が及ばなかったようだ。
 それは別として、コメ盗難の背景は、やはり「価格上昇」にあると指摘しているが、犯人の中には農業者もいたなどとは言及していない。実際には農家出身の犯人も目立つのだ。いずれにしても指針の細部には、農山村にまで及ぶ人心の荒廃を、ふと感じさせたりもする部分もある。
 農水省の対策としては10月に(値上がり待ちをしないための)早期出荷や盗品の流通防止などを関係団体に要請。また警察庁に防犯の徹底を要請している。

〇…基本指針案を了承した同省の審議会食糧部会ではコメの高値が問題になったが、同省は不作に便乗した値上げを監視するため、従来は月に1回だった卸売・小売価格の調査を9月からは毎週実施していると説明した。一方、銘柄米の単体販売では品薄感から高値を招くので、ブレンド米への理解を呼びかけていると報告したが、消費者への浸透はこれからの課題だ。

〇…新米は高値を呼ぶが、政府備蓄米131万トン(今年10月末)のうち8、9年産の超古々米はさっぱり売れない。その保管コストは国民の税金で負担することになる。なぜ、そんな昔のコメを抱え込んでいるのかで部会の議論が熱を帯びたが、省側の説明(別項)で納得。しかし8、9年産を売り切るまでには、まだ長期間かかる課題が残った。
 国産の不作から業界にデマまで飛び交う中でミニマムアクセス米を127万トンも抱え込み、その莫大な保管料を国民が負担しているという課題も大きい。 (2003.12.1)


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