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農政.農協ニュース

「農協のあり方についての研究会」報告書
『農協改革の基本方向』(要旨) (4/10)

 農水省の「農協のあり方についての研究会」が3月28日にまとめた報告書「農協改革の基本方向」の概要は以下のとおり。
 
1 農協系統の問題点
◎経済事業等について一部に先進的JAはあるものの、改革が遅れているところも多く組合員から「利用するメリットに乏しい」との批判の声が出されている。
◎改革が遅れたJAが多数存在したままでは食料自給率の向上や国際競争力の向上に十分な役割を発揮していけないとの指摘もある。
◎農協系統の偽装表示事件をはじめとする不祥事は消費者の信頼を裏切るだけでなく、組合員・農業者に対する背信行為。国民の信頼が揺らいでいる。
(問題点の背景)
・組織が硬直化し「組合員のための組織」というよりも「組織のための組織」という色彩を強めている。
・合併によって組織、事業の規模は大きくなったがその規模に見合った運営ノウハウが確立していない。
・農協法制定当時の小規模で均質は組合員を前提とした事業運営を、担い手重視が明示された現在においてもなお基本とし、「形式的な平等」となり「実質的に公平」な事業運営に転換できていない。
・行政側が農協系統に行政代行的な仕事を期待した結果、農協系統自身が「半分公的な組織」と誤解した。
・競争に勝ち抜いていこうという意欲が乏しく「経営者」としての自覚と能力を有する人材が十分でない。
◎多くのJAでは経済事業の赤字を信用事業・共済事業の収益で補てんする状況。経済事業の改革を進めなければJAの経営自体が成り立たなくなりかねない。

2 農協改革の理念

◎民間の経済主体として経済社会のなかで一般企業と競争していることを自覚したうえで、競争に勝ち抜くため責任ある経営を行い、経済的メリットによって農業者(とくに担い手)、消費者に選択してもらえることが基本。
◎消費者に真に信頼される安全・安心な国産農産物を適切な価格で安定的に供給していくことが基本。消費者ニーズに対応してこそ国産農産物の販売拡大の途が拓かれる。
◎組合員に対しては国産農産物の販売拡大と生産資材コスト削減に取り組み農業者の所得の増大を図ることが基本。
◎先進的JAの取り組み手法を学び、経済事業の改革に取り入れていくことが有効。
◎信用・共済事業の収益による補てんがなくとも成り立つように経済事業について大胆な合理化、効率化を進める必要がある。

3 農協改革の基本方向
◎改革の理念を踏まえて「選択と集中」の観点からの抜本的な見直し。これをベースに施設、人員、人件費水準を見直すことが必要。
◎「経営者」としての自覚と能力のある人材を選任。
◎JAは経済事業の自立をめざし、全農はJAの補完に徹する方向をめざすべき。
(国産農産物の販売拡大)
【JA段階】
◎市場流通だけでなく、消費者、スーパー、外食産業などへの直接販売の拡大。
◎「輸入農産物に勝てる安全・安心なものを生産、販売しよう」という意識の徹底と実践。
◎営農指導は、販売事業等の「先行投資」と位置づけ、農産物販売、生産資材購買と総合的に見る必要。
◎農産物は不可抗力で欠品が生じることもあることを消費者・実需者に十分周知、理解を得ておく必要がある。
【全農】
◎段階的に代金決済、需給情報提供などの機能に特化していくことが適当。
◎コンプライアンスの徹底。輸入農産物を販売する場合は生産者、消費者にその理由を説明。その表示を正確に行う。
(生産資材コストの削減)
【JA段階】
◎物流拠点の集約など強力かつ速やかに進める必要。
◎大量取引割引、早期予約割引など担い手にメリットのある価格体系の明示。
◎商系業者と比較し、有利なほうからの仕入れなど、仕入価格引き下げに積極的に取り組む。
【全農】
◎商系業者より割高な生産資材品目についてその原因を分析。競争力回復の見込みがない品目については撤退も考慮していく必要。
◎全農、子会社の流通ルート・コストなどを系統内で明示して改革方策を議論。
(生活関連事業の見直し)
【JA段階】
◎競争力があるか、JAの立地からみて組合員の利用上必要かつやむを得ない場合にのみ行うべき。競争力がなくなった生活関連事業は抜本的な見直し(廃止・事業譲渡・民間委託等)を行う必要。
【全農】
◎競争力のある事業に特化するなど見直しを行うべき。
4 経済事業等の収支均衡
◎信用・共済・経済等の部門別収支データを明確にし、赤字部門の改善方策を決定することが重要。
◎赤字部門の改善方策としては、分社化も一つの方法。分社化を契機に実効ある業務改革を行うことが必要不可欠。

4 農協改革の推進力
(中央会のリーダーシップの発揮)
◎全中が強力なリーダーシップを発揮すべき。全中が中心となってJAグループに対する指導指針(経済事業版自主ルール)を策定、公表。これに基づいて指導。
◎全農は全中の指導指針に従って自らの改革を進めるとともに、JAに対して支援に努めるべき。
◎全中は「経営体制」についての自主ルールも策定、強力に指導する必要。定年制、重任制限、経営管理委員会・理事会併用方式、担い手の役員登用など盛り込む必要。
(全国的なJA改革実践運動)
◎項目ごとにスケジュールと数値目標を設定。第三者機関において実行状況を点検。
(全農改革の断行)
◎全農改革は「農協改革の試金石」。真剣に改革に取り組む体制の確立。全役職員の危機感の共有と一体感の醸成、役員の強力なリーダーシップの発揮など。
◎農業者・JA・全中等は全農改革を自らの問題として積極的に関与、確実な実行をチェック。

5 行政との関係等
◎これまで行政は農協系統と連携して農政を推進。それなりに成果上げたが、農協系統を安易に活用、自立を妨げてきたことも否定できない。
◎今後、役割を明確に区分けしたうえで適切な協力・協調を行う必要。行政は法令に基づく指導監督を基本、農協系統が自立する必要。
◎補助金等の交付要件はJAとJA以外の生産者団体を同等とすることを徹底。
◎独禁法違反体制のチェック体制を強化。 (2003.4.10)



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