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ワクチン使用で国と生産者が対立
高病原性鳥インフルエンザに関する意見交換会 (10/15)

◆少なかった消費者の発言

「高病原性鳥インフルエンザに関する意見交換会」

 農水省は10月15日に三田共用会議所(東京・港区)で「高病原性鳥インフルエンザに関する意見交換会」を開催し、消費者・生産者・食品製造流通関係者ら約200名が参加した。
 国内で79年ぶりに発生した高病原性鳥インフルエンザは、山口・大分そして京都の4件とも清浄化し、現在は沈静化したかにみえる。だが、アジア各地では引き続き発生が報告され、養鶏生産者はこの冬の再発、とくに大規模養鶏密集地域における発生を強く懸念している。また、国は改正家畜伝染病予防法(家伝法)に基づいた同病に関する「防疫指針」(案)をまとめパブリックコメントを求めるなどの作業を進めている。
 そうしたなか開かれた意見交換会では、鶏肉・鶏卵に鳥インフルエンザウイルスが付着していたとしても、これを食べることで人が感染することは考えられない。また、鶏卵・鶏肉を食べることで、鳥インフルエンザウイルスが人に感染することは世界的にも報告されていないことから「鶏肉・鶏卵は安全」、ということが浸透したためか、消費者からの発言は少なかった。
 発言の多くは、養鶏生産者・生産者団体からのもので、それらの発言を要約すると、国の「防疫指針案」の基本的な考え方「早期発見→とう汰(殺処分)」に対して、ワクチンの予防的な使用を含めた防疫体制の必要性と、発生した場合には「行政処分で殺処分」することから補償措置の一層の充実を求めた。

◆ワクチンではウイルスは常在化する――国

 ワクチン使用について国は、現在の不活化ワクチンを使用しても、接種した鶏の発症・死亡は抑制できるが、体外にウイルスを排出して「ウイルスが常在化」し、他の鶏群にまん延したり、ワクチンが効かない変異ウイルスが出現する可能性があるとして、「移動制限区域内の複数の農場で本病が発生し、発生農場の飼養鶏の迅速なとう汰が困難になると判断される場合」にのみ緊急避難的に使用するとしている。
 河岡義裕東大医科学研ウイルス感染分野教授も「完璧なワクチンがあれば常在化はしないが、いまのワクチンでは、ある程度ウイルスが増え、ウイルスがいる期間が長くなる」と発言。また、境政人農水省消費安全局薬事・飼料安全室長は「国の補助事業として、3年後を目標にウイルスを体外に排出しないようなワクチンの開発に取り組んでいる」と説明した。

◆再発防止に海外の優れたワクチン使用を――生産者

 これに対して生産者団体などは、すでに海外では優れたワクチンが開発されており、もし、再発したら業界は3000億円以上の損害を受け、発生農場は倒産・廃業に追い込まれる可能性が高いことから「再発を予防する」ためにワクチンの使用を認めるよう求めている。また「防疫指針案」には、「再発を防止するという視点がほとんどない」という発言もあった。
 再発防止について国は、「衛生管理の徹底」をあげているが、それだけでは再発を防ぎきれないのではないかという危惧が生産者には根強くある。
 小澤義博OIE(国際獣疫事務局)名誉顧問は「日本でできるのは3年後かもしれないが、海外ではいいワクチンがたくさんできているのも事実だ。ワクチンを使うのは絶対にダメだということにはならない。ワクチンをどこで、どのように使うかを議論することがいま一番重要だ。その議論がまったくされていないのが心配だ」と発言した。
 国産ワクチンで防疫できるのが望ましいことではあるが、「再発をさせない」ことが安全・安心な食料を国民に提供するうえでもっとも重要なことであり、日本の養鶏産業を守ることでもある。そのためには、優れた国産ワクチンが開発されるまで、海外の「いいワクチン」を使うことも必要ではないだろうか。
 この意見交換会で出された意見が、最終的に農水大臣名で出される最終「防疫指針」にどう反映されるのか分からないが、もし何も反映されることがなければ、「防疫指針」作成にあたって、これまでほとんど発言の機会がなかった生産者の「ガス抜き」のための場でしかなかったことになる。それではせっかくの「防疫指針」が生産者や国民から支持されるものとはならないのではないだろうか。

(2004.10.22)


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