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『農政改革』に異論続出 『財界流』を斬る 意見交換会開く (12/8)

 食料・農業・農村基本計画の見直しが進んでいるが「このままでは本格的な異論が出ないまま策定に至るのではないか」として、有機農業や環境保全型農業、産消提携などに取り組む農業者や市民の有志が「『農政改革』への異論」をテーマに11月下旬、都内で意見交換会を開いた。農水省の政策審議会は8月に中間論点整理をまとめたが「農家の間ではまだ議論が起きていない」と現状を報告した農業者の戸村真喜夫氏(宮城・JAみやぎ仙南)は「あきらめ半分で、農政にもの申すことを忘れていたが、きょうは久しぶりに農政を考えた」という。この日の議論から、厳しい「異論」を拾ってみた。

「農政改革」への異論が相次いだ意見交換会=東京・高輪の国民生活センターで
「農政改革」への異論が相次いだ意見交換会=東京・高輪の国民生活センターで

◆構造政策の“亡霊”

 呼びかけ人の一人である全国産直産地リーダー協議会の下山久信事務局長は「農産物輸入の増大で国産品価格が下落。野菜の作付け面積は毎年1万ヘクタールも減って遊休農地が増えている。グローバル化はいっそう激しく、野菜の自給率はやがて80%を割るだろう」などと論点を挙げた。
 「構造改革の断行で国際競争力の強化を図れ」という財界の農政提言が相次いでいるが、茨城大学の中島紀一教授は問題提起で「中間論点整理のシナリオは財界の論調とそっくり同じ」と指摘。そして、旧基本法時代の経過から、構造政策論はすでに破たんしているとし、今の農業危機は「日本農業が零細で国際競争力に劣るから生じたものではなく」、グローバル化推進の中で、輸入が激増したため、と説いた。

◆選別のシナリオ

 さらに「経営面積14ヘクタール、年間所得530万円」で線引きし、それ未満の“悪い農家”(零細兼業農家)を淘汰し、それ以上の“良い農家”(規模拡大農家)を育てれば問題は解決するという農水省の机上計算による選別のシナリオを「能天気な楽観論」と厳しく批判した。
 また農業生産の7、8割を担っている零細兼業農家が淘汰され、離農したら食卓がまかわれなくなるとし、農政支援の対象を絞り込む選別政策に反論した。規模拡大農家の支援についても、この層の経営危機は恒常化しており、生き続けられる保障はない、とした。

◆多すぎる?補助金

 次いで山形大学の楠本雅弘教授は▽構造変化の方向はゴールなき生き残り競争の道をたどる▽稲作についても政策対象を絞り込み、財政負担の縮減をねらっている▽生産者が「経営体」に発展する可能性は針の穴よりも小さいなどとした。
 そして農業資源を高度利用していく仕組みとして、効率的生産を目的とする農業生産法人とは異なる公益的なNPO型の「地域再生法人」を提唱した。
 日本消費者連盟の山浦康明副代表運営委員からは▽食の安全には有機農業が重要だが、農水省にはやる気がない▽アジア諸国の農民は、日本の農業者がたくさんの補助金をもらっていると思っているが、こうした誤解のもとは公共事業予算が多いからで、農業予算の中身が大きな問題だ、などの批判が出た。

◆複合経営は崩壊

 戸村氏は「コメづくりでは安定収入が得られなくなった。水田20ヘクタールを経営しないと500万円の所得が出ない。4ヘクタールでは赤字だ。コメと畜産や野菜生産を組み合わせた複合経営は崩壊した」などと報告。また1年に10アール当たり平均2万円以上の水田基盤整備事業の負担が重いことも挙げた。
 そして「地域の共同作業で水利を保全しており、兼業農家の営農意欲が減退すれば農地が保全できなくなる。水田農業は担い手だけでは維持できない」などと問題を提起した。
 さらに「直売所は女性や兼業農家などの参加で元気だ。様々な担い手があってこそ自給率が高まる」「環境保全型農業者に対する支援(税金投入)は安全・安心を求めている国民の理解が得やすい。実施を急ぐべきだ」などと主張した。
 このほか▽特区の規制緩和の乱用▽農業委員会の活性化▽備蓄問題の検討不足など様々な角度からの異論が続出した。

(2004.12.8)


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