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シリーズ コメ卸から見た流通最前線 ―― 4
目に見えてきた“市場隔離”の効果
 12年産自主流通米の入札価格は、4回連続で全体の平均指標価格が上昇し、米価回復の兆しが出てきている。消費の低迷は依然として続いているが、米の流通業者の間ではどのような対応がみられるのか。緊急総合米対策による需給改善の効果はどう出ているのか。今回は3月27日に実施された第9回入札の結果を中心に米卸業界関係者などに聞いた。

◆改正JAS法施行が“追い風”に

 3月27日に実施された12年産第9回自主流通米入札では、全体の落札加重平均価格が60kg1万6018円と前回(1万5958円)にくらべて60円(0.4%)上昇。昨年9月入札以来、6カ月ぶりに、まずは待望の1万6000円台を回復した。
 この3月入札で関係者が驚いたのは魚沼コシヒカリの予想以上の高騰だ。前回も5000円以上上がったが、今回さらに7366円も上昇し3万5889円と自主流通米入札始まって以来の史上最高値をつけた。
 魚沼コシの価格は1月入札結果は、2万3198円だから、この2カ月で1万2000円も急騰したことになる。この結果について流通関係者は「需給状況とはまったく関係のない動き。改正JAS法の施行を前に手当を急いだ結果だ」と分析する。
 4月からは、改正JAS法に基づき「玄米及び精米品質表示基準」が施行されている。食糧庁は、精米表示の徹底を図るため、2月中旬までに店頭販売価格に着目して、表示の実態調査を行った。その結果、納入価格が原価割れと思われる商品を製造した78の卸売業者などに立ち入り調査を実施している。
 食糧庁が調査したのは、「魚沼コシヒカリ」と「秋田あきたこまち」として量販店やディスカウント店で販売されていた商品。調査によって136点が原価割れと疑われている。
 こうした動きもあって、いわば本物の魚沼コシの買い付けにみんなが走ったということなのだが、もっとも精米表示の改正が4月から施行されることは昨年からすでに分かっていたこと。関係者からは「卸も小売りも1月になっても、改正JAS法施行をさほど真剣に受け止めず、のんびり構えていたのが実態ではないのか」との声も聞こえてくる。が、ともかく魚沼コシほどの急騰はないものの、「秋田あきたこまち」や「新潟一般コシヒカリ」もわずかだが、価格は上昇し、また、引き合いも徐々に増えてきているという。まさに、改正JAS法が“追い風”になったようだ。
 ただし、産地にとってはいい面ばかりではない。
 「会津コシの値動きに注目すべきでは」とある関係者は指摘する。
 福島の「会津コシヒカリ」は昨年9月入札では1万8032円をつけ、その後、若干下がったもののずっと1万8000円台をキープしたきた。ところが、この3月入札では、1万7676円と1.8%下がってしまったのである。また、卸の引き合いも減ってきている傾向になるという。
 「つまり、この銘柄は、食味の良さから、魚沼コシの影武者役だったということ。そうした役で使えなくなったために引き合いが鈍くなった」。ほかに、宮城ひとめぼれなどに対しても、卸業者には同様の動きが見られるという。

◆風向きは変わってきたのか?

 業界では、JAS法対応への“狂乱”ともいわれる魚沼コシの急騰が2月、3月入札の特徴なのは事実だが、すでに触れたようにこれは需給とは関係がない動きだ。コメ卸業界が、現在の市場に合わせてどう対応しているのかは、全体の傾向をつかまなくてはならないだろう。
 そのポイントのひとつは、高率の落札率となったことだ。2月入札の落札率は98.3%だったが、今回は99.3%と上回った。申し込み倍率も2.3倍から2.5倍に上がっている。
 2月から3月はじめまでの仕入れは、在庫の積み増しというよりも末端での販売がそれなりに好調に推移したための行動だったという。これは裏返せば、売れる米だけを堅実に仕入れるという考えの現れだった。前回のレポートでも卸業者が指摘したように相場の変動を見込んで在庫を積み増すようなことをせず、いかに差損を回避するかとの観点で仕入れを行ってきたということである。今回の結果は、その方針から再び反転して、かつてのように在庫を積むということを示しているのか? といえば、答えはノーというのが卸業界の受け止め方だという。  「2月、3月は今後の供給量は昨年とほぼ同じだろうと受け止められていた。つまり、需要に合わせて買いたい時に買えると踏んでいた。ところが緊急総合米対策による64万tの市場隔離(24万tは自主流通米の調整保管分)の産地銘柄別の数量が示されると、これはどうやら風向きが変わってきたと、手当てを急ぐようになった」と前出の関係者は話す。つまり、買いたいときに買えるという状況が一変しているのではないかと受け止めているというのである。
 緊急総合米対策で決まった自主流通米の特別調整保管と政府米への売り渡しによる64万tの市場隔離は、需給の改善と適正な米価の回復を図ろうとするものだ。これは生産者団体からすれば、需給がだぶつき気味で売れ具合のあまり芳しくないと思われる産地銘柄を当面、市場隔離することと捉えられている。産地の売り急ぎを避けるためでもある。
 ところが、市場隔離銘柄が明らかになると、卸として確保しておきたい銘柄も隔離されていた。その代表的な銘柄が、北海道と青森の銘柄。64万tのうち、北海道「きらら397」や青森「つがるロマン」などで、12万tあまりが対象となっていた。これらの銘柄は60kg1万3000円台で裾ものとして人気があり、そのほか、数量は少ないものの同様の位置づけとされている群馬や埼玉の雑銘柄、滋賀キヌヒカリなども対象になっていた。(資料:産地銘柄別市場隔離数量
 そこで、こうした状況への対応が今回の入札で、北海道と青森の銘柄が軒並み、0.5〜1.8%と平均を上回る上昇率という結果となったのである。
 米の取引には、入札のほかに相対取引(事前年間、期別、スポット)による売買がある。
 入札で落札できなければ、相対取引で確保することになるが、全体の供給量が少なくなれば当然、相対取引の申し込みも増える。たとえば、100tの販売数量に対して5社が申し込みすれば、案分されて5分の1しか確保できない。勢い入札で確保しなければならなくなり、確実に落札するため、「気分としては100円でも200円でも高めの札を入れなければ落札できないと考える」。  こうした話を踏まえると、緊急総合米対策による市場隔離の効果がじわじわと効きはじめたといえるが「卸サイドとすれば、入札で確実に確保するしかないことは分かってはいるものの、4月以降の相対取引のあり方も不透明で不安になっている」という。

◆量販店主導で決まる末端価格が卸を圧迫

 このようにコメ卸関係者が一様に不安、あるいは不満を漏らすのは、これまで繰り返し指摘してきたことだが、現在の末端の消費現場では、入札価格の上昇を消費価格に転嫁できない状況になっているからだ。魚沼コシヒカリは、2月の急騰によってさすがに消費価格の値上げを実現した卸もあるようだが、60kg100円から200円程度の値上がりでは、末端価格に転嫁できず卸サイドがかぶるしかないという。量販店主導の価格設定は相変わらずだからである。
 「今後の銘柄別の需給状況とそれに卸がどう対応するのかという点はまた変化があると思う。ただし、変わらないのは、消費者の低価格志向。魚沼コシも価格が上がれば買い控えが起きないとも限らない」と関係者は指摘する。

◆産地ブランドに市場の反応にズレも

 こうした厳しい環境のなか、ある卸関係者は産地に向けて次のように訴える。
 「われわれが今取引をしているのは、大手量販店。その量販店が求めているもの、つまり、消費者が求めているものをわれわれが仕入れているということを改めて分かってほしい」。
 そのキーワードは食味と価格をふまえはするが、あくまで「使いやすい米」。「単品のブランド銘柄として求められるのは、魚沼コシと新潟一般コシ、秋田のあきたこまち、ひとめぼれ、ぐらいでは。そのほか比較的安い産地のコシヒカリ、あきたこまちでニーズに対応する。そのほかはブレンドによって価格対応するというのが一般的な仕入れの考え方ではないか」という。
 産地としては産地ブランド確立のために、たとえば食味値を上げる努力をしている。しかし、その努力と市場のニーズが合っていないのではないかという。例としてあげるのは、東北のある産地銘柄。これは食味ランキングでは毎年「特A」の評価を得ているが、入札価格は全体の平均指標価格よりも低く今回も1万6000円台を回復していない。
 つまり、厳しいようだが産地ブランドの確立に成功していないのではないかというのである。その意味では、最初に触れたJAS法追い風の陰で価格が下がってしまった銘柄についても市場にどう受け止められている銘柄なのかを冷静に見るべきかもしれない。
 米価回復の兆しのなか、一方で今後の米産地の戦略も考えることも必要になっている。



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