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JAの役割否定する意見には断固として対応
今こそ「農」の心を取り戻そう
全国農業協同組合中央会 会長 宮田 勇


宮田 勇会長

 新年明けましておめでとうございます。
 JAグループは、「『農』と『共生』の世紀づくり」に向けて積極的な取り組みを展開しています。昨年は、消費者の食や農への関心が高まり、JAグループ自らの反省も含め、「安全・安心」の大切さを再認識する年となりました。
 また、今年は、米政策改革大綱の具体化・実践、WTO農業交渉における日本提案の実現、JA改革の一層の推進と第23回JA全国大会の開催など、わが国の食料・農業・農村やJAの将来に係わる大きな課題に取り組む極めて重要な年となります。新年にあたり、今後JAグループが目指す方向や取り組みについて述べたいと思います。
 
 まず、第1は、昨年決定された米政策改革大綱の具体化・実践についてです。
 米政策の改革に関し、さる12月3日、政府・与党において「平成20年度に農業者・農業者団体が主役となるシステムを国と連携して構築する」という方向を示した米政策改革大綱が決定されました。この方向は、われわれにとって大変厳しいものと受け止めざるを得ませんが、国や地方公共団体の役割を食糧法で明確に位置づけるとしたこと、平成18年度に条件整備等の状況を十分検証して判断するとしたことは、今後の取り組みにおける重要な足がかりにできたと考えます。
 米政策の改革は主食たる米の安定供給や自給率向上、地域農業と農村の振興など国をあげた緊急課題であり、国民の皆様の期待に応えるため、自らの課題と受け止め、組織をあげた取り組みをすすめていきたいと考えているところです。
 改革の具体策については、集落営農の位置づけや担い手経営安定対策の実施、過剰米処理対策の具体化等、JAグループの考え方を相当盛り込むことができましたが、これらの内容については、今後の改革対策を実行に移す平成16年度予算の概算要求決定時(本年8月末)までに詳細を固めることになっており、今年の運動展開が極めて重要となります。
 また、平成15年度の生産調整については、現行の101万ヘクタールに5万ヘクタールを加えた106万ヘクタールで実施することとなり、十分なご理解をいただき、引き続き需給環境の改善を図るための取り組みをお願いしたいと思います。
 
 第2は、3月末にモダリティ確立に向けて重要な時期を迎えているWTO農業交渉対策についてです。
 米のミニマム・アクセスにかかる課題をはじめ、私たちの主張である「多様な農業の共存」をめざす「日本提案」の実現は、国民の理解と合意のもと国をあげた取り組みと、JAグループをあげた強力な運動が必要です。
 農業が果たしている食料安全保障や国土保全などの多面的機能は、それぞれの国で農業生産が行われてはじめて発揮されるもので、各国の多様な農業が存続・共存できる公平で公正な貿易ルールを確立する必要があります。米国やケアンズグループが提案した内容は、関税水準の大幅削減やアクセス数量の大幅拡大等を求めるものであり、容認できる内容ではありません。モダリティ確立に向けて、カロリーベースで国民食料の60%を海外に依存するわが国の状況を踏まえて、(1)農業の多面的機能などの「非貿易的関心事項」への配慮、(2)米のミニマム・アクセス制度の見直しと米の総合的な国境調整措置の堅持、(3)関税については品目ごとに柔軟性を確保できる削減方式の確立、などを実現していくことが必要です。
 昨年12月にハービンソンWTO農業委員会議長は「概観ペーパー」を提示しましたが、今後はWTO農業委員会特別会合や2月に東京で開催される非公式ミニ閣僚会議における議論など、WTO農業交渉は3月末のモダリティ確立に向けて極めて重要な局面を迎えており、国内での理解促進活動の強化はもとより、アジアやEU等の海外農業団体との連携やJAグループ交渉支援団の派遣などによる国際会議等への意思反映に積極的に取り組んでいくこととします。
 また、自由貿易協定の検討も活発化していますが、WTOにおけるわが国提案の内容と整合性を十分図る必要があります。
 
 第3は、自らの課題であるJA改革の一層の推進と第23回JA全国大会の開催についてです。
 今年は、21世紀に入り初めてのJA全国大会である第23回大会を開催する年であり、前回大会の決議「『農』と『共生』の世紀づくり」の実践を踏まえ、今後の運動方針を決定していく節目といえます。
 現在、大会議案の検討を進めているところでありますが、大会議案の検討機関である専門委員会に、(1)消費者への信頼回復をめざす安全・安心な農産物の供給、(2)「地域」の農業を振興し社会に貢献するJAの機能発揮、(3)部門採算を確立するJA事業の再構築と健全経営、(4)情報公開を通じた消費者・国民への理解促進、との大会の基本コンセプトや、開かれたそして実践する大会にいたしたいということなどを提起し、検討いただいています。今後JAグループをあげて活発な検討を行い、未来を切り拓く議案としていきたいと考えています。
 JA改革については、JA合併や連合組織の統合、JAバンクシステムづくりが実践されるなど、取り組みは大きく前進していますが、その成果を十分に発揮しているかどうかというと、まさにこれからであり、厳しい環境のなかで懸命な努力を続けている生産者の期待に応えるとともに、JAグループに対する消費者の期待などを踏まえた改革が強く求められています。生産コストの引き下げや販売力の強化などを実現していけるようJAグループ全体の仕組みを変えていくことが改革の基本であり、そのためには、担い手や女性によるJA活動への参加・参画についても大いに進めていく必要があると考えています。
 また、営農・経済事業の改革、特に生産資材価格低減のための物流改革と大口取引対応の促進、地産地消の促進とJAの販売力強化、JA出資農業生産法人の設立・活用の促進、生産工程管理・記帳運動の推進、消費者と生産者による「食と農の安全・安心委員会」の全JAへの設置、大規模農家・法人などの担い手対応の強化などに早急に取り組んでいきたいと考えています。
 
 現在、JA改革の論議と関連し、独占禁止法の適用除外の見直しや信用・共済事業の分離問題など、協同組合運動の理念と事業の仕組みが否定される意見が出されています。産業組合から数えれば100年以上、現在の農業協同組合も55年の歴史を有しており、協同組合が果たしてきた役割は極めて大きいと確信しています。これは将来においてもいささか変わるものではなく、農業・農村におけるJAの役割を否定する意見に対しては、断固として対応していきます。
 
 最後に、私の所信について述べたいと思います。
 今日ほど、国民・消費者の食の安全・安心に対する関心が高まっているときはないと思います。国民のみなさんの不安・不信を払拭し、国内農産物の安全性確保と消費者の真の信頼回復を実現するためには、JAグループとして、食の安全・安心のために「行動」で示す必要を切に感じています。私たち日本の食料生産を担っているJAグループとしては、反省すべきは反省し、国民の皆さんの理解を得て、さらに信頼を高めるため、ゆるぎない決意をもって、これからも臨んでいかなければなりません。
 また、私は「いまこそ農の心を取り戻そう」という思いを強く抱いています。国内で農業生産を行わずとも海外からの農産物を輸入すれば足りるといった考え方が公然と語られていますが、食料や農業を軽んじることは、ひいてはわが国の国土環境を維持できなくなるということと結びついてくるからです。
 いまこそ、生産者だけでなく国民全体にわが国の農をもう一度見直し、再確認していただきたいと切に思っているわけであります。そのためには、農業の多面的機能を国民の皆さんに実際に体験していただくことも大切で、地産地消の積極的推進や農業体験機会の提供によって、都市住民や子どもたちに「農の世紀」を実感してもらいたいと思います。
 これらの実現に向け、私たちJAグループは一丸となって、「安全とやすらぎの風」、「改革の風」、「地域社会への元気な風」を日本中に吹き込んでいきましょう。そのため、私も「誠心努力」を自らのモットーとし、今年がJAグループにとってますます改革と飛躍の年となるよう「『農』と『共生』の世紀づくり」を先頭にたって進めていく所存です。




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