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解説記事

苦悩する食品小売専門店
―― 食品小売業実態調査(農水省)から

 農水省は8月24日に「平成12年食品小売業実態調査結果の概要」を発表した。 この調査は、「今年3月に全国の食肉小売業、鮮魚小売業、野菜・果実小売業を営む事業所のうち、従業員5人未満の単独店990事業所を対象に」実施したものだが、街の肉屋さん、魚屋さん、八百屋さんの実状がうかがえるので、食肉、野菜・果実を中心に紹介する。

◆大型店・コンビニに押され8割が売上減少

 3業種全体(以下全体)の11年と比較した12年の年間売上は「やや減少した」が35.4%、「かなり減少した」が43.9%と約8割が減少したと回答している。これに反して増加したとの回答は「かなり増加した」が2.1%、「やや増加した」が6.4%で、全体の8.5%にすぎない(図1)。  とくに、商店街や多くの店舗が入居しているビルなど「商業集積地区」の方が、その他の地区に比べて「減少している」という回答が多く、食肉77.7%(その他地区69.4%)、野菜・果実88.2%(同71.2%)となっている。  売上減少の理由としては全体では「安売店や大型店、コンビニ等の進出による競争の激化」77.4%、「不況による消費者の買い控え」59.6%という回答が圧倒的に多い。とくに野菜・果実では、前者が80.4%、後者が60.8%と高いことが注目される(食肉は75.4%と57.1%)(図2)。  「安売店や大型店、コンビニ等の進出による競争の激化」による影響は、野菜・果実の場合、商業集積地(75.5%)よりはその他の地区(86.2%)、人口100万人以上の大都市(73.5%)よりは、中都市(77.5%)、小都市(88.7%)、町村(83.3%)と高くなっている。その理由はこの調査からは不明だが、大都市では早くから競争が激化していたが、その波がしだいに中小都市から農村部にまで押し寄せてきているためではないかと推測される。

◆安全で高品質な商品をきめ細かなサービスで提供

 こうした状況から脱却するために、店の経営改善をはかるためには何が重要かと考えているかというと、「消費者ニーズへの積極的な対応」という回答がもっとも多く74.4%(全体)を占め、次いで「生産者・卸売業者との連携の強化」が34.9%となっている。「消費者ニーズへの積極的な対応」を業種別にみると食肉の71.8%に対して野菜・果実は76.1%となっている。  そして彼らが重視している「消費者ニーズ」は何かといえば「安全性の高い商品の提供」64.9%、「高品質な商品の提供」59.5%、「安価な商品の提供」41.8%となっている(図3)。  「安全性の高い商品の提供」は、食肉72.4%、野菜・果実67.5%。「高品質な商品の提供」は、食肉67.5%、野菜・果実55.2%となっている。全体では3番目にあげられている「安価な商品の提供」は、野菜・果実は53.1%と高いが、食肉では29.8%と他業種より低くなっており、「調理品の提供」29.8%(野菜・果実では9.8%)、「食材の下処理やカット」16.9%(同6.4%)などきめ細かなサービスが高いウエイトを占めている。  そのほかでは、「商品の宅配サービス」(食肉30.1%、野菜・果実38.7%)、「消費者への情報提供の強化」(同23.0%、25.2%)があげられている。  また、市場関係者や生産者など、関連する業種・業者と共同して活動したい事業として、「消費者への情報提供」(食肉35.6%、野菜・果実26.7%)、「産地情報、取引情報、商品情報等の収集」(同25.5%、32.2%)、「消費者からの商品の注文受付・宅配」(同34.7%、28.5%)などがあげられている。

◆地域活性化の観点から

 こうした調査結果をみると、「安売店や大型店、コンビニ等の進出による競争の激化」のなかで、安全性の高い商品、高品質な商品など消費者ニーズに積極的に応えた商品をきめ細かなサービスで提供することで生き残りをはかろうとする肉屋さんや八百屋さんの姿が見えてくる。  しかし、基本的に個人商店の域を出ない彼らにとって、そうした商品の情報を収集したり消費者に伝えていくには、さまざまな困難がともなう。そこに彼らの苦悩があるといえる。  そこでそうした問題を生産者や市場関係者との共同活動で実現できないだろうか、という希望をもっているということではないだろうか。  現在の流通の主流が、量販店やコンビニであることは否定できないが、地域の活性化、地産地消という観点からみれば密着しがんばっている専門小売店の存在も重要ではないだろうか。安全性も高品質も輸入農畜産物に対抗するうえで、日本農業のめざすべき方向の1つであり、ここにJAグループと彼ら専門店が連携できる接点があると思うが、どうだろうか。


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