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解説記事

「ふじ」中心に世界のリンゴの40%を生産
――収穫直前の山東省、寧遼省にて

中田信雄

 中国のリンゴをヨーロッパへ輸出するのに使うサンプルを採収する商社に同行して中国のリンゴ産地を見る機会を得た。中国への視察は今回で2度目だが、前回の18年前には日本の「ふじ」がちょうど高接されていた頃であった。現在では「ふじ」がもう中国全体のリンゴ作付の45%にも広がっている。
 収穫直前の10月1日から7日までの7日間と駆け足の視察だったが、将来の日本リンゴを思うと本当に考えさせられる視察となった。

中田信雄氏
(なかた のぶお)
昭和16年青森県生まれ。県立弘前高校卒。昭和35年〜43年自営の農業に従事(水稲・りんご2ha経営)、同年弘前市農協入組(営農指導員)、60年生販部営農課長、平成3年薬師堂小沢支店長、平成8年西地区本部長、同年退職。現在、長男と農業に従事。松木平村の農心塾塾長、三共技術普及アドバイザー(果樹部門)。

若木多くまだ増大する力は高い

 中国のリンゴ生産は、90年頃はまだ400〜500万トンだったが、現在は世界全体の40%近いシェアを占めている。90年代に入ってからの生産量の増大はめざましいものがある(表1)。
 このように急速に伸びた要因は、中国政府が果物を「経済作物」と位置づけ、穀物などから付加価値の高いリンゴなどへの転換を奨励したためといわれている。
 中国のリンゴ主産地は、表2のように、作付面積の70%、生産量の78%を山東省、寧遼省など5省で占めている(98年)。現在、山東省が品質も良く、面積、量も第1位だが、90年代に入って陜西省の生産量が急増し、将来は山東省を抜いて中国第1位の産地になるのではと予想されている。
 また表2の通り生産量は増加しているが、作付面積は多かった年は300万ヘクタールもあったが、現在は240万ヘクタールぐらいといわれているように減少傾向にある。面積が減少しても生産量が多いのは、まだ若木が多いためで生産量増の“力”はまだまだ高いと思われる。2008年には3700万トンという膨大な生産量が予想され、いま中国のリンゴは世界各国の脅威の「まと」となっている。
    表1.世界のりんご生産量  表2.中国のりんご主産地における面積及び生産量の推移

「ふじ」が70%占める大産地――山東省煙台、蓬莱地区
 
 車窓から見えるリンゴ園には、まだ被袋中から除袋直後の明るくきれいに着色している「ふじ」が見られたが、かなり大玉であった。
 道ばたでは、生産者がフレ売りしている光景があちこちで見られた。売り値は1キロ1.5元(1元は約15円)ぐらいだった。

★蓬莱市園芸場
 ここは個人経営だが、選果場、冷蔵施設、CAもあり、面積は130ヘクタール、生産量は5000トンもある。ちょうど「ふじ」の除袋作業の真っ最中だった。この園芸場は長野県の方から9年間におよぶ技術指導を受けているそうだ。昨年日本からリンゴの買付に来た商社があったと、案内してくれた場長が教えてくれたが、詳しい話は聞くことができなかった。

興源果実冷蔵施設★興源果実冷蔵施設
 ここではではちょうど東南アジア向けの作業中で、女性たちが一個一個病害虫をチェックし、キャップに包み、段ボール箱に入れていた(玉は40玉クラス)。経営や冷蔵施設などの詳しい話は残念ながら聞くことはできなかった。特に個人経営なので見せてくれただけでもラッキーだった。

★三十里堡村

三十里堡村
三十里堡村

 集団で高品質リンゴを生産しているこの地区の作付面積は45.5ヘクタール、生産量は70トン(10アールあたり1.5トン)で全て有袋。防除は14回、大きさは40玉中心で、70%以上が輸出向けという。技術的にはスコアリングを実施し、支柱入れ、枝つり、葉つみ、つる回しはもちろん、反射資材(国産)も使用していた。栽培は中国産のサンザシ台木を使用した矮化栽培で、10アール当たり120本〜180本植えの密植でブッシュ位立であり、はしごを使用しない非常にコンパクトな樹形栽培をしている。ここの生産者の表情は大変明るく、リンゴ作りはすごく儲かるといっていたのが印象的であった。

高品質リンゴ産地――寧遼省

 この省は昔から日本とは馴染みの深い、伝統的なリンゴ生産地で、品質の良好なものができる産地である。

★赤旗山生産大隊

赤旗山生産大隊
赤旗山生産大隊

 農家1戸で経営し、作業員50人ほどで各作業をしている。面積はわからず、樹の総本数8万本。品種構成は「ふじ」が80%、他に大林、ジョナゴールなど。同行した商社の目的は、この地区の「ふじ」「王林」などをヨーロッパへ輸出するためのサンプル採取だった。
 リンゴの開花は5月1日頃。防除は8回実施し、うちボルドー液散布を3回実施している。この地区はフラン病、輪紋病の発生が多かった。スコアリングは6年前から実施、以前はあまり結実しなかったが、実施してから花芽も良く良品物が多く結実するようになったと、案内してくれた人が力説していた。
 「ふじ」は糖度12.8度で、40玉〜36玉が中心。「王林」は糖度15度、46玉〜40玉中心で、「ふじ」も「王林」も高品質であり、特に「ふじ」はきれいな着色で玉揃いも良かった。ふじの販売価格は1キロ・1.2元くらい。もっと高品質のものを作って高く販売しなければと意欲的であった。

★駝山地区

駝山地区
駝山地区

 この地区の入口に「緑色(有機減農薬栽培)食品紅富士高品質苹果栽培地帯」という看板が出ていたのには驚かされた。地区の面積は40ヘクタール、生産量は3000トンで60戸の農家が「ふじ」を中心に栽培している。防除は7回〜8回。ボルドー液散布は3回以上実施している。
 高品質の「ふじ」を生産している農家に案内してもらう。この農家のリンゴは枝つりや玉まわしを実施し、36玉中心で大きいのは28玉、26玉のものも結実していた。特に反射資材も使用していていないのにりんごの着色は素晴らしく、さすが「高品質苹果栽培地帯」の看板をかかげている産地だとつくづく感心させられた。
 この地区を案内してくれた指導員から貰った生産指導要項を見ると、まったく青森県の生産指導と同じような内容で、本当にびっくりした。そしてヨーロッパなどをターゲットにした有機栽培の導入に入っていることにも驚かされる。

まとめ

★経営概況
 経営形態は個人・集団と両方あるが、大経営は極めて稀だが、少しづつ増えているようだ。規模は1戸当たり20〜30アール、成功している農家でも50アール前後である。若木が多いため反当り600キロ〜1トンぐらいで、生産費は10アール当り7500円〜1万5000円ぐらい。高品質で管理の良い農家は2万4000円〜5万円くらいで、栽培労力はほとんど自家労働力。

★品種
 中国全体で「ふじ」は45%を占め、山東省では70%、寧遼省では50%ほどが「ふじ」で、あとは王林、ジョナ、スター国光、中国産の品種となっている。

★栽培技術
 中国で今回視察したところはかなり技術が進んだ産地で、高品質のリンゴが生産されていた。園地は密植で日光の入りも悪いのだが、以外と良品物が多かった。中国産サンザシ台木を使った矮化栽培では、はしごを必要としないかなり省力化された栽培法である。
 両省とも高品質で玉伸びも良く、青森のリンゴとあまり差がなかった。リンゴの貯蔵法は、まだ冷蔵施設も少なく、生産者は山の貯蔵小屋、地下に穴を掘って貯蔵している。

★安い労賃、豊富な労働力
 青森のりんご農家としてもっとも気にかかった事は次のようなことだ。
 1)生産者の手取り希望価格は、1キロ3元(約45円)〜4元(60円)は欲しいという。現在は、「ふじ」で1キロ0.6元(9円)〜1.5元(22.5円)。
 2)労働賃金の格安なこと。日当200円〜300円、時給25円。
 3)労働力が豊富なこと。
 中国の労働力を日本へ輸出したいとのことだった。
 そして、中国産リンゴが日本へ輸出されるには、1.中国がWTO(世界貿易機関)へ加盟が決定、自由貿易国への仲間入りをすること。2.植物防疫法をクリーアできるかどうか? だが、防疫面ではコドリンが生息しているが、これをクリアし、きっと国策で日本をターゲットにしてくることは確実だと思われる。

★もし商社が日本へ輸入するとしたらいくらで入ってくるか?
 「ふじ」の場合、CIF―日本港渡し価格1キロ8元とすると、1キロ120円、10キロ1200円となり、これに関税20%・240円を加えると、10キロ1440円で国内販売へまわすことができる。

                    ×   ×   ×

 これからのりんごを考えたとき、近い隣国の大国をもっともっと知る必要性があることを痛感させられた視察であった。


 


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