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解説記事

  県産牛肉にセーフティパスポート
継続させる努力こそ必要


JA全農広島県本部のトレーサビリティの取り組み

 BSEの発生で農産物の生産履歴が明らかになるトレーサビリティシステムの早急な確立が求められているなか、このほどJA全農はインターネットを活用したシステムを開発し実用化させるが(トレーサビリティ 店頭で実証へ 参照)、JA全農広島県本部では、昨年から県産牛肉の生産履歴、導入履歴などを記入した"牛肉のセーフティパスポート"を店頭に置いて販売する取り組みを始めている。今後、インターネット上で情報公開する予定もある。
 1月末に「食料・農林漁業・環境フォーラム」が開いた討論会「安全・安心の新たな畜産づくりをめざして」で同本部の畜産部畜産課の山崎逸郎課長が「逆転のプロローグ、創造の世紀へ」と題して報告。山崎課長は「このパスポートは安心、安全のための決意表明。風化させない努力こそが必要」などと強調した。その概要を紹介する。

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食料・農林漁業・環境フォーラム

 広島県内の乳牛・肉牛頭数は約4万3000頭(13年2月1日現在)。この10年間で半減した。山崎課長は「まさに崖っぷちに立たされた状況。これ以上失うものはないと思えばもっと大胆な事業ができる」と考え「安心と信頼」のシステムづくりに着手したという。
 山崎課長は、まず生産者や食品産業の現場での、これまでの安全性確保のための取り組みは、「決して後退はしてはいないと考えるべきだ」と強調した。たとえば、7年前のO-157による食中毒事件の際には、腸の内容物が肉に触れないよう安全な解体方法に変更した。また、1昨年の口蹄疫の発生では、輸入稲ワラから国産稲ワラの使用への気運が高まった。さらに昨年のBSEの発生後は全頭検査体制がスタートしている。
 ただし、たとえば、国産稲ワラへの切り替えは着実に進んできたかと問いかけ「口蹄疫が終息したからといって忘れてしまっては何もならない」ことを指摘。そこで、生産現場に大きな混乱が起きたことを決して忘れず、着実に安全性、信頼性の確保の取り組みを進めているという「決意表明としてのセーフティパスポート」が必要だと考えたという。
 こうした視点に立って、JA全農広島県本部では、「安心」の概念として3つを掲げた。
 ひとつは、「トレーサビリティ」。生産者、生産方法などが追跡可能なシステムがあることである。
 もうひとつの概念は「ナチュラル」で、抗生物質使用などを抑えた飼育体系の確立だ。このナチュラルシステムは、昨年2月からスタートしており、具体的には抗生物質、合成抗菌剤、農薬の残留個体比率を全国平均の30%まで抑える体系を確立するもの。さらに確認のために、県北部にある三次(みよし)食肉加工センターで定点観測を実施することにしている。
3つめは「リサイクル」で、具体的には使用稲ワラの全量を県内産とすることや、県内の畜産と耕種部門との連携をすすめ、たい肥に還元するシステムの構築である。
 対象は肉専用種。耳標管理自体はすでに10年前から実施されていることから、これを情報管理に利用した。生後8ヶ月で三次の子牛市場に出荷されるが、生産者はこのときに生産履歴証明書を提出しなければならない。
 そして、肥育農家から食肉処理場に出荷されるときには、導入情報、肥育情報が提供され、枝肉番号のほか、と畜情報やカット情報も加わって、店舗や加工会社に販売される。
 店舗では、牛肉の小売りパックに枝肉番号を表示し、合わせて生産履歴からと畜情報などまでが記されたパスポートを店頭に置いている。消費者は購入する商品の枝肉番号とこのパスポートで生産情報などを確認することができるという仕組みだ。
 現在、このシステムは、県内の一部の店舗に直接販売のかたちで実施されている。
 トレーサビリティシステムの確立に向け、国は今年度末までにすべての牛に耳標をつくる事業を進めており、1月末で29県で開始された。ただし、情報が管理されるのは、素牛生産から枝肉段階までで、店頭で販売された商品から遡って情報を確認できる仕組みづくりは試験的にごく一部で始まったばかり。
 一方、広島県本部のような取り組みが可能なのは、生産指導から、食肉処理、販売までに一環して取り組む体制があるからだといえる。パスポートである以上、同県本部が牛肉の「身元保証している」ことになる。
 山崎課長によると、このパスポートシステムを評価した地元消費者が、と畜場やBSE検査の現場を視察するケースも出てきたという。消費者の参画による「価値を共有できる消費者層の創造」も同県本部のテーマだ。
 トレーサビリティの確立は急務だが山崎課長は「継続とPR、風化させない努力が安心と信頼につながる」などと強調した。


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