農業協同組合新聞 JACOM
 
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解説記事

セルフ化で「SS淘汰の時代」を勝ち残る
――これからのJA石油事業を考える


 石油業界は、いま「SS淘汰の時代」にある。この時代を勝ち抜くために、商系では自社系列SSのセルフ化、燃料油以外の付加収益の拡大を積極的に展開している。JAグループでは、沿岸基地網・自主配送体制の整備、統一塗装、相互給油などJA―SSブランドを構築し、プライベートブランドとしては、国内石油流通業界最大規模となった。しかし、淘汰の時代を勝ち抜くためには、これまで築いてきた資産を最大限に活用して、JA―SSネットワークとしての販売競争力、SS運営力をさらに強化して、組合員・ユーザから選択される魅力ある事業基盤を確立する必要がある。
 そのためJA全農では、セルフSSの積極的な導入やJAと連合会の一体化をめざした「新たなJA―SSネットワーク」を構築することにした。この7月に東西2会場で開催された「JAグループ石油事業セミナー・セルフ特別コース」は、定員を大きく上回る参加者があり、セルフSSへの関心の高さを示した。
 そこで、セルフSSの現状をみるとともに、全SSのセルフ化を進め着実に成果をあげているJA埼玉中央に取材しセルフSSの運営のあり方を探った。

販売量の拡大とローコスト運営を可能にするセルフ

◆セルフが6割を販売する時代が迫っている

写真1 緑に囲まれた農村部にある嵐山SS
写真1 緑に囲まれた農村部にある嵐山SS

 平成10年に解禁されたセルフSSは、業界計で12年度231ヶ所、13年度929ヶ所、14年度1171ヶ所と増加し、今年3月末では全国で2522SSとなり、全SSの5%を占めるまでになった。全国石油協会の調査によると、セルフSSの月間平均揮発油販売量はフルサービスSSの約3.5倍338KLだという。15年度の各元売会社のSS投資計画は前年度並となっており、今年度も業界全体で1000ヶ所程度のセルフSSが建設される見込みだ。
 現在、全国にある5万ヶ所弱のSSが、今後は3万ヶ所にまで減少すると予測されている。そしてそのときには、セルフSSが1万ヶ所にまで増加するとも予測されている。セルフSSの月間揮発油販売量を300KLとすると、総販売量は300万KLとなり、全国販売量約500万KLの6割を3分の1のSSで販売することになる。
 そこまでセルフSSへのニーズはあるのだろうか。JA全農の実践セルフSSであるJASS―PORT草加などを運営する全農燃料テクノ(株)の斉藤幸博SS運営部長は「ある」と答える。それは、調査によればフルサービスSSを積極的に利用すると答えた人が10%に対して、セルフSSを積極的に利用するという人が倍の20%いること。一度セルフSSを利用した人が、再度利用する割合がほぼ90%あるからだ。

◆気楽に利用できることが魅力

写真2 広々としたスペースで気持ちよく利用できる八和田SS
写真2 広々としたスペースで気持ちよく利用できる八和田SS

 利用者にとってセルフSSの魅力は一般的には「価格が安い」からと考えられている。斉藤部長は「セルフの魅力は価格だ」というのは「錯覚だ」という。地域に他社セルフSSがなく先発した場合には、セルフの価格優位性が発揮できるが、フルサービスSSが顧客を取られないようにするために、価格をセルフ価格に合わせてくる事例は多い。実際にJASS―PORT草加の場合、フルサービスSSが価格をJASS―PORTに合わせて下げてきており、看板表示価格にセルフとフルサービスの差がないのが実態だ。
 先行組であっても他社セルフSSが進出して場合やすでにセルフがある地域に後発する場合には、価格は必ずしも集客の武器とはならない。つまり、価格優位性が発揮できるのは「一時的」なことだと考えた方がいいということだ。
 それではセルフSSの魅力はなにかといえば、1000円など小額でも定額給油できるなどSSのメンバーに気兼ねしないで「気楽に」利用できる。SSメンバーによる声かけやセールスがない。給油開始から精算までが短時間で完了する。施設が新しいなどがあげられる。

◆セルフ化でSS運営コストを圧縮

 それでは、セルフSSを経営(運営)する側にとってのメリットは何にか。
 セルフSSは、フルサービスSSに比べて、追加的な施設投資が必要だが、給油や付帯サービスにかかる人員が削減でき、運営コストに高い割合を占める人件費を縮減できる。流通マージンの圧縮が進展するなかで、販売競争を勝ち残るためには、販売量の拡大とローコスト運営が重要な課題となるが、セルフSSはそれを可能とする有効な運営形態だといえる。
 現在、JAグループのセルフSSは35SS(15年6月末現在)で、JA―SS全体に占める割合は0.7%と低位にある。JA全農では、ローコスト運営に有効であること、ユーザのセルフ指向も強いことから、推定需要や競合店の状況などを分析し、セルフ化への条件を満たすエリアへの新設あるいは既存SSのセルフへの改造を積極的に進め「新たなJA―SSネットワーク構築」の柱とし、15年度中に100ヶ所、17年度までに500ヶ所のセルフSS設置を目標に取り組む。

ゆったり、ゆっくり、くつろげるSSへ
――全SSの順次セルフ化を目標 
JA埼玉中央

◆競合店の8割がセルフに

埼玉中央セルフSS販売量推移

 JA埼玉中央は、埼玉県のほぼ中央に位置し、1市6町3村を管内とする広域JAで、その総土地面積は県全体の10%強を占める。
 JAでは現在9ヶ所のSSを運営している。その内の嵐山、八和田の2SSがセルフSSだ。
 嵐山SSは、JAのセルフ第1号店として、フルサービスSSを改造し14年8月にオープン。3スクエアアイランドタイプ(6台同時給油)、簡易アイランド精算方式(釣銭機1基)。セルフ第2号店の八和田SSは、月販売量300KLのフルサービスSSを移設した新設SSで、4スクエアアイランドタイプ(8台同時給油)、簡易アイランド精算方式(釣銭機2基)という構成になっている。
 同JAのセルフ化の特長は、赤字解消のためではないということだ。2SSのセルフ化以前、9ヶ所のSSは嵐山を除いてすべて黒字で月300KL前後の揮発油を販売しているが、平成9〜10年をピークに下降しはじめた。その最大の要因は、地域内で競合する大型SSの約8割がセルフ化したことにある。そのためJAでは今後のSS運営のあり方について、先行商系セルフSSの実態を集め、収支や外観などから検討。そのうえでSS経営分析表をもとに分析し、全SSを順次セルフ化することにし、初年度から事業損益を黒字にするという方針を決めた。

 セルフを選択した理由は、
(1)欧米のSS業態の状況をみると、日本もセルフ化の方向にいくだろうと予想されること。
(2)経費の中でもウェイトの大きい人件費を抑える運営形態であること。
(3)他の職場と比較してSS現場の職員の労働環境は厳しく、いずれ将来はこのような環境では有能な人材の確保は難しい。セルフ導入で環境を改善できることにあったと、吉野勤営農経済部長。

◆利用者が気持ちよく利用できるように設計

 地域でのセルフ化先行組みであれば、セルフ積極利用客を囲い込むこともできるが、競合店の8割がセルフ化された中でのスタートのため「どうしたら先行する大型セルフSSに勝つことができるかが、大きなテーマ」だった。吉野部長が自らSSの店頭に足を運び、直接利用者から、支払方法、設備・サービスなどについて「貴重な意見」を聞き練り上げたコンセプトは、セルフとして後発であることから、先行する商系セルフSSよりも、視認性、入出店のしやすさ、ゆったりとしたドライブウェイ、機械操作のしやすさ、洗車機の性能などすべての面で優位となるように設計し、「お客さまが“ゆっくり、ゆったり、くつろげるSS”」を実現することだ。
 そのために、設計も人任せにせず、設計図の「ここに立ったら、自分にはどのように見え、どう感じるのか」「お客さまが気持ちよく入って給油し、気持ちよく帰るためには」と考え、設計に反映したという。施設ができあがってしまったら、容易に変更はできない。設計段階から利用者の立場に立って徹底して考るかどうかが、その後のSSの命運を決めることになる。

◆メインは女性、広々としたスペースで安心感を

写真3 メインは奥様方
写真3 メインは奥様方

 そうしてできあがった嵐山SS(写真1)も八和田SS(写真2)も、入口から計量機までの距離(待機スペース)がゆったりとられ、誘導ラインも大変分かりやすい。また八和田SSでは、入口から入るとすべての計量機の空き状況が見渡せるように、計量機を微妙にオフセットして配置している。計量機間の距離もゆったりととられ、手前の計量機が使われていても他のどの計量機にも車をつけることができる。さらに構内道路を設けて防火塀をなくしているので、視認性がよく、開放的で広々とした感じを受ける。

写真4 簡単に給油できる操作パネルも重要なポイントだ
写真4 簡単に給油できる操作パネルも重要なポイントだ

 両SSに立ってみると、もう1基か2基、計量機が置けるのではと感じる。しかし、女性や不慣れな人の「不安を取り除き、気持ちよく利用してもらう」ためにはこれだけのスペースが必要だという考えだ。そして、欧米の傾向をみると計量機10台前後の大規模セルフ店が淘汰されおり、一番効率の良い形態は埼玉では八和田SSだと吉野部長は自信をもっている。
 オープン以来の両SSの実績は表の通り着実に伸びてきている。八和田SSには平日の朝10時頃、嵐山SSには夕方4時頃行ったのだが、ひっきりなしに車が入ってくる。そして、女性客(写真3)や年配の男性客が多いのに驚かされる。それは先にみたスペースと機械操作が簡単で「1、2、3で給油」(写真4)できるからだ。「セルフは若い人が中心」といわれるが、ここでは「メインは奥様方です」ということになる。

◆固定客をしっかりつかむことが大切

 しかし、ハード(施設)が優れているだけでは、長期にわたって安定的に販売することは難しい。ハードだけに依存すれば、近隣にもっと新しいSSが出現すれば、そちらにお客が取られてしまう可能性はかなり高い。「これからのセルフは、ハード面よりもソフト面に力を入れていかないと集客できない」とくにセルフが競合する地域では「看板表示で集客する戦術は通用しない」(吉野部長)。
 JA埼玉中央では、JA職員全員が担当する組合員を決め、毎月1回の「外勤デー」に組合員を訪問し、JAからの話をし、JAに対する意見を聞いてきている。そのときにSS事業についても直接アピールし、固定客化をはかっている。セルフであっても固定客をしっかり固めなければ、長期的な展望はないからだ。
 その上で、部課長も含めた管理者が常に直接店舗に出向き、利用者の不満や不安を聞き、店舗運営手段を利用者ニーズに合わせることが大事であり、それを実践している。

◆1時間ごとに清掃、清潔感はセルフの必須条件

 そして、セルフSSでは、給油・洗車・トイレなどの場所を、毎日定期的に清掃し、清潔感を保つことが必須条件だと強調する。両SSでは1時間ごとに清掃しているというが、商系も含めて数多くのSSをみてきたが、これほど清潔なSSは他にはないといえるほどきれいだった。

◆灯油配送で地域に密着――JAらしいSSに

 同JAでもう一つ大事にしているのが灯油配送だ。表の構成比をみると嵐山SSでは燃料油の4分の1を灯油が占めている。八和田SSは灯油のピークが過ぎてからオープンしたので構成比が低いが、3月をみれば20%強あり、通年で見れば嵐山と同様の傾向にあるといえるだろう。
 SS内の灯油計量機は、ドライブウェイ形式をとり軽トラックに積まれたポリタンクに給油できるよう、利用者の利便性を考慮した設計になっている。しかし、それ以上に重要なのは、配送だという。灯油配送は商系セルフSSにはできないことであり、地域に密着したJAらしい仕事なのだから、セルフ化しても決して止めてはいけないと吉野部長は強調する。

×  ×  ×

 両SSはハード面で非常に優れたセルフSSだが、ソフト面での努力を積み重ねることで、利用者に支持され、激戦区のなかで着実に販売量を増やしている。ハードはもちろん大切だが、それを支える利用者の立場に立った「ハート」を持つこと。それが勝ち残るための条件だといえるのではないだろうか。 (2003.7.25)


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