農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

WTO交渉カンクン後の動き 12月の一般理事会開催が焦点に


 9月にメキシコ・カンクンで開かれた第5回WTO(世界貿易機関)閣僚会議は、各国の合意が得られず決裂した。今後の交渉再開のひとつの作業としてカンクンでは12月15日までに一般理事会を開催するよう求めており、各国とも表向きは交渉再開に意欲を見せているが、「足はそれぞれの土俵から出ていない」(農水省)状況。立場にはまだ隔たりがあるなかで交渉の行方は不透明だ。一方、WTO交渉が難航しているため、わが国でもFTA(自由貿易協定)の締結を急ぐべきだとの声もあるが、日本の基本的な貿易ルールづくりの立場は、WTOが基本、FTAは補完的、というのがこれまでの方針。ただ、10月に決裂したメキシコとのFTA交渉では合意に到らず、11月初めに交渉再開をめざして再協議が行われたが、農業分野でメキシコ側はさらに過大な要求を示し、交渉は長引きそうだ。JA全中発行の「国際農業・食料レター」などから最近の動きをまとめてみた。

◆米・EUとブラジル交渉めぐり批判の応酬

農水、外務、経産3者の担当者がカンクン閣僚会議の説明会を開催
11月1日、農水、外務、経産3者の担当者がカンクン閣僚会議の説明会を開催。市民団体、生産者も参加し、意見交換した。自給率向上とWTO交渉の行方に関心が高かった。

 カンクン閣僚会議での加盟国の対立図式は、議長案のベースとなった提案を行った米・EUと、それを先進国寄りだと猛烈に批判したブラジル・インドなど途上国グループ、そして農業の多面的機能を重視し上限関税設定に反対し緩やかな改革を求める日本、スイスなど10カ国のグループ、さらに農業保護を必要としないオーストラリアやニュージーランドなどのケアンズ諸国、というものだった。
 とくに先進国に対して結束して批判を強めた途上国グループは、その発言力の強さを見せつけた。ウルグアイ・ラウンド以降、WTO体制のもと貿易でメリットを得たのは先進国だけという思いからだ。そのため決裂に終わったものの、カンクン閣僚会議は「途上国の道義が勝った」との見方もあった。
 それに対して米国のゼーリック通商代表は、閣僚会議後に米紙上で、WTOが貿易交渉の場から「抗議のための政治フォーラム」に変質したと批判、「やる気のある国々と着々と自由貿易の実現に向けて進む」とWTOよりもFTAを重視する発言をしている。
 EUのラミー通商担当委員も米紙上で、EUはこれまでに保護水準の削減を行っており、今回も合意できるところまで来ていたにも関わらず、ブラジル、インドが過度に要求をしたため決裂したと名指しで批判した。
 これに対してブラジルのアモリム外相も米紙で反論。カンクンは貿易大国の意図をくじき、途上国に発言力を高めたと評価。また、米・EUの対応は、輸出補助金の削減についてほんの少しだけ約束し、新たな青の政策導入で過剰な国内支持を正当化しようとしたと批判した。さらに今回の議長案に合意すれば、それを修正するには15年もかかるとして、自らの発言力を背景に「合意しないほうがまし」とまで主張しているという。

◆結末くずれる途上国グループG22

 カンクン以降もこのように途上国は強硬姿勢を見せているが、結束に乱れも出てきている。
 閣僚会議で先進国の国内支持の大幅削減や輸出補助金の撤廃、そして自らには特例措置を主張した途上国グループは22カ国だったことから、G22と呼ばれたが農水省によると10月中に南米の国を中心に6カ国が脱落し、インドネシアなど3カ国が加わるなど必ずしも一枚岩ではない。背景には米国の切り崩しがあるといわれ、こうした状況を「米国の求心力と遠心力のせめぎあい」(農水省国際経済課)とみる。
 さらに最近ではグループの構成国に変動がみられ「非常にあやふやになってきた。もう(決まった数字のない)Gxではないか」と渡辺農水事務次官も指摘する。
 背景はそもそも途上国といってもそれぞれに抱える事情が違うからだ。グループの中心となったインドやブラジルなどは途上国だとはいえ、ITや鉄鋼など他国にくらべて強い産業がありその利害を見据えた交渉姿勢がある。それにくらべて後発開発途上国は農業での輸出を考えるしかない。
 また、中国はWTO加盟によってすでに大幅に市場開放しており、今回の交渉でさらなる負担をさけるため新規加盟国への配慮を主張するなどの立場。それぞれに利害が絡んでいる。

◆日本の主張基本路線は変わらず

 途上国からの輸入については、わが国も特恵関税制度を適用し、昨年、その品目を大幅に増やしている。
 これは途上国にとっては先進国よりも低い関税が適用されるため有利となる。農水省によるとこうした特恵関税制度を支持するというグループとしてみると、33か国になるという。
 これらのグループは、一般の関税が高いほど、特恵関税で有利な条件になるために評価している。逆にいえば、全体の関税水準が低くなれば、そのメリットは薄まる。こうしたことから日本が主張するように関税削減が緩やかな方式を求める国もあり、今後の働きかけが重要になる。
 一方は、EUはブラジルなど途上国に譲歩を求める一方で最近になって、投資などカンクンで決裂の原因となった新分野を切り離して交渉を進める提案が出てきている。これに対して農水省は全分野の一括受諾方式(シングル・アンダーテイキング)が基本とし、農業については上限関税の設定や関税割当拡大に反対するなどこれまでの基本姿勢は変わらないとする。
 また、カンクン閣僚会議で共同提案した日本、スイスなど10か国グループの「結束は変わらない」としている。

◆交渉再開に向けWTO事務局の動き

 各国がWTO交渉が膠着状態にあることから、自由貿易協定の促進が課題とされることがしばしば指摘されるが、実は先に触れたゼーリック米通商代表の発言について、JA全中の「国際食料・農業レター10月号」では、米国の専門家は途上国に対して柔軟性を示し「WTOの土俵に戻ってこい」というメッセージであると分析していることを紹介している。ただし、その真意は米国はこれ以上の譲歩はできないとのメッセージでもあるという見方もできる。
 また、EUについても米国の専門家は、米国同様、CAP改革など域内農政の改革のために、WTO交渉を「てこ」として利用してきた面があると指摘しているという。しかも域内改革のための外圧として交渉期限を利用してきた。ところが、カンクンではそうした従来型手法が通じないことが明らかとなり、CAP改革を行っても貿易相手国から見返りが期待できそうにないという空気が出てきていると分析しているという。
 EUは11月中旬に農相会議を開催する予定。この会議でこれ以上の譲歩はできないと、上限関税の設定を盛り込んだ閣僚会議3次案を基本に今後の「立場を固められてしまう可能性がある」(渡辺事務次官)ことから日本として注視していくとしている。
 こうしたなか、カスティーヨ一般理事会議長は、10月からジュネーブで各国と非公式会合を持ち、(1)今後、さまざまな形態での交渉を行っていくこと、(2)農業、綿花、非農産品市場アクセス、投資ルールなど新分野を優先、なかでもまず農業から取りかかること、(3)加盟国と接触しそれぞれどれほど柔軟性を示せす準備があるかを測ったうえで実質的な交渉を進めるなどの方針を決め、一般理事会開催に向けて動いているという。
 ただ、閣僚宣言3次案をベースにするかどうか明確に合意されているわけでなないなか、交渉再開の姿はまだ不透明だ。 (2003.11.21)


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