農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

販売チャネルの多様化など 健闘する農業生産法人
(社)農協協会15年度大規模農家と生産法人へのアンケート調査結果から
八木宏典 
東京大学大学院農学生命科学研究科教授


 (社)農協会では、大規模農家・生産法人を対象に「大規模農家と農業生産法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」を実施しているが、その15年度の調査結果がまとまった。今年度の調査は、全国の生産法人800を対象にアンケート用紙を配布し、昨年(350)を上回る400法人(回収率80%、内訳は別掲)から回答を得ることができた。
 そこで、主要な項目を中心に八木宏典東京大学大学院教授に分析してもらった。
 各項目ごとの詳細な調査結果については、今後、順次、掲載していく予定にしている。
 なお、文中の「経営部門別」分類は、各生産法人の販売総額のなかで、もっとも販売高が大きい作目によってグループ化した。
1.農業法人の経営概況

◆販売高3億円超の法人も 5000万円未満が半数

八木先生
 今回アンケートにご協力いただいた400の農業生産法人の出資金の平均は1006万円、売上高の平均は1億970万円である。売上高規模別にみると3000万円未満38%、3000〜5000万円15%、5000万〜1億円23%、1〜3億円19%、3億円以上5%である。半数以上の農業法人の売上高は5000万円未満であるが、その一方で、売上高30億円を超える農業法人もある。
 法人の形態では、有限会社が71%、次いで農事組合法人が22%であるが、株式会社も3%ある。売上高3億円以上の大規模農業法人では、28%が株式会社の形態になっている。また、農業法人の設立年次をみると、1979年以前が12%、1980〜1989年が20%、1990〜1999年が64%、2000年以降が4%である。すでに20年以上のキャリアを有する法人が少なからずあるが、その一方で、90年以降に設立された法人が7割近くを占めている。

◆7割が家族中心 外部出資者も1割

JA梨北(山梨県)の生産資材専門店「グリーンりほく」
JA梨北(山梨県)の生産資材専門店「グリーンりほく」
 法人の役員は平均して3.3人(うち女性0.7人)、給料制従業員は2.9人(うち女性0.9人)、日給月給制従業員は3.9人(うち女性1.9人)、パート雇用は平均して203人(うち女性144人)である。役員3〜4人、従業員6〜7人、パート雇用年間200人という構成が、今回アンケートに回答いただいた農業法人の平均的な姿であるということができる。
 しかしこの中には、役員が10人を超える法人や従業員30人以上、パート雇用5000人以上の法人もある一方で、役員1人のみで雇用者のいない法人もある。
 法人への出資者の構成は、代表取締役(組合長理事)33%、家族(同居)27%、家族(非同居)4%、親戚5%、共同出資者(農業者)20%、共同出資者(非農業者)4%、取引関連業者1%、食品関連会社0.5%、JA2%、地方自治体0.5%、その他3%である。
 経営者本人と同居家族の出資が6割、非同居家族と親戚を含めた同族の出資割合が7割に達している。家族中心の法人が多いことがわかるが、しかしその一方で、1割を超える出資者が非農業者、関連業者、関係団体・機関など外部出資者である点が注目される。

2.農産物の販売額と販売チャネル

◆JAへの販売は水稲で36% 野菜類は30%弱

 農業法人の経営部門別の割合は、水稲39%、麦・大豆1%、露地野菜9%、施設野菜13%、畜産5%、その他33%である。
 経営部門別に農産物の販売額と販売先割合(金額ベース)をみると(表1)、水稲では平均販売額3662万円、販売先はJAが36%、民間・卸売業者が19%、消費者への直売が15%、量販店・外食業者等が14%、直営店舗での販売が9%となっている。
 前回(平成14年度)調査の結果と比べると、どの経営部門も平均販売額が高くなっていること、JAへの委託販売割合が麦を除く全ての部門で数ポイント低下していること、その一方で、直営店舗での販売や量販店・外食業者等への販売割合が増えていること、などの違いがある。

◆6割の生産法人が販売を伸ばすか現状維持

JA梨北(山梨県)の生産資材専門店「グリーンりほく」
JA梨北(山梨県)の生産資材専門店「グリーンりほく」
 農産物の販売額が3年前に比べて「増えた」か「減った」かという質問に対する回答を、経営部門別に整理したものが図1である。全体では「増えた」と答えた法人の割合が合わせて38%、「変わらない」が25%、「減った」が合わせて37%で、増えたと答えた法人と減ったと答えた法人の割合がほぼ拮抗している。
 平成14年度食料・農業・農村白書によれば、農産物価格の対前年騰落率は平成12〜14年の間で年平均マイナス3%であった。デフレ経済や安い農産物輸入などの影響により、農産物価格が毎年3%程度の割合で低下する中で、販売額を伸ばしたり現状維持のままという農業法人が6割以上もいることは注目される。
 水稲部門についてみると、「増えた」と答えた法人の割合は合わせて39%、「変わらない」と答えた法人の割合は18%、「減った」は合わせて43%である。米価がこの3年間に年平均3.3%の割合で低下し続けるという厳しい環境条件の中で、販売額が減ったと答えた法人の割合は確かに平均よりも多いが、その一方で4割近くの法人が水稲の販売額を伸ばしているのである。これは先述した販売チャネルの多様化とも無関係ではない。

3.農業生産資材の購入額とJAからの購入

◆肥料6割、農薬5割、農機その他は5割以下

 農業法人の農業生産資材の平均購入額は、肥料、農薬、農業機械、その他の生産資材などを合わせると年間2000万円を超えている(図2)
 その購入先は、肥料ではJAが6割を占めるが、農薬では5割、農業機械やその他の農業用資材では半分を切っている(図3)
 JAから農業生産資材を購入する理由は、JAの組合員だから(68%)、農産物の集荷・販売を委託しているから(30%)、予約注文書が回ってくるから(28%)など、どちらかというと消極的な理由が多い。

◆肥料の大型車直送 30%が受け入れ意向

 一方、JAから購入しない理由としては、価格が高い(68%)、大口利用のメリット還元がない(49%)、新技術・新資材・マーケティング等役立つ情報が来ない(35%)、などの意見が挙げられている。
 なお、肥料の10トン車満車直行を取引条件にした場合、それを受け入れる可能性があるかないかを聞いたところ、30%の法人が単一銘柄で受け入れ可能、23%の法人が4トン車満車ならば受け入れ可能と答えている。
 今回アンケートに回答いただいた農業法人の購入する生産資材だけでも、全てを含めれば100億円を超える市場規模になる。JAの新たな効率的流通システムの開拓を含めた、市場シェア拡大のための努力が期待される。

4.米政策改革大綱とWTO農業交渉についての意見

◆「一定規模以上に経営安定対策」賛成が51%

 昨年12月に決定された「米政策改革大綱」についての意見では、どの質問項目にも「当法人は関係がない」という回答が3割を占めている(表2)。米を全く扱っていない農業法人の回答であると思われるので、この回答を除いて割合を計算した。
 まず、「地域において自らが助成金の使い方や単価を設定できるよう、助成制度を見直す」という点については、賛成38%、反対12%、再考の余地あり13%で、賛成の割合が反対・再考の合計割合を上回っている。
 また、「一定規模以上の水田経営を対象に担い手経営安定対策を行う」という点についても、賛成51%、反対9%、再考の余地あり9%で、賛成の割合が高い。

◆「数量調整方式」は反対・再考が多数

 一方、米の生産数量を目標配分する「数量調整方式」への移行については、賛成19%、反対24%、再考の余地あり16%、また、「過剰米処理の方法として、翌年の目標生産量を減らすとともに、短期融資制度を活用する」という点については、賛成15%、反対29%、再考の余地あり12%で、いずれも反対・再考の合計割合が賛成を大きく上回っている。一定規模以上の経営を対象にした地域の自主的な助成金の配分には賛成であるが、生産調整枠の押しつけには反対であるというようにもとれる。

◆しばらくは「模様ながめ」の姿勢が主流

 しかし、「農業者・農業者団体が需要に応じた生産を主体的に決める」という点や、「計画流通米や計画外流通米の枠をはずし、多様な取引に応じた価格形成を図る」という点については、賛成の割合と反対・再考の合計割合が拮抗している。しかも「どちらとも言えない」として意見を保留する法人の割合が、どの質問項目においても4割前後を占めている。まだ、全体として米政策改革大綱の主旨が理解されていないのか、もしくは、しばらくは模様ながめといった傾向がみてとれるのである。

◆WTOモダリティ一次案 「とても受け入れられない」

 WTO農業交渉については、まず本年2月に提示されたモダリティ(交渉の大枠)第1次案についての意見では(図4)、とても受け入れられない(55%)、引き下げ率を緩めるべき(14%)、として反対する意見が多数を占めている。しかしその一方で、妥当な数字である(7%)、もう少し引き下げてもよい(1%)という意見も少数ながらある。

◆政府に望む 「強い姿勢で交渉を」

 次に、政府の農業交渉の姿勢については(図5)、もっと強い態度で交渉に臨むべき(71%)、アメリカやケアンズ諸国の主張を受け入れるべきでない(40%)、わが国の主張に同調する国の数をもう少し増やすべき(25%)、といったきわめて強い意見が大多数を占めている。しかし、その一方で、日本の農業者が世界の中で孤立しないよう節度ある態度で臨むべき(20%)、国際的なルール作りであるから他の諸国との協調が大切である(14%)、という意見もある。
 また、将来は海外への展開を考えているのでその点を含めた交渉をしてもらいたい(3%)という意見も少数ではあるが出されている。 (2003.7.30)

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