農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

寄 稿
「食べるために作り続ける農業」を実現する主体形成(下)

大嶋茂男 永続経済研究所 共同代表、農学博士


大嶋茂男氏
おおしま・しげお 昭和12年茨城県生まれ。慶応大学経済学部卒。昭和35年慶応大学生協専務理事、44年日本生協連に移籍、組織部長、関西支所長、関西地連事務局長を歴任、61年全国消費者団体連絡会事務局長、平成10年永続経済研究所共同代表。農学博士。
 この政策を実現するには、それを推進する地方自治体((上)で述べた)、NPO、農協、農民組合などの主体形成が必要不可欠です。
 有名な作家の言葉で「強くなければ生きてゆけない、優しくないと生きていく資格がない」というのがあるが、グローバル競争が激化している現状では、「経営的に自立する力がなければ生き残れない、持続可能な農業を育てるという社会的役割を果さなければ生きてゆく資格がない」と言えるわけで、それを可能にする主体形成が必要不可欠なのです。

1.基本的な三つの主体

 私は、そうした主体形成の一般論として新しい経済システムをつくるには、以下三つの主体を形成するすることが必要だと常々述べてきました。
 (1)生活・運動主体
 (2)経営・経済主体
 (3)政策・政治主体
 つまり、以上のような政策・制度を政府や地方自治体をして実現させるためには、「それを実現するのは政治家の責任だ」と要求するだけではなく、その実現を求める生活・運動主体と経営・経済主体の存在がどうしても必要になります。それは以下のような主体です。

2.消費者・農業者:生活・運動主体として

 生きるために作り続けてくれた地域農業を守るためには、地域で生産され自然を感じることのできる生きた食物を食べて守ることがなによりも重要になります。
 安いからと輸入農産物を食べ、食生活の歪みを拡大して、健康を害し、不安があるからといって、サプリメント(健康食品)、健康機器、健康法、医薬品、保険などに多額の出費をするというのでは、自らが、健康・家計・日本の農業を破壊していることになります。こうした食生活を改めて、健康を守る基本である地産地消を推進しなければなりません。食料問題の出発点はここにあります。農民も当然生活・運動主体となります。
 それを実現するためには、同じ想いを持つ人々が結集してアソシエーション(協同体)を組織し、地産地消を促進すること、その連合した場をつくることが必要となります。
 既存の生協なども、その中心的な役割を果たすことが重要です。

3.農業者と単位農協や法人:経営・経済主体として

 土づくりを重視した地域循環型農業、地産地消、旬産旬消を、地域の消費者と共に確立すべきです。それが単位農協や法人の基本的な任務となります。
 それを可能にするためには、米を中心として集落営農や多様な営農集団、および作物別部会を強化し、その一つひとつの基礎的な生産組織に責任感のあるマネジャーを配置し、専業農家、兼業農家、高齢者、女性、新規就労者などを結集し、その力で多様な形態の多品種生産を可能にするとともに、(1)地域内流通、(2)都市との産消提携、(3)市場流通、(4)加工品への原料供給の四つに対応するマーケティングの主体となることが必要です。
 それを総合的に推進するのはトップマネジメントの責任です。トップマネジメントは、(1)地方自治体の計画と連携した基本計画の策定、(2)人材の配置、(3)提携・連合戦略を含めた総合力の発揮、(4)賃金水準を下げる競争でなく、能力を高めて収益力をあげる人事政策、(5)部門別の収支計画と財務政策への責任、を担わなければなりません。
 それとは別の視点で、農民は、日本農業の持続可能な発展と農民の基本的な人権を守るために、国や地方自治体に政策制度を要求し、農協を農民の自主的な組織として発展を目指して、強力な農民組合をつくることも重要となります。同じような視点で農協労働者が労働組合を強めることも必要です

4.経済連や全農などの連合会

 政府の別働隊的な役割も担わされて組織された農協が大きな転換期を迎えています。以上の機能を発揮する主体に対する補完機能を発揮すること、その実力をもつコーディネーターを配置することが求められています。また、先端技術の紹介、進んだ事例の紹介などの情報機能、計画づくりから実践の組織化に至るコンサルタント機能を発揮することが重要になります。
 2003年10月に開催されたJA大会で定めた方向は、(1)信用・共済では株式会社並の自立した経営を目指すこと、(2)農業生産では、共通経費を除いて部門別独立採算制度とすること、農協連合会はその補完機能に徹する、(3)生活事業などは、共通経費を含めて独立採算制度とすること、(4)以上の方向で、株式会社化とか統合を大胆に進めることとなっています。
 この論議のなかで、欠けているのは、以下の点です。
 第1に、以上に述べたアジアと日本の食料と農業に関するマスタープラン・基本計画を持つという発想がないことです。ただ、グローバルの競争に耐え得るマーケティング力の強化をするというような、当面の目標だけを掲げただけでは、地域での基本計画や農協単位の基本計画をつくることができません。当然のことながら戦略的な人事配置や組織づくりもできませんし、抜本的な組織改革はできません。とりわけ、この戦略を遂行するトップマネジメントを構成することができないでしょう。

◆JAグループ人材の発掘・育成が急務

 第2に、農業改革の主体は、営農面では地域営農集団と作物別部会であること、運動面では課題別部会があること、それを補完するのが農協であるということについて「腹の底から」覚悟決めていないことです。
 たしかに、大会議案の中では、農産物のマーケティングにおいては、主体は単位農協であり、それを支援・補完するのがJA全農だという規定はしており、農業生産の主体は地域営農集団と作物部会であり、それが農協を構成する主体であり、それを支援・補完するのがJA全農・経済連という考え方を前面に出しています。この方向は正しいと思いますが、過去40年以上にわたって、農産物の生産は単位農協だが、販売は全農・経済連に委託するということが続いてきて、単位農協には販売の人材が育っていないという問題点を抱えています。この弱点を克服するための体系的な練り上げがあるとは思えません。

◆ネットワークの視点も持つ

 その証拠は、地域営農集団や作物別部会のマネジャーになる人の育成計画や日本農業の持続可能な発展の道筋を示す基本計画と現場の具体的な活動を結びつけることのできるコーディネーターを本格的に育成しようという教育計画を具体化していないことからも明白です。社会の改革は、経済組織の改革を通じて、自立できる経済主体をいかに多く生み出すかから始まらなければなりません。そのためには、生産集団の中でのマネジャーと連合会などにあって基本計画と主体の力量をコーディネートする人材の発掘・育成とそのネットワークづくりが急務となります。
 また、計画にそって、着実に事業が進展しているか、部門別にみて、計画以上の赤字を絶対にださないという基本が守られているかを監査する機能も重要になります。こうした人材の育成と配置に取り組んでいない以上、覚悟を持った取組みとは言えないのです。
 農民組合は、こうした弱点を的確に指摘し是正させる役割を果すべきです。

5.流通業者

 地産地消の流通システム構築に責任をもつべきです。
 有機農業・特別栽培農産物、監査公開農産物など土づくりをしている農業と健康なからだをもつ家畜飼育の擁護なくしては日本農業の未来がないことを明確にして、流通関係者としても、地産地消のために販売先を開拓し組織するうえで積極的な役割を果たすことが必要でしょう。
 生協などもその先頭を走る計画を持つことが重要です。

6.情 報

 以上を促進するインターネット・メディアなどを整備することの緊急性が高まっています。その情報提供のために、ポータルサイト「seimeichiiki.co.jp」(生命地域)を2月中旬より本格アップします。
  以上の努力をそれぞれの主体が行うことで、日本の農業・食料を守り貫きましょう。
 (以上に関する詳しい論考を『持続可能な社会経済への革新』(生活ジャーナル社、2000円、A5版300ペーシ)2004年4月に刊行、ご活用下さい。 (2004.2.24)

 


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