農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

寄稿「地域水田農業ビジョン」の課題

運動のオルガナイザーとしてJAの役割に期待する
梶井 功 東京農工大学名誉教授待

梶井 功先生
かじい・いそし 大正15年新潟県生まれ。昭和25年東京大学農学部卒業。39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。14年東京農工大名誉教授。著書に『梶井功著作集』(筑波書房)など。
 センサス集落調査が、集団転作を実施している集落数をつかまえている。その調査によると1990年は2万6000集落で実施していたが、2000年には1万6000集落に減っている。38.4%はやめてしまったわけである(正確には、この間に新しく始めた集落もあるだろうから、やめてしまった割合というのはこれよりは高くなるはず)。地域的にいうと山間農業地域のその割合が一番高くて53.9%、一番低いのは平地農業地域の31.9%だが、この数字は誰しもさもあらんと思うだろう。
 興味深いのは、その集団転作にどういうきっかけで取り組んだのか、そのきっかけ別のやめた割合はどうなっているかだが、“農協からの働きかけ”で始めた集団転作のこの10年でやめた割合は12.8%になっている。
 “市町村からの働きかけ”の集落では43.4%が、“集落の自主的な取り組み”で始めたという集落は49.8%がやめている。

◆JA主導の集団転作  納得づくで強味発揮

 “農協の働きかけ”で始めた集落は、やめた割合がダントツに低い。これは注目に値しよう。平地農業地域では全体では31.9%がやめたのに、“農協からの働きかけ”で集団転作に取り組んでいる集落は、0.7%だが増えている。“市町村からの働きかけ”或いは“集落の自主的取り組み”でやった集落は、平地農業地域でもそれぞれ36.8%、41.2%がやめているのに、である。
 いつか、この数字をあげながら富山のJA福光の斉田常務に“農協主導でやったのと、行政主導でやったのとのこの違いはどうして出てくるのか”と聞いたことがある。JA福光はJAあげて集落営農に取り組んでいるところである。
 “問題は、ある程度金でやっちゃうからじゃないですか。…うちは(補助金を切られて)それで壊れるようなあれではありませんけれども、恐らくそういうことが影響しておるんじゃないかと思うんですね。”
というのが斉田さんの答えだった(全農林刊「農村と都市を結ぶ」誌、03年3月号所収、座談会「集落営農―展開の可能性」での発言)。
 集落での話し合いを積み重ね、“むら”の営農を守るにはこれしかない、と納得したうえでつくった組織は強いということである。センサスのこの数字に、そうした営農指導をしているJAは自信をもっていい。

◆多様な担い手の育成を

 トップセミナーで、“むら”のデータを自分たちで見て、みんなで問題の所在を確認、集落営農の必要性を理解することから事は始まると強調する森本さんの話、またJA岩手中央の実践報告のJA全職員が手分けして各集落に張りつき、“むら”の話し合いを組織し、問題の整理方向づけをしているというその内容は、共通している。JA山口美祢組合長の山本さんの表現に従うなら“現在も将来も米作りの太宗は安定兼業農家や、定年帰農者などの小規模農家である現実を直視して、水田農業の将来を考えるべきである”という想いが、“現実”に即した営農発展方策として集落営農づくりに取り組ませているのである。
 ということからいって、全中の運動方針が、“地域水田農業ビジョン実現の最大のポイントは、農家自身が地域の水田農業の抱える問題を自らの課題と受けとめ、集落を基本として地権者・担い手が徹底して話し合い、合意形成をはかり、ビジョンを課題解決型の地域運動として実践できるか否かにある。”
 としているのは正解である。その運動のオルガナイザーとしてJA営農指導がある。“水田農業の構造再編”が結果としてどういうかたちをとるかは、条件に合わせた地域の取り組みの結果としてきまる。まさに“多様な担い手”の育成が求められている。この取り組み如何に日本農業の将来が、従ってまたJAの命運がかかっている。頑張ってほしい。

(2004.5.11)


社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。