農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

家畜排せつ物法完全実施まで残された時間はわずか
手作り浄化槽など小規模農家対策を強化

JA全農・畜産総合対策部畜産環境対策室

 いよいよ今年11月1日から、一定規模以上の畜産農場の家畜ふん尿処理について、野積み・素掘りを禁止する「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(家畜排せつ物法)が完全実施される。残された時間は、4月〜10月のわずか7ヶ月しかない。
 そこで、現在の状況をJA全農畜産総合対策部畜産環境対策室に聞くとともに、栃木県佐野市で開催された小頭数飼養規模農家用の環境対策施設資材の技術研修会を取材した。

◆系統畜産全農家対象に個別点検を実施

 「家畜排せつ物法」は平成11年11月1日に農業環境3法の1つとして施行されたが、施設整備を伴うことから5年間の猶予期間が設けられ、今年11月1日から完全実施されることになっている。同法は、牛10頭以上、豚100頭以上、鶏2000羽以上、馬10頭以上の飼養規模をもつすべての畜産農家(農場)に適用される。国の調査(15年6月時点)によると、全国の畜産農家14万6000戸のうち6万6000戸が同法の対象となるが、11月1日の完全実施までに施設整備が必要な農家は2万4000戸、そのうち簡易な方法で対応することを計画しているのが推定約1万戸、恒久的な施設整備で対応を計画している農家が1万4000戸ある。
 このまま推移すると「法律の本格施行後は、農家の経営継続や地域の畜産振興が困難となり、飼料供給や肉畜集荷など地域の畜産関連事業全般の縮小につながる」ことが懸念されるため、「これら未整備の畜産農家に対して、施設等の整備を推進し、地域の畜産生産基盤の整備をはかっていくことが課題である」ことから、JA全中とJA全農は、15年2月にJAグループが一体となった「ふん尿処理に関する緊急全国畜産農家個別点検・整備運動」(15年2月〜16年10月末まで)に取り組むことを決めた。
 そして4月から系統畜産農家(全国配合飼料供給安定基金加入農家)を対象に「家畜排せつ物法の基準を満たす施設整備」について全戸個別点検を行った。

◆5割強の農家が施設整備必要−−縮小・廃業考えるも1割

図1家畜排せつ物法に対する意識
 この調査によると、法の規制対象となる農家の法への意識は図1の通り(有効回答数1万3720戸)だが、法のことが「分からない」との回答はわずか3%程度で、ほとんどの畜産農家が法を認識しているといえる。そして約4割の農家が「心配していない」と回答。とくに養鶏農家の約6割が「心配していない」と回答しており、他の畜種よりも整備が進んでいることをうかがわせる。
 その一方で、「やや不安がある」と「不安がある」を合わせた約6割の農家が不安を感じている。畜種別にみると養豚農家が62.5%、養牛農家が57.8%、養鶏農家が41.1%となっており、養豚農家の不安が大きい。
 表1は、施設整備の緊急度に応じて畜種別に5段階に分類したものだが、本格的な施設整備が必要な緊急度の高い「A」「B」の農家合計が4653戸と約35%。施設整備はされているが法をクリアするためには「若干の施設改善が必要」な「C」を合わせると7334戸と、5割強の農家が、残された時間内で何らかの施設整備に着手する必要があることが分かった。
表1 施設整備の緊急度表1 施設整備の緊急度
注1)緊急度は
 A:ふん尿処理設備が何もなく、どのようにしたら良いか分からない
 B:現状の施設では法をクリアできず施設整備が必要である
 C:施設整備はほぼ終了しているが、法をクリアするためには若干の施設改善が必要である
 D:施設整備をほぼ終了しており、後は簡易対応で法をクリアできる
 E:施設整備を完了している
注2)比率は、「未記入」を除く農家を100とした割合
注3)「養牛」は肉牛繁殖・酪農、「養豚・馬」は養豚一貫・養豚繁殖(子取り)・肥育・繁殖を含む、
   「養鶏」は採卵鶏・ブロイラー・育すう

◆詳細なデータと連動する「ハンドブック」を作成

 「後にも先にも、こういう調査はもうできない」と不明点などを徹底的に洗い直して完璧を期した県もあって、「農家個別点検シート」の回収は当初予定よりも遅れて8月となった。その直後からこれを受け、JA全農畜産環境対策室はシートの整理・集計を行い、各都府県ごとに畜種別・JA別に詳細に分析したデータを当該県別に配布した。
 このなかでは、「同一JA・同一支所内の3戸以上の農家で、緊急度A、BおよびCの農家群」がある地域には「共同処理施設設置地域」の提案もされるなど、即、推進につながる具体的な内容となっている。
 さらに同対策室は、数多くある畜産環境対策用の施設・資材のなかから「低コストで効率的かつ信頼性の高いもの」を選定し、「JA全農推奨型」としてそれぞれの設計条件、標準寸法、建設費・施設資材費、ランニングコストなどをまとめた「JA全農推奨型畜産環境対策施設整備標準マニュアル 施設・資材ハンドブック」を作成し全国7会場での説明会を実施した。
 先に紹介した各県への農家個別点検集約解析資料とこの「ハンドブック」に掲載されている施設・資材による案は、調査結果と連動して使える内容となっている。
 系統畜産農家、とくに養豚・養牛農家は中小規模経営が多く、施設の導入は経営に大きな影響を与えることが予測されるため、「ハンドブック」では、小規模尿汚水処理施設「KAIBUN21」、バック式簡易堆肥器「タヒロンマゼッターシステム」や低コスト堆肥化施設「簡易キット堆肥舎」なども小規模農家での個別処理施設として掲げている。

◆小規模農家には「手作り」用パーツも

 しかし、費用の面からこうしたメーカー製の浄化槽や堆肥舎を導入することが難しい畜産農家のためには「あなたにも出来る手作り施設」(小頭数経営規模向け=母豚一貫規模10〜30頭・搾乳牛15〜45頭)として「自分で作る浄化槽」パーツや「手作り簡易ストックヤード」パーツ(シート)を用意した。
 「手作り浄化槽」は、希釈回分式活性汚泥法(浄化槽=ばっ気槽への希釈尿汚水の投入、ばっ気、沈澱、上澄み水の放流の繰り返しによる浄化方法)の設計にもとづいて、浄化槽の施工に必要なパーツ類を提案し、農家が用意するのは、パイプやコード、セメントなど近くで購入できるものだけと考えている。また、既存設備や機器での代用や再利用も可能だし、自分で安く購入できるものがあれば、必要なパーツだけを選択して購入することもできる。
 すべてが整うメーカー製ではないので、自分の責任でパーツの発注・組み立て・運転・メンテナンス・水質チェックを行わなければならない。このため技術面での指導助言については、「地域のJAグループや行政にいる畜産環境アドバイザーの助言や指導をうけることを提案している。
 また、糞の処理についてもできあがった堆肥を貯蔵したり、生ふんを堆肥化発酵する場所(ヤード)を作る「手作り簡易ストックヤード」は、性能と耐久性そして価格に応じて、低価格タイプ、標準タイプ、高品質タイプの3種類が用意されている。

◆正念場向かえ研修にも熱が入る

新楽さんの手作り浄化槽(上)とその前で熱心に説明を聞く参加者
新楽さんの手作り浄化槽(上)とその前で熱心に説明を聞く参加者
 前にもみたように、小規模農家の環境対策施設整備の取り組みと、「あなたにもできる手作り浄化槽」の実施例を中心とした「今からでも間に合う小頭数飼養規模農家用“畜産環境対策施設資材”技術研修会」を、栃木県佐野市で3月9日(北海道、東北、北関東地域)、3月10日(上記以外の地域)に分けて、各経済連・県本部、JAの畜産環境対策担当者などを対象に開催した。
 10日の研修会には約30名が参加し、「手作り簡易ストックヤード」と「手作り浄化槽」について詳しく学んだ後、佐野市の新楽隆四郎さん(酪農)を訪ね、新楽さんが実際に自作した浄化槽を見ながらの研修となった。設計段階から実際の稼動状況まで、熱心な質問や意見交換がおこなわれた。また、JA全農推奨型畜産環境対策施設資材のうち小頭数規模向け施設資材を製作・販売するメーカー10社も、機器や資材を展示した。ここでもその説明を真剣に聞き入る人が多かった。
 現在、宮崎県でシートを使った「手作り浄化槽」が建設中だが、これが完成すれば「宮崎でも同様の研修会を開く予定」だと、岡本俊弘畜産環境対策室長。さらに「東北や北海道など寒冷地用のものもつくりたい」と考えている。
 環境対策は小規模畜産農家にとっては資金面、経営面で厳しい面があるが、これからの畜産事業は環境問題を抜きにして語ることはできない。家畜排せつ物法の完全実施まで「残された時間は後わずか」、畜産環境対策室はもちろんだが、各県経済連・県本部とJAの担当者が一体となった推進は、いよいよ最後の正念場を向かえることになる。 (2004.3.19)

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