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論壇
「核開発」の問題 


 北東アジアの国際政治空間は、9月の小泉純一郎首相の訪朝によって、少なからぬ衝撃を受けた。といって、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)をはさんで、日・韓・米と中・露の両グループが複雑に絡み合う関係そのものに変化が生じるわけではない。
 だが、震源地は北朝鮮であり、その動機の主たるものも、対日国交正常化を通じてジャパンマネーを導入し、同時に、その関係を通じて米国との交渉の円滑化を図ろうというものだけに、時日を経るうちに北東アジア諸国の相互関係にも多大の影響を及ぼすこととなろう。

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 平壌(ピョンヤン)訪問者の多くが伝える「停電」のひん発は、北朝鮮の経済的苦境の深刻さを象徴するものである。
 第2次大戦まで、半島の北は工業、南は農業地域と称せられた。だが、1960年代、当時の韓国の朴政権は、対日基本条約の締結を足がかりに外資の導入によって、韓国経済を高度成長の路線に乗せた。
 次いで、中国経済が改革・開放の掛け声で、80年代に、日韓両国なみの高度成長を実現し、人民公社時代の長期低迷にサヨナラを告げた。
 ところが、北朝鮮は、周辺のこれら諸国とは反対で、80年代までは、建国の英雄(金日成)の威光でなんとか政権を維持できたが、ソ連邦の崩壊で、90年代に入ると下降カーブ。
 世界銀行の各種の統計にも、「北朝鮮」という形では掲載されなくなった。
 同じ社会主義を標榜しながら、ソ連も、躍進を続ける中国も、ほとんど振り向いてくれない。中国にすれば、「西部大開発を抱えるわれわれは、北朝鮮どころではない」というわけだろう。
 むろん、大国中国だけに、ある程度のことはしているが、理論面でも、「主体」(チュチェ)思想を掲げ、ひと味異なる路線でやってきた北朝鮮には、中国としても、もうひとつ近づき難い面があったとの指摘もある。
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 結局、経済再建には、日本・韓国・米国グループに依存するほかない。だが、韓国の場合は、ドイツにおける西独と違って、力量に乏しい。米国とは、「核」、「ミサイル」問題があって接触自体容易ではない。
 残るは、日本との国交正常化のほかに考えられないと、「拉致」をも思い切って表に出して、対日接近を図り、一応、橋頭堡の確保はできた。問題は、マレーシアでの国交正常化交渉を、対米関係を含めていかに手際よくこなすかであろう。
 小泉訪朝以後のわが国メディアの報道ぶりをみると、「死者8人」という調査結果への反動で、やや「情緒過剰」に陥っているが、世論調査では、国民大衆は小泉首相に予想以上のポイントを与えている。
 大衆受けのする行動を、テレビ画面は増幅しがちな弊もあるが、情報はわずかでも、大衆は北朝鮮の行動の背景にある状況をきちんと見ている。それゆえ、NHKの世論調査でも対北朝鮮の経済協力に、反対も4割余あったが、賛成もほぼ同数に上った。
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 映像報道がもてはやされ、地味な記事が片隅に追いやられがちなことも、わが国メディアの重大な欠陥。FAO(国連食糧農業機関)日本事務所(横浜市)が、北朝鮮の食料事情調査結果を8月7日付で発表し、今年11月末までの不足量は、「38万2000トン」と出しているのに、そして、「食料不足の影響は、特に子供、妊婦、授乳中の女性、高齢者」とこまかく記述しているのに、どのメディアも記事にしていないも同然。
 「拉致」の真相究明は当然だが、日本人らしい、キメのこまかい報道を期待したい。



農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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