農業協同組合新聞 JACOM
   

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論壇
地域から農政を問い直すとき−水田集落の現状から


 石川県のある集落での話である。懸案となっていた水田の基盤整備事業を始めることになった。大半は3〜4アールの小規模水田を1ヘクタールとか30アールの区画とし、交換分合により分散錯圃制を改革すること、が目標であった。
 現在政府は規模拡大により効率的で生産性の高い水田農業の確立を目指しているので、こうした基盤整備事業は全国で行われており、とくに目新しいことではない。
 それにもかかわらず、この集落では事業実施に大きな困難が立ちふさがった。それは事業費の負担問題である。生産者は事業費の10%負担とされていたが、それでも10アール当たり18万円程度になるという。それを10年間で返済する計画なので、1年当たりでは約1万8000円となる。
 
◆負担金に頭を痛める農家

 そこで2つの問題があった。1つはこの集落の年間小作料は10アール当たり米1俵であるが、現在の米価は1万6000円程度なので、地主にとって基盤整備事業は持ち出しになることである。当然地主から反対意見が出された。
 いま1つは集落全体としても将来の稲作に希望がもてないため、経費をかけた基盤整備には疑問や反対が多く出されたことである。米価がもっと低下するのであれば稲作を止めたい、という農家も多数存在するという。
 その典型が担い手問題であった。この集落は戸数120戸程度であるが、水田は52ヘクタールにすぎない。そこで1人10ヘクタールを目標に5人の担い手を目指したが、とりあえずでも候補者は4人しか見当たらなかった。それも当然だ、というのがみんなの意見で、水田価格は10アール当たり80〜100万円に低下しているが、買い手がないという。
 その他様々あったが、それでも結局は“政府の方針なので”ということでこの基盤整備事業は実施されることになった。推進責任者であった区長さんは“夜も眠れない日が続き体重もかなり減った”と苦笑していた。農家は農家で基盤整備しても稲作の将来に展望がもてず、これからの負担金支払に頭を痛めている。
 
◆身近な農協がなくなる現実も

 基盤整備事業とともにいま1つは農協の再合併問題である。この地区の農協が最初に合併したのは20年以上前であるが、その時は旧農協は支所として残り、建物や事業も大きな変化はなかった。そのため旧農協管内の農家は、あまり合併したという意識なしにその後も農協を利用していたという。これは合併論者からすれば“合併効果があがっていない”ということであるが、農家からすれば身近に農協があるので従来通り利用していたのである。
 しかし今度の再合併ではこの支所を閉鎖し、本所に集中する計画になっている。もしそうなれば、これまで農協を利用していたうちのかなりの農家が利用しなくなるという。それは、これまでは不満もあるが“農協を自分たちの組織”と思っていた農家が農協から離れていくことを意味する。元理事の人は“農協はこれで良いのか疑問である”と述べていた。会議で意見をいってもあまり取り上げてくれない、と嘆いていた。
 現在国政レベルでは、米政策の転換や農協のあり方が検討され、対策も提示されている。しかし、そこで示されている対策と、いま述べた地域の実態にはかなりのズレが見られる。しかもこの集落は決して特異な例ではないので、現在あるズレは、国の対策内容が現場に十分伝わっていないからではなく、最近の農政が地域の実態から遊離しているところに原因があるように思われる。
 戦後農政が大きく転換されつつあるときだけに、地域レベルからそのあり方を根本的に問い直す必要があるのではなかろうか。 (2003.5.20)



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