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論壇
鳥肌立つブッシュ・ドクトリン


 ブッシュ米大統領が、呼び捨てで、「サダム・フセインと彼の息子たちは、48時間以内にイラクを去らねばならない」と、単刀直入に突きつけた、その期限、日本時間の「03・3・20、午前10時」という時刻には、何かが起こるという当然の気持ちと同時に、奇妙なことに、TVを前にしていながら、それにその時ばかりは恐さを感じ、そこから逃げていたいという複雑というか、屈折した気持ちに襲われた。
 なにしろ、「UN」のクルマは駆け回るが、査察は一向に進まず、「大量破壊兵器」はどうなっているのか。イライラが、私の中で日々、週を追って高じてくる。安保理(安全保障理事会)の中では、米英VS仏独の対立が険悪さを増し、仏は「拒否権」さえ口にし始め、中小6カ国もしたたかな対応で、大国の口車に乗らず、彼らだけで結束。

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 それでも、ブッシュやパウエル(米国務長官)らは、さほど動こうともしないまま、ブッシュは「もう結構。安保理、国連など、どうでもいい」と、ポルトガル領アゾレス諸島に、米・英・スペインで集まって決起。ついに、「武力行使」という、とんでもない引き金を引いてしまった。
 これでまた、数多(あまた)の若い兵士、親、兄弟、子供たちの血が流れる。イラク人だけでなく、米英両国の軍隊の中でも、流さなくてすむ血が流れる。人間世界の業の深さとしか言いようがない。安保理を傷だらけにし、大西洋同盟にひびを入れても構わず、とにかくフセインの首をとろうというのだから―――。
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 それにしても、ブッシュはどうしてイラク攻撃に突っ走るのか。01年の「9・11」が、元来、外交を不得意としてきたブッシュであっても、一気にそれに取り組まざるを得なくしてしまい、そこで、「テロ」対策をどう仕組むかが、内外を通じるブッシュ政権の最大のテーマとなった。
 大統領選出馬のころまでは、「米国も今日ではもはや経済ひとつとっても、独りではやっていけない」と言っていたが、01年に大統領に就任すると、地球温暖化対策ではほかの先進国とも離れて、わが道を往く単独行動主義で歩き始め、「9・11」以後は、それがますます激しくなって、02年初めには、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸国家」と、一方的に決めつけ、最終的には、そういう米国一流の、世界最強国家の仕切り方を、「ブッシュ・ドクトリン」として集約した。
 正式名称は、「米国の国家安全保障戦略」と言い、当時の新聞(02/9/21付、朝日新聞)は、これを、「圧倒的軍事力を堅持/先制単独攻撃辞さぬ」という見出しで紹介しているが、核心的な部分は、(1)大量破壊兵器の入手・使用を試みるテロ組織を撲滅する、(2)必要とあれば、単独行動をためらわず、先制するかたちで自衛権を行使する、という点にある。
 こんどの対イラク攻撃など、「ドクトリン」の理論適用の典型である。最終段階で、シラク大統領が、「30日」の査察延長案を示したとき、ブッシュはすでにアゾレス諸島へ行く機上にあった。
 「ドクトリン」からすれば、昨年秋以降の国連決議などという回り道が必要なかったわけで、ブッシュとしては、「9・11」以来の彼の本道に戻っただけである。
 鳥肌が立つほどの恐さと表現せざるを得ないのは、「単独の武力行使が必要」と判断するのは、どこまでも、「米大統領」だということである。「ブッシュ・ドクトリン」に理論的な基盤を提供しているのが、略称「ネオコン」(新保守主義、ネオコンサーバティブ)と呼ばれるウォルフォウィッツ(国防副長官)ら一群の論客で、その考え方は湾岸戦争の終了時から唱えられているという。なぜもっと早く、その輪郭が伝えられなかったか。内外ジャーナリズム、特に国際政治分野の責任は重大といわねばならない。  (2003.4.3)



農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
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