農業協同組合新聞 JACOM
   

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論壇
現金の増加が意味するもの


 家計部門の金融資産、いわゆる個人貯蓄の残高が減少している。
ひところ家計部門の金融資産残高は1400兆円を超えていた。それが、3年6月末では1385兆円と、前年比1.6%減少している。これは景気低迷の長期化と、それによる所得の伸びが停滞していることを反映したものであろう。
 そのなかにあって現金・預金は1.1%増加し、なかでも流動性貯金つまり普通貯金は7.1%、現金は3.3%と、高い伸びを続けている。なぜ現金や普通貯金が増えるのであろうか。
その背景や理由には、大きく2つの見方がある。
 ひとつは、低金利末期における待機性資金の積み上がり、という経験則による説明である。低金利期の末期には、将来の金利上昇に対する期待が高まる。そう考える人は、急いで定期貯金を組むことはせず、当面は普通貯金に資金を置き、金利が上がった後で定期貯金を取り組もうとする。その結果として、普通貯金の残高が増加する。
 これは一種の循環論である。従って、金利が上昇の兆しを何時見せるかが資金の動きを見極めるうえで重要になる。ただし、金利が上昇したときに、定期貯金に資金が移動するかどうかは別問題である。なぜなら、少しでも金利が高い商品に資金が移動する可能性もあるからである。
 もうひとつは、普通貯金の増加は金融機関に対する信頼性が揺らいだ結果である、という見方である。これは若干説明を要しよう。
 定期性貯金のペイオフは実施できることとなったが、普通貯金は依然として保護されている。個人の利用者はこのことを充分に理解しているため、保護されている普通貯金の利用が増えている、という見方である。この見方によれば、ペイオフ開始の内容次第で資金の動きが決まるとみることになる。
 では、現金が増加していることについての説明はどうなるのであろうか。循環論の立場からすれば、金利が上昇するまで資金を待機させる姿勢の究極の姿が現金で持つことである、と理解することになる。また、信頼性の揺らぎという立場からすれば、金融機関を全く信頼しない人は現金で保有するしかない、という理解になる。
 ところで、このような利用者の動きの背景や理由をさぐる必要性はどこにあるのであろうか。それは、農協を中心とする個人を対象とする金融機関の事業動向を左右する可能性があるからである。とすれば、つぎのような点も考慮に入れておく必要があろう。それは、リスクという観点である。
 待機性資金の次の向い先として、より金利の高い商品が選ばれる、という見方は一面では正しい。しかし、信頼性の観点からは逆の見方になる。例えば、信頼性の高い金融機関は資金を集めるために高い金利を提示する必要はない。むしろ高い金利を提示するのは、信頼性の低い金融機関である。そしなければ、資金を集めることが難しいからである。
 このように、先の二つの見方では相反する結論となることも想定される。むしろ問題の核心は、個人が自らの資金を運用する際にどの程度リスクを意識しているか。そして、そのリスク意識が変化しているのか、にあるのではないだろうか。つまり、利用者の立場にたったものの見方をしなければ、答えが出ない問題なのではないだろうか。
 相次いだ金融機関の経営破綻を経験して、個人の利用者は利用する金融機関の経営に関心を持つようになった。また、外貨預金で為替変動による元本割れリスクを体験した。このような経験を積んだ個人の金融行動が、どのように変化するか。
 これらの点を利用者の立場にたって考えることができるかどうかが、金融機関、ひいては金融全体の先行きをみる上で重要になっている。個人が動き出す時期は近づいている。
(2003.10.29)


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