農業協同組合新聞 JACOM
   

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論壇
今こそ「世直し運動」を


   それ、近代化(人間)の浮生なる相をつらつら観ずるに、おほよそ、はかなきものは西欧文明(この世)の始中終、まぼろしのごとくなる一期なり・・云々。蓮如上人の御文章五帖十六の(人間)と(この世)のところをなぞってみた。
 すでに西欧文明の衰退は明らかなのに、なお近代化の掲げる「進歩主義」の信奉者が後をたたない。とりわけ、それを普遍的なものとして伝統的な価値規範と置き換えてきた日本において著しいと評する人が多い。
 置き換えは、GHQの日本占領政策「3R・5D・3S戦略」で始まった。3Rは、リベンジ(報復)、リフォーム(改造)、リバイバル(再生)の頭文字。5Dは非武装、非軍国化、非工業化、非集中化、民主化。問題は、スポーツ、セックス、スクリーンの3Sである。戦略の標的は武士道と禁欲主義であった。武士道練磨のエネルギーを娯楽性のあるスポーツへ、禁欲主義にはセックス開放を、伝統的習俗はすべて民主主義に反するとして葬り去る。その教化宣伝活動をスクリーン(映画)で行う。
 半世紀を経て、リフォームは成功したかのようである。かつて国際的にも高く評価された日本の「恥を知る」文化はどこへいったのか。弱者をいじめる卑劣者がこんなにはびこり、世界に類をみないセックスの氾濫(はんらん)は、日本人と国の品格を下げるばかりである…等々。
 進歩主義者は、革命によって旧体制や古い価値規範から解放され、自由の名のもとに新しいものがつくり出されると信じる。敗戦国日本は絶好の実験台であった。
 アメリカの政策をリードするネオコン(新保守派)は、西欧の自由、民主主義、人権などの価値は普遍的であり、それを世界に広める使命をアメリカは持っているという。彼らは、他国に発生した異質の文明と文化を認めようとしない。だからグローバル化は必然であり、その文脈にWTOやFTA(自由貿易協定)の問題もある。
 外交の基本は、互いの文化を認め合い、どう折り合いをつけるかであるはずなのに、ネオコンにはそれが通じない。日本農業は、後退を強いられて食料の自給率は下がり続け、穀物はついに40%を割ってしまった。
 時あたかも第23回JA全国大会が、衆議院選挙の直前に開かれた。国民食料確保の根源にかかわる「コメ改革」が決議されたが、選挙戦の政策論争の場にどれだけ登場したか。一般マスコミの扱いもお義理程度で、JA大会は組織内部の経済事業改革に矮小化されてしまった感がする。
 大会が掲げた「農と共生の世紀づくり」には共感した。関係者に「日本危うい」の危機感があると感じたからである。それだけに、もう一歩踏み込んで、国民大衆に「農と共生の哲学」を語りかけ、農協運動が日本の国の「世直し運動」であることをアピールし、国民運動に展開する気概を示してほしかった。
 日本には独自の伝統的価値規範がある。日本人が、拠るべき価値観・世界観を見失いニヒリズムに陥ってさまよう群像になったら終わりだ。よき伝統の価値規範の復権が急がれる。民族のDNAは、半世紀やそこらで消え失せはしない。マインドコントロールで眠らされているだけである。
 高齢者には、かつての価値規範DNAが活きている。おじいちゃんおばあちゃんは、自分たちの育った日本のよき伝統に自信を持って子や孫に語りかけ、眠っている伝統のDNAを呼び覚ましてやらねばならない。ずたずたに断ち切られた家族のきずなを復活し、集落コミュニティの再構築に取り組んでほしい。
 世直し農協運動の土台づくりに、高齢者パワーによる「ジジババ・エデュケーション」を大いに期待したい。 

(2003.11.21)


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