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どう考えるべきか 遺伝子組み換え食品

 遺伝子組み換え(GM)農産物の安全性をめぐっては世界中で激しい議論が行われている。しかしながら、穀物の大半を米国などに依存しているわが国は、GM食品を消費せざるを得ない状況にある。GM食品が突きつけている問題は何か、改めて考えてみた。


◆GM食品の安全性と評価基準

 GM食品の安全性に対して不安を持つ人は多い。その原因のひとつが専門家の間でもさまざまな見解が飛び交ってきたからだろう。 ここでは、安全性審査のガイドラインづくりにも関わった農水省食品総合研究所分子機能開発研究室の日野明寛室長に聞く。

 日野室長は「GM技術は通常の品種改良と変わらないことをまず理解してほしい」と強調、「現在、われわれが食べている農産物は何らかの品種改良、つまり遺伝子操作が行われているものがほとんど。たとえば稲の品種の“かけ合わせ”でも遺伝子組み換えが起きて、それまでと異なるタンパク質ができるからおいしくなる。  GM技術は人為的な操作、通常の品種改良は自然に起きること、と思っている人が多いが、どちらも人為的に行っていることです」と語る。

 また、GM技術ではバクテリアの遺伝子を植物に導入するという「種の壁」を越えた操作も行われることを問題視する意見もあるが、「種とは人間が便宜的に区切ったもの。進化の結果、遺伝子の数と種類が異なっただけで、DNAという同じ物質でできた遺伝子を持っていることを考えれば、先祖は同じといえる」と説明する。  このような認識のもと、安全性についてはこう考えられている――。

 「まず従来の育種技術で作られた既存の食品についてわれわれはどう安全性を確認してきたのかを考えると、それは長年食べてきても安全だからと確認してきたわけです。したがって、GM食品を評価する場合も、『既存の食品と比較して同程度に安全であるかを確認する方法をとる』とされたのです」。これがGM食品をめぐってしばしば聞かれる「実質的同等性」といわれる考え方である。

 むしろ成分が複雑な食品評価には絶対的な指標はなく、今まで食べてきたものと同じかどうかを比べるしか方法はないと考えるべきだという。
 「さらに理解してもらいたいのは、この概念はあくまでも“方法”のことであって、実質的同等性があるから安全、という“結果”を意味するわけではありません」。
 ”GM食品は、既存の食品と同等であるとして緻密な検査をしていないのではないか”、”実質的同等性の名のもとに導入した遺伝子が作り出すタンパク質のみ検査してその他の派生的な影響を調べていないのではないか”、といった指摘が聞かれるが「それらはすべてこの概念を誤解したもの。GM技術によって新たに生まれる性質だけではなく、当然、その他の可能性のある影響についても評価している。その結果、さらに評価すべき項目があれば、たとえば慢性毒性試験も必要になるだろう」という。

 一方、海外では「GMじゃがいもでラットの免疫力が低下した」(98年、英国)、 「害虫抵抗性のあるBtコーンの花粉で目的以外の昆虫が死んだ」(99年、米国)などの報告があり不安が広がっている。しかし、GMじゃがいもの研究報告は、そもそも組成が親種じゃがいもとかなり異なるものを使用したなど、実験の不備が指摘されている。

 また、Btコーンの問題は、「実験室内でのできごとが環境にそのまま当てはまるわけではない」(日野室長)としながらも、農水省では周辺生物の影響を防止する観点から新たな評価基準などを検討しており、その結論が得られるまで花粉中でBtたんぱく質が発現するGMトウモロコシの国内栽培の確認は行わないことにしている。

 「もうひとつ指摘したいのは、リスクとは、食品がかりに有毒物質をもっていてもそれに接する確率を合わせて考えたとき、将来的にどの程度の害があるかということです。また、利益とのバランスも考えます。たとえば、カフェインが入っているからこれは100%安全ではないとコーヒーを飲まないということがあるでしょうか。専門家たちの開発が暴走することがないよう監視することも必要ですが、毎日食べている食品とは何か、改めて考えたうえでの冷静な議論も大切だと思います」と日野室長は話す。
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◆国内自給率とGM食品問題
  ――GM技術は21世紀農業の切り札ではない


 ただ、こうした説明を聞いてもまだ釈然としない気持ちを持つ人も多いのでないか。
 「不安に思う人が多いことは尊重すべき。そのためには安全性だけ問題にするのではなく、政治、経済を含めた幅広い議論が大切」と株_林中金総合研究所の蔦谷栄一基礎研究部長は指摘する。

 蔦谷部長によると、米国でGM農産物の作付けが拡大しているのは、将来の食料不足への対応というより、環境負荷の低減とコスト削減という目的が一致したからだという。「96年農業法で生産調整が廃止され生産量が増大したが相場は下落。一方、85年農業法以来、環境問題も重視する方向はある。そこでGM技術を導入すれば、生産性も向上し農薬使用量も減らせると考えられている」。
 今年度、米国ではGM農産物は大豆で52%、トウモロコシで25%を占める。

 その動きの背景にあるのが国際分業論にもとづくWTO体制だという。「これはコストが安ければ地球の裏側からでも食品を調達するのは当然という考え方だ。しかし本来、農産物の流通は地場流通、“顔と顔の見える関係”が基本だったはず。安全性についてもそうした関係のなかでわれわれは長年かけていわば“実証”してきたといえる」。

 ところが、それを前近代的なあり方だとして貿易の自由化が促進された。そのとき、消費者が要求する「安心、安全」に応えるためには表示が必要になるが、表示の基準や内容などは、地域性を無視した広域流通を前提としたものになる。それが普遍的な基準だとされるが、「実は、輸出する側に都合のいい内容だけをつまみ食いした形になっている」(蔦谷部長)。食品の安全性をめぐる科学のあり方についても、こうした社会的な背景も視野に入れて考える必要がありそうだ。

 さらに日本にとってGM食品問題が突きつけているのは食料自給率の問題だ。輸入大豆やトウモロコシのうち米国産は7〜9割にもなる。つまり、穀物を外国に依存している以上、消費せざるを得ない状況にあるといえる。
 「安全性の問題も重要だが、今こそ、日本の食生活、農業をどう考えるか、その全体を考えるべき。GM技術は食料不足が予想される21世紀の切り札のように言われるがそうではない。在来種を見直すことやいかに自給率を高めるかが大切だ」。

 今、GM技術が農業を席巻するような受け止め方があるがそうではないだろう。「日本の文化を支えてきたのは農業。その農業は土づくり、作付け体系など幅広い技術から成り立っている。もっと本来的なあり方をこそ考えるべきではないか」と蔦谷部長は話している。
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