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「21世紀に向けて 食料・農業・農村に新しい風を」
 
消費者と 共生するために
積極的なITの活用を

 
富士通株式会社 代表取締役社長
秋草直之
聞き手:
元JA共済連参事
倉光定巳
  IT(情報技術)やインターネットをどう活用していくのかは、これからのJAグループの大きな課題の一つだといえる。そこで、JAグループの多くの情報システムづくりを手がけている富士通(株)の秋草直之社長に、今日のIT革命の意味と、JAグループがIT、インターネットをどう活用していったらいいのか、などを話していただいた。聞き手は、JA共済連参事、中央コンピュータシステム社長などを歴任した倉光定巳氏。


21世紀を支えるベース、すべてにITが

 倉光 いまIT革命といわれることの核心はなんでしょうか。

 秋草 IT革命の核心は、ITを使うということや技術が問題なのではなく、使うことで企業や行政の仕組みが変わったり、生活のスタイルが変わってくるのだろうということです。個人の家庭でみるとテレビや冷蔵庫、車とかは必需品になっていますが、インターネットはまだ生活必需品にはなっていない。必需品になれば革命といえるわけですが、日本のように密度の高く狭い国では急激に普及すると思いますね。

 倉光 21世紀を展望するキーワードの一つではなくて、そのベースだということですね。人類発展のための共有財産のようなものだということ…。

 秋草 バイオとか環境とか介護とかが21世紀のキーワードとしていわれますが、すべてにITが関わっています。バイオテクノジーなどはITがあるから成り立っているわけです。

 倉光 ITが景気回復の救世主といわれ、予算の概算要求で各省庁間の調整なしにITメニューが乱用されました。ある新聞では「IT狂奏曲」と揶揄していましたが、こういう現象をどうご覧になっていますか。

(あきくさ・なおゆき) 1938年生まれ。1961年早稲田大学卒業、同年富士通信機製造(株)(67年に改称して「富士通(株)」)に入社。88年取締役、91年常務取締役、同年専務取締役、98年代表取締役社長に就任。

 秋草 いままでも各省庁のIT予算はついていますが、それは自分の省庁のためのものだったんですね。それが、今回は国民から見えるものになったということではないでしょうか。国民との接点でいろいろな施策ができたという意味では、いいことだと思いますね。まだ横の連絡が悪いところはありますが、あるところまでは走っていただくのはいいことだと思います。

インターネットはその気になれば誰でも

 倉光 大きな変わり目にはそういうことがありますね。

 秋草 自動車やテレビができたときもそうでしたね。企業でもそうですね。やらなければ競争力がなくなりますから、必ずそういう方向にいきます。鉄道ができたときに将来を見越して飛びついた人と、昔ながらの馬車とか人力にこだわり、煙が出るとか金がかかるといった人では、どちらが残ったかは歴史が証明しています。それが100年以前に日本の工業化社会をつくってきたわけです。企業でも国でもそうですが、前を向いているところとそうでないところは違います。競争力とはそういうものだと思います。

(くらみつ・さだみ) 1934年鳥取県生まれ。京都大学卒業。JA全共連・数理部長、東京支所長、企画管理部長、総合企画部長を経て、90年参事、94年同会退職、同年(株)中央コンピュータシステム社長、97年相談役、98年同社退任。

 倉光 そうはいいましても、IT革命で失われるものや、光と影が生まれると思いますが、この影の部分をどうしたらいいとお考えですか。

 秋草 デジタルディバイド(情報格差)という言葉が流行っていますが、あまり気にしていません。車社会といわれても、車を持たない人はあるパーセンテージいますね。インターネットを使うことは、自動車よりもはるかに安く、楽で危険もありません。その気になれば誰でもできるものですから、一つの歴史的な過程だと思います。

もっとヒューマンな面をも重視することが大切

 秋草 私が心配するのは、教育の問題ですね。子どもがインターネットとかゲームに夢中になり、バーチャルだけがリアルになる。そうしたときに本当に健全な子どもが育つのかどうか。人とふれあい、遊んだり喧嘩したり、喜んだり悲しんだりという感性をもった子どもが少なくなるのではという心配です。ですからヒューマンな面はもっと重視しなければいけないと思います。
 もちろんコンピュータを操作できない人、情報社会に入れない人の問題はあります。

 倉光 ITも一つの手段ですから、どう使うかということですね。人の考え方とか理想とかが使われかたとか、これからの社会を決めていくのでしょうね。

 秋草 そうですね。リアルな社会(実際の社会)の買い物の楽しさを忘れて、ただ買えればいいんだろうという仕掛けだけつくってもだめだと思います。

情報化社会でのJA組織のあり方は・・・

 倉光 富士通はJAグループのシステム構築とかに関わっておられますが、日本の農業についてどう感じておられますか。

 秋草 JAグループには組織として、農業を守るとか日本の食料を守るという大きなメッセージがありますが、いままではJAグループのなかだけで、情報が自己完結していたのではないでしょうか。それでは、若い生産者はインターネットで、他の地域の共通の話題を持つ人たちと仲間をつくり、JAから離れていってしまう。情報があふれていますから、消費者もインターネットから情報を得るようになる。そうすると、情報のあり方とJAと組織のあり方をどうしていくのかが大きな問題になると思います。そのときにITをどう活用していくのか、それが鍵になると思います。

 倉光 食料問題では…。

 秋草 自給率は、国の安全のためにも高めなければいけないですね。私が子どものころはご飯を一粒でも残した怒られました。いま日本人は贅沢になって無駄が多くなり、食べ物を捨てていますが、そういうこともあわせて考えなければいけないのではないでしょうか。そして、日本人は基本的にコメが好きですから、コメをきちんと食べさせることをもっともっと進めるのが、JAの役割でしょうね。

60歳以上のパソコン教室には熱気がある

 倉光 いま農村の高齢化が大変に進んでいますが、ITの発展が豊かな老後をどうつくっていくのかと思うのですが…。

 秋草 寝たきりの方に対するものはいろいろ開発がされています。元気な老人の場合にはどうかといいますと、パソコン教室で一番人気があるは60歳以上が対象のシルバークラスなんです。どの教室も満員で熱気があり、勉強したら自分が先生になりたい、それが生きがいだといいます。教室ではコミュニケーションができ、仲間ができます。私は、高齢化社会では、インターネットがコミュニケーションの手段として役に立つと考えています。カタカナ+老人=ダメというような方程式をつくらずに、ポジティブに積極的に使っていただきたいですね。

情報システムは半年遅れたら追いつけぬ

 倉光 今回のJA大会では、「『農』と『共生』の世紀づくり」を掲げていますが、これの実現のためにITをどう活用していけばいいとお考えですか。

 秋草 一番は、消費者との共生ではないでしょうか。そこをITの世界で、もう一度ゼロベースからつくっていったら面白いと思いますね。パソコンなどが普及すれば消費者と直接コミュニケーションできますから、家庭でどういう食材で料理を作っているのかを知ることができます。生産者がつくっている野菜と消費者が食べている野菜が合っていないかもしれませんから、そこの情報をしっかりつかむことだと思います。
 いま私どもでは、「1000万人バーチャル都市構想」を提起しています。ここにもJAに参加していただき、消費者に安くていいものを提供して欲しいですね。

 倉光 JAの経営課題を解決するためにはどうですか。

 秋草 情報システムなどのコンセプトは素晴らしいんですが、コンセンサスを得るためでしょうが、ペースが遅いですね。しかし、ITの世界はテンポが早いので、そのスピードにどうあわせていくかですね。

 倉光 遅いということは、致命傷になっていくんでしょうね。

 秋草 半年遅れたらなかなか追いつけませんね。

食料の大切を消費者と共有することが

 倉光 最後に、JAの組合員へのメッセージをお願いします。

 秋草 基本的には農業は日本の将来のベースを支えているわけです。そのことを国全体に対して教育していくことが必要なのではないでしょうか。いまは食料をつくるところと食べるところが分化してしまい、ご飯を残すと怒られるという価値観が薄れていますね。もう一度食料を大事にすることを消費者と共有することが大切だと思います。

 倉光 そのためには、JAグループの革新が必要でしょうし、それに基づいた積極的なメッセージの発信ですね。

 秋草 自分たちを守るメッセージではなく、消費者に対するメッセージをですね。

 倉光 きょうはありがとうございました。

インタビューを終えて

 ダイナミックでスピーディ、しかしカラ回りもきしみも−−、そんな語感のIT革命だが、縦横に語った秋草さんのお話には、人間の息づかいへの配慮やぬくもりが随所にあった。情報産業をリードする先端企業のトップの、この画期的な技術への確信と技術活用の奥行きへの洞察があればこそ、人類共有の資産たりうるITの可能性をこのように語れるのだろう。それを誰が、何のために生かすのかこそ問題、という言外の指摘を大きな示唆として受けとめたい。

 「『農』と『共生』の世紀づくり」のお話の冒頭、秋草さんはソフトだが鋭く「誰との共生なのでしょうか」と。それはスローガンの不鮮明さへの揶揄ではなく、JAグループの”構え”への問いかけ。ITをJAの各事業・経営の分野の効率化に生かすだけでなく、生産者や消費者のなりわいやくらしなどをトータルに把えたところでのIT活用の提言でもあったのだろう。JAの「理念」や大会決議の「理想」は、IT活用の側面からも問われているように思われる。それはそれとして、やっぱり頂戴した”ペースの遅いJA”という辛口批判。耳は痛いが、この克服ばかりは無条件の急務だろう。(倉光)



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