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「21世紀に向けて 食料・農業・農村に新しい風を」

個を超えた協同の絆で
安心・健全な社会を

 
 日本生活協同組合連合会会長 竹本 成コ
 聞き手:
(社)農協流通研究所理事長 原田 康
  市場経済が世界を覆い尽くそうとするなかで、21世紀の協同組合はどうあるべきなのか。国際的な活動へも積極的に関わっている竹本成コ日本生協連会長に、諸外国の協同組合運動の現況を踏まえながら、日本における課題と、協同組運動への熱い思いを語ってもらった。聞き手は、JA全農常務などを歴任した農流研理事長の原田康氏。


市場経済の矛盾を解決する新たな協同組合主義の構築を

 原田 ベルリンの壁が崩壊してから、一気に市場経済が世界の潮流となり、ITが発達して金が国際的に駆け巡って、それに拍車をかけています。しかし、生活者の立場からみると協同組合的なものが、従来にもまして必要な時代になっていると思います。諸外国を含めた動向をどのようにご覧になりますか。

(たけもと・しげのり) 昭和6年8月生まれ。同志社大学法学部卒業。昭和29年同志社大学生協専務、32年神戸生協入所、57年灘神戸生協専務理事、平成元年同組合長、3年日本生協連理事、5年生活協同組合コープこうべ理事長、日本生協連会長。

 竹本 ベルリンの壁崩壊以降、旧ソ連の協同組合との連絡が止まりましたし、東欧の情報も入らなくなりました。ところが、1995年のICA100周年のマンチェスター大会に、ロシアも東欧諸国も出てきました。そこで東欧の方が「私たちは、経済の体制がまったく変わるという大きな変化に直面しています。そこで、世界の協同組合の皆さんに、私たちはお金とか物とか物質的な支援を頼むのではなく、この変化にどう対応していったらいいのかという知恵を教えてください。それが私たちに対する世界の協同組合の支援です」といったことが忘れられません。
 自由と競争は大事なことですが、社会は非常に複雑にできていて、陽のあたるところ、陽のあたらないところができます。人間としての幸せを考えると、この原理だけでいいのかということになります。非常に激しい市場経済のなかでこそ協同組合がお互いに協力し、連帯し、助け合うことがないかぎり、国も社会も、地域も家庭の生活も私はダメだと思います。

 原田 本当の豊かさが出てこないですね。もう少し協同組合的な運動として出てきてもいいと思いますね。

 竹本 競争は大事だけれども、人間としての暮らしが破壊されたり、幸せが感じられない社会をつくってはいけないんです。この矛盾を解決するためには、協同組合主義を新たに構築していくことだと思います。お互いが理解しあい、手をさしのべあい協力しあい連帯しあうという、JAグループが掲げられている「共生」思想のようなものが、矛盾を解決する思想としてつくられていかなければ、本当に「悲観の未来」だと思います。

(はらだ・こう) 昭和12年9月生まれ。昭和36年全農(全販連)入会、平成5年全農常務理事、8年(株)全農燃料ターミナル社長、平成11年(財)農協流通研究所理事長。

 原田 経済力があるものだけが勝者というのでは寂しい世界ですね。

 竹本 環境ひとつ守れません。まさに収奪と競争と弱肉強食で、人間の生存の条件を破壊しつくします。これは目に見えていますし時間との競争です。そして、食料の問題についても、こういう考え方がないと解決できないのではないでしょうか。

 原田 資本の論理だけで農業を論じると、日本の農業はなくてもいいという市場経済万能論者の極論がまかり通ることになりますしね。

 竹本 8月の末にスイスに行きました。スイスでは、以前から1年分の食料を確保し、しかもそれを各家庭でストックすることが義務づけられ、分散してみんなで協力して備蓄していると聞きました。全量かどうかは分かりませんが、食料を大事に考えているということです。

 原田 日本のようにコメ以外の穀物をほとんど外国に依存して、これでいいというのとずいぶん違いますね。

高い志とロマンがなければ組織のエネルギーは出ない

 原田 ICA東京大会の前後のころ、世界の協同組合が株式会社化しどうしようかというときでしたが、コープこうべを中心とする生協の「班活動」が非常に高い評価を受けましたね。

 竹本 競合との戦いの中で歴史と伝統をもった英国の生協運動が後退し事業的にも困難をきわめたときに、昨年CWSと合同した英国の2大生協の1つCRSが「大事なのは組合員の参加だ。日本の班活動に運動の原点とエネルギーがあることを学んだ」といって、生協への運動参加と出資の増強という基本的な組織活動に取り組みました。

 原田 協同組合運動は組合員参加というベースの部分が希薄になれば、協同組合の意義がみえなくなります。

 竹本 ヨーロッパも日本も厳しい経済環境と激しい競争の中で事業としては困難に直面していますが、資本主義的ビッグチェーンと商売だけで戦っても協同組合の意味がありません。
 事業としてのスキルと力量が勝らないと敗退しますからそのことは大事ですが、高い志とロマンがなければ、厳しさに立ち向かう組織のエネルギーが出てきません。困難を克服するためには、何んのために私たち葉協同組合をつくっているのかというその根本を、組合員・役職員一人ひとりのものとして、戦うぞという闘志をもたなければいけないと思います。

 原田 情報技術が発達する中で運動としてつくりあげていくには、もっと努力が必要ですね。

 竹本 ITの急速な発達・普及がビジネスの構造を変えてきています。そのことに私たちも遅れをとってはいけないと思います。生協でもインターネットの共通基盤を構築し、この秋からコープこうべ、みやぎ生協と日本生協連がこの共通基盤を使ってホームページを立ち上げ事業を展開します。なぜそういう手段を講じるのかといえば、組合員の暮らし方に本当に必要なものを吸い上げ、食料品ならJAや食料品をつくってもらう人たちと協力して、安全・安心で、そして美味しいものを、合理的手段で少しでも安く、暮らしに役立つようにつくる方法をもう一度作り変えていくためです。

 原田 生産者がその要望に応えて作る努力をすることで、農業が国民的なコンセンサスを得て支持されるわけですね。

農業は都市市民の問題でもあると考える人がたくさんいる

 竹本 新しい基本法は「食料・農業・農村」となっていて嬉しかったですね。農業が先なら事業優先だと思いますが、人類生存の源である食料をまずもってこられた。食料が安全だということは必須ですね。そしてそれを安定的に供給する体制をつくらなければいけないと、位置づけられたと考えたからです。
 そして農業の多面性が謳われるなかで、消費者の心を打ったのは、美しい棚田から水が川に流れ、治山治水も含めて素晴らしい自然風景を作ってきたことです。そして海の中に河口から流れ込んでくるものを待ち構える魚がいるわけですから、生きている共生ですね。これが農業の多面性であり、文化だと思いました。食料は農業者だけの問題ではない。都市の私たちの暮らしの問題だと、それを大事にする都市市民がたくさんいます。

 原田 農業が消費者から支持されるためには、そのベースに協同組合的な思想がなければいけないということですね。

 竹本 戦後ここまできたのは、農協があって、みんなで協力してきた農村の力なんですね。

 原田 日本の文化の基礎ですね。その大事なものを簡単に壊すことには抵抗しないと…。

周りの社会に関与し貢献するのが21世紀の協同組合

 竹本 これ以上壊してはいけないという歯止めはしっかりもたなければいけませんね。若い世代にはそれなりの価値観があると思いますが、安心して暮らせる健康な地域社会をつくるためには、個を超えて協力し合う間柄・絆が必要です。子どもの問題も、福祉の問題もすべてそこに帰着します。21世紀に子どもたちが本当に健全に育っていく社会をどうつくるか。私たちのコミュニティをどうつくるのか。避けて通れない時代が来たと思っています。

 ICA100周年大会で7番目の原則として、生協でも農協でも、その組織内の構成員の利益を確保することは最大の責任義務ですが、と同時に協同組合が存在する社会に対して大いなる関心を持ち、組合員とよく討議をして民主的に決めたならば、周りの社会に対しても関与をし、社会貢献していくという「コミュニティへの協同組合の積極的関与」が加わりました。私はこれが21世紀社会へ協同組合人が歩んでいく道だと思います。その後、NGOが生まれNPOの法律ができました。阪神・淡路大震災のときのボランティア活動を体験して、これは21世紀を担いあげていく新しい人類の時代だなと思いました。

 竹本 もう一ついま思うことは、20世紀の間に核兵器の廃絶を実現したかったな、という思いです。しかし、21世紀の早い時期に必ず実現すると思っています。

 原田 生協運動には平和な社会の建設がテーマになっております。会長ご自身も広島での被爆体験がおありでしたね。

 竹本 それもありますが、悲願です。しかし世の中変わりましたね。核抑止力の傘下という時代ではなくなりました。最大の暴力的な競争が戦争ですから、それを避けていく仕組みを人類は編み出すと思います。21世紀は、生きがいのある、やりがいのある時代だなと、生活者の場においても考えたいと思います。

 原田 よいお話をありがとうございました。


インタビューを終えて
 竹本会長の協同組合運動家としての熱意あふれたご意見は、日頃は頭の大半がいかに当面の利益を上げるかに振りまわされている小生には、久しぶりに新鮮な協同組合の精神に触れた思いであった。
 会長はICAの役員として各国の生協を指導されているが、ヨーロッパ、アジア各国の協同組合が社会主義から市場経済体系下へ、EUの統合、発展途上国の所得格差の拡大等、かつて経験したことのない条件下で、協同組合の活路を日本の生協の班組織活動に学ぶことに見出しているという動きも紹介された。

 生協の事業の柱は、共同購入と店舗のどちらも競争の真っ只中で苦戦をされているが、単に生き残りのための競争ではなく、生協活動を「組合員が主人公」とする協同組合は何をする為にあるのかという高い志とロマンを基本に据えた運動をすることによって、いわゆる商業資本との差別化を図り、事業としての拡大を目指す方向が語られた。
 20世紀に積み残したこととして、核兵器の廃絶が実現しなかったことがまことに残念であるが、21世紀には人々の賢明な知恵で実現することに希望を持つという平和への願いが協同組合運動の延長上にあることが印象的であった。(原田)  



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