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「21世紀に向けて 食料・農業・農村に新しい風を」


経営責任を問われる時代
生き残り戦略はチャレンジ精神で

  
農林中央金庫専務理事 橋本勝好 
聞き手:東北大学教授 両角和夫 

 橋本専務は、地域に密着した系統信用事業のあり方を前提にJAの経営を変えていかないと、生き残りは困難だと意識改革を熱っぽく説く。「経営にリスクはつきもの、それがとれる体制づくりを」と訴える。その論客ぶりに対して両角教授も「今こそ農協の社会的役割を徹底的に議論すべき時」と強調。激動する金融情勢に対応する戦略をめぐって話題は多岐に及んだ。

経営責任が問われる時代に対応

 両角 これからの系統信用事業をどう考えていけばよいのかということをおうかがいしたいと思います。まず信用事業を取り巻く情勢をどうとらえていらっしゃるか、お聞かせ下さい。

 橋本 情勢への対応ということでは農水省も「農協系統の事業・組織に関する検討会」を設けており、そこでは、農業者がJAに対して何を求めているか、行政はJAにどういう役割を期待しているかといった議論が色濃く出ています。JA系統としてはJA全国大会議案が提起している課題について、さらに議論を実践的に深める必要があります。
 JAが組合員に求めていかなきゃならないこと、行政に要請していくことなど、たくさんの課題がありますから。今後の展望を開き、JAとして夢が持てるような内容にしなくてはいけません。
 特にペイオフ解禁後のJA・信連の破たん未然防止策の枠組みなどは制度との関係もあり、JA全中会長の諮問機関である総合審議会で引き続き議論を詰めることになっております。

 両角 農協の社会的役割が変わってきておりますから、そこをどうするか、徹底的に議論すべき時期だと私も思います。

農林中央金庫の
ディスクロージャー誌

 橋本 そこで情勢ですが、金融業界ではIT(情報技術)投資拡大などグローバル競争に勝ち抜くために大規模な金融機関再編の動きが加速しています。
 また異業種からの参入があります。そのためリテール(小口金融)分野での競争が非常に激しくなってきております。
 また平成14年4月から、預貯金の払い戻しは1000万円までしか保証しないという、いわゆるペイオフが解禁されます。そうなると金融機関としては経営内容をすべてディスクローズ(情報開示)して、預貯金者から信頼され、預貯金先として選択されるような健全な経営でなければなりません。
 ではJAの財務内容はどうかと言いますと、農水省の調査では、自己資本比率4%未満のJAは27、うち0%未満の債務超過JAは10(11年度末)となっています。

 両角 だいぶ減りましたね。

(はしもと・まさよし) 昭和13年三重県生まれ。京都大学経済学部経済学科卒業。昭和37年農林中央金庫勤務、盛岡支所長、総務部次長、組合金融第一本部推進部次長、同部主任考査役、同部推進部長を歴任し、平成5年常務理事、10年専務理事。

 橋本 しかし債務超過などは社会への影響が大きいから、二度とそういうことがないようにモニタリング(経営監視)の制度をきちっとしなくてはなりません。私どもも全中と一緒に今、実態調査を進めており、問題のあるJAについては経営の健全化を進めています。

 両角 IT戦略はどうですか。

 橋本 これは大変コストがかかりますから、全国段階でツール(手段)を準備し、機能も開発してJA・信連が利用できるようにします。今後は決済一つにしてもIT機能がなければ金融機関として認められない時代になってきます。またIT化で金融機関のネットワークが変わってきますから、それに追いついていかないと信用事業としての社会的役割が果たせないのではないかと思います。
 そこで当金庫を中心にIT活用のきちんとした方向づけを2年ほどで行い、準備のできたものからスタートさせます。仕事の仕組みが変わるのですからJA全体の意識改革も必要です。

 両角 次に金融商品の多様化についてはいかがですか。

 橋本 これまでJAは投信に代表されるように元本割れになるような商品はほとんど提供してこなかった。しかし今後はハイリスク・ハイリターンの商品をも利用者自身に選んでもらう時代であり、商品の性格などをきちんと説明できる体制がJAに必要になってきます。
 ほかの金融機関や証券会社なら、売りたいために説明するでしょうが、地域に密着しているJAは出資者である組合員に、リスクのある商品についてきちんとした説明ができるよう研修などを通じて支援していきたいと考えています。

 両角 情勢認識をおさらいしますと、第一はリテール分野の競争が激化すること。これは、もともと農協の分野で生命線みたいなところですね。第二は金融機関が本来持たなければいけない健全性を改めて要求されるということ。
 第三点はIT戦略ですが、これも決済機構など金融機関として最低限の機能を持たないとやっていけないということ。第四点は新しい金融商品の取り扱いには農協らしさを加えて金融機関の機能を果たすこと。こんなところですか。

信用と共済を合わせた商品を組合員や利用者に提供

(もろずみ・かずお) 昭和22年北海道生まれ。47年北海道大学大学院農学研究科修士課程修了。同年農林省入省。55年同省農業総合研究所へ出向、金融研究室長、農業構造部長を経て、平成11年東北大学大学院農学研究科教授(専攻:農業経済学、主に農業金融論、農協論、環境問題論)。最近の著書は『農協再編と改革の課題』(家の光協会)。

 橋本 そうですね。次に新しい事業展開ですが、JAの事業の位置づけは組合員や利用者の営農と生活を守ることです。そこで信用事業では組合員のライフサイクルに合ったサービス・商品を共済事業と連携し、開発をすすめ提供していきます。
 組合員からすれば年金商品も貯金も大して変わらないという時代ですからね。確定拠出型年金事業を手始めに信用と共済を合わせた商品を提供できるようにしたいと思います。

 両角 金融、保険の再編・グループ化が進んでいますが、農協系統の内部には最初から両方があるんですからね。

 橋本 非常にありがたい仕組みになっております。

 両角 次にペイオフをひかえて、セーフティネット(安全網)の補強について、お聞かせ下さい。

 橋本 ほかの金融機関の安全網は預金保険制度だけですが、私どもは、農水産業協同組合貯金保険制度(貯保制度)と相互援助制度(相援制度)という2つの安全網を持っています。相援制度は経営不振に陥ったJAの経営再建を支援するために資金援助をしたり、隣接のJAと合併させるなどの措置をとる制度です。事前に処理をすればコストが安くつきますから。
 現在、相援制度は貯保制度と連携して資金援助などを行っていますが、貯保制度は基本的に経営破たんの場合に発動される制度ですから、経営破たん前の段階では適用されません。

 そこで破たんを未然に防止する「自主ルール」をつくることになりました。自己資本比率が4%未満になると、早期是正措置で行政から業務停止とか改善命令が出て、それが公表されます。そうなると信用が揺らぎ、JAを利用する人が減ったりします。そこで、かなり早い段階で問題JAを支援し、経営の立て直しができるようにするのが自主ルールです。
 しかし、その前提になるのが検査・監査制度であり、モニタリングです。中央会系統の監査制度の強化・勧告権の付与などを含め、これから具体的にJAグループの総力が発揮できるような仕組みになるよう検討しています。

組織整備では「効率化信連」など4パターンを打ち出す

 両角 セーフネット確立は徐々に進んでいるということですね。次に組織二段を目ざす改革の中で信連をどうするかという課題がありますが。

 橋本 現在、系統信用事業は三段階が各々機能を分担しています。例えば、県の指定金融機関としての信連は、その県の連合会だから指定されている。信連が金庫と統合して農林中金の支店になれば指定してもらえません。二段階になっても県域の機能は残るわけです。
 信連が三段階の中で果たしているJAにとって必要な機能をどうするのかという問題があります。そこで信用事業の組織整備の考え方では、統合、1県1JA、効率化信連、広域信連の4パターンを打ち出し、その県にとって最もふさわしい形態を選択してもらうこととしています。
 現在、栃木と秋田は金庫との統合を決議し、いま統合に向けての協議をしています。

JAの経営にもリスクを取る体制をつくる必要が

 両角 最後にJA系統の役職員に向けたメッセージというかお願いしたいことをおっしゃって下さい。

 橋本 環境が大きく変わっています。当面は何とか経営できても将来的には大変厳しくなります。そのために自らが変わっていかないと生き残っていくことはできません。一般的に、これからは経営責任が問われる時代です。決めたことをやらないと出資者代表訴訟を起こされるようなケースも出てくるでしょう。会議などで、自分の意見をはっきりいわなければ経営者とはいえません。

 またJAでも体制を整えた上でリスクを取って経営していくことも必要です。組合員のニーズを受けとめ、新しいことにチャレンジしていかないと取り残されるのではないでしょうか。第一次産業の世界もどんどん変わってきていますから。メッセージにならないかとも思いますが、そんなことを考えています。

 両角 では、どうも貴重なお話をありがとうございました。


インタビューを終えて

 今回のインタビューでは、橋本専務から当方が用意した信用事業に関する質問に答えるに先だって、今日の農協の社会・経済的役割に関する持論をご紹介下さった。時間的な制約を気にしていた私にとってやや意外な展開であったが、これはまさに望むところであり、有り難いことであった。農協系統がかつてない大きな転換期を迎えている今日、農協系統は今後どのような役割を担うべきか、果たしてそれに答える準備はあるのか、そのためには何が問題かなどの基本的な議論なくして、信用事業のことは論じられないはずである。専務のご主張は、社会的ニーズに的確に答えなければ農協系統の存在価値はない、系統組織は機能的にも意識的にも変わらねばならないなど、きわめて厳しい自己認識と変革の必要性を訴えるものであり、多くの点で私も同感である。また、始終率直で具体的な話を頂いたこと、回答の端々から変革に対する周到な準備と自信がうかがえたことは印象に残る。農協の地域金融への取組み、不良債権問題への対処など、聞いておきたかったことも少なくない。しかし、信用事業の今後のあり方を議論する上で必要な貴重な情報、ご意見は頂いた。大いに活用して頂ければ幸いである。(両角)



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