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「稲作経営の安定とJAグループの米穀事業改革」
対 談
緊急総合米対策で
需給改善・米価回復を

稲作経営の安定めざし
JAグループの力を発揮

全国農業協同組合中央会常務理事
中村 祐三
東京大学大学院教授
八木 宏典

 市場隔離と生産オーバー分の飼料用処理、生産調整の緊急拡大などを柱とした「緊急総合米対策」が決まった。今後、この対策の実施が本格化するなかで需給改善と米価の回復が期待される。ただし、生産調整の緊急拡大の確実な達成などJAグループ自らの取り組みも求められている。一方、第22回JA全国大会議案では、「地域農業戦略づくり」をテーマに力強い地域農業づくりの推進を掲げている。稲作経営の安定をめざす今回の緊急対策とJAグループの課題についてJA全中の中村祐三常務に聞いた。インタビュアーは八木宏典東大大学院教授。

◆政府は75万tを市場隔離
  生産オーバー分を飼料用に処理

 八木 9月29日に12年産自主流通米の第3回入札取引が実施されましたが、平均指標価格は1万6070円と前回にくらべて約1.7%低下し、11年産の通年平均指標価格にくらべても4.9%ほど低い状況です。さらに米の持ち越し在庫は、今年10月末で計画より約60万tも多い280万tになるということです。こうした米の状況についてどうみておられるのかをまずお聞かせいただけますか。

 中村 在庫が過剰にあるなかで、さらに今年は豊作見込みとなり、8月の自主流通米入札はかなり安い値段でのスタートとなりました。米対策は昨年まで10月に決めていましたが、こうした状況ですから早めに対策を打つために9月に「緊急総合米対策」として決定されました。
 この対策では、政府は75万tを食糧援助として市場隔離し、われわれは昨年同様に生産オーバー分を飼料処理に取り組むなどの対策を実施するわけです。当初、この対策をめぐる協議では、今後の2年間で適正在庫、それも150万tを切るようにしなければいけないという意識で国と話合い、最終的には14年10月末に125万tにする計画ができましたから、過剰在庫対策として一定の数字を示せたと思います。

 ただし、第3回入札の結果は小幅ではありますが再び前回よりも下がりました。これには、買い手がもう一つ実感としてこの米対策を感じとれなかったことがあると思います。対策が決まったのが入札の直前ということもあって、全体の対策は示されましたが、今年の米の供給量が具体的な数字としてはどうなるのかをつかみ切れず、模様ながめ的に入札に参加したという面があると思います。

 八木 たしかに谷農相も、入札直前に対策が決まったことについて、「投票を済ませてから選挙運動をしたようなものだ」と感想を言っていますね。今回、緊急総合米対策の第一の柱として持ち越し在庫のうち75万tを食糧援助用に市場隔離するというかなり思い切った対策が打ち出されました。しかも先日、50万tを北朝鮮に援助することも政府は決めましたから、過剰在庫の処理による効果は出るものと私は判断しています。

 一方、12年産の生産オーバー分26万tのうち15万tを生産者団体が主食用以外に飼料用として処理をすることになりましたね。なかでもホールクロップサイレージについては、技術的な問題もありますし、現場に定着させていくためのいろいろな取り組みも必要だと思いますが、この点についてJAグループではどんな議論をされてきたのでしょうか。

 中村 生産オーバー分を飼料用として処理する取り組みは、昨年からJAグループのなかで需給調整の基金を活用しながらやっていこうという方針を決め、今年も15万tを処理することを進めてきたわけです。そういうなかで、一度、米粒にしてしまったものを処理するのはかなりコストがかかることから、コストを少なくして過剰処理することを考えると米粒にする前に処理したほうがいいという議論もあるわけです。そこで、今年はホールクロップサイレージなどによる処理ができないかという議論が出てきたわけですが、収穫時期が近いなかでの課題提起だったものですから、時期的に間に合わないということと、ホールクロップサイレージは畜産農家と契約しながら進めていかなくてはなりませんから、急に実現できるものではありませんでした。こうした課題もありましたから、ホールクロップサイレージなどによる処理は来年以降から本格的に取り組んでいこうということになっています。

◆「需給調整水田」も5haに設定
  12年産米販売は需給見通し立てて

 八木 来年は「需給調整水田」を5万haほど設定するということですから、この問題はかなり長期的な見通しをもって取り組んでいく努力が必要だろうと思いますね。
 それから11年産自主流通米の販売残については政府持ち越し米と交換のうえ加工用として処理するということになりました。その上で、12年産についても需給のバランスをとって販売することになるのだろうと思いますが、12年産米の販売についてはどんな見通しを持っておられますか。

 中村 12年産の集荷の見通しが立ってどの程度の集荷量なのかが分かり、さらにそのなかから飼料用処理分と政府買い入れ分を除いた数量が見えてくると、買い手のほうも今年の米の供給量について把握することになると思うんですね。
 したがって、集荷が大体見通せたところで今年の販売を考えていくわけですが、その場合に、生産オーバー分は全部飼料用処理ではなくて26tのうちの15万tですから、生産出荷の指針(「平成13年産米穀の生産及び出荷の指針」)のなかでも、13年10月末に自主流通米は24万tを翌米穀年度に繰り越すことになっています。それを踏まえ、従来、調整保管とは、ずっと販売をしてきて最後に売れ残りそうだというときに実施してきたものですが、今年はできるだけ早く、米穀年度の当初から、この程度の量には鍵をかけますよ、という形の調整保管をやっていくことになりました。これから具体的にその量を決め、需要に応じた自主流通米の供給量にしていく、そんな販売方針になると思います。

◆今年から9割補てんコースも
  大規模経営ほど稲経で恩恵が

(なかむら・ゆうぞう) 昭和19年東京都生まれ。東京大学農経卒。昭和42年JA全農(全購連)入会、平成3年本所米穀総合対策部米穀対策室長、4年東京支所米穀部長、6年本所米穀総合対策部次長、8年本所パールライス部長、9年大阪支所長を経て、11年JA全中常務理事就任。

 八木 ところで、稲作経営安定対策(稲経)についてですが、12年産の加入者率は69%まで下がっています。私は加入しなかった人の大部分は小規模稲作農家や兼業農家ではないかと考えていたんですが、稲作経営者会議が最近行ったアンケートによりますと、メンバーの過半が稲経に否定的な意見を持っているようです。ということは、直売を含めた計画外米にかなりシフトしているということだろうと思います。実際、食糧庁の試算では11年産の場合、計画外米は286万tで、そのうちの半分が生産者から消費者に直接販売されているとなっています。つまり、約140tの米はこれからも生産者から消費者に直接販売されるわけで、この割合が増えていく可能性があるのではないかと思いますね。その一方で兼業や小規模経営など、あまり価格条件を気にしないで、とにかく米を作りたいという生産者も一部にはいて、こうした状況のなかで、米を集荷し全体の需給について責任を持っていくというのは大変なことだろうと思います。

 ですから、米の需要と供給に関しては、より正確な数字を踏まえた生産、販売の計画を考えていく必要があると思います。今回のJA大会議案では、大規模経営や生産法人との連携、あるいはそれらの経営の業務委託をしていこうとの方針を出されているわけですが、計画外米も含めて全体の需給を考えていかなくてはならないという点で、JAグループはどう取り組んでいかれますか。

 中村 最初に指摘された稲経について大規模農家が否定的ではないかということですが、この対策は価格が下がったときに発動されるもので、現実に大規模経営ほど米価が下がったときの影響が大きいわけです。ですから、今年から9割補てんというコースもできましたし、大規模経営ほど恩恵を受けるのではないかと思います。実際、9割補てんコースへの加入数量も50万tを超えるようですから、私は大規模農家などは相当この仕組みを評価して参加しているのではないかと思っています。

 また、計画外流通米についてですが、 食糧法になってからは、とくに大規模農家や生産法人のなかに特徴ある米として自ら売っていこうという人が多くなっているとは思います。ただし、多くは、農協にも一定程度出荷しながら、一部は自分で売っていくというだと思います。したがって、これからさらにそれを増やしていくという傾向にはないんじゃないか。というのは、やはり自分で売るのは債権回収などリスクも大きいわけですから、リスクの高いことをどんどんやろうということにはならないんじゃないかと思っています。
 ただ、一方でJAとして大規模農家などにきちっと対応していくことも必要です。大規模農家の方は技術的にも高い水準の方が多いですから、やはり一般の農家への対応とは別にきちっと対応していく。また、技術対応ばかりではなくて販売、生産資材のことも含めて対応していくことが必要だと考えています。

 八木 直売をすればそれだけリスクが高くなるわけですから、その点でJAと連携をとりながら全体の事業のなかに協調していくという方向も必要だと思いますね。
 また、稲経については、今回の対策で13年産の補てん基準価格を12年産補てん基準価格と同水準にするということになり、補てん金の低下に一定の歯止めがかかったと思います。11年産では、平均補てん金が一俵当たり1400円ぐらいですから、大規模経営、稲作専業経営にとっては非常にプラスになったし、経営を支えるうえで非常に役立っていると思いますね。そういう点でこの特例措置は評価できるのではないかと思います。この点についてJAグループ内では何か意見がありますでしょうか。

 中村 この制度をめぐっては、生産調整などをめぐる公平、不公平についての観点からの議論がありました。つまり、生産調整をきちんとやって需給が改善されたときに、生産調整をやってない人も恩恵を受けるということなる。また、きちんと計画流通米として出荷している人が生産オーバー分を無理してコストをかけて、すなわち、自分たちのお金を使って処理するということですが、計画流通に参加していない人もその恩恵を受けることになるわけです。

 そういう点で、今回は、できるだけ米の生産者みんなが参加する方向にしなければいけないと思うんですが、きちんと生産調整をやった人や計画流通米として出荷し稲経に加入している人がよりメリットを受けられるという対策になったわけですから、不公平感の是正には役立つし、きちんと協力する人がふえればいいと思っています。

(やぎ・ひろのり) 昭和19年群馬県生まれ。東京大学農学部農業経済学科卒業、農学博士。主な著書に『水田農業の発展論理』(日本経済評論社)、『カリフォルニアの米産業』(東京大学出版会)など。現在、米価審議会会長。

◆過去最大規模の生産調整
  緊急拡大対策でメリット措置実現

 八木 13年産米については生産調整規模をさらに5万ha程度拡大をすることが盛り込まれているわけですが、産地ではこれまでも96万haの生産調整やってきており、これから100万haを超えるような生産調整はとても無理だという意見もあるわけですね。
 この点についてはJAグループのなかにもかなりいろいろな意見があったと思いますがいかがでしょうか。

 中村 これまで過去最大規模の生産調整をしてきており、さらに拡大ということになりますと、すでに限界感も強く非常に大変ではないかという点はおっしゃるとおりです。96万haの生産調整目標面積は、当初の計画では2年間でした。つまり、この生産調整によって在庫を毎年35万tづつ減らし、2年間で適正在庫に近づけるということでスタートしたわけですね。それが今年の見通しでは減るどころか増えてしまった。計画上、在庫は昨年10月末の225万tを今年10月末に219万tにするはずだったのが、逆に280万tに膨れ上がったのですから、こんなに努力しているのに増えたのか、というショックは大きい。そういうなかで、96万haの生産調整を2年間ではなく今年も続けたし来年も続けることについてはやむを得ないと、そこまでは理解していただけるのですが、在庫が減るはずなのにどうして増えるのかという点がすぐに受け入れられず、さらに拡大すべきだとわれわれが問題提起したときは、やはり非常に難しいという意見が大半だったわけです。

 ただ、そうは言っても、国に適正在庫に向けた処理を要請するとともに、われわれとしても一緒になって取り組むんだということは必要ですからかなり反対論もあったんですが、最終的には緊急拡大に対するメリットをきちんとして、苦渋の選択といいいますか、拡大に取り組むことになりました。

◆SBS米は価格に影響
  WTO交渉ではMA米の議論を

 八木 米の在庫をめぐっては、ミニマム・アクセス米(MA米)が国内需給に影響を与えているのではないか、ここを何とかしない限り、さらに米価の下落につながっていく恐れがあるという指摘も一部にあるわけですね。JAグループとしてもMA米については、これからのWTO交渉のなかで主張していくべきだと思いますが、この点についてのJAグループ内の議論はどうなっているのでしょうか。

 中村 今回の緊急対策を考えるなかで、みなさんからMA米が需給に影響を与えているという問題提起は当然ありました。国が示す需給の数字上では、MA米は国産に影響を与えないということになっています。たとえば、SBS(売買同時入札)米で輸入される12万tは主食用に市場に出てくるわけですが、一方で政府は同量の古米を海外援助に回すから差し引けば需給に影響を与えない、ということになっているわけですね。しかし、現実的にSBS米が主食で売られるということは、今年の国産米の供給量からその分だけSBS米として食べることになりますから数字上では影響ないといっても現実には影響があるというのは事実じゃないかと思います。そういう意味でMA米を毎年、毎年輸入しなければいけないという、これを何とかしてほしいという切実な意見が出てきて、われわれもこの点は考えてほしいと国に要請しました。

 また、WTO交渉では米だけではなく、いろいろな問題を含めた全体のなかで年末までに日本提案をまとめるわけですが、そのなかの一つとしてMA米の問題を考えることを要請していくという方針です。

◆備蓄米の在庫減らし
  米の過剰感を払拭する

 八木 それからもうひとつは備蓄の問題がありますね。備蓄米は150万t、プラスマイナス50万tという水準が決められおり、不作のときにその米を放出して米価の高騰を抑えるという役割があるわけですが、しかし、備蓄米の量がこの水準で果たしていいのかどうか。確かに平成5年の凶作のようなときに200万t程度輸入したわけですから今の水準にも一定の根拠があるのかもしれません。
 しかし、常に米の過剰感があって価格引き下げの圧力になっているのではないかという指摘もありますが。

 中村 JAグループのなかにも同じような意見はあります。ただ、現実に200万tを超えるような在庫を抱えているなかでまず在庫を減らすことが先決なんですね。このため、適正在庫水準を目指した取り組みをすすめながら、あわせて在庫水準のあり方等について検討が必要だと思います。

 八木 今回の緊急総合米対策というのは、おっしゃるように在庫を縮減するというところに一つの大きな目的があるわけですね。ですから、14年10月末で125万tに減らすとなっていますが、今後もう一度わが国食糧安全保障の問題も含めて備蓄のあり方、あるいはMA米のあり方も含めて基本的に議論していく必要があるのではないかと思います。

◆地域行政と連携しながら
  「地域農業戦略」の策定と実践を

 中村 今後の取り組みということでいえば、備蓄のあり方、MA米のあり方の問題が当然あるわけですが、それだけではなくて稲作農業全体について考えなくてはいけないんじゃないかと思います。そのひとつがやはり市場原理導入のなかで価格下がる一方という状況です。稲作経営安定対策という補てん制度はありますが、米価水準がどんどん下がっていっては意味をなさないということになります。それをどう考えるか。下支え的な仕組みが必要ではないかという議論も一方ではあります。

 また、JA大会の議案のなかにもありますが、新たな基本法を踏まえてJAグループとしても自給率向上、国内農業の維持発展ということを大きなテーマとして挙げているわけです。そのためにはもちろん政策的にも、米だけはなく、自給率の低い麦、大豆、飼料作物の生産振興に支援が必要ですが、それをベースにわれわれとしても努力していくことが当然必要です。そういう意味でJAが果たす役割は非常に大きいと思っています。そのために地域で行政と連携しながら、地域農業戦略を策定してそれを実践していこうということを大きな取り組みとした挙げているわけですから、そこを地域でしっかりやっていくことが重要だと考えています。

 八木 稲作を含めた水田農業全体の経営安定という課題も大きいと思います。いずれにしても市場原理の導入のなかで、価格が大きく変動するという影響をできるだけ抑えた安定的な収入の確保、こういう方向で取り組むことも重要な課題の1つであると思います。「地域農業戦略づくり」を含めてJAグループには今後ともご活躍を期待したいと思います。



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