トップページにもどる 農業協同組合新聞 社団法人農協協会 農協・関連企業名鑑

米の需給と価格安定の実現めざして」

学校給食においしいごはん
農業者のネットワークで実現
東京都保谷市の小学校 地元農産物を献立に使用


 生産者やJAが農産物を地元の学校給食に提供し、子どもたちに食と農の大切さを伝え、また、米消費拡大にも寄与する取り組みが各地で行われているが、大都市の東京でも生産者たちが地元の小学校に野菜や果樹を供給している例がある。さらに子どもたちにおいしいごはんを食べてもらおうと米どころの生産者とネットワークをつくって新米の供給に取り組んでいる。「食材がそのまま教材になる。生産者との交流も生まれ子どもたちが学ぶことも多い」と学校側も評価。生産者も「子どもたちのために作っているんだと思うと励みなる」と意欲的だ。

給食の材料を子どもたち自身が収穫

東京都保谷市立保谷小学校の給食風景

 東京都・保谷市の住宅に囲まれた果樹園に、数年前から授業を終えた小学生たちがときどきやってくるようになっている。次の日の給食に出される果物を子どもたち自身が収穫するためである。
 この果樹園は、元JA東京都青年協委員長の本橋優一さんが経営する。本橋さんはブドウ、なし、キウイフルーツなどの果樹と野菜を75aの農地で生産。平成4年から、市内の野菜、果樹農家6軒と「地場野菜出荷研究会」をつくり、市内11小学校の学校給食に農産物の供給を行っている。

 「地元にも農業があるのになぜ食べてもらえないのだろうか」。
 そんな疑問から、市に相談、学校給食を担当する栄養士と協議して野菜と果樹の供給が決まった。
 保谷市の学校給食は自校方式のため各小学校には栄養士がいて、予算の範囲内でならそれぞれ独自に食材の調達を考え献立を決めることができる。本橋さんたちは、一軒の農家で2校づつ担当することにし、各農家が生産しているものを納入する方式でスタートさせた。本橋さんの場合は、ぶどう、なし、キウイフルーツと葉物野菜を供給している。

本橋優一さん

 「私たち生産者が一年間に作ろうと予定している農産物を学校側に知ってもらい、そのうえで、その時々にできたものを必要な量だけ学校給食に使ってもらっています。無理して品目や量を増やさず長続きする方法がこれかな、と考えました」と本橋さんは話す。この取り組みを考えたころは市街化区域内農地の宅地並み課税が叫ばれたころだった。新しい経営の展望を模索するなかで学校給食とのつながりを思いついたという面もある。
 「売り上げ高に占める割合はどのメンバーもわずかです。しかし、市場出荷だけしていた頃とは違い、誰のために作っているのか明確で仲間にも目的意識がでてきた。学校から、楽しみしているよ、といわれると励みになります。子どもたちに地元の農産物を食べているという気持ちが浸透することが大切だと考えています」。

 一年を通して何らかの農産物を供給できているし、子どもたちとの交流も生まれた。注文に応じて学校に届けるだけでなく残さも回収、それを畑に還元しているというから、学校給食をきっかけに都市農業のなかで循環型農業も実現しつつあるといえる。

日本の食文化伝える米飯給食

保谷小学校
冥賀由紀子先生

 平成5年には米不足をきっかけに、学校側から米の生産者も紹介してほしいと相談を持ちかけられた。そこで、本橋さんは青年部委員長時代に知り合った新潟の生産者に協力を依頼、今ではコシヒカリの新米を出来秋から翌年にかけて7校に供給するようになった。年間50俵程度の米を注文があればそのつど精米して学校に届けている。

 保谷小学校の栄養士、冥賀由紀子先生は、「給食はできたものをただ食べるだけではなく、食材がそのまま教材になると考えたいんです。本橋さんたちとの交流から学ぶもことも多いですから、できれば米も生産者とのつながりを持ったものを使いたいと思いました」と語る。
 冥賀先生は、学校給食の栄養士は単にカロリー計算をして献立をつくるのが仕事ではなく「子どもに食を教えるプランナー」だと考えている。そのため、冒頭に記したような食材の収穫体験や、担任教師との協力で社会科の時間に生産者を招いて話をしてもらうことなどの実現に力を入れてきた。
 また、野菜や果物だけではなく、国産小麦を使用してパンづくりをしている地元のパン屋さんからも仕入れているほか、調味料も吟味して調達している。

 そうしたこだわりをもつのも「子どものときに食の基礎を教えなくてはなりません。そのためにはきちっとした食材での食事が必要」という考えを持っているからだ。
 とくに米飯給食は、日本の食文化を伝えるためにもっとも重要だと考えている。
 「最近は、家庭でも海草を使ったおかずや煮物などあまり作らなくなりましたね。一方でいろんな食材を豊富に食べなければいけないといわれています。それを米飯給食では無理のない献立として考えることができる。しかも子どもたちに季節感を伝えるにはもっともいい食事です。栄養バランスだけなく、お米は食文化を伝えるなど大変多くの役割を担っているんです」と強調する。

「これは僕が刈ったお米かな」

保谷市の姉妹都市・福島県下郷町の「つとどうふ」を使った煮物(写真右下)。同町に依頼して材料を送ってもらった。給食で地方の食文化を伝える試みも行われている。

 目輝かす子どもたち  本橋さんたちのグループには、冥賀先生ら栄養士との交流から学校農園づくりに協力したり、保護者を招いての農業体験などまで活動の幅を広げる人もでてきた。
 学校でも保護者への給食試食会を行っているが、地元の野菜や米どころからのお米を楽しみにしている大人も多いという。「親にもこれだけ頑張っている生産者が地元にいることを知ってもらいたいし、食について本当に大切なことは何かを伝えていきたい」と冥賀先生は話す。

 そんな取り組みの一つとして新潟での稲刈り体験参加を学級通信で呼びかけたところ、今年は一組の親子が稲刈りを手伝いに行ったという。そして新米が給食に出されると、「これは自分の刈ったお米かな」と目を輝かせてすごくうれしそうに食べた。
 「こうしたいい食体験がきっと大人になっても残ると思います。生産者の方も先行き不安な面もあるのでしょうが、私たちが子どもたちのために、と話すと大変協力的で、たとえば減農薬での栽培にも次第に取り組んでくれるようになりました。これからもできるだけ生産者との交流で給食を考えていきたい」と冥賀先生は子どもの食のプランナーとして意気込みを語っている。

 一方、本橋さんは「この取り組みは、大風呂敷を広げるのではなくて、ハンカチを広げるつもりでいいと思って始めた。しかし、4、5人のグループでも始めてみれば運動になる。今では新潟の米生産者と連携して都市農村交流も生まれています。JAでも都市部と農村部が提携すればもっと広がりがでてくるのではないかと思いますね」と話している。



農協・関連企業名鑑 社団法人農協協会 農業協同組合新聞 トップページにもどる

農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp