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第46回JA全国女性大会特集
農と共生の時代をわたしたちの手で
 

特別座談会
 
21世紀を     
命と暮らしにやさしい時代へ


東京医科歯科大学大学院教授   藤田 紘一郎
佐久総合病院健康管理部部長   西垣 良夫
農業・「大泉風のがっこう」主宰   白石 好孝
司会 農業・「おけら牧場」主宰   山崎 洋子 氏
 21世紀を命と暮らしにやさしい時代にするためのキーワードが「共生」だ。では、共生とはどういうことなのだろうか、今回はそれを考えるために異色のメンバーに集まってもらい特別座談会を企画した。回虫博士として有名な藤田紘一郎東京医科歯科大教授。東京出身ながら農村医療の現場を選んだ西垣良夫佐久総合病院健康管理部長。大都会東京の練馬区で「風のがっこう」を主宰する農業者、白石好孝氏。それぞれの現場から提言をしていただいた。司会は山崎洋子さん。まずは藤田教授の「回虫講義」、寄生虫と人間との関係についての興味深い話から始まった。


葛藤のうえに「共生」がある 相手も生かし、自分も生きていく

◆人と回虫との関係本当の共生の姿

 山崎 私は福井県三国町で和牛の繁殖やアイガモ農法で米を作ったりしていますが、最近、家畜や自然が人間に対していろいろなSOSを発しているのを感じます。それを考えると、環境にしても食べ物にしても私たちが命をつなげるかどうかという瀬戸際に来ているのではないかと思うんですね。そこで、今日は、21世紀を命と暮らしにやさしい時代にするために、都市と農村との関係、自然と人間との共生などをめぐって話し合っていただければと思います。

(ふじた・こういちろう) 昭和14年生まれ。三重県育ち。東京医科歯科大学医学部卒、東京大学大学院修了、テキサス大学で研究後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授を経て、現在東京医科歯科大学大学院教授。寄生虫学、感染免疫学を専攻。寄生虫とヒト、ペットとヒトとの共生をPRしている。著書に『笑うカイチュウ』(講談社出版文化賞)、『清潔はビョーキだ』(朝日文庫)、『原始人健康学』(新潮選書)など多数。

 藤田 21世紀は共生の時代だといわれていて私もそのとおりだと思います。ただ、共生の考え方を間違ってはいけないということをまず問題にしたいですね。
 共生とは、この地球はみんなのものだから手をつないで仲良く暮らそうということだと多くの人は思っているようですが、微生物や寄生虫と人との付き合いを見ていると、共生とはそういう優しい関係じゃない。必ず葛藤があって、そのうえでお互いにどうやったらこの地球上で暮らしていけるのかという姿があるものなんです。
 たとえば、回虫と人はどういう共生をやっているのか。回虫は人にとって異物ですから、最初は侵入しようとすると免疫担当細胞が回虫の卵をやっつけ追い出そうとします。しかし回虫のほうは何とかその攻撃をかいくぐって体内に入る。そして体内に入ると、自分が親虫になるためには人の免疫力は邪魔なので、免疫力をガタッと落とすように働きかける。

 ところが自分が親虫になってからは、人が弱いと自分も困っちゃうから今度は人の免疫能力を活発化させる。つまり、人がアレルギーや癌にならないようにしている働きもあることが分かってきたんですね。
 だから、こういう過程を踏まないでただ単に、手を繋いで一緒に、というのは共生じゃないんです。そこを理解しないと、人の命を存続させるために自然とどうやって共生したらいいかという話になりません。
 ところが、共生の時代といいながら、一方で人間の世界ではIT革命なんてことが進行し、いかに早く情報を伝達するかという方向にばかりいっている。これはいかに人と付き合っていくかということを全然考えてなくて、携帯電話にしろEメールにしろ、相手の感情なんか考えずにばぁっーと言いたいことを言う。それで意見が合わなかったらぱっと分裂するというように、本当の共生に至る過程を全部省酪しているのが問題だと思います。

◆農村出身者の心の底に「自然」がある  

 山崎 相手を生かして自分も生きていく。そこが抜けると自分自身もだめになってしまうということでしょうか。

 藤田 そうです。今言っている共生というのは、闘いとか交渉という場を抜きにして、嫌だけれどもしょうがないか、という形での共生じゃないかということです。そういう共生では自分もよくならないし、相手もよくしない。本当はギブアンドテイクの関係なんですね。

 山崎 人間はだんだん自然から離れ、都会と田舎も分かれてしまって、それこそお互いのギブアンドテイクということを忘れつつあると思います。西垣先生、農村でお仕事をしていてどんなことを感じていらっしゃいますか。

(にしがき・よしお) 昭和23年東京都生まれ。横浜市立大医学部卒。53年佐久総合病院勤務、平成6年同病院健康管理部長。著書に『自分らしく死にたい』(共著・小学館)、『早わかり成人病の防ぎ方』(監修・家の光協会)など。保健予防と農村における健康な地域づくり運動に従事。

 西垣 私は佐久総合病院に来て23年になります。出身は東京ですから、東京で育って信州へ出稼ぎに行った(笑)ということになりますね。私の父は関西の三重県出身で東京に出ていきました。普通は農村から都会に出ていくわけですから、今、都会に暮らしている方の多くは農村の出身だと思います。特に昭和30年代からの日本の高度経済成長時代には多くの若者が都会に出ていきました。ですから、佐久にもお盆や正月にはかなりたくさんの人が戻ってきます。
 私は、お盆や正月に東京に帰ったことはないんですが、農村の出身の人は戻ってくるんですね。やはりどこか心の底に、田舎、自然があって、たまには戻りたいとか、あるいは都会で仕事をしても定年後には田舎で暮らしてみたいという気持ちがあるんじゃないかと思います。実際に定年退職後に都会から田舎の山の中に移り住んで、農業をやったこともないのに畑を借りて腰が痛くなるほど農作業に頑張っている方もいるんですね。田舎を求める気持ちにはなにか理屈ではないものがあるのかなという気がしています。

 山崎 白石さんは、都市住民が農業体験する「風のがっこう」も立ち上げていますが、そうした体験から見えてきた都市と農村との関係などいかがお考えですか。

 白石 私はたまたま東京・練馬区の農家に生まれ育ったわけですが、昭和30年代、40年代は周囲にも農地が多く、その風景は当たり前のことだと思っていました。

 白石 ところが高度経済成長が始まると、あれよあれよという間に大都市に飲み込まれてしまったんですね。だから、20世紀とは、私たちのような都市近郊農家にとっては、農民から地主になった時代だといえると思っています。
 そういう時代の変化のなかで確かに地主になって農業をやめていく人も多かったですが、私は地域の方々と農地を生かしながら共存していく、つまり、ギブアンドテイクでやっていける方法はないだろうかと考えて、畑に地域の方をどんどん招いて楽しい空間を作っていこうと思ったわけです。
 西垣先生が言われるように都会で暮らしている人の多くは農村の出身で、そういう方々も東京で数十年暮らして、やはり戻りたい、もう一度農業を見直したいという気持ちがあるようですし、最近では若い世代は未知数の好奇心の対象として農業を見ているという感じもします。

文明は人体を害し国土を汚染
多くの人が「人間の放牧」を求めている

◆日本の川はドブ川化、赤潮が増殖

 山崎 都会に住み清潔で人工的な文化ばかりに触れるようになっていくと、人間には多くの弊害が出てくるとおっしゃってますね。

 藤田 文明が発達したために体に非常に悪いことがいっぱい出てきました。たとえば、コンビニはみなさんこんなにいいものはないと思っていますが、いつでも、どこでも、好きなものを食べるなんていうのは体に悪いことなんです。
 われわれの体というのは1万年前と遺伝子的には変わっていません。では、1万年前はどうやって食べていたかというと、そこらへんの草や昆虫なんかを食べていた。もちろん肉も食べたいわけですが、野獣を獲るのは非常に難しかった。だから、いったん野獣を食べたら、次に食べるまで皮下脂肪としてエネルギーをためておくというシステムが人体にできあがった。それなのに、いつでもどこでも好きなものを食べるということになれば健康を害することになります。

 それから文明の発達は人の体を害しているだけではなくて、日本の国土も汚染しています。たとえば、O‐157が大流行したときに、消毒を徹底させなければならないと、実に世界の殺菌剤使用量の4分の1もが日本列島に流された。その殺菌剤はやがて土に出ていって土や川のバイキンさんを殺すわけです。
 さらに海に出てプランクトンを殺している。日本の海はどうなっているかというとドブ川化していますよ。プランクトンが殺されてしまっているから、赤潮という怖い生きものが増えている。赤潮というのはフグ毒と同じ毒を出しながら異常増殖する怖い微生物なんです。それが日本の海を覆っている。文明の発達とともに自分たち人間だけが病気にならなければいいという発想がこうした事態も招いているわけです。

◆都会でコンビニ弁当、人間の「家畜化」

 西垣 コンビニというのはコンビニエンス・ストアの略でしょうから、本当は人間にとって好都合、便利なものという意味合いがあると思います。農村にもあちらこちらにコンビニができて、私も1年に1度ぐらいはサンドイッチや弁当を買いますが、裏の表示をみればこれはすごいものを食べているなと思いますね。添加物もたくさん入ってます。ただ、現代の忙しい生活の中で、それを食べざるを得なくて都会では家族そろって食べる場合もあるといいます。現代の貧困の一つだなどと言われることにもうなづけます。一見『便利』だと思うものにも、人間的にはどうかなと思うものがあります。
 しかし、みんな決してそういう生活がいいとは思っていないと思うんですね。もう少し普通になりたいと思っているから、それが、たまには田舎に行って自分の親や親類の人たちが作ったものを食べてみよう、昔ともに遊んだり過ごした人たちと話してみようということにつながるんじゃないかなと思います。

 藤田 本当は人間が生まれ育ったりするには、いわゆる農村で自然と共生したほうがいいはずなんです。しかし、若者は全部都会に出ていってしまう。
 では、都会で何をしているかというと小さな部屋に居て、食事はコンビニのお弁当。ちょうど小さい箱に入れられた家畜のような生活です。つまり、わざわざ家畜になりに都会に来ているわけですが、それを私は人間の家畜化現象と言っています。

 山崎 和牛繁殖をしていると、3産ぐらいになると種がつかなくなることが多いんです。それはなぜかと調べると、畜舎のなかで飼っているとストレスがたまりホルモンのバランスが狂ってくるからで、それを外に連れ出し、光の刺激を受け自然の草や芝を食べると排卵が促されて種がつくと知りました。
 実際に種がつかなくなった牛は春から秋まで野山に放牧してやるんですね。そうすると全部ではないけれども、たいていは種がつくようになって戻ってきます。これを考えると、多くの人が農業、農村を求めるのは、牛と同じように人間の放牧なんじゃないかと思うんですね。1カ月ぐらい自然のなかにいて、より自然に近い食べ物を食べて体のバランスをとって都会に戻ってくるということを欲求しているんだと思いますが。

 藤田 そのとおりでしょうね。今、都会に住んでいる若者の精子はものすごく減っていますから。やはり牛と同じように家畜化しているんだろうと思います。

経済効率だけなら人体はガタガタに
食べ物は健康、生きることの基本

◆農業の見直し‐農村も変わらなければ  

(しらいし・よしたか) 昭和29年生まれ。52年東京農業大学農学科卒。54年就農。平成3年東京都農協青壮年組織協議会委員長。4年全国農協青年組織協議会委員長。現在、農林水産省農林水産研修所講師、関東農政局関東地域農政懇談会委員、東京都農林水産対策審議会農業部会委員。体験農園「大泉 風のがっこう」を主宰。

 白石 私は農業への見直しが進む一方、農業、農村も変わらなければならないと思っています。
 私が学んだのは化学農業でした。それは、いかに農薬や化学肥料を上手に使い農機具を近代化して効率よく土を扱っていくかという、ある意味では人間が神のように上にいて土をいじるという考え方のもとにやっていく農業ですよね。
 しかし、東京近郊の狭い農地で単一作物に絞り、毎年連作し続けると土がおかしくなっていきます。祖父や父の時代は、雑木林から落ち葉を集めて踏み込んで、それをたい肥化して農地に入れるという方法を何百年も続けてきたわけです。そういうリサイクルをやってきたのですが、農学部での勉強では、それは前時代的であるとされました。

 ところが近代的とされた農業をやっていくと、どんどん畑が痛んできて生産性が落ちてくる。それから滅菌状態にできるだけ近い状態で作ろうとしていますと、どんどん悪い菌ばかりがはびこってきます。土のなかに微生物がいるにもかかわらず、殺菌剤を使ってわざわざ無菌状態にして作り始めるわけですが、しばらくするとあっという間に悪玉菌にさらされる。昔とくらべると桁違いに病気が多い。
 昔はもちろん農薬も化学肥料も高くて買えなかった時代がありましたし、単一作物をまとめてつくるための機械も輸送手段もありませんから、わずかな量を人間の労力で作りながら、多くの種類の農産物を作って輪作をしてきたわけです。しかしバランスはとれていたと思うんですね。それを近代農業は完全に崩しました。そういう農業では成り立たない実感があり、どう転換して循環型農業を展開できるかという過程にあると思っています。

◆女性の方が健康への関心が高い  

 藤田 そこで私から伺いたいのは、循環型とか自然のなかで放牧するような農業の必要性はもちろん分かりますが、問題になってくるのは経済性だろうと思うんです。経済性が落ちてしまえば、理想はあってもやっていけないんじゃないですか。そこをどうするか、だと思うんですが。

 白石 確かに経済的な効率も維持し生活も維持しなければいけませんから、そのための技術革新を始める時代にきたと思うんです。科学技術に基づいた農業の視点から、やはり循環型を基礎とする農業生産に変えていくためのスタートにやっと立ったのかなと。
 これまでの有機栽培は過去の技術を継承することでやってきたわけですが、生産性、経済性の点で問題がありました。それも踏まえてどういう生産形態にし循環を作っていくかというのはまさにこれからの課題です。日本の農業技術は大変優れていると思うんですね。ただ、その優れた技術をどうやって共生型に向けられるかというのが今いちばん大きなテーマじゃないでしょうか。

 藤田 うーん、私は技術革新をあまり信じることができず、むしろこの問題はもっと社会的な問題としてJAのような団体がみんなに向けて、多少高くてもいいものを買いましょう、ということをやらないとだめだと思っているんです。
 日本は自給率が低いのに、もっと減らしてしまえとさえ思っている先進国のなかでもおかしな国です。医師の立場からすれば健康はやはり食がつくるものだということを言いたいわけですが、その食を経済効率だけで考えたら日本人の体はがたがたになってしまう。いや、もうがたがたになっているかもしれません。

 経済性だけ考えると、安いほうがいい、となる。そうなると遺伝子組み換え食品がいいということになります。しかし、食については不安なことがいっぱい起こっているわけです。遺伝子組み換え食品にしてもそうですが、なぜ、不安があるのに使用するのか。そこはやはり食べ物はいいもの、高いものを選ばなくてはだめですよという運動をやるべきだと思います。

◆価値のある食べ物を得るという発想に

(やまざき・ようこ) 昭和23年石川県生まれ。早稲田大学卒。50年結婚を機に福井県三国町で開拓農業を始める。和牛繁殖・肥育の一貫経営と、鶏100羽の飼養と野菜の栽培。平成6年に早稲田大学での全国農村女性の集会「田舎のヒロインわくわくネットワーク」の呼びかけ人。三国町教育委員。

 西垣 食べ物は人間の健康、生きることの基本だと思いますね。それに対して、安いものがいちばんだという考え方もありましたが、病院での仕事を通じてもう少しは安全で安心できるようなものを選び始めているんだと感じています。
 男性はまだまだ経済優先の面がありますが(笑)、女性は気にしていると思いますね。長野県厚生連が行っている健康診断のときに、生活上どんなことに注意をしているかを聞いているんですが、最近住民の方の約6万人のデータを分析しますと、いちばん気にしているのが食事の問題ですね。男性では回答率が54.9%ですが、女性では71.8%になっています。

 このことは毎日の積み重ねですから、とても大事だと思うんですね。すぐには運動にはならないと思いますが、地域でこういうお母さんたちがじわじわと増えているような実感はあります。

 白石 われわれはこれまでよく消費者と顔の見える関係と言ってきたわけですが、もっともっと具体的に地に着いた形で、生産者の顔が見えることを付加価値として買っていただくというような関係を作らなければならないと思います。つまり、高いものを売るんじゃなくて、価値のある食べ物を届けていくという発想に変えていこうということでしょうか。

 西垣 私たちに健康管理活動、つまり食の問題も含めた保健予防の仕事をしっかりやってほしい、1年に1回は健康診断を受けたいという要望を突きつけていただいたのはそもそも女性のみなさんなんですね。それが全国レベルの農協大会の決議になり、長野県に厚生連健康管理センターが設置されたのが28年前です。
 このように農村地域のみなさんの歴史的な運動がベースにあってこの仕事があるんですね。ところが、最近ではだんたん当たり前になってしまって、地域の方々、農協の方々も空気のように感じてしまって、自分たちが作った病院や健康管理センターだというのが薄らいでいるんですね。
 そうではなくて、いろいろな意見を言っていただいたり注文を出していただいたりしてもらいたいと思っています。私たちからすると、それは違うという意見もあるかもしれませんが、地域の皆さんと私どもとお互いのやりとりがとても大事だと思うんですね。
 私たちの病院広報誌のタイトルは「農民とともに」なんです。これが私たちの共生ということだろうと思いますが、いつしか病院は病院だけで専門的に医療をやる場所という錯覚に陥りやすいのです。とくに女性の方々は健康の問題には熱心で関心も深いですから、いろんな場面でどんどん発言していただきたいと思っています。

日本を救うのは女性しかいない?
自然との調和の中で生きる方向を

◆農産物もいろんなバイキンの力で育つ  

 山崎 いろいろお話を聞かせていただきましたが、最後に改めて提言などをお話いただけますか。

 藤田 バイキン研究の立場からすると、この地球はバイキンさんのものだ(笑)という事実を確認することが大事だと思いますね。
 地球が生まれて46億年たっていますが、地球の誕生日を1月1日としますと、バイキンさんがこの地球に生まれたのが3月25日。そのバイキンさんは10月28日までずーっと水のなかにいたんです。それから土の中に出てきて土壌菌になったり、ミミズになったり。さらに猫になり猿になったりして人が生まれた。それはいつだと思いますか。12月31日の午後7時半なんですね。ですから人はこの地球にまだ4時間半しかいないんです。それなのにこの地球はわれわれのものだと言っているところに間違いがある。

 しかも私たちの体をつくっている細胞のなかにはミトコンドリアという小さな器官がありますが、実はあれは好気性の細菌が細胞内に入ってミトコンドリアになったんですね。つまり、別々の生き物が一つの細胞になり、それが集まってわれわれの体になっているわけです。
 農産物も同じで、作物はいろいろなバイキンさんの力によってきちんと育つということです。地球はバイキンさんのものであって、人はその力を借りて生きているという意識を持つことが大事だと思います。

◆新しい時代をつくる女性の力に期待  

 白石 人類は12月31日の午後7時半に生まれたというお話ですが、きっと人類はまだまだ成長の過程にあるのではないかという気もします。これまでは経済的な豊かさを求めてきましたが、この先にはもっと違う豊かさを求めていく進化があって、それはきっと自然と調和したバランスのなかで生きていこうという方向ではないかと思いますね。そうなると私たちが培ってきた農業の伝統、経験がきっと役に立つ時期が必ず来ると思っています。

 西垣 社会はいろいろ変化していくと思いますが、私は楽観視しています。というのも人類の歴史はほとんどが飢えていた時代ですよね。飽食の時代というのはわずかに30年程度のことでしょう。これは人類の歴史からみてもほんの瞬きでしかない時間でしょうから、この方向はまた修正されると思うんです。
 私たちの健康調査では、趣味や生きがいについても聞いていますが、女性のほうが人と人との交流が盛んだし、あるいは花や野菜づくりにも関心が高く熱心です。
 20世紀は戦争と『平和』の時代、弱肉強食の時代であったと思います。21世紀は助け合うこと、すなわち協同組合の基本ですが、これが基調となるような時代にしたいですね。農村は失われそうな人間性を回復する大地のようなものではないでしょうか。その農村で農業をささえているのは、高齢者や女性を中心とした家族的農業だと思います。
 これからの新しい時代をつくるには女性の力が期待されると思いますね。

 藤田 さしあたって日本を救うのは女性しかないということでしょうか(笑)。

 山崎 男女同権だから発言する、表に出ていくということではなく、命を守るために女性の価値観が必要で、そのためにも一人一人がしっかりしていくことが求められているということでしょうね。今日はどうもありがとうございました。


座談会を終えて
 とても楽しい座談会でした。
 動の藤田先生は目には見えない微生物の世界から、静の西垣先生は農村の医療現場から、そして都会の人たちに農の現場の風を送りつづける友人の白石さん、3人3様の熱い想いが語られて、時に激しく、時に穏やかに、まるで三重奏のように心に響く座談会でした。
 21世紀、私たちの暮らしが生命と環境にやさしいくらしになるように、農村に住む女性たちが勇気をもって発言し行動することの必要と大切さを感じました。(山崎)

 


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