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特集:21世紀の農業に虹の橋を架けよう
     農業再建と地域活性化のために

鼎談 土地と暮らしが豊かになるJA改革を
JA全中営農対策室営農企画課長 松岡公明
JA甘楽富岡営農事業本部長 黒澤賢治
司会:東京大学大学院農学生命科学研究科助教授 小田切徳美
小田切徳美氏 黒澤賢治氏 松岡公明氏

 基幹品目が相次ぎ消滅するという窮地から、見事に野菜産地を再興したJA甘楽富岡。その“ドラマ”を基調に「農業再建と地域活性化ー農協の役割」をテーマに語ってもらった。「今までのJAの販売事業は単なる集出荷業務に過ぎなかった」などの厳しい指摘も飛び出した。てい談は小田切助教授が論点設定した☆地域経済における農業の役割☆地域経済の再生に果たす農業の可能性(JA甘楽富岡の挑戦)☆その挑戦の意義☆地域の特性に応じた対応(甘楽富岡の事例の「相対化」)☆農業再建を通じた地域活性化に対する農協の役割ーに沿って展開した。


若くなる帰農年齢 所得確保の受皿を

 小田切 構造改革路線の下で、林業を雇用の受け皿とする動きが急速に強まっています。そうした議論は多分、今後は農業にも及ぶことでしよう。すでに定年帰農の動きは注目されていますが、2000年農業センサスを分析すると、およそ定年帰農とはいえない若い層からの農業Uターンも増えている気配があります。
 これは地方産業空洞化の影響と見られます。農業は40、50代男子の雇用の受け皿になっているようですが、こうした動きをめぐって農協サイドではどのような議論がされていますか。

(まつおか こうめい)昭和31年熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。昭和56年全国農業協同組合中央会入会。農政部、農業対策部米麦課、総務企画部企画課長、地域振興部生活課長・女性組織活性化対策室長(兼務)を経て、平成13年より営農対策室営農企画課長。

 松岡 「定年帰農」を「人生二毛作」なんていうしゃれた例えもありますが、確かに前回センサスとの比較でも、帰農する年齢層が若くなっている動き、特に50〜64才までの中高年層による帰農の増加に注目すべきです。このような帰農が生じた背景には、この間の雇用情勢の悪化が考えられ、年齢階層別の失業率の推移と見事一致しています。兼業先である建設業、製造業のリストラ等の影響でしょうね。歴史的にみても農村には、好況時に供給した労働力を不況時には吸収し、高齢者を受け入れるという経済社会構造上のクッション的な役割がありました。
 今日、完全失業率5%、20人に1人が仕事を失う高失業時代のセーフティネットとして、農業サイドで何ができるのか、農水省でも検討していますが、既存の政策を線で結んだだけではダメだというのが私の意見です。
 農家手取りが目に見える形のJA甘楽富岡のような取り組みをしていくJAを増やすことが安全網そのものになると考えます。農村に安全網の役割を期待するなら、それに応えられ教育・研修から生産・販売までの総合的な、仕掛けを作っていくべきです。

 小田切 今おっしゃったような仕掛けは、現代の農業も含めた構造改革路線の下では、特に重要だと思います。本日の座談会の焦点もここにあります。そこで、甘楽富岡の試みですが、スタートは1990年代初めのバブル崩壊期でした。試みのきっかけや、今までの流れ、今後の挑戦などを黒澤さんにお話いただきたいと思います。

中高年は農業の宝 地域点検で商品発掘

(くろさわ・けんじ)昭和45年甘楽富岡農協入職、車輌施設部長、企画部長、金融共済部長、共済部長、地域総合開発室長、金融共済部長、地域総合開発室長、営農部長、営農事業本部長、平成10年JA全国営農部会会長、群馬県営農指導員連盟委員長、群馬県園芸振興協議会部会長。

 黒澤 実は、発端は、他産業のリストラなどではなく、地域産業の基幹品目だった養蚕とコンニャクが崩壊したことからです。他産業に流出した正組合員は2500人近くにのぼりました。そこで、地域農業をどう再構築していくか、深刻な危機感をバネに私どもの試みが始まりました。他産業に雇用された人たちの仕事は多くは単純作業でした。しかし地域には、その下にも労働弱者がいました。中高年男子と女性です。ちょうどバブル崩壊期だから、その労働力は雇用の枠外でした。
 農業は様々な世代を巻き込み総合的に産業化されていますから、私どもは、そうした中高年や女性階層の対策から着手しました。そこで非常に単純明快なプログラムを作りました。
 産業としては、カネにならなかったらダメ。生きがいだけではダメ。だから真心こめて作った農産物が目に見える形で、おカネに代わっていく商品の流れを作っていこうという考え方で取り組みを始めました。
 私は日本農業の中で、中高年は最大の宝だと思っています。大多数が食料難の原体験を持ちます。とりわけ土着のみなさんは、農業への関わり方が整然としています。
 折しも家庭菜園ブームがあり、一方では遊休農地が増えていました。その辺に着目して家庭菜園的に野菜を作り、余れば、よそへおすそ分けするというスタンスで取り組みました。この、おすそ分け集団づくりが私どものトレーニングセンターである直売所の役割だと思います。
 だから設備投資のいるような作り方は排除しました。また種をまいてカネになるまでが3カ月以内の葉物野菜から作り始めました。葉物の輸入品は鮮度が落ちるから、競争に強いという利点があります。
 一方では、地域総点検運動で地域の見直しをやりました。住み慣れた人には気づかない郷土の良さがあるものです。総点検により、郷土の育んできた作物が108品目もラインナップされました。平地に比べ中山間地には意外と産物が多様です。
 それを商品化しました。また旬はずれの物を作るには投下資本が必要で、中高年には向きません。そこで歴史が育んできた地場産品を旬の時期に作ることにしたわけです。
 JAは、産業としての農業に取り組む労働弱者を支援するために何をなすべきか、議論を重ねました。そして管内1市3町1村が力を合わせて農業を再構築していくという地域合意が形成されました。
 これに沿って営農指導事業に大きく重点をかけました。JA合併時には32人だった営農指導員が今は53人です。しかも単なる技術普及型ではなく、地域の総合コーディネートをする役割を担っています。しかし若い指導員に原体験不足の感は否めません。そこで、先進的な農業経営者や技術水準の高い組合員が参画する営農アドバイザリー・スタッフ制度をつくって、営農指導員の機能を補充してもらっています。
 学習活動は現在、年間260ほどの農業講座を開き、アマもセミプロもプロも勉強しています。うち60講座は初心者向けです。

アマからプロまで 販売チャネル多元化

(おだぎり・とくみ)昭和34年神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。農学博士。高崎大学経済学部助教授を経て、平成8年より現職(農政学研究室)。農業・農村地域政策が専門。主な著書に、「日本農業の中山間地帯問題」(農林統計協会)等、多数。

 小田切 今までのお話をまとめれば、農外産業に対しては労働弱者であり、同時に地域農業にとっては宝である中高年・女性を取り組みのターゲットとした点に特徴があります。そのうえで地域総点検運動を行いましたが、これは、自己啓発の場であり、「モチベーション(動機づけ)の場づくり」というふうにいえるでしよう。また農業講座やアドバイザリー・スタッフ制度による「技術づくり」があり、その全体を支えるような農業振興に向けた各機関の「合意形成づくり」、もあると言えます。これらの柱によって甘楽富岡の試みがスタートしたわけですが、当然この先には作った物を販売する「売場づくり」が欠かせません。その面を具体的に、ご紹介下さい。

 黒澤 市場流通型の販売では、規格と技術が一定水準に達しないと、商品として流通できません。
 私どもは、まず地場商流をねらいました。中高年・女性が作った旬の物を、コストをかけないで販売するためです。生産者が自己評価で値段をつけてトレーニングセンターである直売所に出し、売れ残れば引き取る自己完結の形です。
 これが第1段階です。次に第2段階として、量販店などの一角を占めるインショップを出店しました。これは第1段階から成長して、もっと良い商品を作れるようになった生産者向けです。私は以前に京都で、おばあちゃんが荷車をひいて回り、おなじみさんに朝取り野菜を届けている光景を見ました。それを思い出し、現代版ひき売りの考え方で量販店などと交渉してインショップを出店させてもらいました。
 そしてデーゼロ、つまり早朝に収穫した野菜を、その日のうちに食卓に届けています。価格も数量も1週間前に予約をいただくので、生産者のロスもまたゼロになっています。 第2段階まではアマ、またはセミプロ向けのゾーンです。それから上のゾーンはプロ向けで、総合相対複合取引とか市場販売をしています。さらに最上級の商品では、直販、つまりギフト販売をしています。
 40代後半の帰農者などは、プロを目ざしてステップアップしていただく意欲が必要だと思います。

 小田切 そうした取り組みの中で甘楽富岡地域には黒澤さんご自身の言葉で言えば「好農化社会」という現象が生まれ始めているわけですね。そうであれば今後、他の分野にも及ぶ農業を軸として、いろいろな展開が考えられると思いますが、それについてはどうですか。

図 : 農協はなぜインショップか、野菜が消費者に届くまでのインショップと市場出荷の時間の比較

多様化を尊重して柔軟に選択肢を

 黒澤 まず、福祉事業の展開がありますね。私どものJAでは社会福祉法人「共生」を設立し、高齢者や寝たきり老人などを対象に福祉事業を展開しています。次に食農教育があります。次代の地域農業を担う子供たちに、生き物を育てる心を持ってもらう学校教育が重要です。教育の荒廃が社会問題になっていますからね。
 うちは会長理事が学校との連携を重視しており、管内には食農教育のモデル校が続々と出てきました。アドバイザリー・スタッフも、これを支援しています。だから子供たちも産業としての農業を体験しながら、農家との融和を深めています。
 さらに農業の多面的機能を発揮する事業があります。群馬は首都圏最大の水ガメだから植林が大切です。すでに25年ほど前から、落葉樹の植林をやり、今は日本一のシイタケ産地です。植林は水ガメの機能だけでなく、四季の彩りも発揮してくれます。環境面の効果は大きい。
 地域農業が再生してくると、農業は産業、福祉、教育、環境面にも役割を果たせるようになってきたのではないかという感じがします。

 小田切 農業を軸としたJAの取り組みが総合的な地域づくりに至っていることがわかりました。では、松岡さん、全中から見て、こうした取り組みをどう評価されますか。

 松岡 結論的にいうと、甘楽富岡みたいなJAを増やしていくことが「営農の復権」になると思っています。いろいろな評価ができますが、一つは、生産現場やマーケットの多様性を尊重しながら、それを結びつける選択肢をつくっていることです。
 意欲的にプロのゾーンの販売チャネルを目ざす人もあれば、反対に年を取ったからセミプロやアマのステップに戻ろうとする人もありますから、多様な選択肢の設定は高く評価されます。
 今までのJA事業は、全利用とか無条件委託販売とかプール計算などでやってきた。しかし現場が多様化しているから、従来の事業方式一本ヤリでは農家もついていけないし、多様な市場シグナルにも対応できていない。生産部会にしても卸売市場対応で厳しい規格などのルールをつくり、それに合わないと排除する単一民族国家主義みたいな「オール・オア・ナッシング」の発想でした。
 これからは多様性を束ねたところにJAがある、という発想に切り替えないと、変化に対応できません。
 JA甘楽富岡には、全国のJAから、たくさん視察にいきます。その結果、高速道路で東京に近いからとか、稲作地帯ではないから成功したのだろうなどといった条件を挙げて成功の秘訣を結論づける向きもありますが、それは表面的な評価です。多様性を尊重するなかで、有効性を失った従来型の事業方式を変えてきたこと、つまり、「平等から公平へ」というコンセプトのもと、今流行の言葉で言えば構造改革を実践していること、その中身や手法について学んでほしいと思います。

営農指導員とは・・・それは地域の調整役

 小田切 松岡さんから「生産現場やマーケットの多様性尊重」というキーワードをいただきましたが、もう一つ、それを支える「組織としての柔軟性」というキーワードもこの取り組みからは出てくると思います。この柔軟性を確保することはJA組織としては実は大変な難題だと思います。甘楽富岡の場合、具体的にそれをどう確保されていますか。

 黒澤 プロとともに、アマもセミプロも生産機能を果たすという組織合意とJAのシステムづくりが決め手になっているのかなと思います。 設備投資をして単品型で大きなロットを作っている生産部会の役割は重要ですが、この先発の部会活動から落ちこぼれた部分として、もう少しソフトにできる農業があります。それが少量多品目の生産形態です。
 その部分を新規参入や中高年・女性のみなさんが見事に拾い上げました。そこでは、JAの各ゾーンづくりや、営農指導員の地域コーディネートが役割を発揮しました。

 小田切 確かに、品目別にではなく、地域を面として具体的にコーディネートするのは、営農指導員の新しい役割ですね。その指導員を単なる技術職でなく、総合職として位置づけたとのことですが、その辺のお話を。

 黒澤 マーケットが一番求めるのは、定量・定価、安定供給です。このニーズに近い部分を少量多品目生産でこなしていますから、そこでは指導員の指導力が大きな決め手となります。また高付加価値商品で消費者と共生できる売り方も重要です。そこには商品開発力も必要です。
 一般に計画生産のネックは、難しい規格をそろえ、パッケージし、袋詰めをし、段ボールの個数を合わせるといった出荷作業です。これが総生産作業時間の中の26%を占めます。うちでも、やっと20.8%です。この部分をパッケージセンターとして365日、JAがすべてやっています。中高年・女性が産業として営農している決め手はここです。
 一方で量販店や生協はオリジナリティのある商品を売りたい。そこで個性的なPB商品の開発となる。
 もう一つ進むと地域のカラーを打ち出した直販のギフト商品があり、様々な手法を各委員会で練ります。
 こうした生産と商品化の過程の全体をコーディネートするのが営農指導員です。自治体や関係機関との連携調整もあります。こういうふうに数え上げると、営農指導員の仕事はスーパーマン的です。
 しかしJAは、それを指導員に要請しています。そうしないと、本来の営農指導をJA最大の事業とした方針と整合性がとれないからです。

等身大の目標示し農家手取り最優先で

 小田切 生産現場の多様性を柔軟に認める一方で定量定価というある種の統一性が必要だというわけですね。この両端を結びつけ、その架け橋となるのがJA、とりわけ営農指導員が重要な役割を果たしているということでしょうか。

 黒澤 特徴をもう一つ挙げると、私どもは面積予約型なんですよ。いつ、どこの何平米で、何を作るかを営農プランとして予約します。それにもとづいて苗や資材を準備する。一方で売り先を振り分け、最後に残った分は加工に回すというシミュレーションをし、その事前データをJAに蓄積しています。
 私は、これまでのJAの販売事業は販売事業じゃない、まさに集出荷事業だと思っています。うちの商品には生産者の名が入り、供給者が特定されます。それだけオリジナリティがあるわけで、こうした売り方は営農指導の中から工夫をこらして出てきた知恵だと思います。

 小田切 営農指導員はスーパーマンだとおっしゃいましたが、私どもの言葉でいうと地域マネージャーです。地域社会全体を変革していくような仕事ですね。その人たちを精神的にも経済的にも支えていくことが本部長としての黒澤さんの役割の一つだと思いますが、その他に指導員が生き生きと働ける仕組みがJA内部にありますか。

 黒澤 それは、組織の主人公である生産者代表が事業の各分野に関わってもらっていますからね。しかもアドバイザリー・スタッフが何代にもわたってストックしてきた技術を教え、指導員を通して地域にフィードバックさせています。
 こうした支えが指導員を活性化させている原点だと思います。いい指導員ができると、いい産地が、いい産地ができると、いいJA組織が、そして、いい地域が生まれるという感じです。

 松岡 私は、JAの営農指導センターが自信をなくしていると思います。甘楽富岡みたいに、やればできるんだ、組合員もついてくるというところをつかむ必要があります。
 甘楽富岡の場合、「農家手取り最優先」という哲学を明確に出している。そのために何をしなくちゃいけないかという一つの目標を職員がつかんでいます。
 甘楽富岡では、現場の等身大の形で、「農家手取り最優先」を合言葉に一丸となって取り組んでいる、そういう仕掛けができているという点で、私どもも反省しなくちゃいけません。
 昨年のJA全国大会決議には、自給率向上とか担い手育成、農地流動化などのマクロ的な政策課題をかかげていますが、例えば、現場の農家の人に農地流動化が大きな課題ですなどといってもピンと来ない。それらは手段に過ぎません。
 手段ではなくて、手取り優先という目標、コンセプトを打ち出し、そのために何をやらなくちゃいけないかを明確にした営農指導のあり方が成功に大きく寄与したと考えています。

情報公開の徹底で組合員参画を根回し

 小田切 手段を目的化してしまう状況が多々ある中で、等身大の目標があれば、また、その目標を支えるような組合員と営農指導員の日常的なつき合いがあれば、営農改革が進むというわけですね。

 松岡 もう一つ、甘楽富岡の指導員や営農センターが自信を持った秘訣は情報公開をきちんとやったことです。肥料、農薬などの生産資材については、仕入れ原価・コストを開示し、生産部会代表による購買取引委員会で価格を決定し、販売面についても各品目、販売先毎の農家の手取り金額まで全部が集荷場に掲げられている。こんなJAはほかにはない。すべてオープンです。
 情報公開によって組合員参加が得られる。組合員が納得の上でJAの物を買い、作物を持ってくる、利用してくれる。だから管内の農業粗生産額とJAの販売高がほぼ匹敵しており、また、購買事業の利用率も9割近い。まったくお化けのようなJAです。情報公開と組合員参画型の運営方式が、最大の根回しになっています。

 黒澤 裏話になりますが、根回しが営農指導員の最大の役割です。

 松岡 私は民主主義は最大の根回しだと思っています。協同組合原則には民主的運営がありますが、甘楽富岡では、やはり情報公開と組合員参画によってルールを決める、組合員が納得しているから、そっぽを向かれない。

意識改革を進めて事業方式へのメスを

 小田切 さて食料・農業・農村基本法では「地域の実情に応じた」という言葉を多用しています。当然のことながら、甘楽富岡の営農指導方式がすべてのJAに当てはまるものではありません。
 そこで他の地域の事業方式としては、どのような点を考えるべきなのか。松岡さんから紹介して下さい。

 松岡 甘楽富岡は総合的に完成度の高いビジネスモデルです。全中ではマーケティング戦略がきちんとしているJAは、営農も活性化しているという仮説を設定してケーススタディを始めました。今まではマーケティングといっても、生産が先にあって、そこから有利販売をねらった。
 これはマーケティング戦略じゃない。市場のシグナルを生産現場にどうフィードバックしていくかが問われていると思います。アマ、セミプロ、プロまで多様化した生産者対応の解決策もそこから導かれるのではないでしょうか。
 今までのJAの販売事業は、名称は販売でも、実質的には集出荷業務でした。リスクも背負っていない。リスクヘッジをしながら、責任を持って販売するためには、無条件委託販売や共同計算などの事業方式にメスを入れることです。生産対策や構造対策を強化しても、農家手取りを実現できなければ営農指導の説得力を発揮できません。個々のJAがマーケティング戦略をどう具体化するかで営農のあり様も決まってくると思います。戦略の失敗は戦術でカバーできませんからね。

 小田切 また農協法改正で営農指導事業が強調されましたが、全中では、それを支えるために、どのような試みをお考えですか。

 松岡 営農事業再構築の切り口は体制整備、マンパワーの問題から指導財源の確保までいくつかありますが、まずは意識改革です。農政運動で何とかせよという意識構造があります。これは制度・政策依存型の他力本願です。
 今は、ほとんど市場原理で価格が決まっており、その価格形成も多様です。営農はそこに勝負をかける自力本願の世界です。自己責任原則でマーケティング戦略による企画力と行動力で勝ち負けが決まります。甘楽富岡では地域総点検運動で意識改革が図られているんですね。

 小田切 では最後に黒澤さんから言い残したと思うことがあれば語っていただければと思います。

 黒澤 農産物供給の補完体系を作り、地域をコーディネートするためにJA同士の連携を求めています。それによって新しい産業が生まれるのではないかと期待しています。

 小田切 では、本日は現場から政策まで及ぶ多面的なお話をどうもありがとうございました。


鼎談を終えて
 いまや、農業・農協関係者では知らぬ人はいない群馬県・JA甘楽富岡の取り組みを中心に、同JAの黒澤本部長、また「営農の復権」を標榜し積極的に発言する松岡課長(JA全中)と議論した。話の中でも出てきたように、その取り組みは、農業の経済力、福祉力、教育力等を多面的に発揮した、農協を軸とした総合的地域活性化の試みと言える。
 鼎談では、特に、高齢者・女性をはじめ多様な担い手による地域農業振興とそれを支えた営農指導事業のポイントを明らかにすることに焦点を絞って議論した。そして、その結論は、黒澤本部長の次の発言に尽きている。「いい指導員ができると、いい産地が、いい産地ができると、いいJA組織が、そしていい地域が生まれる」。これが、再び「いい営農指導員」を支えるという好循環を、いかに創り出すか。営農指導改革の論点もまた、この点に尽きていよう。黒澤本部長の自信と確信に満ちた名言である。
 農協法改正による、農協の営農指導事業への重点化をめぐる議論は、いまになって活発化しはじめたようである(たとえば本紙9月30日号の藤谷教授の論文や三輪教授等の対談)。
 しかし、黒澤本部長の発言をはじめとする今回の鼎談は、そうした議論とは異なる次元で、単協やそれを支援する全中では、営農指導事業改革の議論と実践が確実に先発していることを教えてくれているのではないだろうか。
(小田切)





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