JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

特集:21世紀の農業に虹の橋を架けよう
     農業再建と地域活性化のために

21世紀の日本農業と「安心システム」
新世紀の食・農哲学「身土不二」の創造を

JA全農 大消費地販売推進部農畜産物検査・認証事務局長
原 耕 造 
 狂牛病の発生が大きな社会的問題となり、食品に対する「安心・安全」のあり方が問い直され、「全農安心システム」が提唱する「トレーサビリティ」への認識が高まっている。そこで、このシステムの基本的な考え方を原耕造全農農畜産物検査・認証事務局長に執筆してもらった。

今起きている事の背景

(はら・こうぞう)東京都出身。昭和50年大学卒業、同年全農入会。57年本所・首都圏販売事業部・販売企画室、61年ドイツ・デュッセルドルフ駐在員、平成2年東京支所・住宅部・農住課、6年本所・大消費地販売推進部、12年検査認証事務局長兼務現在に至る。主な著書『新しい証券市場の創設と環境資産管理』(日本計画行政学会)『これからの農協産直(家の光)』他。

 狂牛病の問題は留まるところを知らずに、消費者には食品不安を、生産者には経営不安を、流通には販売不安を引き起こしている。現在、狂牛病だけが問題となっているが、それ以外にダイオキシン、O157等の食品に係わる様々な危害に対してどのように対処したらよいかの問題は以前から指摘されていた。現在の法律の枠組みを修正することで対処しようという動き(食品衛生法の改正要求)もあるが、関係する省庁が複数に渡ることもあり誰もが手を付けられなくて現在に至っている。
 それでは何故手が付けられないのかというと、従来の行政の枠組みのなかでは対処できない問題だからなのだ。従来の枠組みでは飼料・肥育・屠畜・加工・流通・消費それぞれの場面でそれぞれの法律があり、国民の命と健康は保証されていた。しかし今起きている事は、それぞれの場面がどのようにつながっているのかが分からないと解決できない問題であり、それを解決する仕組みは一部を除き日本だけでなく世界にも無いのである。

今、何が必要なのか

 それではどうしたら良いのかというと、飼料から消費までを1本の鎖でつなぐ仕組みを早急に作ることなのだ。消費者が食べる牛肉に飼料の成分から個体管理された牛の履歴書が付いていて、その履歴書を消費者自身が見て判断をするという仕組みである。
 このように食品の生産履歴を明らかにする仕組みを「トレーサビリティ(Trace‐ability)」と呼んでいる。向こう側が透けて見えるトレース紙を意味する「Trace」という単語に可能という意味の「ability」という単語が付いた造語なのだ。つまり消費者は牛肉の履歴書を見れば飼料に「肉骨粉」が入っているかどうか、自分自身で判断できるという、全く新しい社会の仕組みなのだ。しかし現在の縦割り行政のなかでこの仕組みを作ろうと思っても非常に難しいというのが現状なのだ。

トレーサビリティと安心システム

 実はこの仕組みを作ろうとしているのが「安心システム」なのだ。当初、このシステムを企画した時は、有機JAS法に対してJAグループはどのように対処したらよいかという視点であり、食品危害への対処策としての位置は低かったが、時代の激変のなかで現在では非常に注目されてきている。システム開発に係わるこれまでの経過と今後の予想を表にしてみた(表参照)。

トレーサビリティの効果

 トレーサビリティについては今後、新聞紙上を賑わす言葉になり、食品危害に対するキーワードのようになると思うが、この仕組みがもたらす効果は多岐に渡っている。
 1つ目の効果は「消費者の食品危害への対応」という形で現れる。
 消費者はトレーサビリティによって開示された情報を得、分別流通をされている店舗で農畜産物を買うことが可能となり、消費者の安心が担保される。
 2つ目の効果は「生産者の風評被害への対応」という形で現れる。
 現在でも牛肉の消費は減退し相場が下落しているが、消費者だけでなく生産者も被害者なのだ。これまで狂牛病だけでなく、O157の風評被害を受けたカイワレ大根の生産者、ダイオキシン風評被害を受けたホウレン草生産者、これまでに数え上げればきりが無いほどの被害を受けた生産者がおり、今後も受ける可能性は総ての生産者にあるのだ。安心システムを導入することにより、生産者は自分たちの「無実を証明」し、更に自分たちの農畜産物がどこで売られているかを消費者に訴えることが可能となり、生産者の安心が担保される。
 3つ目の効果は「生産者と消費者の直接対話の対応」という形で現れる。トレーサビリティは農畜産物の生産履歴を遡及する仕組みだが、生産をしている人も地域もトレースできるという効果を持っている。従来は生協等の産直交流会以外にはなかなか生産者と直接話したり生産地を訪れる機会はなかった。しかし生産履歴の情報が開示されているホームページからリンクしている生産者のホームページへ飛べば、誰でもが生産者と直接会話ができ、会うこともできるのだ。

食と農の距離を縮める

 このように安心システムは「食の安全性」だけの仕組みではなく「食と農の距離」を縮めるという狙いも持っている。これからの食品売場は、まさにトレースされた食の情報の発信基地となるだろうし、その結果、食と農の距離を縮めた国産農畜産物が輸入農畜産物に対抗できるようになるのだ。セーフガートが本格発動された場合、猶予期間の間に安心システムの導入を図り、消費者の信頼を勝ち取らなければならない。

食農教育と経済事業の連携

 これまで食農教育・総合学習・産直交流会・グリーンツーリズム・自然保護・環境保全型農業等の取り組みはなされてきたが、有機的つながりはなかった。安心システムでは、これらの従来の取り組みをトレーサビリティという一つの手法で繋げる活動を展開している。
 安心システムは有機や減農薬栽培のように一定の基準を設定する仕組みではなく、消費者(取引先)と合意した生産基準に基づき生産履歴を遡及する仕組みなので、環境負荷を軽減する目標値については規定がない。しかし生産基準に対する取引先との協議のなかで生産資材の使用方法等の環境負荷軽減について合意がなされ、それが目標値となる。更に取引先と合意した基準と環境負荷軽減との関係を明確にするために、産地に環境監査の仕組みを導入している。

環境監査と「身土不二」

 環境監査とは生き物調査に基づき、環境負荷軽減の目標を復活させる地域の棲息動物に定める活動なのだ。従来の人間中心の生きかたから地域の棲息動物とともに生きる方向に転換し、棲息動物の目線に合わせた農業生産方法を地域全体で実施しようとする試みなのだ。活動には地域の稲作農家、畑作農家、畜産農家、地域住民、地域の子供たち、産直の消費者、地域JA、地域行政、ボランティア等が参加し、皆が一体となって負荷軽減のための行動計画を作成し、それを皆で実行をしてゆこうということなのだ。
 これはまさに20世紀までの人間中心、経済合理性優先の生きかたから、地球の他の生き物との共生を基本に置くことであり、21世紀の新たな哲学「身土不二」の創造なのだ。
 21世紀の日本農業はまさにそれを体感し実現する産業であり、農村はそれを実現する場所であり、生産者と消費者はともに生活者としてそれを実現する生き物なのだ。
 21世紀の生きる哲学として「身土不二」があり、その生きかたを手助けする仕組みとして安心システムが存在する。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp