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特集

座談会
米政策改革 その問題点を突く−−1
“不測の事態”に備えた根本的視点を考える時機

東京農工大学前学長 梶井功氏
立正大学教授 森島賢氏
JA全中・食料農業対策部水田農業対策課長 馬場利彦氏

 農水省が示した米政策の抜本的な見直し方向をめぐって、本紙ではその問題点を考える座談会を数回にわたって行い順次掲載していく。今回の出席者は梶井功前東京農工大学学長、森島賢立正大学教授、馬場利彦JA全中水田農業対策課長。 
 梶井氏は、米政策の見直しにあたってはまず生産調整政策の位置づけを真剣に検討すべきだという。そのうえで、生産調整は価格維持のためだけではなく、不測の事態に備えた水田機能の維持のための政策だとすれば国が責任を持って組み立てるべきものとなると指摘。国は抜本的な見直しというが、真に根本的な視点とは何か、考える時機に来ている。

米政策の「抜本的見直し」と「素案」がめざすものは何か

東京農工大学前学長 梶井功氏
立正大学教授 森島賢氏
JA全中・食料農業対策部
水田農業対策課長
馬場利彦氏
 森島 農水省は、米政策を大幅に見直す方針を決め9月の末に検討素案を示しました。この見直し案についてどう考えるべきかがこの議論のテーマですが、まず梶井先生からこのところの農政をめぐる基本的な問題意識をお話いただけますか。

 梶井 米政策を抜本的に見直す方針が示される前の8月末に農業経営政策に関する研究会報告がまとめられましたね。
 この研究会は、昨年末に自民党が新たな農業経営所得安定対策を検討する方針を打ち出したのを受けて始まったものですが、事の始まりは、稲作経営安定対策がもう底を割りそうだからそれに対して何らかの策を講じなければいけないということからでした。。ただし、稲経を単に補完するのではなく、さらに幅広い経営安定対策を検討すべきだという注文がついていたかと思います。
 ところが、それを受け止めた農水省の研究会では、稲経のどこに一体問題点があるのかという吟味をやめてしまって、それを抜きにした経営安定対策の議論にもっていってしまった。
 そして、結論として出された経営安定対策の考え方とは、著しい価格変動が望ましい経営に悪影響を及ぼしており、それが経営の発展にとってマイナスになるから、なんとか経営を安定化させる工夫はないかというものです。
 この結論は最初に出された問題をすり替えていると思う。
 新食糧法に移行して、つまり、価格形成を市場に任せてから、米価は下がりっぱなしです。その状況のなかでこれから大いに期待したいという3〜5fの稲作農家が音を上げているわけですね。これに対してどうするかを考えるべきであって、研究会が問題にしたような著しい価格変動に対してどう対応するのかという問題ではない。ずっと価格が下がり、低い水準に張りついてしまっている。それで困っているから何とかしろというのが問題提起のはずだったわけですね。
 だから、本当は元にもどって稲経がなぜだめになって、それに対してどういう手当を講じるべきかをまず議論しなければいけない。ところが、それに対する検討を抜きにして農水省は稲作の構造改善が特に遅れているから、構造改善にプラスになるように、米政策の抜本的な見直しをしましょう、と出してきた。この出し方自体おかしいんじゃないかと思うわけです。
 今回の政策の出方をみると、衆議を集めて結論を出したとは思えない。これでどうだと大臣が私案を出し、農水省から押しつけるような形で出してきている。政策をみんなで議論して組み立てていこうという姿勢がない。
 新しい経営政策が先ほど指摘したような問題のすり替えのうえに結論が出ていることも問題ですが、それ以上に今度の米政策の抜本的な見直しの方向自体も大問題です。当面の重要性からすれば、来年度の政策にも影響する米政策のほうがはるかに大きい。米政策改革を緊急に議論すべきだろう。

新たな「担い手制度」は必要 副業農家除外は認められない

 森島 ご指摘のような認識のもとに議論をしていき、いずれは経営政策についても改めて議論しなければならないと思いますね。さて、問題の食糧庁の素案ですが、見直しの基本的な視点として、担い手に焦点を当てた農業構造改革の促進、効果的かつ主体的な需給調整体制の構築、規制緩和などによる効率的な流通の実現などを挙げています。
 そのうえで具体的には、生産調整方式を生産数量管理へ移行すること、対象から副業農家を除外する方向だとも言われている稲経のあり方の見直し、備蓄水準を150万トンから100万トンに引き下げるなどを示していますね。まず、この素案についてJAグループはどう考えているのか、解説していただけますか。

 馬場 われわれとしても水田農業のあり方が今のままでいいとは思っていません。集落を単位として集落営農を含めた地域の担い手を中心に米の価格と需給の安定、あるいは自給率の向上を実現する水田農業の構造にしていくことは必要だと考えています。
そのために、担い手の明確化をはかる新たな担い手制度の確立や計画的な農地利用、利用集積をはかる仕組みなどの確立が必要だと思っています。
 ただ、現在の生産調整制度では、生産調整未実施者との不公平感が拡大しており、あるいは生産調整を達成しても価格は下落し、しかも需給バランスをとるため計画流通米のみで豊作分処理を負担するなど問題が多い。
 ですから、米政策を見直すなら、需要に即した米の計画的生産が可能な公平性のある仕組みの確立がもっとも基本だというのがわれわれの姿勢です。
 そのうえで食糧庁案の稲経の見直しに対しては、副業農家を除外することは到底認められないし、補てん基準価格の固定は、新たな経営所得安定対策が措置されるまでの間は実施されるはずでしたから、この措置は引き続き必要だと主張しています。
 また、生産調整の生産数量配分方式への移行は、実効性ある管理、確認対策の確立が必要ですし、実施する場合も円滑な移行対策が必要だと言っています。さらには、改革を進めるうえでは、これから11月までの間で決めるのはあまりにも性急で、生産者の合意が得られるよう段階的に進めるべきだということも強く訴えていきます。
 総論的にいえば、米の課題をどう解決するか、その軸は何なのかということですね。
 確かに、水田農業の構造改革をしていかなければいけませんし、食糧庁案でも、集落に焦点を当てた日本型CTEの導入による助成とか、あるいは生産数量配分方式のもと需給に合わせて生産していくために、集落単位でコントロールできるようにしていこうという方向を提示してはいます。その点ではわれわれが主張する集落を軸にした改革に着目しているのかなと思います。
 しかし、片方で担い手に施策を集中します、副業農家を稲経から除外しますと言っている。これは論理が一貫していないと思います。
 とくに副業農家を稲経から除外するというのは、現場の実態からしても真っ向から対立するところです。農業経営政策に関する研究会での議論では、担い手の経営安定に着目した対策を用意するのは大事だという議論でした。
 ただ、経営安定のベースとなる稲経の参加者は、まさに生産調整に参加し、かつ計画出荷をして需給・価格の安定を支えている人であり、そういうベースがあるから需給安定が担保され担い手の所得なり収入が安定する。しかし、それでも担い手にさらに足らざる部分があればそれを措置するものとして、新たな経営所得安定対策を求めているわけです。
 ところが、その1階部分を削りますという話でしょう。これはわれわれとしては大反発です。構造改革の方向にも沿わないと思いますね。
 水田農業の構造を変えていくには、ベースをこわして担い手に集中させることで構造が変わるのかということです。

 森島 梶井先生はどのようにお考えですか。

 梶井 馬場課長が指摘した素案に示された構造改革問題の重要性は全くその通りですが、その議論に行くためにも、今日は、米政策の見直しにあたってのもっと根本的な問題を食糧庁にも農業団体にも提起したいと思います。
 それは生産調整の位置づけを今こそはっきりさせるべきではないかということです。生産調整とは価格維持のための生産調整なのかどうか……。

水田は農業資源の宝物 生産調整は食料確保の保険

 梶井 私は、価格維持のための作付協定に政府が助成することを悪いとは言いませんが、それならまさに食糧庁が言うように生産調整の問題は、まずは生産者団体が自主的にやるべきで、それに政府の助成がある、ということになる。
 しかし、価格維持のための生産者の作付協定という位置づけでいいのかどうか。そこを一度突っ込んで議論しておくべきです。
 新基本法は自給率の向上を前提にし基本計画では45%という数値目標も掲げていますが、同時に強調されているのは、どんな事態になっても国内農業を基本にして食料の安定供給を行うということです。食料輸入が長期にわたって途絶えるという不測の事態に備えるため、基本計画では、一体、国内生産でどれだけ食料供給できるかという数字は示しているわけですが、それにはまずどれだけの耕地を確保しなければならないかを最重要課題として考えられなければならないはずです。
 そのなかで水田がどういう位置を占めるのか。政府は今のところ明確にしていないが、生産調整の問題を考えるには、まずこの問題を押さえておく必要があると思う。
 日本の農業資源のなかでやはり当てにできるのは水田です。本当に不測の事態に備えるなら、水田はどれだけの規模を維持するのか、どこのどういう水田を維持するのか。これを明確にすることが大切になる。その結果、水田面積250万ヘクタールの確保なのかどうか。米政策の抜本的見直しをやるなら、そういう覚悟を決めるべきなんですよ。
 もちろん、その面積でめいっぱい米を作ったのでは、過剰になってにっちもさっちもいかないし、輸出補助金をつけて海外に売るだけの力は政府にない。主食として必要な作付け面積と水田として維持したい面積の間にはギャップが生じる。そのギャップをどう埋めるかというのが国の政策としての生産調整政策の課題、ということになるのではないか。
 生産調整は不測の事態に備えるという大目的のためのものになるわけですから、生産者の価格維持だけのための政策ではなく、国民の食生活の安全を確保するための保険なのです。われわれはいざというときに備えて水田の機能を維持するために毎年保険料を支払っているということなんです。
 もし米の需給調整だけ考えて、食料の安定供給政策などは考えなくていいのであれば、米はいちばんコストが安くできるところだけで作るという政策をとってもいいわけですよ。
 ところが、不測の事態の備えを考えればそんな政策はとてもとれません、と。だから、生産性の高い水田でも少し抑制してくれ、あるいは逆に山間地の棚田はコスト高かもしれないが山に還元せず、いざという時に水田機能を発揮してもらうためには維持してほしい、となる。
 つまり、どういう観点で生産調整を位置づけるのかということが、米政策を抜本的に検討するときに真っ先に議論されるべきだと思いますが、それがこの素案にはそういう観点はまったくありません。

豊作処理も「価格維持」でなく水田維持のための政策に

 森島 そうした考え方は今まであまり強調されていませんでした。だから、生産調整などいっそやめてしまえばいいではないかという話になってしまう。しかし、水田に復活できる状態にしておくことが重要だというのであれば、たとえば水張り水田にも意味が出てくるわけですね。

 梶井 新食糧法に移行するころから、これは生産価格維持のための作付協定であり、生産者の問題だから需給調整は自分たちでやれという話になってきたんじゃないか。そこがそもそもおかしい。
 不測の事態に備えると法律に書いている。何を用意しなければいけないのかを考え、必要な手当をするのは国の責任です。
 麦、大豆、飼料作物の本作化をめざした水田輪作という体制でがんばっていく水田と、それはとても無理だからと水張り水田という形態や、あるいは飼料米を生産する。そのかわり飼料用米は1ヘクタールあたり15トンもの収量があるような増収技術の開発を考える。こういうことも考えながら、水田としての機能を保持すべき面積と米の作付け面積とのギャップを埋めるわけです。

 森島 その視点は備蓄政策や豊作処理対策の問題にも通じる話ですね。価格維持のための豊作処理ではなくて水田維持のためだと。そうなるとそれも生産者だけの問題ではなくて不測の事態に備えて水田機能を維持する国の仕事だということになります。

 馬場 われわれも新食糧法になって以来、生産調整実施者のメリットを追求してきました。その根拠は、ある面では水田を維持し、利用する体制をつくっておかないと、いざというときに米が生産できなくなる、不足する作物拡大がはかれないということです。だから、転作助成もあるし、稲経もある、と。政策要求の根拠としてはこういうことです。
 ただ、そのメリット対策が十分ではなく、しかも豊作も続いて生産調整をしても価格が上がらないという状況も続いてきており、そのなかで、調整保管や豊作処理のための青刈りや飼料用処理という形がででてきたわけです。

 森島 ただ、今の政策では、過剰の処理コストは生産者が負担することになっていますね。だから、米を飼料用にするという声がなかなか出てこないわけで、そこが問題だと思います。

 馬場 過剰の発生は生産調整の達成率の問題もありますが、結局は豊作ですよね。その処理には国も助成していますが、それにしても責任はわれわれに来るわけです。
 農協としては過剰分は売れない米ですから、それを同じ値段で買い取ったら不良在庫です。だからこそ、共同計算で処理コストを負担しているわけですが、このことが計画外との不平感となり、競争力の低下となって事業が持たないのが実態です。計画生産数量分は、もちろん売れる米ですからそれは保証しますが、それを超える分は売れないわけですからね。大胆な言い方をすれば、今の制度では農協が需給調整に責任を持てる範囲を超えているということです。
 こういう計画流通米だけに需給調整を押しつけている今の制度がわれわれの要求の根本にある不公平感につながっている。ここを何とかしないと。国と生産者団体、生産者が役割分担しながら豊作分の過剰米の対策を行い価格を維持していかざるを得ないと思います。
 そういう装置が今度の食糧庁案には何もないんですね。備蓄水準にしても国は100万トンにしますと示しているだけで、後は生産者が主体的に調整するということだけです。少なくとも計画米出荷者だけでなく全生産者が豊作対応の基金を拠出するということはできないのかというのがわれわれの主張です。

 森島 また、備蓄制度も本当の備蓄になっていないことが大きな問題ですね。

 梶井 そう。回転備蓄なんてそもそもおかしい。1年後には市場に出すなんていうのは単なる在庫政策です。棚上げ備蓄をしていてそれを食べなくて済んだというなら、これはもう天の恵みに感謝して廃棄するのが筋ですよ。また、日本は100万トンの米を海外援助する用意がいつもあるということを対外的に示すことも意義があることです。備蓄というからには棚上げ備蓄にすべきなのです。

 森島 備蓄用の米としては飼料米を作るという方法もある。いざとなったら飼料米を食べると。つまり、普段は主食用には向かない米を備蓄しておくという仕組みも考えられますね。

 梶井 不測の事態に備えて水田機能を維持するならそうした方法のほうが有効かもしれません。

 森島 今日は梶井先生からの問題提起を受けて生産調整や備蓄、豊作処理策の問題点まで議論しました。次回は構造改革の考え方と食糧法の問題点を考えたいと思います。


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