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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える

インタビュー
JA改革を考える
「JAは輸入農産物を扱わない」方針を
大会議案に盛り込むことを検討


JA全中 山田俊男専務理事に聞く

聞き手:岸 康彦 ((財)日本農業研究所研究員)

−自らの実践を大切に−
 JAグループは第22回大会でJA改革に取り組むことを決議し、行動計画を作成して進捗状況も明らかにしながら改革を進めてきた。ただし、課題はまだ多く、とくに食と農へ信頼の再構築に対してJAグループに大きな期待が寄せられている。その期待に応えるため、営農・経済事業をはじめ信用、共済事業についても今年からどのような改革に取り組まなければならないかを、今回は、全国連や食品産業トップへのインタビュー、生産現場の第一線で新たな挑戦をするJA役職員の座談会などで考えてみた。自ら実践することを大切に着実に成果が上がることが期待される。
◆安全・安心の運動定着へ

山田俊男氏
やまだ・としお 昭和21年富山県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科卒業。昭和44年全中入会、60年農畜産部米穀課長、平成2年組織部組織課長、5年組織経営対策部長兼合併推進対策室長、6年農業対策部長、8年常務理事、11年専務理事就任。

 岸 農水省は「農協のあり方研究会」の検討項目を4側面から提起したと私は思います。一つは消費者に対する農協の責任、二つは営農・経済事業の改革、三つは企業との公平な競争、四つは行政との関係です。そこで一番目ですが、消費者は食への不信感とともに農協に安全・安心を保証してほしいという期待感を持っていると思います。安全・安心の取り組みはいかがですか。

 山田 JA全中としては外部の有識者もメンバーにした経済事業刷新委員会を設置し、JAグループとして徹底した食品の適正表示に関する自主点検もやり、さらに安全・安心な農産物供給のための自主行動基準をつくりました。その基準の具体的取り組みでは農産物のトレーサビリティ導入に向けた生産の工程管理と記帳運動などがあります。
 それから全JAに消費者を入れた安全・安心委員会を設けることを打ち出し、これらはすでに実施に移しているところです。また今年秋に開くJA全国大会決議案には、そうした新たな取り組みの展開を盛り込むことにしています。

 岸 そうした活動について、農協は世間にもっと知らせる努力が必要です。

 山田 そうですね。決議の大きな目玉の1つとして、JAグループは輸入農産物を取り扱わないという運動を起こすことが打ち出せないかと今、議論をしています。これは生鮮農産物だけでなく加工農産物も含めてです。ただし海外から入れなくてはならないもの、例えば肥料や農薬の原材料、飼料穀物などは別です。現実にそういうことをやれるのかどうか実態調査を急ぎます。

 岸 非常に明快でわかりやすい運動ですね。それくらいの決意がないと、2010年に45%という自給率目標なんか達成できませんよ。実は私も農水省の「あり方研究会」に同じような意見を提出したんです。農協としては、日本で調達できるものは原則として輸入するべきでない。私が食品表示偽装で一番ショックを受けたのは、自給率向上を主張する農協が輸入肉を扱っていたことです。

 山田 国内産では不足するハムや乳製品などの原材料を輸入せざるを得ない実態もありますが、そんな場合は海外の協同組合から仕入れるなど協同組合間提携を進めます。そして、そのことをきちんと表示します。

◆経済事業改革の先進事例を普及

岸 康彦氏
きし・やすひこ 昭和12年岐阜県生まれ。早稲田大学文学部文学科卒業。昭和34年日本経済新聞社入社、60年論説委員、平成9年定年退職、同年愛媛大学農学部教授、14年定年退官、同年(財)日本農業研究所研究員。著書「食と農の戦後史」(日本経済新聞社、1996年)、「食糧法システムと農協」(共著、農林統計協会、2000年)等。

 岸 次は組織内部の改革について。信用事業のほうは農協改革2法でJAバンクシステムによる「破たんしない農協」の体制に向かっていますが、営農・経済事業は事業の性質上、法律にはなじまないので、自己責任でやるしかない。改革の進行状況はどうですか。

 山田 営農・経済事業は地域の特性を踏まえたものですから信用・共済事業に比べシステムの一本化がしづらいのです。改革で成果を上げている先進事例をどう普及し拡大していくかが一つの課題です。

 岸 販売事業は地域特性の豊かなものを売っていくのだから単協中心にやってもらう。購買事業は単協でできない部分があるから、必要に応じて連合会が補っていく。こういう体制が経済事業の基本だと思いますが。

 山田 その考え方で進めています。販売事業は地産地消を含めて地域の消費者への供給の仕組みをつくることが課題です。購買事業は安価で良質なものを供給するネックである物流コストの低減をまず追求すべきですね。

  購買では農協の資材は高いとか、また大口も小口も同じ値段に対する担い手農家の不満が強く、“平等から公平へ”の転換が求められています。

 山田 “公平”の仕組みは品目によっては相当進んでいますが、さらに小口の組合員の納得を得てゆく取り組みが必要です。またJA離れを食い止めるには、50年間踏襲してきた事業のやり方を見直し、例えば予約注文でなく場合によっては入札方式の導入とか、市価主義や利用高配当方式でなく、具体的な価格でメリットが出る仕組みにすることなども考えないといけませんね。

◆JA経営に外部の知恵導入をさらに

 

 岸 改革の進んだところと、そうでない農協の差が大きいのです。やはり役職員の意識改革が大事ですね。先進農協は組合員へ徹底的に情報を流しています。例えば合併に伴って資材の配送拠点を廃止・統合するにしても、それによって地域の組合員が少し不便になることを隠さずに話し、その代わり事業の効率化によるメリットをこのような形で還元する、と十分に説明し、納得ずくで実施する。組合員に対して最大限のサービスをすることの意味が、役職員によく理解されているのですよ。

 山田 おっしゃる通りですね。意識改革のためには、場合によっては外部の有識者に気楽に経営陣にはいってもらって専門的な知識や新しい知恵を注入する仕組みも必要です。

  全農は経営役員会に外部の女性を入れることになりましたね。画期的なことです。

 山田 現在のJA理事会制度でも3分の1は員外の方を入れる枠がありますが、いざという時の責任の取り方とか地域の代表者を理事にしたいとかの事情から余りすすんでいません。

 岸 せめて消費者と定期的に懇談会を開くなど、もっと組織の外と交流すべきです。

 山田 もっともです。最近、信用事業の資金運用で組合長による不祥事が発生しました。公認会計士や税理士が経営陣に入っていればチェックできたかもしれません。ただし、女性や青年の参画については数値目標を掲げて促しています。

 岸 私は内部チェックのためにも青年部と女性部の代表を理事にすることを義務づけよといっているんです。それから企業では最近、いわゆる内部告発者を助けるシステムをつくるようになっていますが、どうですか。

 山田 少なくとも組合長や役員に意見が上がるシステムをつくるべきです。そのため、従来のJAの文化を改革するような運動が必要かも知れません。JAには事業にばかり集中している部分があります。しっかりしたJAは事業以外の活動分野を持ち、ボランティア活動が介護事業に発展したり、学校給食や食を考える取り組みがファーマーズマーケットに結びついたりしています。事業以外の分野に乗り出していく必要があります。

◆独禁法適用除外は原点からの議論を

 

  「あり方研究会」で全青協の門傳英慈さんが「農協は社会的インフラだ」と発言しました。例えば雇用にしても、農村ではしばしば農協が役場と並ぶ最大の雇用の場です。その意味で農協は自ずから社会的責任を負っています。役職員には、それに応える自負心を持ってほしいと思います。
 次の話に移ります。政府の経済財政諮問会議や総合規制改革会議などで農協の独禁法適用除外をいつまで続けるのかという議論が出ました。「あり方研究会」で説明した公正取引委員会事務局の人も、あからさまではないものの全国組織からは除外規定をはずすべきだといっていました。この問題は昔から何度も蒸し返されていますが。

 山田 適用除外は生協とか中小企業事業協同組合なども含めて世界中の協同組合に認められています。それは小規模事業者などが協同で大独占企業に対抗できるようにするという趣旨からです。その原点に立ち返って議論していただきたい。
 連合会についても例えば全農は激しい競争にさらされています。具体的に各事業をみると、それはあくまで単位JAの事業を補完し、またサービスを提供しているという内容であり、全農が独自に独占的行為をしているわけではありません。
 これらを問題視する背景には、経済の落ち込みで企業が苦しいからJAに批判の矢を向けているのではないのでしょうか。海外など新たな輸出先開拓や資本進出をもくろむ企業にとって、自由貿易協定やWTOの自由化交渉に抵抗しているJA陣営は好ましくないといったこともあるのではないかと疑いたくなります。

 岸 公取委は、もし全国連に独禁法を適用したとしても不都合は起きないはずだ、といういい方をしています。

 山田 連合会の事業がJAにとっていかに大事かをきちんと検証し反論したいと思います。

◆JAの力を発揮して遊休地守る具体策を

 

 岸 背景には例えば資材業者などが農村にもっと売り込みたいという欲求のほかに異業種から農業に参入したいとのねらいもあります。そのこととの関連で構造改革特区構想の結末についてはどうですか。

 山田 遊休地に限るとか、農地は借地にするとか、農業経営の内容について市町村と協定を結ぶなど、ぎりぎりの参入条件つきなので、そう心配することはないと思います。ただ農地を財産であり、投資先であるとして最終的には転用をねらって参入してくる心配はあります。
 農地利用に厳しい制約のある現在でも産廃や建築資材や中古車の置き場などになっている農地が随所にあります。農地がなくなり、農業生産ができなくなればJAは存立基盤を失ってしまうのに、JAは、そうした違反に具体的に対応できていません。
 遊休地活用ではJA出資の生産法人をつくれるし、農地保有合理化法人の資格もあるのだからJAはきちんとした土地利用計画を作り対応すべきですが、力不足です。そこを苦しんでいる企業にねらわれています。
 また、市町村には特定利用権の設定という遊休地を発生させない仕組みもあるのですからJAは自治体といっしょになって農地を守れるのですが、その力も欠けています。

 岸 私は特区が借地方式で決着したことを評価しています。企業側では借地しか認めないことに不満もあるようですが、それに対しては、なぜ借地でいけないのか、なぜ所有しなくては農業ができないのかを問い詰めるべきですよ。土地投資がいらないのだから、本当に農業をやりたいのだったら借地のほうが有利なはずです。
 さて最後に農協と行政との関係ですが、昔から補助金依存体質とか行政とのもたれ合いとかいわれています。

◆生産調整の仕組みは地域からつくり上げる

 

 山田 JAは運営に関しては補助金をもらっていません。JAが中心になって生産性向上や流通合理化で共同利用施設をつくる場合などに補助金の受け皿にはなっています。それは協同活動の一環として受け皿の役割を果たしていることであってJAが補助金をもらっているという類の話ではないのです。

 岸 行政との関係で当面最大の焦点は米問題です。米政策改革大綱における行政と農協の関係をどう評価しますか。

 山田 米政策改革大綱の検討の過程で、国による生産調整の配分の廃止は、国の責任放棄ではないかなどと激しく議論しましたが、基本的には生産調整の行為は、生産者自らの取り組みでもあるわけですから、そこはちゃんと受け止めていこうということで整理しました。
 自分たちで自律的に誇りと自負を持って生産調整の仕組みを地域からつくり上げていこうということです。
 わが国の水田農業の特性である大多数の小規模・零細な生産者をどうまとめて計画生産に誘導していくか、水田を有効に活用する生産単位をどうつくり、構造改革をどう進めていくかと考えると、やはり国と地方公共団体とJAがいっしょになって解決していくという方法しか多分ないわけです。そこは何も行政のJAへの介入とか、もたれ合いということではありません。
 計画生産を行い国民の主食を安定供給するという目的のために私ども協同組合と行政が協力をしていくことですから、そこはちゃんと位置づけてほしいと思います。

インタビューを終えて

 山田さんとはいろいろな会合でいっしょになる機会が多いが、全中専務という難しい立場にあるにもかかわらず、いつも率直に語ろうという姿勢には共感を覚える。このインタビューでも、農産物輸入や農地利用の問題について、農協として出来ることと出来ないこと、やりたいが今は力が及ばないことなどを具体的に述べている。
 農協改革の今後の焦点は営農・経済事業である。信用事業と違って営農・経済事業は自己責任で進める以外にない。山田さんも50年間踏襲してきた事業のやり方を見直す必要があると語っている。問題は改革について農協間の意識・行動の格差が大きすぎることである。すべての役職員は「農村社会のインフラ」であることの自覚と誇りを持って活動してほしい。
 改革の進行状況を組合員と消費者に伝えることは相互信頼の第一歩である。そのために農協は組織をあげて情報の開示を徹底する必要があると思う。(岸)



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