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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える

インタビュー
JA改革を考える
利用者の満足度を高め幸せに貢献
―それぞれの機能を発揮しながらJAと連合会が一体となって―

JA共済連理事長 前田千尋氏に聞く
聞き手:押尾直志 明治大学教授


◆三利源公表など情報開示で利用者との信頼築く

前田千尋氏
まえだ・ちひろ 昭和12年生まれ。九州大学理学部卒。昭和35年全共連入会、大阪支所長、数理部長、総合企画部長を歴任、平成5年参事、8年常務理事、12年代表理事専務、14年代表理事理事長就任。

 押尾 昨年も景気回復の兆しが見えない状況の中、保険業界は生損保の枠を超えた組織統合・業務提携が進み、各社・各グループとも顧客囲い込みの競争が一段と激しくなっています。ほとんどの生保会社が逆ざやによる負担に苦しむ一方で、解約・失効の増加にいぜん歯止めがかからず、一部大手を除いて新契約高も伸び悩んでいます。
 一方、JA共済は、生保が直面している経営状況に加えて、偽装表示問題、無登録農薬使用問題などにより、JAグループが社会的な批判を受けたこともあり、共済事業の推進においても、かつてない厳しい経営環境にありましたが、まず13年度の事業実績についてどのように分析されていますか。

 前田 JA共済も厳しい経済状況の影響を受けましたが、新契約についてはそれぞれ目標を達成することができました。これは、JAの役職員を中心にした系統のみなさんの日ごろのご尽力のおかげだと思っています。しかし、残念なことは、保有契約が3年連続で減少したことです。これは、昨今の経済状況を反映して失効・解約が増加していることと、多量の満期到来契約にあると考えていますが、今後、これにどう歯止めをかけるかが大きな課題です。もう一つ、依然として逆ざや状況が続いており、これも大きな経営課題だと認識しています。

 押尾 そうした中で、ソルベンシーマージン比率は696.6%となり、前年度に比べてさらに担保力を高めましたし、生保に先がけて三利源別の内容を公表し、経営の健全性を内外にアピールしたと思います。とくに、三利源別内容の公表について、生保は逆ざや問題に対して、死差益等で利差損の補填をしている実態を明らかにしないことで社会的な非難を浴びている経緯がありますので、かなり意義深いものがあり、評価されると思います。

 前田 JA共済がどのような経営状況にあるのか。健全性を確保した経営をしているという情報を、組合員・契約者に開示をすることは、わたしたちの責務だと考えています。三利源別内容を公表したのは、こうしたことをきちんと知ってもらうことが、組合員等利用者との信頼関係を築くうえで重要だと考えたからです。
 ソルベンシーマージン比率は100ポイントほど増えましたが、これは将来の共済金支払いに万全を期すために異常危険準備金の積み増しをしたこと等によるマージンの増加、建物更生共済の海外再保険の保障範囲を拡大したことで、巨大災害リスクが減少したこと等によるもので、経営の健全性が確保できたということです。

◆JAの現場に密着したサポートシステムの確立

押尾直志氏
おしお・ただゆき 昭和24年千葉県生まれ。昭和52年明治大学大学院商学研究科博士課程修了。昭和62年明治大学商学部教授、平成5年日本協同組合学会常任理事、8年明治大学商学部二部主任、10年厚生省・「生協のあり方」検討会委員。

 押尾 13年度からの「3か年計画」で「地域における満足度・利用度No.1を目ざす事業の確立」を掲げていますが、取り組み内容とその進捗状況はどうですか。

 前田 これには、いくつかの柱がありますが、普及推進の強化については「ひと・いえ・くるま」の全利用促進と総合生活保障の確立のため「JA共済しあわせ夢くらぶキャンペーン」を展開しましたが、現時点でJA共済フォルダー登録数は当初予定を大幅に超える480万を超えており、利用者との絆が強まったと思っています。次世代対策としては第3分野の「がん共済」を新設しました。そして、これらを推進するためのLA体制の強化をはかり、昨年9月末現在のLA数は1万9237名になりました。
 さらに、JAが体制を整備するためのサポートシステムを開発し、このサポートシステムを活用した共済事業実施体制整備のコンサルティング活動に50JAで取り組んでいます。従来は、事業量目標を設定し、その実現のためには何人の要員が必要ですといった全国一律的な手法でした。しかし、JAごとに経営環境や地域の状況が異なる中で、従来のような一律的モデルを提示しても個々のJAの状況に必ずしもマッチしません。そこで新たに取り組んでいるJA体制整備コンサルティングは、個別JAごとに総合事業の中で経営状況を把握・分析し、組合員等利用者のJAに対する評価を組込んだうえで、そのJA固有の課題を探して、その具体的な改善方法を提案することにより、そのJAがめざすべき共済事業のあり方・体制を追求していくというものです。

 押尾 現場に密着したサポートをしていくということですね。

 前田 JAトップにJA事業のビジョンを語ってもらい、それを実現するための課題について課長・担当レベルにまで意見を聞いて整理し、JAと一緒になって計画をたてるというコンサルティング手法によるサポートをすすめています。

 押尾 仕組み改訂についてはどうでしょうか。

 前田 次世代層向けに、低い掛金で医療保障を提供する「定期医療共済」を新設することにしています。

◆統合前よりも県との意思疎通は密に

 

 押尾 平成15年度は「3か年計画」の最終年度となりますが、いまお話の普及推進などを進めるうえで、その基盤となる組織面、事業運営面ではどういう課題に取り組んでいこうとお考えですか。

 前田 これまで組織面では要員の削減に取り組むと共に経費の節減に努めてきましたが、さらに健全性を向上させるために経費の有効活用に努めていかなければいけないと考えています。その一方でサービスの強化、事業機能の強化もしていかなければなりませんから、優先度をつけて経費を効率的に使うことが必要だと思っています。
 資金運用力の強化も課題ですが、私はそれなりの強化はできていると思っています。しかし、現在のような低金利という運用環境では、逆ざや対策をどうするかが課題です。これは短期的には解決できませんから、長期的な視点で対応していく必要があると思っています。

 押尾 事業運営面では・・・。

 前田 各県本部の事業運営委員会で県域の課題を審議し、その意見要望に県本部・全国本部一体となって対応していく体制になっています。共済事業は経営管理委員会と理事会による事業運営となっていますので、双方の義務責任の完遂とともに相互理解と連携をいかにきちんとしていくかが求められていると考えています。
 それと県本部と全国本部の一体化という課題がありますが、現在、県本部長会議を月1回開催して意思疎通をはかっています。また、普及活動・仕組開発委員会、人事委員会など6つの委員会を設け、ここでまず専門的な議論をしてから、選任された県本部長をメンバーとする事業経営委員会で議論し、それを県本部長会議でまとめ、必要に応じて理事会や経営管理委員会へ付議・報告する体制になっています。統合前よりも意思疎通ができていると思いますが、さらに一体感を深めるべく努力していくつもりです。

◆JA事業の総合力発揮で事業基盤を強化

 

 押尾 JA改革推進会議でJA役職員の意識改革の重要性が指摘されていますが、これに対する支援体制はどうですか。

 前田 ここ数年間の流れをみると、組合員の意識、ニーズの多様化がみられます。組合員だけではなく地域住民あるいは消費者全体に開かれた組織風土、情報発信基地としての役割が求められています。そのためには、消費者の声を反映した事業展開をしなければいけないという指摘だと思っています。
 JA共済としては、どんなときでも共済責任をまっとうする、組合員等利用者の視点にたつという意識をもつことではないでしょうか。
 そのためには、協同組合理念をもちながら、他業態に負けない高い専門性を個々人がもつこと。そして組合員等利用者が満足されることを喜びとするJA役職員を育て上げ、JAグループ内でそれぞれの責任を果たしながら横の連携をとって総合力を発揮していくことだと思いますね。

 押尾 広域合併で効率化が進み、事業基盤が整備されてきていると思いますが、同時に、組合員の結集力が弱まるというデメリットもあると思います。JAの求心力をどう高めていくのかが大きな課題だと思いますが。

 前田 その課題の解決に当たっては、営農指導、信用事業、経済事業との連携を強め、総合力をもっとうまく発揮する必要があると思います。またJA組織が本来持っている人的結合体に専門性が発揮できる機能的結合力を追求すること、女性部・青年部を含めた生産部会などともきめ細かく接触して話し合うことも大事です。優良JAといわれているJAでは、そうした事が既に実行されていると思いますね。

◆今後の事業のあり方考える「ビジョン検討委員会」

 押尾 今後、JAを利用してよかったといわれるためにはどうすればよいとお考えですか。

 前田 JAグループとして利用者満足度を高めるためには、まず安全・安心をどう提供していくのか、そして農業・農村のもっている多面的な機能を守り育てる後継者をどう育成していくのか。さらに、地域住民、次世代、消費者とともに生きるための情報発信、理解と協力関係を築くために、連合会も含めてどう改革していくかが重要ではないでしょうか。
 JA共済としてもJAの専務・常務による「JA共済ビジョン検討委員会」を立ち上げ2回開催しました。これを踏まえて「農協共済審議会」を1月に設置し、今後のJA共済のあり方について議論をします。ここでは事業基盤の確立に向けてさまざまな面から議論しますが、今日的な事業環境の中で共有できる「新たな事業理念」をまとめていく予定にしています。これを次期3か年計画につなげると同時に、今年開かれる第23回JA全国大会への提言にできればと思っています。

◆協同組合精神を市場原理優先に対抗する基軸に

 

 押尾 JAグループが主体的に改革に取り組んでいるにも関わらずそれが伝わっていない、あるいは理解されず、分社化とかいろいろいわれていますね。

 前田 残念な思いでおりますが、努力をしていることが見えるように、場合によっては意見広告を出すとかしてきちんと知らせることは必要です。遠慮をしてはいけない時代になったといえますね。
 世の中が、市場原理主義とか効率万能主義になっていますが、これは100人いたら1人しか勝てない社会だといえます。それに対して協同組合は、お互いに助け合う相互扶助を基本理念とする組織です。相互扶助は助けてもらうことが目的ではなくて、自分で一所懸命がんばってどうしても足りないところを助け合う、努力して立ち上がろうという人に温かい手をさしのべるという精神です。こういう協同の力・協同組合精神が、市場原理優先に対抗する基軸としてあっていいのではないかと思います。

 押尾 最後にJAの皆さんへメッセージを一言。

 前田 役職員一人ひとりがJAと利用者の橋渡しとなり、自分たちの自己実現が利用者の満足度向上、幸せに貢献できるものにしていくために、JAと連合会がそれぞれの機能を発揮しながら一体となった事業運営をしていきたいと思います。そして市場原理だけではなく相互扶助の精神で、地域社会に貢献していく視点から共済事業のあり方を見直し、同じ目標に向かってともに手をたずさえてがんばれる年にしたいと考えています。

インタビューを終えて

 銀行や保険会社等の金融機関が生き残りをかけ顧客不在の合併・グループ化をすすめているが、JA共済連は全国一斉統合から丸3年を迎え、組合員・利用者のみならず広く国民に統合効果を伝え、理解される改革にどのように取り組んでいるのか、また取り組もうとしているのかを、前田代表理事理事長にうかがった。
 前田理事長が強調されたのは、協同組合精神をもち、組合員・利用者の満足の向上に貢献できる役職員の養成と、地域の特性を踏まえたJAへのサポート体制を確立するための取り組みの重要性である。
 行政やマスコミなどからの農協改革議論が強まる中で、JAにとって必要なことは、事業体の論理を優先した閉鎖的で自己満足だけの改革ではなく、真に地域に開かれた組織を確立し、情報発信を通じて地域における理解と協力関係を築いていく改革をすすめることである。前田理事長の改革への強い決意に期待したい。 (押尾)



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