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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える

インタビュー
JA改革を考える
信頼性の確保に向けJAバンクシステムの強化めざす
―法人の支援など農業融資に力入れ事業展開―

農林中央金庫専務理事 増田陸奥夫氏に聞く
聞き手:両角和夫 (東北大学教授)


 JAバンクシステムのスタートから2年目を迎えた今年、系統信用事業の課題は「信頼性の維持、確保に尽きる」と農林中金の増田陸奥夫専務理事は強調した。「信頼確保」は、農産物を提供するJAグループ全体のテーマでもある。信用事業としても今後は担い手育成のための農業融資に力を入れていくという。また、信用事業だけでなくそれぞれの事業の健全性確保も組合員や利用者への責任を果たすうえでJAにとっての大きな課題だと指摘した。聞き手は両角和夫東北大学教授にお願いした。

◆金融再編と信用事業
  リテール分野での「勝ち残り」が課題

増田陸奥夫氏
ますだ・むつお 昭和19年生まれ。早稲田大学法学部卒業。昭和44年農林中央金庫入庫、水戸支店長、総務部広報室長、名古屋支店長、組織整備対策部長、総務部長を経て、平成12年常務理事、14年専務理事就任。

 両角 日本の経済社会全体にとって今年も不良債権問題が大きな課題になっていますが、最初に、最近の農協金融を取り巻く環境や当面の課題についてお聞かせいただけますか。

 増田 昨年はBSE発生に端を発した食品偽装問題がJAグループでも明らかになり、消費者の信頼を失ったという非常に残念なできごとがありました。これは単に経済事業の問題ではなく、系統組織全体に対する信頼という点できわめて大きな問題だと考えています。
 信用事業にとっても、昨年4月からペイオフの一部解禁がスタートしたわけですが、これは待ったなしで信頼性が問われることになったのだと受け止めており、信用事業のもっとも大きな課題は信頼性を維持、確保していくことと認識しています。
 こうしたなか、今年、系統事業を取り巻く環境としていちばん懸念しているのは、地方経済にも中央の影響が波及してくるのではないかということです。今のところ、不良債権の問題も現象面では系統信用事業への深刻な影響にはつながっていませんが、今後、不良債権処理に向けて新しい金融再生プログラムがスタートするわけですから、それによってはやはり大きな影響が出てくる懸念があります。
両角和夫氏
もろずみ・かずお 昭和22年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科修士課程修了。同年農林省入省。55年同省農業総合研究所へ出向、金融研究室長、農業構造部長を経て、平成11年東北大学大学院農学研究科教授(専攻:農業経済学、主に農業金融論、農協論、環境問題論)。最近の著書は『農協再編と改革の課題』(家の光協会)。
 また、系統事業として固有の問題もいくつかあります。食品の安全性への関心の高まりに応えるため、農産物のトレーサビリティシステムの確立に取り組むことが求められていますが、それにはコストがかかるわけですね。それから米でも大きな政策変更があり、JAとして中長期的にはどう評価するかは別にしても、一時的には米事業にとってマイナス要素ではないかと考えられ、金融面での影響も注視しなくてはいけないと思っています。

 両角 厳しいご認識のようですが、当面の取り組み課題はどう考えておられますか。

 増田 大手金融機関の再編が加速した分、いわゆる系統信用事業がこれまで得意としてきた個人金融、つまりリテール分野の競争がこれまで以上に厳しくなってくることは避けられない状況です。そこでこのリテール分野でメガバンク等各業態との競争をいかに乗り越えて勝ち残っていくか、これがわれわれにとっての最大の課題だと思っています。

 両角 貯金は健闘されているようですね。ただ、貸し出しは停滞気味と伺っていますが。

 増田 ご指摘のとおり貸し出しについては貯貸率が30%前後で伸び悩んでいる状況です。これには農業経営が厳しい状況のなか、農村での設備投資資金の需要が弱いということと、比較的順調に伸びてきた賃貸住宅資金需要の鈍化があります。
 やはりJAの信用事業収支は貸し出しが支えているところが大きいため、われわれとしては住宅ローンを中心としたローン商品を伸ばしていきたいと思っています。中長期的な目標としてはローン商品を伸ばしながら、貯貸率を40%近くにもっていく。そうすれば収益的には安定してくると思っています。

◆JAバンクシステムの成果
  「破綻未然防止」で信頼性を確保

 

 両角 信用事業の信頼性の確保、そして具体的な事業としては貸し出しを伸ばす、これが大きな課題とのことですね。それと関連すると思いますが、昨年、JAバンクシステムがスタートしました。この1年間の成果はいかがでしたか。

 増田 前回の第22回JA全国大会で主要なテーマになったのは信用事業の改革でした。その議論を通してJAバンクシステムを構築することとし、そのためのJAバンク法(信用事業新法)も成立して、法に基づく制度としてJAバンクシステムはスタートしました。
 この新法のいちばん大きな点は、農林中金にJAの信用事業に対する指導権限が与えられたことですね。それにともない新法の施行に合わせて、自主ルール(JAバンク基本方針)を制定しスタートさせました。
 これはまさに信頼性をいかに確保していくかのための仕組みで、破綻JAを出さない、あるいは万が一、破綻にいたる事例があっても迅速に処理できる体制をつくるのが狙いです。
 もうひとつは、事業の一体性の確保です。リテール分野での競争に打ち勝つためには、3段階がばらばらに事業を行うのではなく、農林中金とJAとの距離感を縮めて事業を推進していくのが狙いです。
 
 では、このJAバンクシステムの成果ですが、まず破綻未然防止という点では、昨年4月のペイオフ解禁までに自己資本比率が4%を割ったJAをすべて解消しましたし、それ以後も8%を割っているJAについて資本注入等によって早期に経営の健全化を図っています。
 これまでいくつかの大きな経営不振事例はありましたが、きわめて迅速に対応できました。また、破綻にいたらなくても、経営の健全化を図るという面でも系統の意思反映できる体制をつくったことによって、迅速に処理できたというのが成果だと思っています。ただ、JAバンクシステムの自主ルールは毎年見直していくことにしており、今後も必要な点は充実させていきます。
 また、一体的事業推進の点での大きな成果は、JASTEMシステムという全国統一システムについて昨年3月に農林中金が主体的に担うこととしたことです。金融事業の展開にはシステムが不可欠で、この運営を農林中金に一元化し、商品企画や業務の統一化を図ろうということです。 本年1月6日で11県加入しており、今年も順次加入をすすめ18年度末までに全県での加入を実現する計画です。

 両角 JAバンクシステムの体制を整備し、これからさらに前に進もうという感じを受けましたが、具体的な事業としては何か取り組もうとされていることがありますか。

◆農業融資への取り組み強化
  アグリビジネス支援も本格化

 

 増田 われわれの事業のいちばんの根幹である農業金融への取り組みがあげられるかと思います。
 ひとつは、農業融資へのこれまでの取り組みがどうであったかを検証しようという取り組みです。農業融資の点では、制度資金が果たす役割は、きわめて大きいですが、その取り扱い窓口が一元化していなかったなど、生産者からすると、使いづらい仕組みになっていたのではないかとの反省があります。まず、そういう融資対応については、JAの窓口ですべての資金がニーズにそって迅速に対応できる体制をつくろうという取り組みを進めています。
 そのためJA職員の研修体制づくりを十分に行い、また、農業融資関係の手引き書も整備して全国のJAに普及するなど、「農業金融パワーアップ21」という運動として取り組んでいます。
 もうひとつは担い手育成の課題にどう応えるかです。なかでもとくに農業法人ともう少しコンタクトをとって、担い手となる農業法人を育成していこうと考えています。そのために(社)日本農業法人協会の主要メンバーと昨年から定期的に懇談会を設けて情報交換しながら金融面で農業法人の育成を応援していこうとしています。
 また、その一環として、昨年10月には農林漁業金融公庫などと共同出資して「アグリビジネス投資育成株式会社」を設立しました。これも農業法人の支援、育成が目的です。
 具体的な投資の実現はこれからですが、農業法人はどうしても過小資本になるという問題もありますし、また、加工部門を持っていてその拡充の意向があっても、自己資本で設備投資するには限界があるようなケースもあります。そういう法人について一定の条件で出資支援していくのが狙いです。さらに一般企業でもアグリベンチャーと呼ばれる分野に乗り出す企業があれば検討対象にして応援していきたいと考えています。

 両角 これまでJAでは法人に対する融資を積極的に行うのは難しかったと思いますが、そこを突き抜けようということですね。この取り組みにはぜひ期待したいですね。

◆多様化するJAの姿
  ニーズに合わせた機能発揮を

 

 両角 さて、JAにとっては信用事業とその他の事業との関係も今後の課題だと思います。私は、総合農協のあり方も見直さなければならないのではないかと考えていますが、信用事業からみてJAの改革方向についてはどうお考えですか。

 増田 合併が進んで、全国で1000JA程度になりましたが、例えば規模で区分すると、都市型で貯金量1000億円もあるようなJAと、貯金量200億円以下のJA、そしてその中間のJA、という分け方があると思います。
 こうした状況では、それぞれが地域に果たす役割や組合員のニーズも相当異なると思いますね。それに対してJAがどう応えていくかが問われていると思います。これまではどちらかといえば均一的にJAが信用事業の機能を持ちあらゆる商品・サービスを組合員、利用者に提供するという事業展開をしてきたわけですが、JA合併がここまで進んでJAの態様が異なり、組合員等のニーズが多様化するなかでJAの体制に応じた信用事業の商品・サービスの機能具備のあり方についての検討が現実的なこととしてみなさん感じてきていると思います。
 こういう議論のなかで連合会の機能がどういう役割を果たすべきかという議論も多分出てくると思います。たとえば、都市型JAの機能をどうサポートしていけばいいのか、あるいは体制に応じた機能しか有しないJAについてはどういった補完が考えられるのか、など具体的に検討していく必要があると思っています。
 もちろん農協の総合事業性の維持は前提です。ただ、それぞれの事業が十分に健全性を確保するというのが、最低の条件ではないでしょうか。実はこれが今年のJA大会のテーマだと思っています。このことをみんなが認識し、経営が厳しくなっていくなかで信用事業だけでなく全体として経営をみることが大事になると思っています。

 両角 信用事業の組織整備も課題になるわけですね。

 増田 改めて機能をどう整理していくのかは新たな事業・組織の改革テーマだと思います。
 信用事業の組織統合については、昨年は宮城県信連との統合を実現し、今後さらに6県との統合が決まっており早急に準備を進めているところです。また、それ以外の県についても現状をふまえて議論し将来方向を出していただこうと考えています。
 いずれにしてもリテール業務の競争激化に対して、組織・事業の改革のスピードアップをはからなければならないわけですが、基本は信頼性の確保に尽きると思っています。

 両角 今後の事業展開に期待したいと思います。どうもありがとうございました。

 

インタビューを終えて

 今回の増田専務へのインタビューでは、JA金融を取り巻く状況の認識、JAバンクシステムの当初の意図と現状、今後の農業融資への取り組み、信用事業から見た系統組織の再編・整備のあり方など、相当欲張った質問をさせていただいたが、短時間に関わらず懇切にお答えいただいた。本紙では、それを要領よく収録しているが、それでも面白いお話は十分伝え切れてないのがやや残念である。その中でも印象に残ったことは、専務が環境問題への取り組み、さらにはそのための新たな地域農業・農村の構築、マネージメントへの関与など、JAの新たな課題に積極的な理解を示されたことである。私は、今日のJAの重要課題は、地域社会の持続的発展、あるいは環境低負荷型農業・農村社会の構築にある、と考えているが、専務が今回示された今後の農協のあり方には共感するところが少なくない。こうしたトップの下で、JAが新たな発展に向かうことを、心から期待したい。(両角)



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