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特集:2003 JAグループの新たなる挑戦―JA改革を考える

現地ルポ
改革進むJAの現場
心と心をひとつに全農家全面積で取り組んだ減農薬栽培米

― JAいわて中央 ―


 「JA改革」の視点はいろいろあるが、「農家がつくったモノを売り切り、農家の所得を確保することが農協の基本」と考え、そのために集落営農を基盤に、合併JAのメリットを活かし、全農家・全面積で減農薬栽培米に取り組むことで「銘柄産地に負けない産地づくり」に成功しているのが、JAいわて中央だ。その基本的な考え方と取り組み内容を同JAの熊谷健一常務理事に取材した。

 JAいわて中央は、岩手県中央部に位置し、平成11年に盛岡市南部の都南地域、矢巾町、紫波町の3JAが合併して誕生した。東に北上山系、西に奥羽山脈が縦走し、この山々に源を発する流れが中央部を流れる北上川に注ぎ、大地を潤し、コメやリンゴ、野菜類、畜産など豊かな農産物を産出している。

◆予定数量超える130%の予約申し込み

 同JAの販売事業は132億円(13年度)だが、その内コメが約70億円、園芸が約30億円、畜産が約17億円となっている。なかでも、モチ米は水稲作付面積の約45%を占め、日本一の生産量を誇っている。また、県内随一のリンゴ産地でもあるが、なかでも同JA果樹部会都南支部りんご専門部会は、徹底した予察活動と管内全域一斉のきめ細かな指導による適正防除によって防除回数を低減していることが評価され、JA全農の「安全防除優良JA拡大運動」で優良JAとして表彰(10年度)されるなど、早くから「安心・安全」に取り組んできている。
 そしていま注目されているのが、稲作をする「全農家・全面積」で取り組んでいる「減農薬栽培米」だ。14年産米の場合、全国の米卸や生協、量販店などからの予約が出荷予定量の130%もあり、予約数量の80%程度しかJA全農いわてから配分されなかった米卸からは「いままで他を切ってJAいわて中央に絞ってきたのに、2割も減らされた」と苦情がきて、「まいりました」と熊谷健一同JA常務理事。
 熊谷常務は「農家がつくったものは完全に売り切るのが農協の基本」だと考えている。そしていまは「当たり前のモノを、当たり前に売る時代ではない。差別化できるモノを」と、合併前の平成5年に、旧JA都南村の生産者60人と減農薬減化学肥料のコメ作りを始める。この年は「大冷害」の年だったが、「基肥に化学肥料を与えず実を結ぶ時期に窒素を与えた」このグループは、他の人が反当たり3俵も収穫できなかったにもかかわらず8俵〜10俵を収穫した。

◆全5200戸が参加、95%が減農薬米と認定される

 このことに農家は自信をもち、このグループは以後もこうした栽培を続けているが、熊谷常務がJA合併の担当になり、全体に普及させることができなかった。合併後の12年に営農担当常務となり、13年に「全農家・全面積の減農薬栽培」を提案。この年は都南地域だけの取り組みに終わるが、他の地域の農家から「安心・安全なコメで、いまの時代にピッタリだ」「同じ農家だからやれないことはない」という意見が出て、14年産米では全稲作農家5200戸(全組合員戸数は7200戸)が取り組んだ。
 その結果、台風被害のために基準以上の農薬を散布せざるをえず普通米となったコメを除いて、面積で95.8%のコメが検査の結果「減農薬栽培米」として認められ、普通米よりも1俵あたり300円高く販売できた。この内200円を減農薬栽培米とし、100円を従来価格でしか取引きしなかった卸の分に上乗せした。

◆農家が記入しやすい 栽培管理記録簿

 検査は、計画段階の4月と収穫前の9月の2回、販売先であるコープ東京やオーガニック協会、全国穀物検定協会によって行われる。春の計画段階は、JAが全農家に配布する「減農薬栽培米栽培計画書兼栽培管理記録簿」を検査する。この帳票はA3用紙1枚に、左には各農家の水田一筆ごとの地名・地番、栽培銘柄、作付面積が記入され、右には土づくりや防除など作業内容と土づくり資材や農薬名。使用量、使用予定時期が印刷され、さらに実際に実施した時期を農家が記入できるようになっている。さらに、収穫時期と収穫量、計画通り実施されたかを確認する欄などが設けられている。農家はコメ以外にもいろいろな作物を生産しているので「手間をかけずに記録できるように工夫した」というように、記入しやすく、そして見やすい形式になっている。

◆1俵500円の収入アップ―今後は全農作物に拡大

 農薬については、JAで絞込み「これ以上安い業者はいない」というところまで価格を下げた。その結果慣行栽培では1反1万1000円程度かかっていた農薬代が7800円程度になった。反収10俵なら約300円/俵のコストダウンとなる。そして普通米より高くなった200円との合計500円/俵の経済的効果が農家にあったことになる。これは平成10年頃当時の米価水準=所得になっているという。
 これは、JA合併し2万3000トンという大きなロットとなったこと。100人200人ではなく、全農家・全面積が取り組むことで、JA全体が「安心・安全な産地」として認知されたことによるものだといえる。そのことで、この取り組みの目的である「全組合員に喜びと利益を与えるJAづくり」に1歩近づいたといえる。JAにとっても、さまざまな品種やアイテムを保管管理する無駄が省けたなど、効率化も実現している。
 今後は、コメについては減化学肥料栽培に挑戦していくが、「あらゆる農産物について差別化の挑戦をしていく」(熊谷常務)予定だ。すでにリンゴでは前にふれた都南地域での減農薬栽培があるが、これを15年から全農家全面積で実施することにしている。

◆全集落に受委託組織づくり―地域に信頼されるリーダー中心に

 こうした取り組みと同時に、いま同JAが取り組んでいるのが、1支所1カ所計16のモデル受委託組織づくりだ。いずれは、205の全集落につくっていきたいが、一度にはできないので16カ所でスタートする。そして、205全集落に職員をはりつけている。「あなたの集落にはどういう農業がよいですか。あなたの集落のやりやすい農業を支援します」というアンケートを実施し、集落営農を支援する体制を整えている。
 この組織づくりで重視しているのは、地域・集落の人たちに信頼される担い手・リーダーを認定することだという。それは、地域には長い歴史と伝統があり、地域のみんなでつくりあげ守ってきた獅子踊りや神楽をはじめとする文化がある。「株式会社のような儲け主義の人が入ると、それが無視され、集落が死んでしまう」からだ。
 もう1つは、作業を委託した人も、年に半日でも1日でも「出役」し、草取りでもコンバインの操作でもする「農作業協定」をつくることだ。「出役」すれば、それに見合う作業代が支払われる。そのことで「心と心のつながりができれば、例えばコンバインが壊れたら、その作業を委託するようになり」受委託組織を中心に集落営農が営まれるようになるというのが、熊谷常務の長期的な展望だ。一朝一夕に実現できることではないから「心のつながりをもっていくためのスタート」だとも。
 全農家・全面積による減農薬栽培による銘柄産地に負けない産地づくりも、「心と心がひとつになった集落営農」がなければ、実現できないだろうし、それが実現できなければ「全組合員に喜びと利益を与える」こともできない。それがJAいわて中央の基本的な考え方だといえる。



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