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特集:安心・安全で環境に優しい畜産をめざして
    ――JA全農畜産事業の挑戦

商品開発力を強化して、
国産畜産物の売場を確保
畜産販売部

岩佐肇三 酪農部部長

 長引く不況による消費の停滞によって、量販店などでの消費動向が変わってきているという。こうした時代の流れを見きわめながら、国産畜産物の売場を確保するために、いま、何をしようとしているのかを、岩佐肇三畜産販売部長に聞いた。

◆売上げ競争に勝つため」が小売りのニーズの原点

 ――この1年、BSE問題や表示問題など、畜産販売を取り巻く状況は厳しいものがありますが、現在の状況をどう見ておられますか。

岩佐肇三氏
岩佐肇三

 岩佐 私たちの仕事の目的は、国産品の販売力を強化することにあるわけです。しかし、現在の経済情勢を見てみると、不況が長引き、さらに悪いことに小売関係の不振がクローズアップされるなど、私たちの事業に影響する要素が数多くあります。いま小売店などが求めているのは「良いものを安く」です。その意味することは、従来は、国産ものは品質が良くそれなりの価格で販売してきましたが、「良いものを安く」ということになれば、コスト的にはどうしようもない部分があるので、従来とは違う戦略・戦術を立てていかないといけないというこです。
 私たちのコア事業である食肉でいうと、牛とか豚の枝肉販売が中心でしたが、これだけでは売れなくなってきました。鶏卵では「しんたまご」のような特徴卵が数多くあります。ブロイラーでもさまざまな銘柄鶏が小売店の店頭に並んでいます。こうした差別化商品や特徴商品というものは、私たちも含めて流通段階のコスト吸収策でもあったわけですが、これらも含めて「良いものを安く」ということになりますから、それに対する対策を講じていかなければなりません。

 ――BSE問題で国産牛肉の需要は落ちましたが、輸入牛肉は増えませんでしたね。

 岩佐 輸入食品にいろいろな問題があって、基本的には国産回帰になっていると思いますが、価格という壁はありますね。この壁を超えるには、品目ごとにトータルとしてどういう事業展開をしていくかです。

◆1.5次加工や総菜などの品揃えを強化

 ――そのためには何をしていくのでしょうか。

 岩佐 これは、私たちがこれから改善していかなければいけない課題でもあるのですが、素材だけでは売場を構成できないということです。つまり、売場を確保するためには、1.5次加工品や総菜など加工品での品揃えを強化していく必要があります。それがなければ小売業界にアピールしていくことはできない時代になっています。

 ――商品の質が変わってきているわけですね。

 岩佐 ブロイラーや鶏卵では質が変わってきましたね。鶏卵でいえば、特徴卵はレギュラーよりも価格差をつけて売っていましたが、いまは、レギュラーとの価格差が縮小してきています。これはブロイラーでも同じことがいえます。最近のように経済状況が悪いと特売が増えますが、その時にしか売れないんですね。だから収益性は下がるということになります。ですから、「次の一歩」を真剣に考えていかないと、モノは売れないし収益を確保できないということになります。

 ――食肉についても同じような状況ですか。

 岩佐 食肉では、小売店はロースやヒレといった売れる部位だけを買います。ブロイラーでもモモ肉中心ですし、鶏卵ではL・M中心です。そうすると私たちは、国産畜産物を守るために売れない部位も含めて全体をどうするかということを考えなければいけない。これをクリアして販売力を強化していかないと、国産品の売場を奪還することはできないわけです。

◆品質管理の徹底強化で安心・安全を

 ――そのための対策としてはどのようなことがありますか。

 岩佐 一つは、安心・安全対策と品質表示ですね。そのために畜産販売部内に品質管理室を設置しましたし、5つのセンターと関連会社3社にも品質管理室を設け、ガイドラインを設定して品質管理を行うと同時に、品質管理室同士の連携を強めて研究しながら、職員や社員への啓発・普及も含めて、各品目ごとに品質管理を強化・拡充してきています。ガイドラインにもとづいて品質管理することは当然ですが、数多くの商品アイテムがありますから、細かいところまで一つひとつクリアにしていくことが大事だと考えています。

 ――二つ目はなんでしょうか。

 岩佐 販路の拡充対策ですね。これには、お店が要望される戦略をいち早く構築することです。その一つが、トレーサビリティです。全農はBSE問題発生の直後に、トレーサビリティシステムを構築すると宣言しました。それもあって全農に対する評価は高いと思います。これの確立には、枝肉段階まではいいのですが、特定部位だけを小分けして販売する小売段階までどう徹底するかとか、まだまだ多くの課題が残されています。しかし、先行している分だけいろいろな検証ができますから、そうしたことを活かして、確立していかなければいけないと考えています。

◆重要になるマーケティング

 ――販売強化ということでは、食肉包装加工事業もしていますね。

 岩佐 スライスしたり定量カットする包装事業は、全国エリア的に行わないと事業にならないので、東京、名古屋、広島、九州で行い、年間で2500万〜3000万パックつくっています。これは年間365日稼働ですし、経営的にはかなり厳しい面がありますが、こういうこともしなければ、売場スペースを確保するのが難しい状況となっています。

 ――「次の一歩」として、1.5次も含めて加工分野というお話がありましたが、これについては・・・。

 岩佐 ハムソーセージの原料はほとんど輸入品です。私たちは、1.5次加工なら調味付け食品、衣付け食品など国産原料が活かせるものについては、最大限取り組んでいきます。さらに、商品開発を積極的に進めて提案できるような商品開発力をもたなければいけないと考えています。しかも、消費者に評価されるようなものを作らなければ、マーケットには対応できません。

◆生産から販売まで全農の機能を活かして

 ――総菜は好みが変わりますし、地域による嗜好も違いますね。

 岩佐 いろいろなものを開発して、1年に数点ヒットすれば、という世界ですから、マーケティングが非常に重要になりますね。
 この分野では私たちは遅れていますが、社会的にはライフスタイルが変わり、簡便性・利便性が求められており、それに応えて量販店などの総菜売場が大きくなっていますから、この分野はこれからますます重要になりますね。

 ――それらを通じて販路を拡充していく・・・。

 岩佐 小売だけではなく、業務用、加工用、そして自分でも加工することで、食肉でいえば1頭まるまる売らなければいけない訳ですから、いろいろな販路をもたないといけないと考えています。
 しかし、食の安全性への関心が高まると、飼料や生産段階まで問われます。そういう意味で生産から流通・販売まで「一気通貫」の「全農安心システム」がある全農への期待は大きいです。その期待に応えて、国産畜産物の売場を確保していきたいと思います。

 



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