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特集:安心・安全で環境に優しい畜産をめざして
    ――JA全農畜産事業の挑戦

170万トンの生乳取り扱い
計画は達成できそう

佐藤幸吉 酪農部部長

 バターやチーズは乱売されないのに、なぜ牛乳が目玉商品扱いされるのか。牛乳の価格が安いために乳業メーカーの牛乳事業は赤字だ。酪農家も莫大な投資をしてきている。このため佐藤部長は「安いけれど品質や、その将来が心配な牛乳と、多少高くても安心な牛乳のどちらを選ぶか、消費者の皆さんにぜひ考えていただきたい」と訴える。また「共通の価値観に立って牛乳を大事にしてほしい」とも強調した。

◆日本ミルクコミュニティ(株)がスタート

 ―全国農協直販、雪印乳業の市乳部門、ジャパンミルクネットの3社が来年1月1日に市乳統合会社「日本ミルクコミュニティ(株)」を設立しますが、スタートが肝心ですね。

佐藤幸吉氏
佐藤幸吉氏

 佐藤 そうです。全農は筆頭株主として積極的に新会社に参画しスタートを成功させる方針です。「酪農家の経営安定」と「酪農と生活者を結ぶパイプ」の役割を果たすのが使命ですからね。

 ―新会社の方針は?。

 佐藤 発足までに、統合会社でなければできない工場の統廃合を実現します。また物流経費の削減や、雪印の持つ開発技術力の活用などを追求し、牛乳・乳飲料業界でのシェアナンバー1の座と競争力を確保します。

◆原材料や製品の生産履歴がわかるトレーサビリティの確立

 ―食の安全・安心についてはどうですか。

 佐藤 原材料や製品の生産履歴などがわかるトレーサビリティを確立し、また社長の直轄部門としてコンプライアンス部、品質保証部、コミュニティ部を設置することになっています。

 ―昨年度から酪農事業関係の制度などが大きく変わり、県単位だった指定生乳生産者団体も8ブロックに再編され、ホクレンを含め9団体となりました。今年は広域指定団体として初めての飲用乳価交渉ですね。

 佐藤 ええ。今年度はBSEの被害や、ふん尿処理対策もあって、9団体それぞれに域内統一の大幅値上げ要求を掲げ、全国的には5円以上の上げ幅を求めました。
 しかし乳業メーカー側は「量販店への納入価格引き上げがない限り生産者に支払う財源がない」と主張し難航中です。例年なら遅くとも7月には決着していましたが、今年は大幅にずれ込んでいます。しかし一部の地域では生産者の値上げ要求が通っています。
 指定団体から域外への販売約170万トンを再委託されている全農としてもまだ交渉中です。

◆販売環境の是正に向けた運動が盛りあがる

 ―スーパーなどが牛乳を目玉商品にして乱売を続けていますから、メーカー各社も苦しいですね。

 佐藤 そのため今年は乳価交渉とともに「乱売はやめましよう」といった販売環境の是正に向けた運動が全体として盛り上がっています。

 ―餌を食べ、水を飲んで育った牛の乳が、水よりも安いといわれます。

 佐藤 毎年夏に開く「全農酪農青年婦人経営体験発表会」が第20回を迎えた今年は第2部としてパネルディスカッションを行いましたが、この記念行事も販売環境是正運動の一環であり、酪農家、研究者、生活者らが活発な議論を展開しました。

◆乳価格をこれ以上安くするのはムリ

 ―部長もパネリストの一人でした。あの時の発言を改めて聞かせて下さい。

 佐藤 メーカーは大手も中堅も実は牛乳事業では赤字だといわれます。工場を新しくして良いものをつくろうとすれば、巨額の減価償却に耐えられないし、かといって古い工場だと、暑い時にまかり間違ったら事故が起きかねない。こんな板ばさみにあっているわけです。
 生産者も、牧草地を借り、技術革新の著しい搾乳施設をそのたびに整え、牛舎やふん尿施設を整備するために莫大な投資をしてきており、生乳価格をこれ以上安くするのはムリです。
 ですから消費者には、安いけれど品質や、その将来が心配な牛乳と、多少高くても安心な牛乳のどちらを選ぶか、ぜひ考えていただきたいという要旨でした。

 ―量販店や生協だって安売り競争を続ければジリ貧の一途ですよ。

 佐藤 例えば1本200円の品を2本300円で特売すれば、粗利を20%とすると、1本当たり10円の収益減となり、こんな競争を毎日続けていて経営が改善されるはずがありません。
 バターやチーズは乱売されないのに、なぜ牛乳が目玉商品扱いになるのか。牛乳は栄養学的に優れた貴重な食品ですから安定的な販売が求められます。メーカーが事故を起こせば小売店の信用も傷つくわけですから共通の価値観に立って牛乳を大事にすべきです。

 ―酪農経営体験発表会では安全な生乳生産のための▽土壌分析に基づく牧草づくり▽牛の健康管理▽ふん尿処理などの環境対策等、様々な生産者の努力が語られました。そうした価値が評価されるべきですね。

 佐藤 安全・安心にはコストがかかるわけですよ。

 ―生乳の需給状況はどうですか。

 佐藤 牛乳の需要が伸びているのに、昨年は生乳の生産量が減少しました。しかし、今年は都府県がほぼ前年並み、北海道は104%を越える水準で増加し、全体として増えています。
 これはBSE問題で、都府県では廃用牛が滞留し牛舎が塞がって初妊牛に更新できず、北海道では移出されない初妊牛が停滞したまま出産し搾乳されたこととか、副産物価格の低落を補うため酪農家の搾乳意欲が高まったことなどによるとみられています。こんな事情から今後の生産量増加はまだ楽観できません。

 ―乳製品の需給は?

 佐藤 バターの過剰が大きかったのですが、3月から関税率が変わって需給が好転しました。ところが今度は脱脂粉乳が25年ぶりくらいの大過剰となり、期末在庫が5ヶ月分を超えました。 これは雪印の食中毒事故から加工乳・乳飲料の消費が激減したためです。とりわけ脱脂粉乳を牛乳に混ぜていた低脂肪加工乳の売れ行き激減などが脱脂粉乳の在庫を急増させました。

 ―全農の今年度事業計画には生乳の販売力を強化するため余乳処理体制を増強するとありますが。

 佐藤 需要を上回る牛乳を作って投げ売りになるといった状況をなくし供給を安定させるには需給を調整しなければならないから、余乳を乳製品にし保管する施設と機能はとても大事で、全農がそれを担っています。
 そうした余乳処理の協力工場が全国に4つあり、12年度は熊本県で弘乳舎さん(地元メーカー)の施設を増強し日量500トンの処理能力としました。全農投資分は5億円です。
 今年度は東北地方の協力工場施設の増強を検討中です。余乳処理は運賃コストを省くことが条件です。

◆集送乳コスト削減に向けた取り組み強化を

 ―反対に供給不足の時はどうするのですか。

 佐藤 例えば北海道、九州、東北からタンクローリーで首都圏や近畿圏に持ってきます。ホクレンと全農は会社化して1000台を運行しています。従来から15経済連それぞれで集送乳をしていますが、全農との統合メリットを出すためには、この辺の合理化による集送乳コスト削減も今年の重点的な検討課題です。

 ―最後に今年度事業計画は達成できそうですか。

 佐藤 170万トンの生乳取扱計画は達成できそうです。全国の生乳生産量は約840万トン、うち飲用向けは500万トン。その中の170万トンですから34%のシェアということになります。



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