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特集:2003 おんなたちのPOWERで「変革」の風を
    −第48回JA全国女性大会特集−

特別インタビュー
女優・高橋惠子さん

誇りを持ってまごころ込めれば
食と農の大切さ必ず伝わるはず

インタビュアー:JAぐんま女性組織協議会・フレッシュミセス部会副部会長 成澤 泉さん


 女優の高橋惠子さんは北海道の酪農家で生まれ育った。子どものころ農作業の手伝いもしたことがあるという高橋さんは「農家に生まれてよかったのは、自然には逆らえないことを知ったことで自分自身の基礎になっています」と話す。インタビュアーをお願いした成澤泉さんはJAぐんま女性組織協議会のフレッシュミセス部会副部会長で酪農を営む。朝の搾乳を終えて駆けつけた成澤さんに高橋さんから逆に「休みはあるんですか」との気遣う質問も。消費者においしい食べものを届けたいと語る成澤さんに「食べものは人間をつくるとても大切なもの。誇りをもって活気を生み出してほしい」と高橋さんはエールを送る。


◆「助け合い」を実感した子どものころ
  生活を楽しむのは女性のアイデア

高橋惠子さん
たかはし・けいこ 昭和30年北海道川上郡標茶町に酪農家の長女として生まれる。45年中学卒業と同時に大映に入社。同年8月『高校生ブルース』で主演デビュー。映画『TATTOO〈刺青〉あり』で映画監督の高橋伴明と出会い、57年結婚。映画、テレビ、CMの主演に加え、平成9年からは舞台へも活動の場を大きく広げている。本年5月には、ル・テアトル銀座にて上演の『山ほととぎすほしいまま』に出演する。高橋惠子ホームページ http://www.takahashi-keiko.jp

 成澤 高橋さんは酪農家で生まれ育ったそうですね。
 
 高橋 両親が北海道の標茶町に開拓で入って酪農を営んでいたんです。そんなに大きな酪農家ではなく、牛は20頭ぐらいでしたでしょうか。3、4頭、馬もいました。それから、豚、鶏、山羊もいましたね。

 成澤 お手伝いもされたわけですか。

 高橋 北海道ですから、じゃがいも、にんじん、デントコーン、そのほかにビートも作っていましたし、牧草もありましたから、親にくっついて畑で間引きをしたり、じゃがいもを植えるときは、そのころは全部手作業でしたから、植えては土をかけてということを一緒にやったり、手伝うというよりもほとんど遊びの気持ちで楽しんでました。

 成澤 そのころの思い出は大切なものなのでしょうね。

 高橋 両親は私が8歳のときに酪農をやめましたが、やはり私自身の基礎を作ってくれたのがそれまでの時期だと思っています。
 酪農家で育ってすごく覚えているのは、近所の人たちと助け合って生活していたなということです。家畜の餌を貯蔵しておくサイロがありますね。そこに飼料を入れるのは自分の家だけではなかなかできないのでみんなで順番に手伝う。サイロのなかには女の人が入って、上から飼料が落ちてきて回りながらそれを踏んでいくんですね。そうやって近所の人たちがお互いに助け合って、作業をしてたんですね。本当に助け合わなければやっていけないということを実感しました。
 婦人会もあったんですよ。こんにゃくを作りましょう、パンを焼いてみましょう、羊かんを作りましょうとか、女性たちが集まってよく料理をつくっていましたね。

成澤 泉さん
なりさわ・いずみ 昭和39年神奈川県藤沢市の会社員の長女として生まれる。関東学院大学工学部建築学科卒業。建築会社勤務、山梨県馬術競技場にて馬術研修生となり、藤沢乗馬クラブでインストラクターとなる。群馬県吾妻郡長野原町の酪農家に嫁ぐ。(社)中央畜産会主催、ゆたかな畜産の里普及・啓発事業において農林水産省生産局長賞受賞、群馬県乳質共励会にて上位入賞。現在、夫と母と3人で酪農を営む。幼稚園の娘2人。成牛50頭、育成25頭、繁殖和牛6頭、馬1頭。JAあがつま北軽井沢応桑支店のフレッシュミズの会「浅間根会」の会長(今年度のみ、任期1年)。

 成澤 それは私たちの農協女性部のはじまりのころのことでしょうか。

 高橋 そうなんでしょうね。小学校の1年、2年のころですが、よく記憶に残っています。おそろいの服も作ってましたよ(笑)。

 成澤 それは、とても活発な活動ですね。

 高橋 年に1回、温泉にも行ってました。阿寒湖や摩周湖が近くですから、そこに行って楽しむということもあったようです。
 酪農って年中無休ですよね。でもみんなで楽しむことを工夫していて、それが子どもの私にとってもすごく楽しみでした。もう40年前のことですが、生活を楽しむということ、これも女性のアイデアだったと思います。

◆人と土、人と作物、人と人
農業は「ふれあい」がかたちに

 成澤 女優になり、その後、母親になってからも女優業を続けてこられたわけですが、そういう忙しい生活のなかで食についてはどんな注意をされてきましたか。

 高橋 なるべく人工的な保存料とか着色料などが入っていないものを、自分で作れるものは自分でと考えていました。昔から、味噌汁は煮干しから出汁をとります。今朝も作ってきたんですよ。
 食べるものって、人間をつくるとても大事なものですから、それを作る農家の人をもっと大事に考えてほしいと思います。食べものを作る人たち、それを調理する人たちはとっても大事ですよね。
 以前、永平寺の管長さんと対談する仕事があったんです。話を聞いてびっくりしたのは、食事は位の高いお坊さんが作るんですって。普通は修業を始めたばかりのお坊さんの仕事じゃないかと思うでしょ? それがそうじゃなくて、食は命に関わる大事なものだから位の下の人には作らせないんです、と言われたときには、これは絶対に主婦の人たちに聞かせたい(笑)と。
 今、若い人や子どもたちの心の荒廃がよく問題にされていますが、食べるものもその背景の何割かを占めているんじゃないでしょうか。気持ちの込もったものであれば、同じおにぎりでも違うと思うんですよ。

高橋惠子さん

 成澤 特別に手の込んだ食事じゃなくても、簡単なものでも違うということでしょうね。

 高橋 私はおにぎりが大好きで、死ぬとき最後に何が食べたいと聞かれたら、おにぎりって答えるほどですが、それはおにぎりには握る人の気持ちが入るからなんです。そういう食べものを食べると元気になる。でも、誰のためにというのじゃなくて、機械でたくさん作ったようなものは食べてもピンとこないですね。やはり気持ちを込めるということが大事なのかなと思います。
 でも、食べものをつくる仕事って大変ですよね。成澤さんはお休みはあるんですか。

 成澤 今は酪農ヘルパー制度というのがありますが、それでも月に1回程度ですね。牛も生き物ですから搾る手が変わるとうまくいかないんです。

 高橋 ええ、それは分かります。子どものころ乳を搾ったこともあるんです。気にいらない人が搾るとバーンと蹴飛ばして、せっかく搾った乳がバケツごとひっくり返されたり。牛にも性格があるんですよね。それ以来、搾ったことはありませんが、牛の乳頭は4つ、胃袋も4つ、ということはちゃんと覚えました。(笑)。
 でも、本当に大変な仕事だと思います。父が言ってました。「酪農とは、“ら”がない“苦農”だ。この仕事ができたらなんでもできる」って。

 成澤 昨日の夜、子牛が生まれたんです。やはりかわいいですし喜びですよね。だから、何とか苦農にはしたくないと思っています。

高橋惠子さん

 高橋 日本のなかから農業がなくなったら本当に大変です。これは国に言いたいことです。農業は元ですからね。全部輸入で賄ったらどうなりますか。食べものは、やはりその土地でできたものが、その土地に住んでいる人にはいちばん合うと思います。そういうふうに自然できているはずです。ですから、農業に力を入れて夢のある仕事に変えていくということが大事じゃないかと思います。
 土や作物、生き物、それから人との触れあいが農業にあると思いますが、そういういろいろな触れあいががそのままかたちに現れてくるのが農業という仕事だと思うんです。とても大事な部分を担っている仕事なので、誇りを持って、活気あるものを自分たちで作り出していってほしいと思いますね。
そうそう私、初乳が好きだったんですよ。初乳豆腐、あれをつくるでしょ。産んですぐのお乳は濃くて固まりやすいからできるんですよね。

 成澤 それは残念でした。昨日の夜、産まれたばかりだから今日はお持ちできませんでした。

 高橋 本当においしいですし、酪農をやっている方の楽しみでもあると思いますよね。

 成澤 冷凍で良ければお送りしますけど。

 高橋 いえ、いえ、やっぱりその土地に行って食べないと(笑)。

◆大変さも素晴らしさも子どもたちに伝えて欲しい

成澤 泉さん

 成澤 今のお話にも関係することですが、高橋さんは昨年、100万人のふるさと回帰運動の記念シンポジウムに出席されて、都市と農村との循環の大切さについてお話されていましたが、そのために農村の女性たちに期待されることは何でしょうか。

 高橋 たとえば、農村に学びに行く、遊びに行くという企画を考えてもらうことも大事ではないかと思います。やはり都会の人には知らないことが多いと思うんです。それは農業について関わり合いが今までなさ過ぎだからですね。その仕事のすばらしさも大変さもまず分かってもらうことです。そこを分かってもらうことが、将来、その子たちが仕事を選択するときに、農業をやっていこう、とても大事な仕事だから自分はこれを選択しようという人が出てくることにもなると思います。
 そんな人たちが新しい発想で農業を経営するということもあると思いますから、将来のためにも農村に来てもらうという企画ができればいいなと思いますね。

高橋惠子さん

 成澤 先日、私たちフレッシュミセスの全国大会があったんですが、そのときの話し合いのなかで農業の技術や農薬などに対する知識をまず自ら高めようということと、もうひとつは生産者と消費者との関わりを持ちたいという意見がたくさん出ました。これは双方から求められていることだと思っています。
 ただ、今は農業であっても効率化が進められている気がするんです。

 高橋 ものをつくるときに、効率化だけで考えていたのでは、さっき話したおにぎりでもそうですが、気が入らないんです。
 私は人の生き方を演じさせてもらっている仕事をしているわけですが、やはり世の中が効率化だけで動いていってしまうと人間もつまらない人間になってしまうんですよ。味気ない人間になってしまう。
 日本人も効率化と対極にある豊かさ、生きていることの味わい、そういうことを知っている人々だと思うので、そこをもっと大事にしていきたいですね。そういう意味では、女性は、子どもを産んで育てるという性ですから、育むとか、守っていくということに女性がもっと力を出したらいいと思います。
 効率化といえば、たとえば、きゅうりは、本当は曲がっているものなんでしょ。それを箱詰めするためにまっすぐなものにしてしまう。

◆曲がったきゅうりは当たり前
  自然の力を知ることが生きること

 

 成澤 そうですね。おいしいものを食べてもらいたいということはみな考えているんですが、消費者にまだ伝わっていない部分がある感じがしてそこが歯がゆいという気もします。

 高橋 曲がったきゅうりでも売れるようにはならないんでしょうか。曲がっているのが本来の姿なのに、人間の便利さのためにまっすぐにさせられているんですよね。
 人間もそうなんですよ。人間もいろいろあっていいんですけど、ちゃんとしていなきゃいけないと思わされてしまっているんじゃないでしょうか。だから、ちょっと曲がっているような人はいびつだとか思われてしまう。
 農業は自然と一体の仕事だから、そこから学ぶことが多いはずです。生き方についても。私が農家に生まれてすごくよかったなと思うのは、自然には逆らえないということを知ったことです。人間の力ではどうにもならないことがありますからね。それを知らないと何でも人間の力で何とかなると錯覚してしまうと思います。

高橋惠子さん

 成澤 最後に改めて農業に携わっている女性に向けてメッセージをお願いしたいのですが。

 高橋 ある先輩の役者さんが、1本の大根を作るのって大変なんだよ、でも誇りを持って大根を作っている農家の人たちに負けないように、感動してもらえる芝居をやらなきゃいけないんだ、と言われたことがすごく心に残っています。
 職種は違いますが私も誇りをもって仕事をしています。私も誇りを持って作っている方の食べものをおいしく食べたいですし、まごころを込めれば、必ずその結果が出るはずなんです。それをどこかできちんと見ててくれている人がいる。そう思ってこの農業という大切な仕事を担っていってほしいと思います。

 成澤 今日はありがとうございました。

インタビューを終えて

 酪農家に嫁に来て8年目になりますが、まさかこのような仕事をさせていただけるとは、思ってもいませんでした。
 高橋惠子さんは、とてもしっかりした生活感覚をお持ちの方だと感じました。それが、8歳までの酪農生活の中で培われたものだということは、今酪農の中で子育てをしている私にとって、何よりの励ましになりました。思いやりのある素敵な方で、改めてファンになってしまいました。
 今、家庭の食卓が危ないと思っている方がたくさんいらっしゃると思います。我が家でも忙しさにかまけて、ついインスタントに手が出ますが、手の抜き方を少し工夫すれば、安全な食卓は守れるのではないかと、このインタビューを通じて感じました。まだまだ農作業や、食材を生かす料理に対する知識も足りないので、女性部の方にいろいろとご指導いただきながら、これからもフレッシュミズの仲間と頑張っていきたいと思います。(成澤)



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