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特集:2003 おんなたちのPOWERで「変革」の風を
    −第48回JA全国女性大会特集−

片手に起業、片手にボランティア
女性起業をNPOで法人化

金田三和子さん NPO法人「夢未来くんま」副理事長


 片手に起業、片手にボランティア――静岡県天竜市の農村の女性起業グループは、法人化に当たり、NPO(民間非営利組織)法人を選択、「NPO法人夢未来くんま」として、平成12年6月に再出発した。その副理事長が金田三和子さん(61)。同法人が経営する道の駅「くんま水車の里」の駅長を務める。

◆年商1億円で天皇杯も受賞

金田三和子さん
金田三和子さん

 母体となったのは、昭和61年に始まった熊地区活性化推進協議会を主体とする事業だ。食堂、展示販売をする「かあさんの店」、そば、みそ、菓子、こんにゃく、漬物、五平もちなどの製造、商品開発をする「水車の里」などに取り組んできた。手打ちそばが人気を集め、年商1億円。平成元年には農林水産祭むらづくり部門で「天皇杯」を受賞している。
 「補助金を受けるときに、自己負担分を地域の財産区の山を切って始めました。施設も事業も地域みんなのものです。活動内容も、地域おこし、食文化の研究、福祉、山や川を守る環境保護運動、社会教育など、公共性の高い取り組みをしてきました。それならNPOでいけるということで法人化しました。」

◆山里を目指し8万人が来訪

くんまの水車の里
くんまの水車の里

 「くんま水車の里」は、50万人都市浜松市から北へ42キロ、1時間半はたっぷりかかる。国道152号線からさらに山道を30分ほど車で上がったところにある。取り立てて観光地があるわけでもない。この交通の便の悪い山里に「くんま水車の里」を目指して、年間8万人の人が訪れる。
 「ありがたいことです。アンケートをとったら、『ほっとする』『ふるさとに帰ったみたい』という感想をいただいた。若いカップルが川の土手に何時間も座って楽しそうに話していたりします。年配のご夫婦もたくさんいらっしゃいます。リピーターが多いんです。なんとなくのんびりできるのがいいんでしょうか。」

◆過疎対策にと女性が夢語る

 熊地区の主な産業は林業。高度成長下、林業が衰退し急速に過疎化が進んだ。昭和30年に2508人あった人口は、熊地区活性化推進協議会が発足した昭和61年には1210人になっていた。
 「なんとかしなければ、ここはなくなってしまうという危機感を強く持ちました。でも、なかなか実行に移すのが大変でした。昭和51年から活動を続けていた神沢生活改善グループが中心になって、『明日の熊を語る会』を開き、夢を語り合いました。」
 それまで女性たちは、生活改善グループ、JA女性部、公民館活動で食を取り上げてきた。手作りの良さ、昔の食文化を大勢の人に味わってもらえないかというのが出発点。地域のためにみんなして力をあわせてやろうということになったが、山村女性なので資金がない。行政からいろいろな補助金があると聞いたものの、自己負担分もあって頭を抱えてしまった。それならと、男性陣が、財産区の山を切ってやろうということになって、熊地区活性化推進協議会を結成した。
 食堂と農産加工品の販売が主体。減反で取り組んできたそばを生かした、手打ちそばがメインメニューだ。事業は順調なスタートを切った。過疎の女性グループが頑張っているということで、マスコミに大きく取り上げられたことも手伝って、初年度から売上げが、8000万円に達した。3年目には税務署が来た。
 「私たちは最初からこんなにうまくいくと思いませんでした。1日、1日ただ、もう必死でした。地域のお金を出してもらった以上、こうして経済性につなげることができて、本当によかったと思っています。道具や資材を買ったりは私たちが少し出しました。最初から収益があったので、みんなにその分、返せたほどです。採算があって、時間給700円にボーナスも出せるようになりました。地域おこしである以上、単に生きがいという自己満足だけではなく、経済性を持つことが重要だと思います。」

◆ぱっと明るく、うんと元気に

 
地元の農産物を地元で加工し販売

 最初は心配のあまりいろいろ批判する人もいた。いらんことせずに、山だけ守っていればいいという声も出た。
 「平成12年の人口は977人。それでも、水車の里をきっかけに村がぱっと明るく、うんと元気になりました。女のやつらよくやると、日に日に理解して、協力してくれるようになりました。私たちのやっていることはそばの栽培からおどんぶりに出すまで。生めん製造、菓子、飲食店、露天商、仕出し、惣菜など。付加価値をなるべく高めてお出しすることで、収益を確保し経済性につなげたのです。」

◆経済性を確保、地域に還元も

 地域に施設の借用料として年200万円払うほか、260万円を地域の活性化推進協議会に寄付してきた。荒れ放題の畑をもう一度見直し、いろいろなものを生産するようになった。
 「学校の先生からは、『子供たちに一生懸命やれば、田舎の母ちゃんでも日本一になれるということを教えてくれた』と言っていただきました。」

◆NPO法人で使命が明確に

 法人化の話は前々から出ていたが、地域のためにやる事業を株式会社のように金儲けが前面に出てしまうのが気になった。そんな時、NPO法人が法制化された。
 「私たちのやっていることは地域の見直し、都市と山村の交流、地場産品の発掘、さらに福祉部門、山川を守るということ。今まで収益も、携わっている人たちだけの収益ではなく、地域に還元してきた。子供たちの体験学習や環境美化運動など、ボランティア活動にも、地域の活性化ということで積極的に取り組んできました。NPOはぴったりの組織形態だとみんな大喜びです。」
 NPOになって、より地域貢献の使命が明確になった。今までの調理の腕を生かし、独居老人向けの給食サービスや、いきがいデイハウス「どっこいしょ」の開設、ヘルパーの養成など、福祉事業に積極的に取り組むようになった。国土交通省の「子どもの水辺」の登録を受け、環境教育、体験教育にも力を入れる。棚田やホタルに代表される自然環境の保全も大切な活動だ。
 NPOにしたメリットについて金田さんは次のように語る。
 「地域を守るという自分たちの使命が明確になったこと。経営体としての信用が高まったこと。NPOということで、補助金をいただけるのもありがたいことです。」

◆若手の参画で後継者も確保

 女性起業グループの最大の悩みは後継者問題。現在働いている人は35人。理事長は男性だが、全然タッチしない。補助金の申請も、会計処理も全部自分たちでやる。定年は60歳。だが、75歳まで続けられる。若い人も、3年前から6人仲間になった。
 「私たちの活動を通じ、確かに交流人口は増えました。それは大変良かったですが、若い人たち、夜の人口を増やさなければならないと思っています。今までやってきたことの後継者を作らなければなりません。今、私たちの仲間には、30代の若手も入って一緒にやっています。宅地造成し、少しでも人口を増やそうとNPOの力で頑張っていきます。」
 「食の安全、安心には特に気を配っています。手作りで、自分たちが食べる食品をそのまま食べていただいています。それを大勢の方が求めてきてくださる。シイタケも地元のものしか売っていません。野菜などもそれだけを求めてきてくださる人もいます。安心できる食べ物を販売できる。これは自信をもってやっています。地元の物を地元で加工して販売しています。労働力の面で、大量にできるということはありませんが、私たちなりにやれることをやっていきたい。」

◆しあわせ部で福祉事業展開

 給食サービスは独居老人向けで1食400円の行政の補助でやる。人件費は出ない。23集落で集まってやるデイサービス「いきがいハウスどっこいしょ」には水車の里の職員が行く。人件費は全部、水車の里の負担。
 「グループを引っ張ってくるには大変なこともありました。みんなよく頑張ってきてくれたと思います。1人ひとり得意な分野を引き出して、認め合うことが大切だと思います。以前はイベントというと自分が全部やって、車の運転も私がやっていました。今はみんながやってくれます。普及員の方が『ここがうまくいったのは、のんびりとあくせくしないから』と言ってくださいました。」
 体験学習にも力を入れる。水車の里ではそば打ち体験などをするが、押し花など、そのほかいろいろな体験をアレンジする。
 「自分たちで全部できるわけではありませんから、地域のネットワークを活用しています。いろんな才能を持った方がいらっしゃいますから。」
 家が山持ちといえばお大尽で、「嫁を働かしてどうなるじゃ。かたやぶりの嫁っこだ」と言われた。
 「元は商家の娘。衣料品、呉服を販売していた。商売の血が流れているんでしょうね。お客様を敬うということが身についていました。だれが来てもニコニコとしているようにと教えられましたから。商家に育ってよかったと思います。」
 今後は若い人のためにも、雇用保険や退職金制度など社会保障を充実させていきたいという。  (山本和子)

(連絡先)夢未来くんま(〒431-3641 静岡県天竜市熊1976―1、電話0539-29-0636、FAX0539-29-0625)



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