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特集:稲作経営安定と集荷向上をめざして

   水田農業の構造改革に向けて
――今後の米政策検討の基本課題


JA全中・食料農業対策部水田農業対策課長 馬場利彦氏

 米政策の見直しにあたってJAグループは、現在の生産調整に対して、実施者と未実施者との間の不公平感の是正が最大の課題だと主張してきた。生産調整の具体的なあり方は、今後の検討課題となった。
 しかし、水田農業の将来を考えると、単に生産調整方式を検討するだけなく、より幅広く米政策全体を見据え考える必要がある。その基本的な視点をわれわれはどう持つべきか。JA全中・食料農業対策部水田農業対策課の馬場利彦課長に解説してもらった。

 政府・与党において決定された「米政策の見直しと当面の需給安定のための取組について」において、「効果的な需給調整体制の構築、水田農業構造の改革、安全性に関する取組の強化と消費拡大の促進、備蓄運営の健全化、流通の効率化等を内容とする米政策の改革を推進する」ことが表明された。
 このことの意義は極めて大きい。というのも、食管法から食糧法への転換以降、いろいろな手を打ってきても、現場においては生産調整の限界感をはじめ、不公平感が渦巻くなかで、これを何とか打開しようとする米政策の改革に着手する旨の方向を提示したからである。

これまでの米政策の経過と課題

 振り返れば、食糧法以降、政府の直接管理は備蓄に限定され、自主流通米を中心とした市場による価格形成と自由な流通がすすめられてきたなかで、価格安定の基本は、生産者の主体的な取り組みへと転換、生産調整に加え、豊作等の場合の自主流通米による調整保管や配合飼料向け別途処理、さらには緊急需給調整対策等の需給改善の取り組みが、価格を支えるうえで重要な役割を担うことになってきている。
 他方で、計画外流通米が増加し、卸・小売りの参入・再編、大手実需者のシェア増大など、米の流通場面から大きな変化が起こってきた。なんといっても、この間、豊作が続くなかで、価格は大幅に下落するとともに、生産調整の拡大をはじめ、毎年のように対策の手直しがなされてきたのは周知のことである。 
 平成10年産米から適用された「新たな米政策」が需給実勢に応じた価格形成・市場原理の徹底とその影響を緩和する計画生産実施者の経営安定策としての稲作経営安定対策等に方向を転換した。
 12年産からの「水田を中心とした土地利用型農業活性化対策大綱」では麦・大豆等の本作化をすすめる対策を確立し、昨年9月に決定された「平成12年緊急総合米対策」においては、需要の減少等による計画を上回る持越在庫の発生や、豊作基調で12年産米価格が大幅に下落する状況を打開するものとして、緊急的な需給改善のための各般の対策が措置された。
 しかし、現場においては、価格下落による所得の減少や、生産調整を実施する者としない者、計画出荷して需給調整の負担をしている者とそれにただ乗りしている者との間の不公平感が増大し、生産調整の限界感とも相俟って、これまでの米政策に対する見直しの声が拡大してきたのも事実である。

真の改革は水田農業の構造改革から

 こうした実態を踏まえつつ、効果的な需給調整体制の構築をめざすなら、その根本にある水田農業の構造改革を具体的にすすめていくことこそ重要になるのではないか。
 こうした点から、以下、今後の生産調整をはじめとした真の米政策の改革を考えるにあたって、この基本となる水田農業の構造改革の方向について検討してみたい。

 ★生産調整の観点のみでは解決しない
 生産調整は過去30年余の歴史を有するが、食糧法の下で初めて生産調整が法的に位置付けられて以降、価格の安定をはかる基礎は、自らの主体的な生産調整の取り組みによるところとなり、それまでとは状況を一変させることとなった。にもかかわらず、生産者の意識は徐々にしか転換できてこなかったというのも否定できない。
 しかし、それは生産者のみの責任というわけにはいかない。米に比べて相対的に低い他の作物の価格・所得水準や、土地条件、作業上の容易さからくる米偏重型経営の定着など、300万人の生産調整実施者、250万戸の米生産農家が存在し、零細兼業稲作が太宗を占めるという構造のもとで、それぞれが主体的に米の価格・経営安定のために生産調整を取り組むという方向へ転換すること自体大変なことである。
 生産調整に係る助成金や稲作経営安定対策などの生産調整メリット対策によって誘導するしか方法はないが、財源の制約もあって画期的な誘導策となりえず、理解と協力を得るよう関係者が懸命な努力を要しているのもまた事実である。
 そう考えたとき、その根底にある零細兼業の水田農業構造を改革していくことこそが、生産調整や米政策の円滑な推進にとって最も重要な課題となるのではないか。

 ★生産調整の取り組みの効果と水田農業の状況
 たしかにこれまでの生産調整の取り組みが効果を発揮してきた面がある。例えば12年度の生産調整97万haのうち23万haは物理的に定着しており、また「土地利用型活性化大綱」以降、団地化等により経営的に定着しているとみられるものが38万ha、計64万haは米には戻らないのではないかという食糧庁の試算もある。
 麦・大豆等においても担い手が主たる作業を担う取り組みの広がりなど生産構造の変化が緒についてきた。
 しかし、稲作については一筆ごとの利用権設定や作業受委託はあるものの、一挙に構造を変える状況には至っていない。梶井功先生は本紙で、近年の価格の下落等を背景に5ha以上の大規模農家の経営が決して安定したものではなく、増加率が鈍化傾向にあることに着目しておられた(検証・時の話題「農業構造改革と新経営政策」参照)。
 現在、稲作生産者の約8割、作付面積の約5割、出荷数量の約4割が1ha未満の農家層である。仮にこれらの層がリタイヤ等で約半分程度が離農し大規模層に農地が集約されたとしても40万ha程度であり、農水省が構造展望で示している30万経営体をつくるには87万haの農地が流動化しなければならないという試算からみれば、半分以下の面積しかない。農地の流動化のみで構造改革を実現するには容易なことではない。
 地域の実情に立脚しながら、理解と合意の下で、農作業受委託や農地保有合理化など農地の利用調整機能をすすめていくJAグループの役割がそこにある。

 ★副業農家除外では“担い手”が先に倒れる
 米を主とする主業農家数は全体の18%、粗生産額の36%しかない。これが太宗を占める構造をめざすといっても、副業農家の稲経除外では解決しないことは、今回の決着までの議論で再三にわたって言われたことである。担い手の米収入は生産調整で価格を支えているのであって、副業農家除外でこれを地域から壊すことになれば、担い手たる経営こそ先に倒れることになる。
 この問題は、結果として経営所得安定対策の確立に向けた検討の中であり方を検討することになった。しかし、価格下落の影響が大きい担い手に対しては、現行の対策のもとで需給と価格の安定を確保することを基本に、担い手の経営を支える新たな経営所得安定対策を確立するいわゆる2階建てを基本に据えた議論を早急に進める必要がある。1階を壊して2階は立ってはおれない。

地域を単位とした構造改革の方向

 我が国特有の零細かつ分散した水田を兼業農家で担っている実態を改革するならば、集落・地区を単位に面的な構造改革をはかることこそ基本とすべきなのではないか。
 水田農業は、集落など地縁的な単位での水・土地利用秩序のもとに個々の営農が成立している。これは生産調整が「推進上の地区」を単位に推進の母体としてきたことに端的に表れている。水田の利用を面的に集積・調整し、それを効率的・計画的に利用し生産する主体である担い手を地域単位に作り上げることこそ我が国水田農業構造の改革の方途であるといっても過言ではない。
 集落・地域を単位にした多様な集落営農などの集団的な取り組みを含めて、水田農業の将来を支える担い手の明確化と育成を通じて、需要に応じた米の計画生産と麦・大豆・飼料作物等が経営として定着する生産構造をつくり上げるための支援制度や仕組みの構築こそ急務であるといえる。
 そのもとで農地を農地として利用する地域としての規律や、WCSを含む自給飼料生産の拡大や有機農業等の普及、さらには需給調整・過剰米対策のための負担の公平化を解決する道筋につなげていけないか。そして今後の新たな経営所得安定対策の対象となる担い手を作り上げていけないか。
 今後の検討に委ねられた米政策の改革の基本部分はこうした視点から検討する必要がある。また、14年度から新規事業として3カ年実施される「地域水田農業再編緊急対策」はまさに地域単位での構造改革を促進すると銘打って措置された。他方で新たな経営政策のなかでも14年から集落等を単位に構造転換計画策定の事業が始まる。このように焦眉の課題は、まさに米・水田農業における地域を単位とした構造改革にある。


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