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特集:稲作経営安定と集荷向上をめざして

  「米政策の見直し」とJAグループ米穀事業の改革

JA全農・米穀販売部長  森川喜郎氏

 食糧法では計画流通制度のもとでの米が流通の太宗を占めるとされてきた。JAグループはその計画流通制度を担ってきたが、現実には集荷率の低下が続いている。今回の米政策の見直しでは、この計画流通制度も検討の対象となっている。検討のためには、なぜ計画流通米が太宗を占めることができなくなったのか、その原因をこの間の米政策の変化のなかで捉える必要がある。ここでは計画流通制度の見直しの課題とJAグループの米穀事業改革についてJA全農米穀販売部・森川喜郎部長に解説してもらった。

生産調整対策では公平性確保など検討へ

 食糧庁は昨年の8月に、(1)我が国稲作の生産構造が極めて立ち遅れていること、(2)ここ数年の自主流通米価格の下落により、特に主業の農家の経営に大きな影響を与えていること、などの事態に対処するため、今後の米政策について、総合的かつ抜本的な見直しの検討を開始したいとして、自民党に検討を依頼しました。
 これを受け、自民党は農業基本政策小委員会において、9月以降検討を開始し、生産者、生産者団体など関係者から幅広く意見を聞き、昨年の11月20日に「米政策の見直しと当面の需給安定のための取組みについて」を取りまとめました。
 その中で、特に、生産調整対策(生産数量管理への円滑な移行,公平性の確保)、計画流通制度の見直し(安定供給体制の整備)の具体的な内容については、今後、生産者団体、行政、関係機関により構成される研究会で検討することなりました。
 研究会での検討にあたっては、(1)需給調整が今以上に適確に管理され、公平性の確保がはかられること、(2)計画流通米の集荷率の向上がはかれることなどの見直しでなければならないと考えています。
 この2つの課題のうち、経済事業と密接に関連する計画流通米の集荷率の向上を中心にして、次に述べてみます。

計画外流通米との公平な競争条件確保を

 計画流通米は、表1のとおり、食糧法施行以降、毎年減少し、集荷率は51%まで低下しました。「なぜここまで低下したのか」、このことについては、次の5つの歴史的経過を分析し、それらを十分ふまえたうえで、対応策を検討する必要があるのではないかと考えています。
 その1つは,平成5年産の大凶作を受け、生産者から消費者への直接的な流通が大幅に増加したことです。
 2つは、食糧法施行の影響を受けた平成7・8年産から、制度上の規制緩和、いわゆる生産者の「作る自由,売る自由」の意識の変化により、生産者の直売や業者を媒介とした流通が増加したことです。
 3つは,平成8年産の80万トンにもおよぶ自主流通米の調整保管により、需給対策費に係る経費が増大し、これにより次年産以降の集荷に影響したことです。
 4つは、平成10年産から、(1)WTOとの関連で、新たな米政策により計画流通助成 1140円/60kgから稲作経営安定対策へ移行した自主流通米助成の変化による自主流通米メリットの相対的な減少、(2)入札制度の値幅制限の撤廃によるリスクを回避するために、仮渡金の内金・追加払い方式(12,000円/60kg)の導入、(3)備蓄運営ルールの適用による政府買入数量の大幅な減少によって、自主流通米の価格が低下することが懸念され、また、政府買入れによる共同計算における一定の安定的な収入確保が見込めなくなること等により、仮渡金水準が低下したこと、などによることです。
 5つは平成11年産から,主食用以外への飼料用向け別途処理が導入され、計画流通米出荷生産者が米全体の需給調整の責を負う構図となり、需給コストが増大するなかでJAにおいても計画外流通米を取扱うケースが発生していること、などです。
 以上のような歴史的経過のなかで集荷率の低下が生じたものであり、計画流通制度がどう見直しされようとも、計画外流通米との公平な競争条件を確保し、特に業者の取扱う計画外流通米を取り込むことを最大の課題として検討を進めます。

改革推進へ県本部・全国本部 英知結集し、推進を

 また、計画流通米と計画外流通米の価格・流通経費・生産者手取り額の現状(表3)についてですが、(1)計画流通米は計画外流通米に比べて広域流通・長期販売にならざるを得ず、構造的な流通コストの格差を有していること、(2)計画外流通米は、出来秋を中心に相当量が流通することからコストが極めて小さい構造となっていること、(3)計画流通米は、その県産・銘柄を販売していくために販売促進・広告宣伝活動を行っているが、結果として同一産地・銘柄の計画外流通米の販売促進活動も合わせて行うこととなるため、ここにおいても、いわゆる「ただ乗り」の構図となっていることもみておく必要があります。
 公平な競争条件を確保する取組みと併せ自らの取組みとして、(1)銘柄別需要に応じた米の計画生産、(2)消費者ニーズを生産にフィードバックし得る体制の確立、(3)産地の顔の見えるきめ細かな販売、(4)共計の透明化、(5)流通コストの削減など、JAグループを通じた事業の改革を行う必要があります。
 特に、生産調整の方式がネガ面積管理からポジ数量管理に移行していくなかで、銘柄別にどのくらい(数量)どこに(家庭用か業務用か)どのような品質で、どの程度の価格で販売できるかを把握し、この情報を産地に伝達し生産に反映させる事業の仕組の確立が急務の課題となっています。
 また、過度の産地間競争を排除し、流通コストの削減をはかる観点で13年産米から実施した「販売対策費のガイドライン」の策定とこの実践やJAS法の実施などによる新たな流通秩序のもとで、きめ細かな取引先対応を図るなど、取引先に対するサービスの向上をはかることも重要となります。
 米政策の見直しの方向如何にかかわらず、JAグループは、これまでの米取扱いの長い歴史のなかで培ったノウハウを活かしつつ、県本部・県連等と全国本部が英知を結集し、この取組みを推進していく必要があります。


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