JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

特集:総合力発揮で信頼性を確保―
    リテール分野拡大で飛躍をめざすJAバンク

鼎談
組合員・顧客に目線を据え信頼性確保たゆまず追求を
勝ち残り目指し、今年は「正念場」・「安心」第一主義で預かり資産獲得 JAしみず市の取り組み

柴田 昇 農林中央金庫・JAバンク企画実践部部長
渡邉泰令 JAしみず市・常務理事

(司会)白石正彦 東京農業大学教授

 リテール(小口金融)分野の競争が激しい。メガバンクも住宅ローン推進などにしのぎを削っている。JAバンクも“勝ち残り”をかけ、平成15年度重点実践事項の中で、この分野の取り組みを最重点の1つとした。リテールはJA信用事業にとって本来の領域。全国的に先進事例は多い。中でもJAしみず市の事業展開はユニークだ。この鼎談では、渡邊常務がローンセンターや不動産センターなどの活動をはじめファイナンシャルプランナーの機能強化など次々に示唆に富む活動を報告した。また農林中金の柴田JAバンク企画実践部長は15年度重点実践事項の要点を簡潔に説明。今年はJAバンク挙げて経営健全性確保と事業量確保・収益拡大を目指す「正念場」とし、積み残された取り組み課題なども挙げた。鼎談は白石東京農大教授による進行で多角的に展開された。

白石正彦氏
しらいし・まさひこ 昭和17年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。東京農業大学国際食料情報学部教授。昭和53年〜54年英国オックスフォード大学農業経済研究所客員研究員、平成5〜7年ICA新協同組合原則検討委員会委員、10年ドイツ・マーブルク大学経済学部客員教授。

 白石 信用事業を包含しているところに総合農協の意義があるわけですけど、その中で総合力と専門力を発揮したJAらしい信用事業の革新が求められていると思います。組合員・利用者の信頼と、事業成果をいかに高めるか、そのカギは、きょうのテーマであるリテール分野の拡大・深化にあるといえます。
 これが強調されるのは、他業態がそこに焦点を当て体制を整備しつつ、攻め込みつつあるからで、農協としては、その中で足固めをしていかなくてはなりません。同時に組合員・利用者のニーズを基に新規分野をどんどん広げていくという独自の体制と推進が求められているのではないかと感じています。法整備はすでに昨年できており、その上で農林中金の体制もシステムとして拡充されている状況です。そうした中で、まず現場の概況をJAしみず市の渡邊常務から組織基盤などを含めて、お話いただければと思います。

◆独自の仕組みで多様な事業展開

渡邉泰令氏
わたなべ・やすのり 昭和19年生まれ。清水商業高校卒業。昭和39年庵原農協就職、47年市内9農協合併により清水市農協に、平成9年開発部長、10年推進部長、14年金融共済事業本部副本部長、常務理事就任。

 渡邊 昭和47年に市内9農協が合併してJAしみず市となりました。管内総面積2万3000ヘクタールのうち平坦地はわずか20%。あと80%は山間地域で、傾斜地を開墾してミカン畑や茶畑としています。ほかに花卉、枝豆、イチゴが三保半島など浜辺のほうで生産され、またトマトなども主要農産物となっています。
 特色のあるJAの事業としては開発、葬祭、旅行、不動産の各事業があり、また加工・飲料事業は、県経済連の同じ事業と合併して株式会社化しました。さらに生活購買のコープ事業も別会社化しました。
 組織には、営農経済と金融共済の両事業本部があり、金融共済事業本部は金融、推進、共済の3部に分かれています。うち推進部には不動産、旅行、ローンの3センターがあります。

 白石 それは特徴的ですね。

 渡邊 平成15年度から不動産と旅行は他部門に変わります。これはJAバンクの指導もあるのでやらざるを得ませんが、あとでまた意見を述べます。
 一方、4月1日に清水市と静岡市が合併し、新静岡市の中でJAが2つとなるため、お互いに、いい意味で競い合って、JAバンクのレベルアップを図りたいと考え、この前、JA静岡市と打ち合わせをしました。そんな課題もあるわけです。

 白石 JAしみず市の正組合員戸数は5693戸、准組合員は7692戸となっていますが、管内には都市的地域と山間地域を抱えているわけですね。
 さて昨年1月にスタートしたJAバンクシステムは、その考え方を若干補強して、15年度JAバンク重点実践事項に取り組まれますが、それについてお話いただければと思います。

◆貯金の伸びが信頼性物語る

柴田 昇氏
しばた・のぼる 昭和28年生まれ。京都大学農学部農林経済学科卒業。昭和51年農林中央金庫入庫、平成8年新潟支店長、10年推進部副部長、12年推進統括部副部長(機構改正)、13年同部主任考査役、同年JA基盤対策班部長、14年JAバンク企画実践部主任考査役、同年同部長就任。

 柴田 重点実践事項は、JAバンクシステムの考え方を冒頭に掲げ、次いで同システム構築の原点は「市場原理と自己責任原則の徹底を基本とする金融新時代において、どうすれば地域と農業を支えるべきJAの本源的役割を持続的に発揮していけるのか、という問題意識であった」と振り返っています。
 この問題意識は、いいかえれば、「グローバルスタンダード」など世の中の物差しが大きく変容しようとしている一方で、われわれは協同組合精神に立つという2つの理念のせめぎ合いともいえます。
 3年前の第22回JA全国大会で「JAバンク確立」のための方針が決議され、その後、具体化の中で、この古くて新しいテーマを議論してきました。この秋に開く23回大会の議案検討でも、経営改革の側面では同じテーマが底流にあると思います。
 この1年の取り組みでは、JAバンクシステムを構築し、実効性ある破たん未然防止策を確立しました。
 また一体的事業運営面では、昨年3月に信用事業電算システムの運営を農林中金の子会社で一括的に担う新JASTEM体制に移行し、全国的に一元化を進めています。
 組織整備では、昨年10月に農林中金と宮城県信連との統合が実現し、次いで今月には岡山、5月には栃木との統合が決まっています。その後も4県信連との統合協議が進んでいます。
 こうした取り組みで全国のJA貯金がプラスの伸び率を堅持し、特に個人の貯金のプラスは、他業態が苦戦している中でJAバンクの信頼性が確保されているものと評価できると思います。
 しかし厳しい経済状況の中で、JAバンク側においても全体収支は低下傾向にあり、収益力の回復・向上は急務です。それに一部のJAには初歩的な事務ミスや不祥事の発生などもみられ、基本的な部分で取り組み課題が積み残されています。

◆ローン伸長で収益力を強化

 柴田 各業態・金融機関とも「勝ち組」としての決定打を打っていない現状は、JAバンクにとってチャンスともいえますが、いずれにしても時間は余りなく、JAバンク挙げて経営健全性の確保と事業量確保・収益拡大を目指す「正念場」であるというのが今年の位置づけです。
 15年度は、先の22回大会決議を受けて決定した「系統信用事業中期戦略」の最終年度に当たるため、重点実践事項には、次期の中期戦略につないでいく観点を盛り込んで、全国のJAに提示し、取り組んでいただいております。大枠は次の4点に整理されています。
 1は「JAバンクの信頼を守る」です。
 2は「JAバンクの事業を伸ばし、地域と農業に貢献する」で、具体的な中身は▽個人預かり資産の安定獲得▽個人ローン伸長による収益力強化▽農業融資体制の整備・強化―です。
 3は「JAバンクの全国一体的な事業運営体制のもと、高度で親切な金融サービスを提供する」です。
 4は「総合事業体の総合力を発揮する」です。

 白石 重点の2で強調されているリテールの課題について現場の話に移りますと、JAしみず市の事業本部組織の下には不動産やローンなどのセンターがあります。そうした体制の特徴をお話下さい。

◆FP増やして組合員を守る

JAしみず市のふれあい館
JAしみず市のふれあい館

 渡邊 前置きになりますが、私どもの金融事業は「農協があってよかった」といわれるJAを樹立し、組合員とともに歩むJAを目指しています。
 その中で推進部は、組合員の資産管理の要望に応える事業展開と、相談に応えられる人材育成での貢献を考えています。
 具体的には管理職、監督職、渉外担当者、不動産センター職員の全員にファイナンシャルプランナー(FP)の資格を取得させる計画です。現在、2級以上が約100人になりました。最近2人が1級を取得したので、今後は金融事業全体で1級を目指し、FP機能を強化します。
 また金融部は、組合員を守るJAとして、困難ではあるが、極力、低利資金を提供する方針で、例えば3年固定の低利資金提供などに積極的です。
 一方、推進部の中に融資営業課を設置し、課長を含め4人が法人融資に当たり、取引先64社を毎日回っています。
 さらに提携企業として契約している会社が53社あり、そこの社員のところを回って職域推進をしています。ほかにも契約はしていないが、立ち入りを認めてくれる企業があるので、融資営業課員は合計約150社ほどを回っています。
 しかし不況の中では法人融資に慎重にならざるを得ないという悩みがあります。

ふれあい館のリーフレット
ふれあい館の
リーフレット

 白石 64社と53社の中には重なっている社もあるのですか。

 渡邊 ありますが、半分以下くらいです。

 白石 融資営業課にはローンセンターがありますね。

 渡邊 本店敷地内に「ふれあい館」があり、そこにローン、不動産、旅行の3センターが入っています。ローンセンターは職員7人が年末年始を除いて土日曜日も営業しています。忙しい時は融資営業課員がローテーションに加わり、応援します。

 白石 いつできたのですか。

◆住宅ローンを攻めの姿勢で

 渡邊 ローンセンターは4年前にJA独自で設けました。それから、最近は住宅ローンに力を入れています。待ちの姿勢では実績が挙がらないため、ハウスメーカーや土木関係の会社と提携しています。提携先からの紹介が8割以上を占めますので、これは大事にしなくてはいけません。融資営業関係の男性職員は、提携先とともに推進に回っています。
 
 白石 3支所にも不動産センターがありますね。

 渡邊 静岡大学とか県立大学などの近くにはアパート経営が多いため、そうした支所には担当者を配属しています。

 白石 JAバンクシステムは金融サービスの向上メリットを強調していますが、一方、厳しい経済の中で支所の統廃合に迫られると、利便性が減退します。その点は?

 渡邊 経済が右肩上がりの時は店舗を増やしましたが、ここにきて職員3、4人では組合員サービスができないという中で今後は店舗の再編が必要という考えから、理事にも見直し問題を投げかけています。

 白石 貯貸率が47.2%と高いのですが、やはり積極的な法人融資や不動産センターの活動に特徴があるのでしょうね。

 渡邊 貯貸率は以前もっと高かったのですよ。いずれにしても不動産センターの金融に対する貢献度は高いですね。数字の問題だけではありません。
 例えば、賃貸マンション建設の相談はすべてJAにきます。またJAは完成後の入居者チェックもしっかりやります。組合員は、そこまでやってくれるのか、普通の不動産屋とは違う、と非常に喜び、安心します。

 白石 入居者が家賃を払わないと困りますからね。

 渡邊 チェックが適正ですと入居者自身も近所付き合いや横のつながりの面で安心です。
 それから入居者にJAの口座を開いていただき、公共料金などの振替をしてもらいます。

◆資産管理組織を組合員がつくる

 柴田 JAバンクのご利用が入居者に広がるわけですね。

 渡邊 そうです。また建物更生共済の家財保障も勧めて実績を挙げています。

 柴田 難しい言葉で「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」と言っていますが、そのものかも知れませんね。

 渡邊 それからマンション共有部分の掃除など不動産の管理も、すべてに気を配ってJAが業者に委託してやっています。
 こうしたことから、アパート経営や土地を貸している組合員1200人余が資産同友会という資産管理のための組織をつくって研修をしています。
 テーマは相続、税金、それに個々の困りごと相談などで、JAが弁護士や税理士を呼んでいますが、今月からは同友会自身で弁護士を頼み、月1回の相談会を開くことにしています。

 白石 正組合員戸数からすれば、その2割以上が同友会の会員ということになりますね。

 渡邊 農産物の価格低迷でJAの販売高が落ちていますから数字的には、そうした関係の事業でのカバーが必要です。

 白石 では県信連や農林中金の業務に対する現場からの要望をお聞かせ下さい。

 渡邊 第1点としては、信用事業担当理事の担当範囲を資産相談事業(宅地等供給事業を含め)まで認めて、本来のFP活動を統括できるようにすべきだと考えます。
 市街化農地に加え後継者問題を抱える都市部の組合員に、農協としてどんなお手伝いができるかを考えると、資産活用や相続までを含むライフプランの相談引き受けが、組合員から望まれる農協事業ではないかと思います。従って資産家集団の組合員が組織する農協が、どこの金融機関にも負けないFP活動の基盤を構築するためにも、FPを一括して担当する理事が必要とされると思います。
 第2点としては、県信連と共済連の事業に関する提案や指導は、それぞれの立場、観点からだけの内容であるという問題についてです。例えば、FPの資格取得や活動についての話は、県信連と共済連の意見調整が全くなされておらず、薦める資格認証団体も違います。
 本来、FPは幅広い分野にわたるもので、信用・共済事業だけで完結するものではありません。従って総合農協が今後最も力を発揮できる活動でもあります。各連合会はもっと連携をとった上で提案指導をするようにお願いしたい。

◆各事業共通の電算 システムを

 第3点は、事業別の電算システムを、各事業共通に利用できるようにシステム統合を目指してほしいということです。
 私どもは来年1月にJASTEMに移行しますが、その時点で信用事業はJASTEM、そして勘定系は全中の薦めるコンパスJAとなります。そのほかに共済事業で全共連システム、経済事業で静岡県総合電算システムがあり、営業店には端末機が並んでいる状況で、投資コストや教育で相当なロスがあります。将来に向けて整理していただけないかと思います。これはJAグループ全体の問題です。

 白石 確かに農林中金だけの問題ではないのですが、柴田部長としてはいかがですか。

 柴田 私どもも問題意識は十分持っていますが、一朝一夕には解決できない課題です。
 信用事業担当役員の担当範囲は行政的にどう要請していくかということになります。組合員から相談を引き受け、ニーズに応えていく観点からは、おっしゃる通り、それはFPの大事な仕事の分野なので、われわれも、その観点で考えていきます。
 県信連と共済連の連携については、全共連と農林中金は定期的に意見交換をしたり、担当部署レベルでも、いろんなテーマを決めてやっています。数多い資格の統一については、全中などを中心に課題の1つになっています。
 一番難しいのは電算システムの統合で、いわれたように将来の課題です。現状を見ると、大変な経費がかかるとのご指摘は事実その通りです。
 そこで信用事業と共済事業のどちらもできるシステムを東京に1つ、つくろうということになれば、それをJAでお使いいただく時に例えば、端末は、これまでの数台をまとめて済むという効果が生まれるかも知れませんが、その分、全体のコストが大変高くなって、頂戴する利用料なども、もっとはね上がるとか、現実的ではない面も一方で生ずるので、これは将来の課題となっています。
 FPも渉外担当者も含め、両方の情報を統一して使えるようにしようというテーマも、すでに中期的課題として持っており、全共連とも意見交換をしています。

◆農業金融では法人支援積極化

 白石 話を重点事項に戻しますと「農業金融パワーアップ21パート2」という項目があります。これについて投資育成会社のことなども含めて、お話いただければと思います。

 柴田 改正農協法の冒頭に営農指導が掲げられたこともあり、それこそ農協の存立理念として農業経営者をしっかり支援していく課題があるわけです。
 一方、内閣府の経済規制改革会議や、農水省の「農協のあり方研究会」で農協に対する厳しいご意見が出ています。
 その中で、農協は農業者支援という基本的課題にチャレンジしているのだということを強く打ち出すためにも農業金融に力を入れる位置づけが必要です。
 また農業法人には金融にとどまらず、資本の充実も重要なので、農林中金は農林漁業金融公庫や関係団体とともに出資してアグリビジネス投資育成会社をつくりました。
 企業的センスを持った農業経営の必要性がいわれている中で、農業法人が増えていますが、農業法人協会にうかがうと、会員のほとんどは農協の正組合員だった方の法人成りだということです。そうしたことからもJAバンクは法人への金融対応を大きなテーマにしています。
 それから農業融資相談員を全国のJAに置きましょうという働きかけもしています。合併で大型JAが増え、職員の担当も分化している中では、組合員の融資相談にきちんと対処できる体制が必要だからです。
 また経営的観点からの農業融資が求められているため審査を含めた「農業融資の手引き」や「農業融資推進ハンドブック」などを次々に提供しています。各県ごとに農業の実態は違いますから、それに応じて活用してもらおうという趣旨です。
 こうして15年度は中期戦略の基本目標を達成するため足下固めの活動に取り組みます。

◆開発事業で畑の基盤整備進める

 白石 JAしみず市は加工・飲料事業に積極的ですね。これは農産物に付加価値をつける重要な分野です。しかしミカンをめぐる情勢は厳しいし、加工を含めた農産物全体の販売高は76億6000万円に低下していますね。
 そうした中で次世代の農業者を法人も含めてどう維持するのか。定年帰農者や女性起業家に焦点を当てるやり方はどうか。多様化している担い手への融資や貯金の面はどうかなどを含めて問題点や課題などをお話下さい。

 渡邊 近代化資金にしろ何にしろ農業への投資は減ってきています。とにかく今は縮小傾向です。その中で開発事業として山地の畑の土地改良事業をやって、仕事がしやすいようにしています。

 白石 農地の基盤整備ですね。

 渡邊 開発事業によって将来は平地になったところで今後、施設園芸とかが展開され、従って近代化資金など、いろんな農業資金の需要が出てくるのではないかと見ています。ここ10年くらいで農業情勢が変わってくると思います。

 白石 インフラ整備でどのように変わってくるとお考えですか?

 渡邊 ええ、その後、農業は必ずよみがえってくると私は信じています。

 白石 准組合員が増えていませんね。組合員の利用率がどうかとよく指摘されますが、この点への対応はどうですか。

 渡邊 今までは准組合員を増やさないという流れできましたが、ここにきて員外利用の問題なども含め、これからはJAをうんと利用して下さっている大口のみなさんに准組合員として加入してもらって、JAとのつながりを、さらに強めてもらう必要があります。
 女性について、ひとこと報告しますと、女性総代は今年、60人ほど増えると聞いています。

◆信連での勉強が融資営業の力に

 白石 プロパー資金の特徴はどうですか。

 渡邊 基盤整備事業などで公庫の資金をかなり使わせてもらっていましたが、今は当時の金利情勢とギャップがあるので、うちのプロパー資金に変更したということがあります。

 柴田 低利融資への乗り換えですね。

 渡邊 公庫さんに無理をいってやってきたいきさつがあるため公庫さんとよく話し合い、償還期限が長くて、すぐ借り換えたほうがよいという貸出について変えました。

 白石 金融商品のメニューがディスクロジャー誌にたくさん並んでいますが、最近のニーズはいかがですか。

 渡邊 静岡県信連のモーターローンとは別に、うち独自の自動車ローンを出しましたが、最近は自動車メーカーが自分のところでファイナンスをやっているということから不振です。あの手この手とやっていますが、結局、自動車関係も一時より減ってきています。
 学資などの教育関係ローンも低利で売りましたが、考えているほど多くは推進できません。

 白石 リスク管理についてはどうですか。

 柴田 私は、特徴的に県信連がよくやっていると思います。信連は法人取引があるため審査ノウハウの蓄積があり、それをJAの要望に応じて提供したり、また実際に審査機能を提供したり意識的に取り組んでいます。
 
 渡邊 うちの職員も県信連のお世話になっており、毎年1人ずつ信連の融資営業で2年間ほど勉強させてもらっています。JAに戻っても、勉強してきたという自信とプライドがプラスになっています。
 信連には金融事業全体への指導もよくやっていただいております。また有価証券のことなどでもお世話になっています。

◆情報一体化は大きなテーマ

 白石 JAバンクはJA・信連・農林中金の一体的機能の発揮を掲げますが、とくにローンの分野での情報の一体化について、どうお考えですか。

 柴田 もちろん、事業量の確保・収益力強化の観点では、それが大きなテーマの1つです。
 ローンも貸出も一緒のことですが、営業、受付け、審査を経て融資をします。しかし、それだけでなく、当然、返済までの管理をし、期日通りにお返しをいただいて、それで、やっと完結するという融資の仕事の流れがあるわけです。
 一方、資金別では、法人融資があり、個人向けでも生活資金や賃貸住宅事業資金など、いくつかに分かれます。
 そこで、個人融資の分野は量を扱う仕事だから、融資の仕事の流れを、県域あるいは全国域に集中してやる道がないかと考えています。
 しかし農業資金や事業資金の分野では、現場に近くないと審査ができないから、各JAの体制や能力を高めないといけないという点があります。
 そういうことを、もう少し再整理すれば、業務の効率化やJAの機能と体制の強化につながりますから、このテーマは次の課題になっています。
 また静岡もそうですが、一部の地域では個人ローンをセンター化する取り組みが始まっています。ローンだけでなく、例えば為替業務とか、いろんな事務の関連でも、そういったテーマが出てきています。
 センター化や集中化は、FPや渉外担当者のマンパワーを発揮してもらうことにつながりますから大きな課題です。

 白石 渡邊常務にもう1つ聞かせていただきたいのは、最前線で渉外担当として組合員訪問をしている方々の課題についてですが。

◆ハードルが高くなっても

 渡邊 よそのJAでは渉外担当者をLAとかに分けていますが、うちは複合渉外でやっています。組合員にとっては、金融だ、共済だ、経済だと入れ替わり立ち替わり回ってこられては困ります。行きやすい家はみんなにねらわれますからね。
 しかし最近はコンプライアンス問題とか商品説明の問題などがあるので、今年からは融資渉外を軸に少し体制を組み換えました。若い職員に信用と共済の知識をいっぺんに身につけさせようとしても、なかなか思い通りにはいかないからです。
 一方、ローンセンターで勉強した職員が支所支店に出た場合ですが、信用事業に関しては対応が違います。だからローンセンターは、ただ実績を伸ばすだけのところではなく、人材育成の上でも大切な部署であると考えています。

 白石 私のJAしみず市に対する印象としては、組合員に対する目線というか、そこで知恵を出して事業の仕組みをつくられているということです。
 特に推進部です。各センターを含めて包含的にやられている点、あるいは複合渉外、これも組合員に目線を置いた取り組みです。そういうことで地域の特性を生かしています。
 それから営農面では農地基盤整備事業、そこでは公庫融資なども見ながらプロパー資金を活用しています。
 非常に印象的だったのは、資産管理の面で賃貸マンションの場合、組合員も入居者も安心できるという活動をして、地域社会に貢献していることです。

 渡邊 言い忘れたことがあります。入居者には新婚さんが、かなり多いため▽将来はマイホームを持つ希望があるか▽あるとすれば、どんな所に住みたいか、などとアンケートを集めて事業に役立つ情報も取っているということがあります。

 白石 JAバンクは安全・安心をキーワードに体制を整備されつつあります。1年後のJAバンクシステムはかなり充実の方向に達すると思います。しかし外部環境も、また収支面でも厳しいので、ハードルはますます高くなり、そこに挑戦していかなくてはならない、そういう情勢であるという印象を受けました。 (2003.3.20)


 JAしみず市(静岡県清水市庵原町1)
 概要▽望月眞佐志組合長▽組合員1万6128人(うち正組合員7149人)▽職員738人▽販売高76億6200万円▽購買品供給高58億1600万円▽貯金残高1902億6100万円▽貸出金残高922億4100万円▽事業総利益44億5100万円(うち信用事業総利益22億7400万円)▽事業利益2億9600万円▽自己資本比率15.54%▽リスク管理債権比率5.31%▽リスク管理債権カバー率110.18%▽支所支店18(いずれも13年度末数字)。


鼎談を終えて

 JAしみず市は今年2月末の貯貸率が47%と高い水準を堅持している。渡邊常務理事からは、その要因として本所機構の「推進部」の中に(1)推進企画課、(2)融資営業課のみでなく(3)ローンセンター、(4)不動産センター、(5)旅行センターを包含し、都市化に対応して組合員への賃貸住宅建設の融資と一体的に安心できる入居者の募集、入居後のアパート管理、アパート賃貸料の徴収業務などを有機的に取り組み、農業融資面のでは中山間地の農地基盤整備事業と一体化した資金融資、地元企業を支援する積極的な融資業務などJAの総合力を発揮した融資業務のあり方を考える貴重な示唆を提示いただいた。
農林中央金庫JAバンク企画実践部の柴田昇部長からは、単位農協・信連の業務を高度に補完し、JAバンクシステムとしての信頼を高める地域と農業への貢献、一体的で高度なサービス提供、総合力発揮の意欲的な具体策を提示いただいた。
 この鼎談を通じて、(1)総合農協の弱点と言われる融資業務は、地域特性を発揮しやすい仕組みを再構築し、組合員・利用者・地域社会を大切にする志をもって挑戦できる未開拓分野が多いこと、(2)農林中金による融資の新しい方向付け機能のあり方を示唆している。(白石)



農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp