JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

特集:満足度・利用度No.1をめざして
    挑戦するJA共済事業

JAごとに共済事業の「あるべき体制像」を提案
JA共済連 共済事業コンサルティング活動

 JA経営に果たす共済事業の役割は大きい。しかし、生・損保等の農村地域への進出が進み競争が激化、これからの共済事業の見通しは立てにくくなってきている。こうした状況に打ち勝ち、共済事業を地域で確立していくためには、個別JAの実状に合った改善策が必要だといえる。JA共済連は、こうしたJAの要請に応えたコンサル活動を展開しているが、その具体的内容を全国本部経営企画部体制整備室に取材した。

◆取巻く環境はJAごとに異なっている

 JA共済事業は、昨年度「地域における満足度・利用度1をめざす事業の確立」などを基本方針とする「中期3か年計画」を策定して事業を展開、13年度は長期共済、短期共済ともにほぼ目標を達成する実績をあげた。
 しかし、共済・保険市場を取巻く事業環境は、長期化した不況、雇用・所得面の悪化による個人消費の低迷、不良債権処理の先送りと株価の底這いなど、多くの不安定要素を抱えて先行きの見えない状態。さらに、家計の冷え込みによっていっそう困難さが増す新規契約獲得、消費者の保険離れや保障の見直しによって高止まりのまま推移する解約などによって、大手生保会社を中心に保有契約高の減少に歯止めがかからない状況が続いている。
 そして、ここ数年の中堅生保を中心とする経営不振・経営破たんを機に、生損保の枠を超えた業務提携や組織統合が進み、競争が激しくなっている。その競争は、JA共済事業の基盤である農村地域に強く向かい、JA共済の普及推進の現場はまさに「戦争状態」にあるといえる。
 JAにおいても、JAの合併が進展してきているが、合併後数年を経過したJAと合併直後のJAでは、JA内部の状況が異なること、JAの経営収支構造が変化していること、組合員の意識の変化など、JAの内的環境も変化してきている。
 こうしたなかで、これからの共済事業をどう展開していけばいいのかは、多くのJA経営者が共通して抱える課題となってきているといえる。

◆JA固有の課題を抽出し具体的な改善案を提案

 JA共済連では、JAごとに経営環境や地域の状況が異なる中で、従来のようなJAの規模によって具備すべき条件を前提とした一律モデルを提示しても、JAの状況に必ずしもマッチしないと考え、個別JAごとに共済事業のあり方を提案し、その実現を支援していく活動に、全国本部・各都道府県本部が連携して取組んでいる。
 その取組みの基本的な考え方は、「JAのあるべき体制像は、JAごとに異なる」ことを前提に、JAごとに総合事業の中での共済事業の経営状況を把握・分析し、そのJA固有の課題を提示して、その具体的な改善方法を提案することで、そのJAがめざすべき共済事業のあり方・体制像を整理していくというものだ。その全過程について、連合会が全面的に支援していくことにしている。
 その目標は、▽普及推進力の強化 ▽サービス力の強化 ▽効率的な運営体制の構築 の3つだが、それを実現するために、
1. JAごとに「あるべき体制像」を明らかにする
2. 「競争に打ち勝つ体制づくり」をめざす
3. 「収支を踏まえた体制づくり」を検討する
4. JA全体の経営を見据えて、体制整備の方針を策定する
ことにしている。

◆利用者の視点から改善課題を明示

 すでに13年度に3JAをモデルJAとして具体的な提案を行い、3JAはこの提案にそって14年度の事業を展開し成果をあげつつあるという。そこで、その提案の内容をあるJAの実例から見てみよう。
 まず、そのJAの共済事業におけるサービス提供水準が、推進面、窓口・事務処理面、事故処理面に分けて「体制整備支援システム」の分析結果として、図のようなグラフで表示され、全国事例と比較されている。
 ここで注目したいのは、顧客満足(CS)の視点が取り入れられていることだ。例えば推進面の評価では、人口あたり長期・短期共済加入件数、職員あたり長期・短期共済加入数という実績の評価に加えて、「加入時CS」「加入後CS」という項目がある。実績による評価は従来もあったが、CSを加えた評価はいままでほとんど見られなかったことではないだろうか。
 CSを加えることで、利用者がJAをどう評価しているかが分かり、利用者の視点からの改善課題が明らかになるわけで、そこを改善しなければ「地域1になることは難しい」といえる。
 実際には経営的にしっかりしていて共済実績が良いJAのCSが低いという事例も少なくない。いまの時代「CSを無視して事業をすることはできない」「いわゆるリストラ、経費削減という視点からJA内にのみ目を向けていると組合員など利用者からの視点が欠けることもある」「JAの外からの声にも耳を傾け、効率化すべきところと強化すべきところのバランスをとることが理想」だと全国本部体制整備室。
 チャートに表示されているのは、全国JAのトップ3%の平均であるベンチマーク、全JA平均、JAのある県平均、同条件にあると見られるJAの平均(同グループ平均)、そして当該JAのデータの5つだ。この結果を表示するためにチェックされた項目は、このJAの場合、推進面だけで64項目にもおよんでいる。
 この詳細なデータ分析からこのJAは、長期共済推進面では全国的にみて優れた成果をあげているが、「短期共済の実績全般とエリア人口当たりの実績で課題があること。また、事故処理面で処理日数に課題」があることが指摘されている。そして今後「取組みを検討すべき課題」として「まず第一に、短期共済の取組み強化が不可欠」であり、次いで「地域No.1をめざし、全国トップレベルのJAを目指す」ためには「質の高いサービス提供を通じた長期共済推進のエリア全体への深耕が必要」としている。
 さらに事故処理面では、まず「担当者増員を検討すべき」であり、「あわせて、サービスの質を高める取り組みを検討すべき」だとしている。

◆JA管内のエリアごとにも分析

 次いで、JA管内のエリアごと(支所・支店ごと)の総人口と農業世帯人口の現在と10年後の予測が地図上にプロットされ、エリアごとの長期・短期共済別の普及率(カバー率)が正組合員世帯とその他世帯に分けて図示されている。これをみると、JA管内の総人口は約30万人で農業世帯は約5万。長期共済のカバー率は正組合員世帯では99.7%だが、その他世帯では24.9%となっている。エリア別にみると組合員外カバー率が70%近い地域もあるが、ほとんど地域で「大きな白地エリアが残っている」。自動車共済でも同じような傾向が見られると同時に、JA管内全体でのJA共済加入率が30%となっている。つまり、前述した「短期共済の実績全般とエリア人口当たりの実績で課題がある」ことを裏づけている。
 その上で、JA全体の経営状況を分析し、そのなかで今後の共済事業の方向性と取り組み課題の具体策を課題別段階別に提案している。

◆14年度は55JAで−しかも費用は無料

 大雑把に概要を紹介してきたが、各JAの地域事情や経営実態などその個性に合わせた具体的な課題提示と提案がされているので、いままでの「全国一律的なモデル」に比べて、説得力のあるものになっている。
 13年度に提案を受けたモデル3JAは、すでに提案にそった事業展開をしているが、今年度は全国55JAから申し込みがあり、各県本部の体制整備担当者と全国本部体制整備室が、個別JAごとの分析と提案のための活動を始めている。
 厳しい事業環境下で「地域における満足度・利用度1」を実現するためには、利用者がJAをどうみているのかというCSの視点を取り入れた客観的な評価にもとづいて、課題を整理し、それを具体的にどう改善していくのかを考えてみることが必要ではないだろうか。そういう意味で、JA共済連のこの共済事業コンサルティング活動が果たす役割は、ますます重要になってくるだろう。
 しかも、民間コンサルタント会社に依頼すればかなりの経費負担がかかるが、全国本部の体制整備室は県本部担当者の費用も含めて「無料」だというのだから、これを活用しない法はないだろう。


【体制整備支援システムによる分析結果】
 当該JA  県平均  ×グループ平均
 全JA平均  ベンチマークJA平均

   推進面の成果
窓口・事務処理面の成果
  事故処理面の成果


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp